低温物理学
低温物理学(ていおんぶつりがく)は、絶対零度に非常に近い超低温領域における物理学の1分野である。この様な超低温では、熱的な擾乱が小さくなるために、凝縮系内の微小な相互作用や巨視的な量子効果による特異な現象が現れてくる。
低温を実現する方法
- 液体ヘリウムによる蒸発冷却
- いわゆるじゃぼ漬け
入れ子状に複数の真空槽・液体窒素槽をもつガラス製デュワーに液体ヘリウムを貯め、ここに温度素子や目的の試料を取り付けたプローブを浸す方法。大気圧下においてはヘリウムの沸点である4.21Kへ到達する。さらにヘリウム槽を減圧することで1K台へ到達可能。後述のヘリウムフロー方式に比べると温度変動は少ないが、日本においてはガラス製デュワーが入手困難である。ヘリウム温度以下の低温から室温までの広い温度範囲を測定する場合には、ヘリウム槽に直にサンプルを入れるのではなく、低気圧のヘリウムガス(コンタクトガス)で満たした槽を設けることでより安定的に温度を操作することができる。
- ヘリウムフロー
試料部へ伸びるステンレス製の管の中に液体ヘリウムを流し、先端の熱伝導によって試料を冷却する方法。光電子分光など試料を真空中へ露出させる必要がある場合に用いられる。このとき試料部から実験室室温までが金属によって繋がれることになるので、素材としては室温からの熱流入を抑える目的で、比較的熱伝導の低いものが用いられる。一方で管が長ければ長いほど熱膨張による試料部の位置のずれが大きくなる。管の長さについては30-150cm程度のものが用いられる。
フローには通常のヘリウムトランスファよりも流量の低い専用のトランスファーチューブを用いる。また蒸発したヘリウムガスを回収するための経路が必要になる。到達温度は、試料部の複雑さにもよるが、概ね4-10K程度である。ヘリウム回収の圧力変動によって、ヘリウムの流量が変化しやすく温度変動が比較的大きい。クライオスタットその物の製作については比較的容易である。
- ヘリウムガスフロー
液体ヘリウムを試料空間に導く経路を設け、空間内をポンプ等で減圧し、吸引により空間内に導入される液体ヘリウムの量及び温度を適切にコントロールすることで試料空間の温度を調整する方法である。温度の調整の容易さや均一性の良さが特徴である。じゃぼ漬けでは精緻な温度調整が難しく、またヘリウムフローでの熱伝導による冷却が比較的温度調整に対する試料部の温度のレスポンスが悪く温度の均一性などにも問題が生じがちであるのに比べ、ヘリウムガスのフローによって冷却および調整を行うこの方式は、強制的に試料を一定の目標温度に冷却・加熱する方法であり、より確実な方法であるといえる。ただし、液体ヘリウム4を減圧して得られる1K程度以下の温度に冷却することはこの方法では難しい。その確実性から市販品を中心に現在多くの低温測定を行う実験機器で取り入れられている。
現象
- 超伝導 (Superconductivity)
- 超流動 (Superfluidity)
- 量子ホール効果 (Quantum Hall effect)
- 近藤効果 (Kondo effect)
- ボース=アインシュタイン凝縮
参考文献
- 《超流体 》/ (美)沈星揚著 (1982). - 北京: 科学出版社
- Mendelssohn, Kurt Alfred Georg (1966). The Quest for Absolute Zero: The Meaning of Low Temperature Physics. New York: World University Library. McGraw-Hill.