マズルローダー
マズルローダーとは、銃口(マズル)から弾を装填するタイプの銃のこと。主に火縄銃やフリントロック式等の、先込め式古式銃を指す。
目次
歴史
14世紀、銃砲が歴史に登場以来、その装填方式は19世紀の半ば頃までは、概ね前装式であったが、それ以降は「元込め式」となって現在に至っている。マズルローダーは一旦廃れた歴史的遺物の旧式銃ではあるが、その操作方法や射撃ノウハウの人間臭さに親しみを覚えてか、欧米及びオセアニア地域ではマズルローダー競技が盛んである。その競技で古式銃を使用するのは勿論であるが、古式銃に限らずその競技に使用するためだけの、撃鉄が下部にある新式の前装銃が現在も作られているし、それら競技の「レプリカ部門」に使用するための古式銃のレプリカも作られている。米国ではマズルローダー銃に対する猟期の優遇策が採られている事もあり、狩猟用の新式マズルローダー銃の需要が現在でも一定数存在し続けている。
日本における前装銃射撃 (マズルローダーシューティング)
銃規制の厳しい日本でも、「日本前装銃射撃連盟」が日本ライフル射撃協会の下部組織として存在し、1976年以来その世界選手権大会に選手を派遣している。
日本では銃刀法の規制があるため、文化財登録されたオリジナルの古式銃しか使用することができないので、火縄銃と幕末に使用された一部の洋式銃しか使えない。さらに日本で行われる競技は、千葉県営射場で競技会が開催される場合に限り行われる「ベッテリー競技」(競技規則上、燧石式・管打式も使用できる)を除き、火縄銃を使用するものに限られている。従って前装銃射撃の国際大会で日本選手の出場は殆ど火縄銃種目に限られている。しかしながら江戸時代の匠の業はすばらしく、その匠の手になる「瞬発式メカ」を備えた銃を携えた日本選手は、火縄銃競技に限れば毎回メダルを獲得するほどである。また火縄銃競技に出場する欧米の選手の多くは、日本製または日本型レプリカの火縄銃を使用している。
日本におけるマズルローダー射撃の資格者
古式銃の使用については空砲による祭礼等の行事が一般に知られているが、実弾については、警察庁保安通報第56号(昭和44年10月2日)第1項(3)に「日本ライフル射撃協会またはその地方加盟団体が主催して開催する射撃競技において使用する場合」同(5)に「(1)ないし(4)の場合に使用するための練習に使用する場合」となっており、日本ライフル射撃協会及びその加盟団体たる日本前装銃射撃連盟の会員で、(社)日本ライフル射撃協会の「種子島銃5級」(平成19年度までに取得した場合は7級)以上の認定を得た者が、文化財登録された古式銃を使用して、日本ライフル射撃協会主催の古式銃を使用する射撃競技会に出場することができ、それらの競技会に参加するための目的で射撃練習をすることができる。従って以下の要件をクリアした者となる。
- (社)日本ライフル射撃協会の会員であること
- 同協会の種子島銃種目5級以上の級位であること
- 上記級位の審査は日本前装銃射撃連盟の主管になる審査会で認定するので、同連盟の会員であること
- 競技会、段級審査で使用する銃器は都道府県教育委員会に登録された古式銃砲で、日本前装銃射撃連盟が行う銃器認定をパスし、認定シールの貼付を受け、使用者の名義となっているものであること
日本の国内競技種目
- 種子島銃立射
- 長筒立射・火縄式マスケット、50m13発、30分、種子島標的(フランス軍200m規格準拠)
- 種子島銃膝射
- 長筒膝射・火縄式マスケット、50m13発、30分、種子島標的
- 長篠
- 種子島の団体競技
- ベッテリー
- 使用銃種を問わない、50m13発、30分、50mフリーピストル標的
- 短筒
- 火縄式ピストル立射片手撃ち、25m13発、30分、50mフリーピストル標的
- 侍筒
- 十匁玉筒、自由姿勢50m13発、30分、種子島標的
- 古式勝抜き
- 長筒立射、15間(27m)5発、10分、和的(江戸時代規格標的、一辺8寸角、黒点径4寸)
- 古式早撃ち
- 長筒立射、15間10発、5分、和的(8寸角)
- 古式短筒
- 火縄式拳銃片手撃 7間半7発、15分、和的(6寸角、黒点径3寸)
- 古式侍筒
- 十匁玉筒自由姿勢、15間7発、15分、和的(8寸角)
- 古式膝台
- 長筒膝射、15間7発、15分、和的(8寸角)
射撃競技での標準的な装填発砲手続
事前準備
- 13発分の火薬筒(軟質プラスチック製)と弾丸13発を玉皿兼用の火薬スタンドに並べる。
- 事前に火縄に点火して火先を灰受缶に入れておく。
- 水または潤滑剤で湿らせたスピットパッチ13枚、せせり(弄り・ヴェントピック)、始動搠杖(ショートスターター・スターティングロッド)、口薬入(プライミングフラスコ)、火皿刷毛(パンブラシ)等を机上に準備する。
- かるか(搠杖)を机に立掛け、足許に銃床尾受けのゴムパッドを置く。
装填
- せせりを火穴に挿し込む(火穴に装薬が詰まり遅発するのを防ぐために火穴を空洞とする。始めにせせりを挿さず、口薬を注ぐ直前にせせりを火穴に通して、詰まった装薬を除く方法もある)。
- 銃口を上にし、銃を立てる。
- 薬筒の火薬を銃口から注ぎ込む。
- 銃口にパッチ1枚を置きその上に弾丸を載せる。(パッチを使用しない場合は、溶かした蜜蝋に弾丸を浸して乾かしたものを込めれば、2発目以降の装填は爆発の余熱により弾丸の蜜蝋が溶け、火薬残滓による装填の障碍が緩和される。蜜蝋以外の動物性油脂を使用しても良いが、弾丸がべたつく)
- ショートスターターの竿先で弾丸を押さえ、スターターの頭を手のひらで強く叩き、弾丸を叩き込む。
- かるかを使い弾丸をさらに奥へ突き込む(圧力は毎回一定とすることが毎回の弾道の安定に繋がる)。
- 銃を机上に置き、せせりを抜き、口薬を火皿に注ぎ、火蓋を閉じる。
- 火縄先を取り上げ、火先を強く吹いて灰を吹き落し火勢や形状を確認して火挟みに装着する。このとき火挟みの先から火縄を長く出すと不発の原因となり易いので注意を要す。
発砲
- 銃を執り上げ銃口を標的に向けるようにして構え、火蓋を切り、指を用心金に添えて銃把を頬に当て据銃姿勢をとる。
- 標的に狙点を定め引金を引く。撃発直後1, 2秒残心をとる。
- 銃を立て銃口より息を吹き込み火穴から残煙を出す。または火皿を強く吹く。
- 吹き飛んだ火縄先を拾い、灰受缶に戻す。
- 観的鏡(スポッティングスコープ)で弾痕を確認する。