ボール箱

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テンプレート:Portal テンプレート:Infoboxボール箱」(ボールばこ、The Cardboard Box)は、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルによる短編小説。シャーロック・ホームズシリーズの一つで、56ある短編小説のうち14番目に発表された作品である。イギリスの「ストランド・マガジン」1893年1月号、アメリカの「ハーパーズ・ウィークリー」1893年1月14日号に発表。イギリスでは1917年発行の第4短編集『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』(His Last Bow) に、アメリカでは 1894年発行の第2短編集『シャーロック・ホームズの思い出』(The Memoirs of Sherlock Holmes) に収録された[1]

あらすじ

スーザン・クッシングという女性のところに、切り取られた人間のが2つ、ボール箱に入れられて小包で送りつけられる。いたずらか事件か不明であったが、ホームズレストレード警部の依頼を受け、調査に乗り出す。

小包で送られた耳は2人の人間から切り取られたもので、荒塩につけられ、たばこの箱に入れて紐で堅く縛られて送られてきていた。ホームズはその小包を調べたあと、スーザン・クッシングに妹が2人いることと、下の妹は船乗りと結婚していることを聞き出す。ホームズは一瞬、スーザン・クッシングの顔を見入って、何かに気付いた様子を見せた。

「ボール箱」が収録されている短編集

「ボール箱」はその内容が不倫を取り扱ったものであり、当時の倫理観とは相容れないものであった。そのため、風紀を乱すと考えたドイル自身によって削除され、イギリスで発行された第2短編集『シャーロック・ホームズの思い出』には収録されなかった。アメリカでハーパー社から刊行された『シャーロック・ホームズの思い出』の初版には収録されていたが、ドイルの注文によって回収され、「ボール箱」を削除した第2版が発行された。その後、社会の倫理観の変化などもあってドイルが許可を出し、1917年の第4短編集『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』に収録された[2]。日本語版にもこの混乱が影響を与え、出版社によって異なる短編集に収録されている。

「ボール箱」の冒頭、ホームズがワトスンの些細な動作からその心中を解析して見せるくだりは、版によっては「入院患者」に転載されている。これは「ボール箱」を削除した際に、この場面を惜しんだドイルが「入院患者」へ入院させたことによる[3]。このため、アメリカのオムニバス版では「ボール箱」と「入院患者」の両方に同じ場面が存在する[4]

脚注

  1. ジャック・トレイシー『シャーロック・ホームズ大百科事典』日暮雅通訳、河出書房新社、2002年、339頁
  2. ベアリング=グールド「二人の医師と一人の探偵」小池滋訳 - コナン・ドイル著/ベアリング=グールド解説と注『詳注版シャーロック・ホームズ全集1』小池滋監訳、ちくま文庫、1997年、66頁
  3. “(前略)……というところまでが、一時「入院」していたわけなのである。”延原謙「解説」より引用 - コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』延原謙訳、新潮文庫、1955年、274-276頁
  4. ジャック・トレイシー『シャーロック・ホームズ大百科事典』日暮雅通訳、河出書房新社、2002年、339頁

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