プレカット

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プレカット (precut) とは、一般に、何かの生産工程において「あらかじめ切断しておく」ことを意味する動詞である。本項では、住宅建築における木工事部分について、現場施工前に工場などで原材料を切断したり加工を施しておくことについて述べる。なお、コンクリート建築における同様な用語として、あらかじめ工場でコンクリート製品を形作っておくプレキャスト工法がある。

概要

従来、木造住宅の建築においては、建築現場に作業小屋を設けそこで木材を加工していた。現場に届く木材は、製材所で規格化された寸法に切断された製材品であり、実際の建物の各部位の寸法にあうように材を切断しホゾなどの仕口加工をするのは、現場の大工がやる作業であった。これに対しプレカットを用いた建築では、製材された木材はプレカット工場で加工される。建設現場には、必要な長さに切断済であるだけでなく、継ぎ手、仕口の加工まで施された材が配送され、現場で実施する加工は少ない。あらかじめ工場で加工済みのものを現場で組み立てることによって、工期の短縮、建築現場の資材置き場や作業スペースの縮小、大工の技量によらない均質な加工などのメリットが得られるので、現在の木造住宅建築においてプレカットは幅広く用いられている。

従来の手法と比較した場合のメリットとデメリット

メリット

工期短縮や現場での産業廃棄物抑制、積算精度の向上などによるコストダウンが図れる。

  • 大工職人等の技量や建築現場の気象条件等のさまざまな不安定要素に左右されることなく、均一な部材を安定して調達できる。
  • 工場ではつねに複数の案件を加工しており、端材の発生場所が1ヶ所にまとめられるので、リサイクルなどに有利である。
  • 工場にある加工機械は巨大なものが多く、長い柱や太い梁であっても高精度に加工できる。このため、現場では、柱と梁を組み上げただけの初期の時点でも建築物の揺れが小さく、その上で作業をする者にとって作業をしやすい。
  • そもそも、大工仕事に従事する職人の数が減っているため、プレカットなしで木造の建築をすることは、とりわけ着工件数の多い大手住宅会社においては経済的に難しく、メリットというより必須である。

デメリット

例外的な事柄に対応するのが難しい。

  • 複雑な仕口には対応できない(対応できる機械が少ない)。木工機械として、自動ツールチェンジャーで種々の刃物を選択し5軸加工に対応できるマシニングセンターも商用化はされており、理屈としては自由曲面を駆使した複雑な彫刻を削りだすことが可能であるが、機材そのものが高価であり、すべてのプレカット工場にそのような設備があるわけではない。また、仮に設備があった場合でも、発注者側が使用する一般木造住宅を対象にしたCADでは、そのような形状をデザインできない。
    このような場合、CADの図面入力としては、特殊加工の必要な部材が入る場所に一般的な形状の材が入ると仮定したデータを作ってプレカット工場に発注する。該当部分の材については、プレカットの機械では加工せず、工場、あるいは発注者の雇った大工が手加工でつくり上げる。
  • 現場での加工時間をほとんど必要としないからといって、加工時間が存在しないわけではなく、工場への材の手配、加工、現地への配送などのスケジューリングを含めた場合の工期は、必ずしも短縮されない。少々のことなら現場でやりくりできた時代よりも、精密なスケジュール管理が必要である。
  • 加工の不具合が現場で判明した場合、材の修正加工が難しい。かつては、かりに材を切る場所を間違えてしまったとしても、現場にある別の材でやり直すことができた。一方、プレカット工場から届いた柱が短すぎた場合、現場に予備の材がなければ対応は不可能で、工場から正しい寸法のものを再送してもらうしかない。このようなことがあると、上記のスケジューリングの難しさが増す。
  • プレカット工場によっては、経営上の理由から、あらかじめ工場の在庫品としてストックしている木材の加工と供給にのみ応じ、建て主から持ち込まれた特別な材の加工に応じないところもある。

