パワーテイクオフ
パワー・テイク・オフ(英: Power take-off ) は、車両駆動用のエンジン動力を作業機の駆動のために取り出す機構のこと。動力取り出しあるいは単に PTO とも呼ばれる。 耕耘機、農耕用トラクター、ダンプカー、消防車のようなポンプカーなどに使われ、用途に応じてエンジン回転数に比例するものと、比例しないものとがある。ただし空調用コンプレッサーやオルタネーターのようにベルト駆動のものはPTOとは呼ばない。
危険性
PTO軸とそれに接続されるPTOシャフト(ユニバーサルジョイント)は、農業はじめとする産業界に共通する危険要因である。米国安全性評議会(NSC)によると、1997年に米国でのトラクターによる死者のうち、6%がPTOにかかわる原因であった。衣服のほんの小さな一片でも回転部に接触すると簡単に巻き込まれてしまう。衣服が巻き込まれることによって、手や足の切断、或いは死亡事故に至る。
2009年4月13日、元メジャーリーガーのマーク・フィドリッチは、自宅の農場で作業中、PTOによる事故で死亡した。友人が彼を発見したとき、彼は大型ダンプトラックの下で作業をしており、「彼は稼働中のトラックのPTOシャフトに衣服が巻き込まれた。」と弁護士が声明を出している。
いくつかの作業機は、作業者がPTOシャフトに巻き込まれるのを防止するため、樹脂製の防護カバーを備えているが、PTOシャフトをトラクタやトラックに装着する時に注意する点がある。いくつかの国では、シャフトの防護カバーが無い状態で使用するのが違法だからである。防護カバーはベアリング、あるいはスリーブを介してPTOシャフト全体を覆っており、チェーンによって固定され作業者がPTOシャフトに巻き込まれる事故を防止している。
歴史
実験的なパワーテイクオフ装置は1878年にはすでに試みられていたが、インターナショナル・ハーベスターカンパニー(以下、IHC)は1918年に最初のPTOを装備したトラクタを製作した。1920年、IHCは自社の15から30馬力のトラクタにPTOの装備をオプション設定し、ネブラスカトラクター試験所(Nebraska Tractor Test Laboratory)に送られた最初のPTOを装備したトラクタとなった。
最初のPTO標準規格は1927年4月に米国農業工業会(ASAE)により採用された。PTOの回転数は536±10rpmとして指定され、回転方向は(トラクタ後方から見て)時計回りと定められ、後に回転数は540rpmに改められた。
1945年、カナダのオンタリオ州ブラントフォードのCockshutt Farm Equipment社は、ライブPTOを装備したCockshutt Model 30を発表した。ライブPTOはトラクタの走行とは独立してPTOの回転を制御することが出来た。これは、作業機をPTOによって駆動しながらでも、低速で走行したり停車したり出来る利点があった。近代的なトラクターでは、ライブPTOは押しボタンスイッチや切り替えスイッチで制御され、作業者をPTOシャフトから遠ざけることによって安全性を高めている。
技術的標準化
農業用トラクタのPTOは寸法と回転数が標準化されている。PTOのISO規格はISO 500で定められており、2004年の改訂でISO 500-1(一般仕様、安全要求事項、防護カバーの寸法等)、ISO 500-2(小型トラクタでの防護カバーの寸法等)、ISO 500-3(主なPTO寸法とスプラインの寸法、PTO軸の位置関係等)の3つに分割された。
基本的なPTO軸は毎分540回転(rpm)で使用される。540回転で使用されるPTO軸は6本のスプラインを持ち軸の直径は1⅜インチである。また、より高負荷の機器を駆動するために1000回転で使用する2つの種類のPTO軸がある。20本のスプラインを持つ直径1¾インチの太いPTO軸と、21本のスプラインを持つ1⅜インチのPTO軸である。これら3種類のPTO軸はいずれもトラクタ側から見て反時計方向に回転する。
1948年のランドローバー等の初期の作業機は10本のスプラインを採用したものもあったが、一般的な6本のスプラインに変換するアダプターが提供された。
農業機械メーカーは通例として、トラクタの馬力を表す指標はPTO軸から取り出せる出力を表示している。
装備例
耕運機・農耕用トラクター
エンジンの動力によってロータリーを回転させる。ところが耕運機 をティラーとして用いる場合はロータリーは必要ではない。そのため、ロータリーへの動力伝達はPTO軸と呼ばれる軸を通して行われ、脱着可能になっている。また、PTO軸に接続された作業機の動作を停止するためのクラッチがある。
自動車
トランスミッションまたはトランスファーに出力軸を設け、直接装置を駆動したり油圧ポンプの駆動等に利用する。
- 停車中のみ使用するもの
トランスミッションまたはトランスファーのギアをニュートラル(またはパーキング)に入れ、車室内のPTOスイッチ又はPTOレバーを操作してPTO機器に動力が伝達される構造になっている。ダンプカーなどは荷降ろし現場の状況によっては多少の走行も可能であるが、PTOを使用しない場合に比べて動力性能は低下する。
- 消防車
- 機械式塵芥車(パッカー車)
- ダンプカー
- タンクローリー
- コンクリートポンプ車
- バキュームカー
- レッカー車
- 高所作業車
- キャリアカー
- ラフテレーンクレーン・トラッククレーン
- 四輪駆動車のウインチ(ただし現代ではバッテリー駆動が主流である)
- 走行中・停車中を問わず使用するもの
- 冷凍・冷蔵装置専用の小型エンジン(サブエンジン)を搭載する場合は稼働状態が走行条件に左右されないため冷却能力は高いが、重量がかさんで最大積載量が減り、また騒音が大きい難点がある。このため積載量の確保と軽量化・低騒音化の目的で冷凍・冷蔵装置のコンプレッサーの動力にPTOを採用する場合がある。
- トラックミキサ(ミキサー車)
- 生コンクリートは撹拌を止めてしまうとドラム内でコンクリートと水分が分離する等品質が落ちるので、エンジン稼働中は常時回転できるPTOが用いられる。
特殊なもの
- 二輪消防車
- PTOを持った変わった乗り物としては排気量250ccのスクーターを用いた消防用のポンプスクーターが試作され、2004年に採用された。現場に自走していき、到着後PTOによってポンプを駆動する。
- パラレル・ハイブリッド
- いすゞ・エルフのハイブリッド車ではエンジンアシストとエネルギー吸収を行う電動機/発電機をPTOでリンクしている。
- マスト車(飛行船係留車)
関連項目
- スズキ・ジムニー - 旧型式に、荷台にパワーテイクオフ機構を持つ車両が存在した
- ダイハツ・ハイゼット 、 ダイハツ・アトレー - 1982年から2000年までPTO発電機、PTOウインチを装備するグレードまたは設定オプションが存在した。
- 自在継手