坂道発進
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坂道発進(さかみちはっしん)は、勾配のある道路に上り勾配にて停車している自動車やオートバイを発進させる運転技術。下り勾配からの発進も日本語表現では坂道発進であるが、上り勾配に比べて技量を必要としないため、運転技術用語として坂道発進と呼ぶことはない。日本の場合自動車やオートバイの技能試験、並びに自動車教習所の修了検定で必ず課される課題の一つで、上り坂で一旦停止し再発進する過程を審査する。
坂道発進は自動車以外では鉄道車両に事例がある。鉄道車両の場合でも、自動車同様、高度な運転技術を要する。
ここでは自動車における技能試験や修了検定における坂道発進について述べる。
自動車
仮運転免許の技能試験および修了検定で審査される。オートマチックトランスミッション車の場合はクラッチ操作が必要ない上に、クリープ現象が後退を抑えるのでそれほど難しくはないが、マニュアルトランスミッション車の場合は的確な運転操作を行わないと、車両が後ろに下がってしまう(逆行)。マニュアルトランスミッション車を敬遠する理由に坂道発進を挙げる人は多い。自動車教習所などで指導されるマニュアルトランスミッション車での坂道発進における操作は、大きく分けて2種類ある。
- ハンドブレーキを引き、トランスミッションを1速にし、エンジン回転数を平地発進時より若干高めにした状態で半クラッチ状態にし、ハンドブレーキを解除しつつクラッチを全て繋ぐこととアクセルを踏み加えること(2500 - 3000回転程度が必要)で発進する。
- この場合はハンドブレーキが後退を抑えるので、確実に行えば急な坂道であっても逆行をほぼなくすことができる。自動車教習所での坂道発進には通常これが最初に教えられる。
- あらかじめ平地の発進でその車の半クラッチの始まる点を覚えておく。フットブレーキで車両を止め、クラッチを一杯まで踏みトランスミッションを1速にする。半クラッチの直前の点にクラッチペダルを持ってきてから右足をフットブレーキから放す。クラッチペダルを少し上げれば半クラッチになり後退が止まるので、クラッチとアクセルを同調させて発進する。
- この発進方法を「踏み替え発進」と呼ぶ場合がある。踏み替えているときは一時的にクラッチが完全に切れ、ブレーキからも足を離すためブレーキおよび駆動力がかかっていない状態があるので多少後退する。先述の方法よりもすばやく発進できるため一般公道では用いるドライバーが多い。しかし、停止した位置から1m以上逆行してしまうと検定中止(1m以内でも危険な場合は検定中止)となり、そこまでいかなくても後退距離が大きいと減点対象になるため、技能検定を前提とした教習指導や検定試験中に行なわれることは少ない。自動車教習所によっては、検定外の技能習得の一環として教習課程内で指導する場合がある。この方法でよくある失敗としては、踏み替えを焦ってクラッチを急に離してしまう事でのエンストがある。
車種によっては不可能なので自動車教習所などでは指導されないが、下記の方法でも可能である。
- トランスミッションを1速に入れ、フットブレーキで車両を止めたまま半クラッチにする。エンジン音の変化を手がかりに半クラッチの程度を車両を停止状態に保てる程度に調節してから、フットブレーキを離す。右足をゆっくりと踏み替え、アクセルを踏み増しつつクラッチを完全に繋いで発進する。
- 普通乗用車の場合、急な坂ではエンジンが止まってしまう恐れがあるため使えない。大型・中型自動車の場合は、通常の発進に使う2速でなく、非常用に減速比が高められた1速を使うことで、かなり急な坂でもこの方法で発進が可能である。
- フットブレーキで車両を止め、トランスミッションを1速にしておき、フットブレーキを踏みながらアクセルを同じ足でふかし、半クラッチ状態にしてフットブレーキを徐々に解除しつつアクセルを踏み加える。
- ヒール・アンド・トウを習得していなければこの方法は使えない。この方法は最初に出てきた方法のハンドブレーキをフットブレーキに置き換えたものである。
現在は坂道発進補助装置や電子式パーキングブレーキが装備されることが増えており、坂道発進の難易度も下がってきている。
オートバイ
自動車でいうハンドブレーキ(サイドブレーキ)がないため、自動車とは若干操作が異なる。自動車に比べ、車両の後退を防ぐ後輪ブレーキ(右足もしくは左手)と、発進加速を行なうアクセル(右手)が同時に操作できる。
- MT車
- 坂道に進入する時点で、ギアを1速に戻し、クラッチを切った状態で前後輪ブレーキをかけて停車する(後輪ブレーキを主体的に使い前輪ブレーキは補助的に使用する)。
- ギアを1速に戻し遅れた際のギアチェンジに右足を接地しないといけないため、技能試験や卒業検定においては、前輪ブレーキのみだと「後退に備えず」とされ減点対象となる。
- 坂道に進入する時点で、ギアを1速に戻し、クラッチを切った状態で前後輪ブレーキをかけて停車する(後輪ブレーキを主体的に使い前輪ブレーキは補助的に使用する)。
- AT車
- 左足を接地し、左手のブレーキ(原則は後輪ブレーキだが車種によっては前後輪ともに掛かるものもある)もしくはフットブレーキを緩めつつ、アクセル操作によって自動遠心クラッチを繋ぎ発進する。