太陽の王子 ホルスの大冒険

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太陽の王子 ホルスの大冒険』(たいようのおうじ ホルスのだいぼうけん)は、東映動画(現・東映アニメーション)製作の日本劇場用アニメ映画。公開は1968年7月21日、上映時間82分、シネスコ(東映スコープ)。『東映まんがパレード』(のちの『東映まんがまつり』)の一本として上映された。

概要

アイヌの伝承をモチーフにした深沢一夫戯曲(人形劇)『チキサニの太陽』を基とし、舞台を「さむい北国のとおいむかし」として製作された。

制作トップに立った高畑勲にとっては初めての監督作品[1]。興行的な成功には縁遠かったとはいえ、高畑が中編・長編アニメに進出する足がかりとなった。宮崎駿が本格的に制作に携わった初めてのアニメ作品でもある。

2002年7月21日にDVDが発売された。初公開時の上映作品すべてをまとめて収録したDVDは『復刻! 東映まんがまつり 1968年夏』として2012年7月21日に発売された。

動画枚数48255枚。

あらすじ

悪魔グルンワルドの手から自分の息子を守りたいという一心で、父の手によって他の人間の許から離されて育ったホルスは、ある日岩男モーグに出会い、モーグの肩に刺さっていた太陽の剣を抜き取る。モーグはそれをホルスに与え、それを鍛え直した暁にはそれを持つ者は太陽の王子と呼ばれるようになり、モーグ自身もその許に馳せ参ずるだろうと告げた。意気揚々と走り回るホルスだが、次にホルスを待っていたのは父が危篤であるという知らせだった。ホルスの父は、ホルスを人間の元から離して育てた事は間違いであり、他の人間の所に向かうようにホルスに告げて、息絶える。

父の遺言に従い、他の人間の住む陸地に辿り着いたホルスだが、早々にグルンワルドの手下に捕らえられてしまう。その後グルンワルドとの対面を果たすが、グルンワルドの弟になることを拒んだために崖から突き落とされる。太陽の剣のおかげで九死に一生を得たホルスは、気を失っていたところをガンコ爺さんに助けられ、ガンコ爺さんの鍛冶仕事に関心を持つ。

しかしその村はグルンワルドの手下である大カマスのために魚が獲れず、食料不足に苦しんでいた。大カマスの退治に向かった若者達が為す術も無く帰ってきた様子を見たホルスは、一人大カマスのいる滝壺に向かい、見事大カマスを仕留める。一人で大カマスを仕留めたと言うホルスに村人は驚きを隠せないが、程なくして再び魚がやってくるようになり、ホルスは一躍村の英雄となった。しかしそれは同時に村長とドラーゴの嫉妬心を買う事も意味していた。

死んだとばかり思っていたホルスが、大カマスを退治したという知らせを聞いたグルンワルドは、狼たちを村に遣わすが、一致団結した村人の前は歯が立たず、多くが討たれる。討ち逃した銀色狼を追っていたホルスは、廃墟の村の中でヒルダと出会い、孤独な境遇に親近感を抱いて村に招く。ヒルダはその美しい歌ですぐに村人たちに気に入られた。

しかしヒルダは、過去の記憶が足枷となっているのか、協調的に生きる村人の輪に入る事が出来ない。ヒルダの孤独感はむしろいや増し、それに伴ってヒルダの悪魔としての心が呼び覚まされていく。トトにそそのかされたヒルダは、村人たちにホルスに対する疑念を抱かせ、ホルスを迷いの森へと誘い込む。

迷いの森に堕ちたホルスは、次々に襲ってくる幻想に苦しめられるが、その中でグルンワルドに対抗する手がかりをつかむ。村人全員が力を合わせれば、グルンワルドに対抗する力に成り得ることを知ったのである。ヒルダの心の葛藤も見破ったホルスは、ヒルダの人間の心を呼び覚ますことにも成功する。

ホルスのいなくなった村では、グルンワルドの出現におののいていた。グルンワルドの魔法で村は吹雪に襲われるが、その中でもガンコ爺さんやポトムたちがグルンワルドに対抗しようと必死に策を練っていた。ガンコ爺さんが積み上げた薪に火をくべ、村人を団結させたところにホルスが舞い戻り、団結の象徴であるその火で太陽の剣を鍛え上げる。約束通りモーグも応援に駆けつけ、グルンワルドは退散を余儀なくされる。勢いづいた村人たちはグルンワルドの城まで追い討ちをかけ、モーグによって太陽の光を浴びせられてグルンワルドがひるんだところにホルスが太陽の剣でとどめを刺し、グルンワルドは倒れる。

