ハッブルの法則
テンプレート:Physical cosmology ハッブルの法則(ハッブルのほうそく)とは、天体が我々から遠ざかる速さとその距離が正比例することを表す法則である。1929年、エドウィン・ハッブルとミルトン・ヒューメイソンによって最初に定式化された[1]。この法則によって、宇宙が膨張しているという事実がわかった。
<math>v</math> を天体が我々から遠ざかる速さ(後退速度)、<math>D</math> を我々からその天体までの距離とすると、
- <math>v={H_0}\,D</math>
となる。ここで比例定数 <math>H_0</math> はハッブル定数 (Hubble constant) と呼ばれ、現在の宇宙の膨張速度を決める。
ハッブル定数は<math>T^{-1}\,</math>(時間の逆数)の次元をもち、通常、km/s/Mpc(キロメートル毎秒毎メガパーセク)の単位で表される。2014年現在最も正確な値は、プランクの観測による (67.15 ± 0.12) km/s/Mpc である[2]。換言すれば、銀河は実視等級20等程度までスペクトル観測が可能であるが、いずれの銀河もそのスペクトルは赤のほうにずれている、これを赤方偏移という。これがドップラー効果とすれば銀河までの距離と後退速度の間に一定の法則性を発見したものといえる。
ハッブルパラメータの変化
ハッブル定数は、定数と呼ばれているが、時間と共に変化しうる。時間の関数としてのハッブル定数はハッブルパラメータ (Hubble parameter) と呼び、<math>H</math> や <math>H(t)</math> で表す。観測で求められるハッブル定数
- <math>H_0 = H(0)</math>
は、正確には「現在のハッブルパラメータ」である。
E・アーサー・ミルンが導出した、宇宙膨張が加速も減速もしないミルン宇宙では、ハッブルパラメータはビッグバンからの経過時間に反比例して減少する。速度 <math>v</math> が一定のまま距離 <math>D</math> だけが増加するからである。
一方、定常宇宙論ではハッブルパラメータは一定である。宇宙膨張は指数関数的に加速し(過去にさかのぼると減速し)、過去にいくらさかのぼってもビッグバンは起こらない。
「距離」「速度」の定義
近くの銀河だけを見ているときは「距離」と「速度」の定義は自明だが、遠くの銀河についてはそれらの定義が問題となる。
ハッブルの法則が成り立つ「距離」とは、共動距離、つまり、その銀河の現在位置までの距離である。「速度」とは、その時間微分である[3]。観測上、遠方の天体ほど、ハッブルの法則に従わなくなる。これは光速が有限なため観測上遠方の天体が過去の距離(宇宙論的固有距離)と速度を表し、かつ過去のハッブル定数が現在のハッブル定数と異なるからである。
銀河までの共動距離を <math>D(t)</math> で表すと、ハッブルの法則は次のように表せる。
- <math>\frac{d}{dt} D = H\!(t)\, D(t) </math>
距離として光路距離、つまり、光が届く所要時間に光速度を掛けた値を使うと、
- <math>\frac{d}{dt} D_\mathrm L = c \, \frac z {1+z} </math>
(<math>z</math> は赤方偏移)が成立するが、ミルンの宇宙以外では遠くの銀河の光路距離に対してハッブルの法則は成り立たない。
ハッブル定数の値
銀河の後退速度は銀河からの光のスペクトルの赤方偏移を調べることによって容易に決定できるが、距離の決定は、現在のところ、様々な算出方法を総合して割り出すしかないため、正確な値を求めることは困難である。そのためハッブル定数は不確定なものとなっている。
つい最近まで、ハッブル定数の見積もりには 50 - 100 km/s/Mpc という非常に大きな誤差があった。
2008年に公表された WMAP による初期の観測では、 (70.5±1.3) km/s/Mpc という値が与えられていた[4]。その後、NASAの赤外線宇宙望遠鏡スピッツァーによる遠赤外線の観測から (74.3 ± 2.1) km/s/Mpcという値が得られた[5]が、2012年に、NASAの人工衛星WMAPなどの観測による (69.32 ± 0.80) km/s/Mpc という値が与えられた[6]。
2013年には、プランクの観測結果により (67.15 ± 1.2) km/s/Mpc という新しい値が与えられた[2][7]。
ハッブル時間とハッブル距離
ハッブル定数の逆数は<math>T</math>(時間)の次元を持ち、ハッブル時間と呼ばれる。
- <math>t_\mathrm H=\frac{D}{v}=\frac{1}{H_0}</math>
先のハッブル定数の値を使うと、ハッブル時間は138億年である。宇宙の年齢 <math>t_0</math> は、ミルン宇宙ではハッブル時間に等しいが、実際は加速や減速があるので、ハッブル時間とは異なる。観測で得られた宇宙論パラメータを使うと、実際の宇宙は加速と減速を繰り返した結果、宇宙の年齢はハッブル時間とほとんど同じ137億年となる。ただし、ハッブル時間そのものに物理的意味はない。
光速度をハッブル定数で割った値、つまり、光速度とハッブル時間の積を、ハッブル距離
- <math>r_\mathrm{H} =c \, \frac{D}{v}=\frac{c}{H_0} = c \, t_\mathrm{H} </math>
といい、138億光年である。ハッブル距離そのものも物理的意味はないが、光速度と宇宙の年齢の積 <math>c \, t_0\,</math> の137億光年は、宇宙の地平面(宇宙の果て)までの光路距離である。ただし、地平面までの共動距離(こちらのほうが通常の意味での距離である[3])は465億光年で、かなり異なる。
参考文献
- ↑ Hubble, Edwin, "A Relation between Distance and Radial Velocity among Extra-Galactic Nebulae" (1929) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Volume 15, Issue 3, pp. 168-173 (Full article, PDF)
- ↑ 2.0 2.1 テンプレート:Cite web
- ↑ 3.0 3.1 Why the Light Travel Time Distance should not be used in Press Releases
- ↑ テンプレート:Cite webテンプレート:En icon
- ↑ NASA's Infrared Observatory Measures Expansion of Universe NASA
- ↑ Nine-Year Wilkinson Microwave Anisotropy Probe (WMAP) Observations: Final Maps and Results arXiv
- ↑ テンプレート:Cite web
関連項目
外部リンク
- 膨張する宇宙 - 宇宙の膨張とハッブルの法則との関係について