デメリットへの対応

  • 工期管理の複雑化は、工期短縮の要請と分業化が進む現在、プレカットを採用してもしなくても避けられないことである。かつては現場で作っていたドアや引き戸、作り付けの戸棚なども、今はアルミサッシやシステムキッチンをはじめとする工場製品であり、それらの取り付け作業員の手配も含め、工務店には適切なプロジェクト管理能力が求められる。
  • プレカット工場の中には、手加工を担当する大工のための作業場を設け、何もかもを工作機械に処理させるのではなく、必要に応じて手加工で対応する準備をしているところもある。例えば、装飾目的などで製材していない丸太や曲がり材を梁や柱に用いる場合、平面の出ていない材を工作機械に固定して加工するのは、不可能ではないとしても特別な準備が必要であり、その段取りに手間をかけるよりは、手加工で対応したほうが経済的である。場合、CAD上ではその材を使う場所に仮データとして普通の製材品を当てはめておき、その材と組み合う相手となる(丸太ではなく製材品)の仕口はプレカット機で加工させるが、装飾用の特殊な材については、工場の大工が手加工する。
  • 持ち込み材の加工に応じるかどうか、あるいは工場の通常の在庫にない種類の材の調達と加工に対応するかどうかは、プレカット工場各社の経営上の選択であって、プレカットという手法のメリット・デメリットという問題ではないし、持ち込み材の加工をセールスポイントとしている工場もある。
    工務店としては、例外も含めてすべての加工に応じてくれる工場を探さなければならないというわけではなく、特別な材の加工は別の工場に依頼するか、自社で加工するなどしてもよく、すべての材を必ずしも一社に任せる必要はない。ただし、スケジュール管理にはゆとりを持つ必要がある。
  • 住宅用CADではデザインできない形状だが、工作機械自身の機能としては対応可能。と、いう場合には、別に用意した図面をもとにして、工場のオペレーターが工作機械に加工命令を与えて加工させることもある。

普及と課題

普及

木造軸組住宅用部材におけるプレカットは、NC工作機械技術を応用し、専用の複雑な形状をした刃物を用いたプレカット専用生産システムの全自動化や大工職人の減少等を背景に1990年ごろより急速に普及し、木造軸組住宅のプレハブ化を促した。2005年現在、大都市部でのプレカット率は90%を超えると言われ、木造軸組住宅建設の主流となっている。この他の木造住宅の工業化の手法としては枠組壁構法(通称ツーバイフォー工法)がある。
ツーバイフォー工法においては、材が規格化されていること、材の接合では金物の形状によって傾斜した組み合わせなども実現し、木材に対して複雑な仕口加工をあまり施さないことから、あえてプレカット工場を使用するまでもなく既に工業化されていると考えられていた時期もあったが、工期短縮や品質向上のため、工場で構造材のパネルをある程度組み立ててから現場に搬入するようになり、また、プレカット工場で構造用木材だけでなく内装材や防火タイルなどの外壁材なども加工するようになってきたことから、ツーバイフォー工法であっても、工場への依存度は高まっている(木造軸組工法もツーバイフォー工法も、プレハブ化が進んでいる)。

課題

かつては製材所の一部門、あるいは大手住宅メーカーの前工程を引き受ける下請けというイメージのあったプレカット工場であるが、現在は、工務店の資材調達から、場合によっては現場で施工する職人の手配まで手がけるなど、木造建築における重要度、存在感は増している。その結果、建築物の設計について責任を負うべき立場の工務店が、木材の仕口加工の詳細や1階と2階の柱や壁の関係のチェックなど、建物の強度や歪みに影響を与える部分の扱いを吟味せず、CADが自動生成したものをそのまま工場に加工させてしまったり[1]、極端な例ではスケッチを工場に渡してCADの入力も工場に任せるなど、設計上の責任分担があいまいになされている事例が発生している。大手住宅メーカーに対抗する資本力に乏しい中小の工務店では、プレカット工場に対するワンストップ化の期待は大きいので、これに対して、プレカット工場のほうで建築士を雇い有償で設計支援をするなどの動きも起こっている。

大手プレカット工場

プレカット工場によって取り扱う品目が異なるため、一概に比較することは難しいが、一例として2011年現在での木造軸組構造材の加工能力の上位3社を例示する。ポラテック(埼玉県越谷市)、テクノウッドワークス(栃木県鹿沼市)、中国木材(広島県呉市[2]

機械メーカーおよび住宅メーカー

プレカット生産システムの大手メーカーとしては宮川工機(本社豊橋市)、平安コーポレーション(本社浜松市)、菊川エンタープライズ(本社伊勢市)、庄田鉄工(本社浜松市)、内外工業(本社広島市ナカジマ(本社埼玉県)等が有名である。
また、この工法による戸建住宅の販売大手としては一条工務店(本社浜松市)、住友林業(本社東京)、ポラス(ポラテックの親会社、本社越谷市)等がある。
一条工務店は自社工場で加工し、住友林業は外注先のプレカット工場を全国に多数持っていて自社では加工していない。

関連項目

出典

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  1. 量産される「危ない間取り」日経BPケンプラッツ
  2. 『2012年 全国プレカット名鑑』 日本木材新聞社