ヒルダは、雪の中を彷徨うフレップとコロに命の珠を与えたが、息絶える事はなかった。勝利に沸く村にヒルダも現れ、ホルスがヒルダの手を取り、ポトムたちと駆けていくところで大団円となる。

登場人物

この作品のキャラクターデザインはアニメーターみんなが出し合ったデザイン案を高畑監督が方向性を考えながらまとめて、最後に担当者を決めて仕上げられた。どのキャラクターにも複数の人間のデザインが取り入れられ、高畑監督自身の考えも反映されている。そのためこのキャラクター一人一人について作った人物を特定する事は難しい。この項の「キャラクターデザイン」ではデザインの仕上げをした担当者の名前を記す。

14歳。大自然の仲で伸び伸びと育った。真っ直ぐな性格であまり他人を疑ったりしない。常に村人に先んじて行動に出、問題を一人で解決しようとする傾向がある。父親の遺言により仲間となるべき人間を捜して住み慣れた家を離れる。ちなみにエジプト神話の神であるホルスとは無関係。
15歳。孤独な少女。悪魔グルンワルドの妹。グルンワルドに滅ぼされた村の生き残り。グルンワルドに授けられた「命の珠」により永遠の命を持つ。歌によって人の心を魅了するが、自分自身の心の歌は歌えない。グルンワルドの手先として行動し人々に不和を芽生えさせる。人間の心と悪魔の心の間で常に葛藤している。
雪や氷を操り氷の城に住む悪魔。人を疑心暗鬼にさせ、数々の村を滅ぼした。銀色狼、大鷲、大カマス、そしてヒルダを使い人間に災いをもたらす。気に入った人間をスカウトし自分の弟妹として利用する。ヒルダに「命の珠」を与える。
55歳。悪魔に滅ぼされた村の生き残り。ホルスのために村を捨てて船で逃げた。船を改造した小屋でたったひとりでホルスを育てる。ホルスに集団生活を教えなかった事を後悔している。死の間際、ホルスに自分の斧を渡し「仲間の所へ行け」と遺言を残す。
岩でできた巨人。人間で言う髪にあたる部分には木が茂っている。大地に埋まって昼寝していた。肩に刺さっていた太陽の剣をホルスに与える。「『太陽の剣』を鍛え直し、使いこなせた者こそ『太陽の王子』と呼ばれるようになる」と予言する。グルンワルドとの戦いでは人間に味方し、氷のマンモスを倒した。氷の城の壁に穴を開け、城に太陽の光を注ぎ込んだ。
15歳。村長の息子。正義感が強くホルスの一番の理解者。村のおとなたちに不満を感じている。
60歳。村の鍛冶屋。村に流れ着いたホルスを保護する。グルンワルドとの戦いでは槍などの武器を用意する。
25歳。村の青年リーダー。実直な人柄。ヒルダの歌に惑わされなかった。しばしば村人の先頭に立って行動する。
45歳。自己中心的で臆病。自分の保身ばかりを気にする。
50歳。村のNo.2。常に奸計をめぐらす。ヒルダを利用して村長の座を狙おうとする。ホルスを陥れて村から追放した。
25歳。村の青年。大カマスとの戦いで腕を負傷する。ピリアと婚礼を上げる。
20歳。村の若い女性。ルサンと婚礼を上げる。
30歳。フレップの母親。夫のモラスは村のために大カマスと戦い死んだ。ガンコ爺さんに食事を運んだり、ピリアの婚礼衣装を縫ったりと村のお母さん役を務める。
5歳。村の少年。チャハルとモラスの息子。流れ着いたホルスを最初に発見する。大カマスに殺された父親の敵を討とうとする芯の強さも持っている。
3歳。村の少女。ルサンとピリアの婚礼の唄を歌う。ヒルダになついている。
ホルスといっしょに育った小熊。食いしん坊。村に着いてからはフレップといっしょにいる。
常にヒルダと共にいる子リス。悪魔グルンワルドの手下でありながら心優しい。ヒルダの良心の象徴。
常にヒルダと共にいる白フクロウ。悪魔グルンワルドの手下。グルンワルドに忠実で、ヒルダをグルンワルドからの命令を守らせるために監視している。ヒルダの悪魔の心の象徴。
  • 大カマス(キャラクターデザイン:大塚康生
グルンワルドの手下。村の川下の滝つぼに棲む。魚の遡上を阻害し村に飢えをもたらした。
  • 氷マンモス(キャラクターデザイン:宮崎駿
魔力で作り出された巨大な氷のマンモス。グルンワルドを頭に乗せて運び、村を踏みつぶす。
グルンワルドの手下。人を惑わし砂地獄に誘い込む。ホルスをグルンワルドの元へ運んだ。
  • 銀色狼(キャラクターデザイン:大塚康生
グルンワルドの手下。群狼を率いて人を襲う。人間を監視してグルンワルドに報告する。
魔力によって作り出された雪の狼。空を飛び村や平原を雪で埋める。

