ドップラー・レーダー
ドップラー・レーダー(Doppler radar)とは、ドップラー効果による周波数の変移を観測することで、位置だけではなく観測対象の移動速度を観測する事の出来るレーダーである。
観測対象がレーダーから遠ざかっている場合にはドップラー効果により反射波の波長が長くなる。逆に近づいている場合には反射波の波長が短くなる。この波長の変化を測定することで、観測対象がレーダーサイトに対してどの程度の速度で遠ざかっているのか、もしくは近づいているのかを知ることが出来る。
ただ、1台のドップラー・レーダーでは一次元的な動きしか捉える事が出来ないため、実際には複数台のドップラー・レーダーを用いて同時に観測(デュアル・ドップラー・レーダー観測)を行う事が多い。2台以上のドップラー・レーダーの観測結果を解析する事で二次元的な動きを捉える事が出来る。
なお、レーダーサイトに対して水平に移動している場合はドップラー効果による周波数の変移が起こらないため、静止している場合と区別する事が出来ない。
気象観測用レーダー
ドップラー・レーダーは雲内部の降水粒子の移動速度を観測することで、雲内部の風の挙動を知ることが出来るため、気象観測に多く用いられる。特に空港においては、離着陸する航空機に対するダウンバースト(下降噴流)などの発生を把握するため、順次更新設置されている。アメリカでは竜巻対策としてドップラー・レーダーによる監視・警告システムが発達しており(気象機関・企業のみならず、かなりのテレビ局が自前のレーダーを所有している)、日本でも近年の竜巻の多発を受けて、気象庁が2008年3月より全国11ヶ所に設置したドップラー・レーダーによる「竜巻注意情報」の提供を開始した。
ドップラー・レーダーによって得られる情報は風速の1次元量のみであるが、レーダーサイトを中心とした動径方向の風速の空間分布から観測領域内の2次元風速を求める代表的な手法としてVAD(Velocity Azimuth Display)やVVP(Velocity Volume Processing)がある。
航空機用レーダー
航空機搭載用のドップラー・レーダーは、上述の気象レーダーとしての他、対地速度を測定して航法に応用するためのものも多い。航空機において自機の速度を計測するにはピトー管が主に用いられるが、これは大気との相対速度を計測するものである。目的地までの飛行ルートや時間の目安となるのは対地速度であり、これを測定する機器が必要となった。
また航空機の場合は、観測対象の位置のみを計測するレーダーでは、その航空機より下方に位置する飛行物体については、地面との区別がつかず感知が不可能となる。そこで、地面と航空機を区別し、自機よりも下方を探知する(ルックダウン能力)ため、パルスドップラーレーダーが搭載されるようになった。パルスドップラーレーダーは、特に戦闘機においては必須の装備となっている。現代の航空戦術においては、発見率を下げるために可能な限り低空で侵攻するのが常套手段とされており、低空で侵入した敵の機体を探知するためには、パルスドップラーレーダーが必要となっている。
パルス・ドップラー・レーダー
ドップラーレーダーの一種でパルス波を使用する。
ドップラー・ライダー
マイクロ波の代わりにレーザーによるドップラーLIDARを用いる方法もある。これにより分解能が向上する。装置全体を小型化する事も可能で軽飛行機に搭載可能な機種も開発されつつある。