ファツィオリ
ファツィオリ(FAZIOLI)は、1981年に創業したイタリアのピアノメーカーである。イタリア語の標準的なアクセントは、後ろから2つ目の音節の母音につくため、「ファツィオーリ」ともカタカナ表記される。綿密な手作業をふんだんに盛り込み、世界で最も高額なピアノ[1]として知られている。また独立アリコート方式、「第4ペダル」など特殊な設計でも知られる。現時点で世界最長サイズ(奥行き308センチメートル)のモデルも製作している。
目次
概要
創始者兼現社長、パオロ・ファツィオリは、家具職人の家に生まれ、ロッシーニ音楽院でピアノを、ローマ音楽院で作曲を専攻した後、ファツィオリ社を1981年に創業した。
工場はイタリア北部のサチーレにある。この際、各分野の専門家たちに、ゼロからピアノを設計する計画への参加を要請[2]。ピアノ調律師兼製作者のチェーザレ・アウグスト・タローネ(ミケランジェリのピアノ調律も務めた)の弟子らを招聘し、1980年に最初のモデルを完成させた。
製品ラインナップは高級グランド・ピアノに限定されている。生産量は、2009年時点で年間120台程度とされる[3]。
特徴
響板
ピアノの音色を決定づける響板は、フィエンメ峡谷産のレッドスプルースが使用されている。またファツィオリの響板は、製作が終わってから2年間、空気管理された倉庫で熟成される。
ハンマーのフェルト
他メーカーでは機械によるハンマーのフェルト作りが一般的であるが、ファツィオリはフェルトに硬化剤を使用せず、手作業でフェルトを作る[4]。これにより弾力に優れたハンマーが得られる。
フレームの鋳造
現代の一般的なピアノ製造工程では、ピアノ内部の鉄製フレームを鋳造する際、真空吸引法を用いる。これは鋳型の隅々に鉄を確実に流し込み、作業を短時間で進めることができるという利点を持つが、ファツィオリでは、伝統的な方法で時間をかけて鋳造している。
可変式ブリッジによる倍音の調律
多くのピアノの中高音部の駒からヒッチまでの弦(バックストリング)には倍音を豊かに響かせるためのアリコートブリッジが取り付けられている。通常のアリコートブリッジは一体型で、各音程に毎にアリコートブリッジの位置を独立して調節することは不可能である。ファツィオリでは各音のブリッジを個別に移動できる独立アリコート方式を採用している。ただし、独立式アリコートブリッジはファツィオリのみに見られる特徴ではない。
駒の材質の使い分け
ファツィオリでは、駒の基礎(カエデとマホガニーとの積層材)上に貼る木材にカエデとシデとツゲの3種を用い、硬度の違いを生かして音域ごとに(低音から中音域にカエデ、高音域にシデ、最高音域にツゲ)3種を順に使用するよう設計している[5]。駒の表面の加工も、熟練した職人の手作業で仕上げられる。
4番ペダル
通常の3本のペダルのさらに左側に4番ペダルのあるものがあり、この特許を取得している。このペダルによって、ハンマーと弦の距離が短くなり、同時に鍵盤が浅くなる。ファツィオリはこれを「音色を変えることなく音量のみが小さくなる」としている[6]。これによってピアニッシモの効果が得られるだけでなく、グリッサンドや速いパッセージに利点がある。 4番ペダルは、モデルF308のみ、標準仕様である。他機種ではオプションで4本ペダル仕様にすることが可能であるが、追加料金が必要となる。また購入後にペダルの増設はできない。
金属部品のメッキ
ファツィオリでは防錆と美観を考慮し、金属部品に金メッキ処理を採用している。
現行機種一覧
ファツィオリは、6種類のグランド・ピアノを製造している。[7]
- F156
- F183
- F212
- F228:通常のセミ・コンサート・グランド・ピアノ
- F278:通常のフル・コンサート・グランド・ピアノ
- F308:ファツィオリ独自の特大コンサート・グランド・ピアノ
機種番号のFに続く数字は、ピアノの奥行きを(cm単位で)表している。
日本における納入先施設
一般に開かれている施設を、以下に納入順で記す。