スタッフ


奥山玲子
小田部羊一
宮崎駿
太田朱美
菊池貞雄
喜多真佐武

堰合昇
吉田茂承
相磯嘉男
山下恭子
板野隆雄
薄田嘉信
坂野勝子
黒澤隆夫
阿部隆
的場茂夫
池原昭治
服部照夫
角田紘一
村松錦三郎
石山毬緒
長沼寿美子
山田みよ


声の出演

主題歌など

全て、作詞:深沢一夫、作曲:間宮芳生、演奏:新室内楽協会

  • 「主題歌」 歌:調布少年少女合唱隊
  • 「収穫の唄」 歌:日本合唱協会
  • 「子供の唄」 歌:調布少年少女合唱隊
  • 「婚礼の唄」 歌:水垣洋子、日本合唱協会
  • 「ヒルダの唄」 全て、歌:増田睦美、リュート:浜田三彦
    • ヒルダとホルスの出会いのシーンで流れる唄
    • 陽気な唄(自己紹介の後に歌う唄)
    • 荒野でひとりうたう唄
  • 「ヒルダの子守唄」 歌:増田睦美、リュート:浜田三彦
(朝日ソノラマ)

同時上映

チキサニの太陽

『チキサニの太陽』はアイヌの民族叙事詩「ユーカラ」を題材とした人形劇である。人形劇団・人形座によって『春楡の上に太陽』として1959年8月に上演された。人形座は1963年に解散。

アイヌ民族叙事詩より
春楡(チキサニ)の上に太陽』 オキクルミと悪魔の子

スタッフ

  • 脚本:深沢一夫 
  • 演出:井村淳、手島修三 
  • 美術:小室一郎 
  • 音楽:丸山亜季
  • 舞台監督:今泉俊昭

キャスト

  • オキクルミ(アイヌの少年) … 大井六太
  • チキサニ(悪魔の妹) … 石井マリ子
  • モシロアシタ(悪魔・銀狼) … 河合さき子
  • ケムシリ(アイヌの古老) … 田島嘉雄
  • 酋長 … 平野一郎
  • チカップ(アイヌの青年) … 江原正典
  • シュパチ(アイヌの男) … 大井数雄
  • フレップ(アイヌの少女) … 石原仁美
  • フレップの母 … 後藤和子
  • 男1 … 和気八郎
  • 部落の男女、動物たち … 佐田弘子、久保多美子、塚越寿美子

その他

  • 映画『花とアリス』で主人公二人が映画館で本作を観ており、映像も少し登場する。

参考文献

  • ロマンアルバム『太陽の王子 ホルスの大冒険』編/アニメージュ編集部 ISBN 4-19-720154-0
  • アニメージュ文庫『「ホルス」の映像表現』解説/高畑勲 ISBN 4-19-669514-0
  • 『スタジオジブリ絵コンテ全集第2期 太陽の王子ホルスの大冒険』高畑勲/大塚康生 ISBN 4-19-861703-1

脚注

  1. 「僕はホルスについては語れないですよ。ほんとに。キザな話だけど、青春そのものなんですよ。あらゆる恥ずかしさが全部入ってる。僕もパクさんも若かったから出来たんですよ。もう、今なら恥ずかしくて口に出せないようなことも言ってましたからね。人間を描こうとか……野心に燃えてたんです。」 『また、会えたね!』(富沢洋子編、アニメージュ文庫、1983年)に掲載の宮崎駿インタビューより。
  2. 本作品には、制作開始から完成までの間に中断期間があり、その間に東映動画を退社、あるいは降板するなどしたためクレジットされていないが、林静一倉橋孝治らも参加している(大塚康生・著『作画汗まみれ 改訂最新版』(2013年・文春ジブリ文庫、P.306)より)。
  3. 『東映まんがまつり』系統で、円谷プロ作品、ならびに同プロ製作のウルトラシリーズが上映されたのは、これが唯一のケースとなった(前年公開の『キャプテンウルトラ』は東映作品)。これ以降、ウルトラシリーズを筆頭とする円谷作品は、『東宝チャンピオンまつり』で上映されている。

外部リンク

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