マーニ・ニクソン
マーニ・ニクソン(Marni Nixon, 1930年2月22日 -)は、アメリカ合衆国生まれの歌手。1950年代から60年代にかけて、数々のミュージカル映画で歌唱を本業としない大女優に代って歌の部分のみを吹き替えで歌ったことで知られる。「ハリウッドの声」との異名もとった。
人物
マーニ・ニクソンの名や容姿を知る者はほとんどいなくても、その歌声はミュージカル ファンであれば誰でも一度はどこかで聞いたことがあるはずである。それはニクソンが、『王様と私』、『ウエスト・サイト物語』、『マイ・フェア・レディ』などといった、ハリウッドミュージカルを代表する名作の中で、主演女優の歌声をすべて吹き替えているからである。
しかしその歌声はハリウッドで最も知られたものでありながら、ニクソン自身はとなると、その姿はおろか、名前すらもがエンドクレジットに書き込まれることがなかった。そのため『サウンド・オブ・ミュージック』(1965) ではファンの声がスタジオを動かし、ニクソンは初めて修道女役の一人にキャステイングされて、晴れて銀幕でその歌声を本人の姿とともに披露することになった。
この『サウンド・オブ・ミュージック』の撮影現場で、ニクソンに初めて会った主演のジュリー・アンドリュースは、ニクソンが彼女に遠慮してやりにくくなるようなことがないよう気遣い、自らニクソンのもとに歩み寄り、力強い握手をしながら、「いつも素晴らしいお仕事をしていらっしゃいますね」と親しく話しかけている。『マイ・フェア・レディ』でニクソンが吹き替えたイライザ役のナンバーは、アンドリュースがブロードウェイのオリジナルキャストととしてそのスタイルを確立したものだった。しかも映画化にあたっては、ワーナーブラザーズはハリウッドでは無名のアンドリュースに替えて、オードリー・ヘプバーンを主役に起用している。かわりにアンドリュースはディズニーの『メリー・ポピンズ』(1964) に主演して翌年のアカデミー主演女優賞を受賞、一方『マイ・フェア・レディ』に主演したヘプバーンは吹替えが祟って同年のアカデミー賞ではノミネートもされないという、複雑な経緯があったからだ。
ところがニクソンは、アンドリュースとは実は以前にも競演していた。『メリー・ポピンズ』のナンバーのひとつ「楽しい休日 (Jolly Holiday)」で、アニメ化されたガチョウ数羽の歌声を担当したもの彼女だったのである。
ニクソンはまさに「ハリウッドの声」であった。
代表作
- 『秘密の花園(The Secret Garden)』(1949)
- マーガレット・オブライエンの歌の吹き替え。
- 『紳士は金髪がお好き』(1953)
- ローレライ役のマリリン・モンローが歌う「ダイアが一番 (Diamonds Are a Girl’s Best Friend)」の中で、高音域のみを吹き替えている。
- 『王様と私』(1956)
- アンナ役のデボラ・カーが歌う全曲を吹き替えている。
- 『めぐり逢い』(1957)
- テリー役のデボラ・カーが歌う全曲を吹き替えている。
- 『ウエスト・サイド物語』(1961)
- マリア役のナタリー・ウッドが歌う全曲を吹き替えている。
- 『マイ・フェア・レディ』(1964)
- イライザ役のオードリー・ヘプバーンが歌う全曲を吹き替えている。
- 『メリー・ポピンズ』(1964)
- 「楽しい休日 (Jolly Holiday)」の中でガチョウ数羽の歌声を担当、メリー・ポピンズ役のジュリー・アンドリュースと競演している。
- 『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)
- 修道女のシスター・ソフィア役で登場、「マリア (Maria)」の中でマリア役のジュリー・アンドリュースと競演するほか、終盤ではナチ憲兵隊の車からエンジン部品を秘かに取り外して亡命するトラップ一家の追走をできなくさせるなど、見せ場のある役どころを演じている。