納入順 | 施設名 | 場所 | 納入機種 | ペダル | 納入時期 | 使用できるホールの客席数 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 栗東芸術文化会館さきら | 滋賀県栗東市 | F278 | 3本 | 小ホール149席 中ホール406席 大ホール810席 |
日本で初めてファツィオリを納入したホール。 | |
2 | 北上市文化交流センター | 岩手県北上市 | F278 | 3本 | 小ホール264席 中ホール461席 大ホール1406席 |
2005年10月にアルド・チッコリーニが再来日し、ファツィオリを演奏。 | |
3 | 石川県こまつ芸術劇場うらら | 石川県小松市 | F212 | 3本 | 小ホール250席 | 詳細は公開されていない。 | |
4 | 仙川アヴェニュー・ホール“ve quanto ho......” | 東京都調布市 | Silver (F228) | 4本 | 2009年春公開 | 160席前後(増減可) | 一般利用可能なホールとして関東初、4本ペダル装備モデルとして日本初。ノーマン・フォスターのデザインによる特別モデル"Silver"で、アートケース・コレクションとしても日本初登場。 |
広く一般に開かれていない施設を、以下に納入順で記す。
施設名 | 場所 | 納入機種 | ペダル | 納入時期 | 客席数 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
幕張ベイタウン・コア | 千葉県千葉市美浜区 | F278 | 3本 | 2002年4月26日 | 200席 | 東日本初の導入で、市民運動により選定・募金により購入された。幕張ベイタウン自治会連合会所有。地域ボランティアスタッフによる管理。使用は地元幕張ベイタウン関連団体主催、または共催イベントのみ許可(審査あり)。観客に対する制限はない。 |
渋谷教育学園幕張中学校・高等学校田村記念講堂 | 千葉県千葉市美浜区 | F278 | 3本 | 2009年 | 非一般公開:学内用途のみ。 |
海外における納入先施設
- ジュリアード音楽院:1924年から、名器としてスタインウェイしか学内への納入を認めない体制が貫かれてきたが(学内にある300台弱のピアノすべてがスタインウェイ)、2010年それがほどかれ、アメリカ随一の名門である同院がファツィオリを第一線の名器と認定し、ファツィオリの注文・納入を開始した[8]。
関連項目
以下のコンクールのピアノとして採用された。
- 高松国際ピアノコンクール(2010年~)
- ヨーロッパ国際ピアノコンクール・イン・ジャパン(2010年~)
- ショパン国際ピアノコンクール(2010年)
- フランツ・リスト国際ピアノコンクール(2011年)
- チャイコフスキー国際コンクール(2011年)[9]。
脚注
- ↑ 出典:吉澤ヴィルヘルム著『ピアニストガイド』、青弓社、2006年、227ページ。
- ↑ 『パリ左岸のピアノ工房』、新潮社、2001
- ↑ 『日経ビジネス ONLINE』
- ↑ 製造・技術情報 | FAZIOLI
- ↑ FAZIOLI日本総代理店トピックス[1]Fazioli工場見学ビデオ中(28:25版)の12:53~13:22を和訳
- ↑ ファツィオリの技術情報公式サイト日本語版、2010年11月閲覧
- ↑ The six models (F156 - F308)(公式サイト)
- ↑ The Globe Life Newsletter"Juilliard breaks with all-Steinway tradition, purchases a Fazioli "、2011年3月29日
- ↑ FAZIOLI日本総代理店トピックス(公式サイト)
参考文献
- 斎藤信哉著『ピアノはなぜ黒いのか』(幻冬舎)
- 吉澤ヴィルヘルム著『ピアニストガイド』(青弓社)