ピアノ協奏曲第5番 (ベートーヴェン)
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テンプレート:Portal クラシック音楽 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番変ホ長調 作品73(ぴあのきょうそうきょくだい5ばんへんほちょうちょう)は、1809年に完成した3楽章から成る協奏曲である。『皇帝』(こうてい)の別名で知られる。
- 作品番号:73
- 演奏時間:約40分
- 作曲時期:1808年に作曲に着手、1809年に完成
- 初演:1811年11月28日、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスにて。ピアノ独奏、ヨハン・フリードリヒ・シュナイダー(後の聖トーマス教会オルガニスト)、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団による。
曲の構成
急・緩・急の3楽章。第2楽章と第3楽章は続けて演奏され、ベートーヴェンのピアノ協奏曲では演奏時間・編成ともに最大の規模を誇る。
- 第1楽章 Allegro 変ホ長調 4/4拍子
- 独奏協奏曲式ソナタ形式。慣例に反して、いきなりピアノの独奏で始まるがこの部分は序奏に相当する。提示部は伝統的な独奏協奏曲の様式に従い、まずオーケストラで提示してからピアノが加わる。第2主題は最初短調で示されてから本来の長調に移行するが、第1提示部(オーケストラ提示部)では同主短調の変ホ短調で示されてから本来の変ホ長調へ、第2提示部(独奏提示部)では遠隔調のロ短調で示されてから本来の属調(変ロ長調)へ移行する。コデッタは第1主題を全合奏で力強く奏するもので、華麗に提示部を締めくくる。展開部は木管が第1主題を奏して始まり、豪快に協奏しながら第1主題を中心に展開してゆく。再現部は序奏から再現されるが、主題の再現自体は型どおりのものになっている。コーダに入る所ではベートーヴェン自身により、カデンツァは不要である旨の指示がある。
- 変奏曲形式(ヘンレ版では2分の2拍子)。穏やかな旋律が広がる。全体は3部からなっており、第3部は第1部の変奏である。第2部を第1部の変奏と解釈すれば第2部が第1変奏、第3部が第2変奏の変奏曲形式であり、そう解釈しなければ第2部を中間部とした複合三部形式である。楽章の最後で次の楽章の主題を変ホ長調で予告し、そのまま続けて終楽章になだれ込む。
- 第3楽章 Rondo Allegro - Piu allgero 変ホ長調 6/8拍子
- ソナタ形式。同じ主題が何度も弾かれ、ロンド形式の風体を示しているのでロンドと呼んだものと考えられる。しかし形式としては完全にソナタ形式の要件を備えているので、ロンド風ソナタ形式と言った方がいいだろう。快活なリズムで始まる。再現部の前で第2楽章の終わり(すなわち第3楽章の提示部の前)の部分を回想している。終わり近くでティンパニが同音で伴奏する中で、ピアノが静まっていく部分が印象的である。
作曲の経緯と初演
ナポレオンがウィーンを占領し、ウィーン中が混乱に陥った1809年頃に作曲が開始されたといわれる。約1年後の1810年半ば頃に完成した。
1811年11月28日、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスで初演された。初演のピアノ独奏者ヨハン・フリードリヒ・シュナイダーはオルガニストで、後に聖トーマス教会のオルガニストになった。3ヶ月後1812年2月15日に、教則本の著者として知られるカール・ツェルニーを独奏者にウィーンでも初演されたが、これ以降ベートーヴェンが没するまで演奏されることはなかった。
曲名の由来
『皇帝』という別名は、ベートーヴェン自身によりつけられたものではない。どのような理由から『皇帝』と呼ばれるようになったか、現在2-3つの説がある。この曲の曲想が、あたかも皇帝を連想させるからであるという説、古今のピアノ協奏曲の中でも、まさに皇帝と呼ばれるのにふさわしい規模・内容であるからという説などである。
編成
- ピアノ独奏
- フルート 2
- オーボエ 2
- クラリネット(B♭管) 2
- ファゴット 2
- ホルン(E♭管) 2
- トランペット(E♭管) 2
- ティンパニ 1対(B♭、E♭)
- 弦五部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)
参考文献
- テンプレート:IMSLP2
- ミニチュアスコア(全音楽譜出版社)
- 『最新名曲解説全集9 協奏曲II』(音楽之友社、1980年、193頁)