ペリカン属
ペリカン属(ペリカンぞく、Pelecanus)は、鳥綱ペリカン目に含まれる属。本属のみでペリカン科を構成する。ペリカン属の模式種はモモイロペリカン。
分布
アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸沿岸部、ユーラシア大陸南部、アメリカ合衆国北西部、オーストラリア、カナダ西部、スリランカ、ニュージーランド
形態
最大種はハイイロペリカンで全長170センチメートル。翼開張330センチメートル。体重11キログラム。メスよりもオスの方が大型になる。全身は灰色や白い羽毛で被われる。初列風切の色彩は黒い。
嘴は大型で長く、下嘴から喉にかけて袋状に伸長する皮膚(咽喉嚢)がある。重心に胃があり、大量の獲物を胃に入れた状態でもバランスを崩さずに飛翔する事ができる。
ペリカンは、前後に頭の位置をシフトさせることによって、重心を変化させてバランスを維持する。また、両翼にある1対ないし3対程度の羽根をエルロンのように動かすことで、左右のバランスを調整している。[1]
卵は白い殻で覆われる。
分類
- Pelecanus conspicillatus コシグロペリカン(オーストラリアペリカン) Australian pelican
- Pelecanus crispus ニシハイイロペリカン(ハイイロペリカン) Dalmatian pelican(フィリピンペリカンのシノニムとする説もあり)
- Pelecanus erythrorhynchos アメリカシロペリカン American white pelican
- Pelecanus occidentalis カッショクペリカン Brown pelican
- Pelecanus onocrotalus モモイロペリカン Great white pelican
- Pelecanus philippensis フィリピンペリカン Spot-billed pelican
- Pelecanus rufescens コシベニペリカン Pink-backed pelican
生態
食性は動物食で、主に魚類を食べる。[3]水面で獲物を水ごと咽喉嚢に含み、水だけを吐き出して捕食する。カッショクペリカンは空中から急降下して水中の獲物を捕らえる。他の鳥類(鳩など)を捕食するという報告もある。[4][5]また、甲殻類が捕食されることもある。[3]
繁殖形態は卵生。オスが巣を作る場所を決め、その場でメスに求愛する。メスが営巣し、オスは巣材を運ぶ。集団繁殖地(コロニー)を形成する。雌雄交代で抱卵し、抱卵期間は約1か月。育雛も雌雄共に行う。卵を複数個産んだ場合でも巣立つ雛は通常1羽で、巣立った幼鳥も生後1年以内に大半が死亡する。
人間との関係
ペットとして飼育されることがある。人によく馴れ、ときには、主人のもとに魚を持ってこさせたりするほどに しつけることができる。古くは、マクシミリアン皇帝が飼育したペリカンは、80年以上生きたとされている。 [6][7][8]
肉食であるペリカンの肉は臭く、味は非常にまずいため食用に向かない。アメリカンインディアンは、ペリカンを猟獲し、その袋を加工して、財布やタバコ入れなどを制作していた。18世紀にはそれらの一部が、ヨーロッパに輸出された。[8]
淘が油は、ハイイロペリカンの脂肪油であり、通常、秋または冬に捕獲し、化膿性のできもの、腫れもの、悪性のでき物、風疹や湿疹の疼痛に用いる[9]。ペリカンの油脂はインド、ペルシアでも古くから用いられた[10]。
ペリカンが胸に穴を開けてその血を与えて子を育てるという伝説があり、あらゆる動物のなかで最も子孫への強い愛をもっているとされる。この伝説を基礎として、ペリカンは、全ての人間への愛によって十字架に身を捧げたキリストの象徴であるとされる[11] [12]。このようなペリカンをキリストのシンボルとみなす記述は、古くは中世の著作にも見つけることができる[13]。
ペルーのモチェ文化において陶製のペリカン像が発見された。カッショクペリカンかそれに近い種をモデルにしている可能性がある。[14]
鵜の字は、日本では鵜飼いなどに用いる鵜を指すが、もともとはペリカンの意である。[15]
アラビア語では、水車についた桶または水酌みを意味するal-qadusがペリカンの意味として用いられていた。ポルトガル人の船乗り達は、しばしばペリカンとアホウドリを混同したため、スペイン語やポルトガル語にalcatruzという語としてアホウドリの意味で移入された。結果的に英語でアホウドリを意味するAlbatrossの語源となっている。[16][17]
ハイイロペリカンやフィリピンペリカンは、漁業と競合する害鳥とみなされることもあり、開発による生息地の破壊、漁民によるコロニーの破壊により生息数が減少している。[18]
脚注
- ↑ W.Hawley Bowlus,I Studied the Birts to Learn to Fly, Popular Science, Bonnier Corporation出版、117巻、5号 ISSN 0161-7370 p.57, p.154
- ↑ 菅野宏文 『オウム、大型インコの医・食・住』、どうぶつ出版 、2004年11月、ISBN 9784924603943、p.34
- ↑ 3.0 3.1 Maurice Burton, Robert Burton, International Wildlife Encyclopedia, Marshall Cavendish Corp; 3版 (2002/01), ISBN 978-0761472667, p.1909
- ↑ BBC EARTH ライフ エピソード5『鳥類』より。『アガラスバンク』の記事も参照。
- ↑ ペリカンが生きた鳩を丸飲みして食べる動画
- ↑ Colin Macfarquhar,George Gleig 編 Encyclopedia britannica 第 14 巻、第 1 部
- ↑ Oliver Goldsmith, A history of the earth, and animated nature, 第 2 巻, Washington Irving
- ↑ 8.0 8.1 Oliver Goldsmith, 『動物誌 ( 5 )』, 1995/4/28, ISBN 4562025557
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ Surgeon General Edward Balfour, The Cyclopaedia of India and of Eastern and Southern Asia, Commercial, Industrial, and Scientific; Products of the Mineral, Vegetable, and Animal Kingdoms, Useful Arts and Manufactures. 3 Volumes , Bernard Quaritch, 1885), ASIN: B000IZ84QE
- ↑ George Wells Ferguson ,Signs & Symbols in Christian Art, Oxford Univ Pr ,1966/12/31, ISBN 978-0195014327
- ↑ Delphine Haley ,Seabirds of Eastern North Pacific and Arctic Waters, Pacific Search Pr, ISBN 9780914718864,1984/05
- ↑ Bonnie Kime Scott,New Alliances in Joyce Studies: When Its Aped to Foul a Dephian,Univ of Delaware Pr, 1988/08, ISBN 978-0874133288
- ↑ The Continuum Encyclopedia of Animal Symbolism in Art, Continuum Intl Pub Group, 2003/11, ISBN 978-0826415257
- ↑ 伊東信夫、『成り立ちで知る漢字のおもしろ世界動物・植物編: 白川静著『字統』『字通』準拠』、スリーエーネットワーク、 2007/04、63ページ、ISBN 978-4883194315
- ↑ Peter D. Jeans、Seafaring Lore and Legend : A Miscellany of Maritime Myth, Superstition, Fable, and Fact、April 1, 2004), 、ISBN 9780071435437、p.320
- ↑ Adrian Room著、A dictionary of true etymologies、Feb 1989、ISBN 9780415030601、 p.14
- ↑ 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』、講談社、2000年、64、179頁。
参考文献
- 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』、講談社、2000年、76、166頁。
- 黒田長久監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科7 鳥類I』、平凡社、1986年、62-66、68頁。