塩化銀(I)
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テンプレート:Chembox 塩化銀(I)(えんかぎん いち、テンプレート:Lang-en-short)は、化学式が AgCl と表される銀の塩化物である。単に「塩化銀」と言った場合は通常この塩化銀(I)を指す。天然には角銀鉱という鉱物として産する。
製法
銀と塩素の直接反応のほか、銀イオンと塩化物イオンの反応によって生成する。この沈殿反応は塩化物イオンあるいは銀イオンの定性分析、あるいは定量分析に利用される。
- 2 Ag + Cl2 → 2 AgCl
- Ag+(aq) + Cl−(aq) → AgCl
性質
水溶液中ではほとんど電離せず弱電解質であり[1]、難溶性であるため沈殿となる。塩化物イオンの銀(I)イオンに対する錯生成定数は 103.04 である[2]。溶解度積は以下の通りである[3]。
- AgCl <math> \rightleftarrows\ </math> Ag+(aq) + Cl−(aq), Ksp = 1.6×10−10
配位子となるイオンや分子が存在すれば溶解する。チオ硫酸イオン、シアン化物イオン、アンモニアによってそれぞれ
- AgCl + 2 S2O32− <math> \rightleftarrows\ </math> [Ag(S2O3)2]3− + Cl−
- AgCl + 2 CN− <math> \rightleftarrows\ </math> [Ag(CN)2]− + Cl−
- AgCl + 2 NH3 <math> \rightleftarrows\ </math> [Ag(NH3)2]+ + Cl−
となって溶解することは広く知られているが、濃食塩水や塩酸にも錯イオンを作って溶解する。
- AgCl + Cl− <math> \rightleftarrows\ </math> [AgCl2]−
また濃厚な硝酸銀(I)あるいは過塩素酸銀(I)などの銀塩水溶液に対しても幾分溶解度が増大し、以下のような錯イオンを生成することが知られている[1]。
- AgCl + Ag+ <math> \rightleftarrows\ </math> [Ag2Cl]+
- [Ag2Cl]+ + Ag+ <math> \rightleftarrows\ </math> [Ag3Cl]2+
感光性があり光によって容易に分解し、紫色を経て黒変する。
塩化銀(I)の白色沈殿をるつぼに入れて加熱すると455 テンプレート:℃で融解する。その融解液を冷却すると固体になるが、イオン結晶でありながら塑性変形する。また電気伝導性があることが知られている。Ag-Cl 結合はある程度共有結合性を帯びる。
結晶構造
結晶は塩化ナトリウム型構造であり、その格子定数はa = 5.54 Å、Ag-Cl 結合距離は2.77 Åである[4]。