フナムシ

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フナムシ(船虫) は、甲殻綱・等脚目・フナムシ科に分類される動物の総称。熱帯から温帯の海岸に広く分布する代表的な海岸動物である。 また、その代表種の一つで日本に生息する Ligia exotica の和名でもある。英語で俗にwharf roach。

フナムシ属の分布

フナムシ属の動物は、全世界の熱帯から温帯にかけての岩礁海岸に広く分布し、個体数も非常に多い。潮が満ちてこない高さの岩石の上に大小さまざまな個体が群れており、海岸近くの草原や人家、船舶などにも多い。

フナムシ Ligia exotica

形態

フナムシ Ligia exotica の体長は最大5cmほどで、等脚類の中でも大型である。体は上から押しつぶされたように平たく、多くの節にわかれ、7対の歩脚がある。頭部には長い触角と大きな複眼があり、尾部には2つに枝分かれした尾脚が1対ある。背中側の体色は鈍い光沢のある黒色で、淡黄色のまだら模様があるものや、褐色の広い縁取りがあるものなどがいる。また、夜は昼に比べて体色が淡く、褐色がかった色をしている。

生態

動きはきわめて敏捷で、大きな動物が現れると一目散に岩石の陰に逃げ込むため、捕獲はなかなか難しい。また、通常は海に入ることはないが、誤って海に落ちた時は素早く体を波打たせて泳ぐこともできる。ただし遠距離を泳ぐことはできず、水中に長い時間いると溺れてしまう。

食性は雑食性で、藻類や生物の死骸など様々なものを食べて海岸の「掃除役」をこなしている。人間も例外ではなく、岩礁海岸に寝転がっているとフナムシに噛まれてチクリと痛みを感じることがある。敵はイワガニアカテガニイソヒヨドリシギチドリ類などで、海に落ちた個体は魚類にも捕食される。

メスの腹部には卵を抱える保育嚢があり、ここで卵を保護する。卵は初めは透き通った橙色をしているが、やがて黒ずんでくる。孵化する幼体は小さいながらもすでに親と同じ体型をしており、孵化後もしばらくはメスの保育嚢に掴まって生活する。そのためこの時期のメスを捕獲すると、保育嚢の中から幼体がゾロゾロと飛び出てくる。

どこの海岸にもいるうえ、手頃な大きさでもあるので、釣りの餌としてよく利用されるが、容姿や素早い動きがゴキブリに似ているため、嫌う人も多い。近縁種の Ligia oceanica とともに、英名で"wharf roach"(埠頭のゴキブリ)と呼ばれている。ゴキブリとフナムシを同じ方言で呼ぶ地域もあり、たとえば長崎県長崎市周辺では両方とも「アマメ」である。

別名

アマメ(長崎県長崎市周辺、鹿児島県)、アモメ(長崎県魚目地方)、ウミムシなど

食用として

同じ甲殻類ということで、エビカニフジツボなどと似た系統の美味が想像されるが、その食性のためか、強い苦みと腐敗臭があり、非常にまずいという報告[1]がある。しかしながら、脚の付け根のわずかな筋肉には、わずかに甲殻類系の風味が感じられる。

近縁種

シースレーター (sea slater)
学名:Ligia oceanica は、ノルウェーから地中海にかけてのヨーロッパと、北米のケープコッドからメイン州にかけて広く見られる。フナムシよりやや小さく3cmまで。シーローチ (sea roach)とも呼ばれている。
ヒメフナムシ
学名:Ligidium japonicum Verhoeff, 1918 は、フナムシ Ligia exotica に似ているが体長が1cm未満である。また、海岸に生息するフナムシに対し、ヒメフナムシは森林の落葉の下に生息している。

出典

  1. 北寺尾ゲンコツ堂, 『「ゲテ食」大全』, 株式会社データハウス, 1996. ISBN 978-4887183759