テレワーク

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テレワーク (Telework) あるいはテレコミューティング (Telecommuting) とは、勤労形態の一種で、情報通信機器等を活用し時間や場所の制約を受けずに、柔軟に働くことができる形態をいう。また、テレワークで働く人をテレワーカーと呼ぶ。

テレワークという単語は日本での造語であるが、テレワークで指している労働形態は欧米にもある。特に米国は1970年代にテレワークが生まれた地[1]でもあり、「テレワーク先進国」と言える[2]

ここでは断り書きがない限り、日本での事例について述べる。

概要

テレワークの区分として、まず雇用関係の有無がある。企業や官公庁に雇用され、在宅勤務などを行う雇用型と、フリーライターやSOHOなどの自営型、あるいは非雇用型は、広く使われる区分である[3][2]。また、国土交通省のテレワーク人口実態調査では、情報通信機器等を利用し仕事をする時間が1週間当たり8時間以上の者を狭義のテレワーカー、それ以外を広義のテレワーカーとしている[4]。また、佐藤彰男は雇用型、非雇用型を在宅勤務、モバイルワーク、SOHO、在宅就業に分けることができる、としている[2]。それぞれの概要は以下のとおり。

  • 雇用型
    • 在宅勤務 - 週の何日かは事業所に出勤せずに家で作業を行う。
    • モバイルワーク - 事業所に毎日出勤することはせずに、営業先を回りノートパソコンなどで作業を行う。
  • 非雇用型
    • SOHO - 個人事業主。法人格を持っていることが条件。
    • 在宅ワーク型 - 個人が請負、あるいはテレワークあっせん会社に登録を行い、データ入力やアドレス収集、ホームページ作成などを行う。収入の低さから「電脳内職」と揶揄される形態でもある。

また、総務省では上記に付け加えて、施設利用型勤務(サテライトオフィス、テレワークセンター、スポットオフィス等を就業場所とするもの)を定義している。

規模

平成17年度テレワーク実態調査(国土交通省)によれば、2005年時点で日本には狭義のテレワーカーが674万人(内訳は、雇用型で506万人、自営型で168万人)いる。政府は2003年7月策定の「eJAPAN戦略II」で、2010年に日本の労働人口の2割(7000万人×0.2=1400万人)をテレワーカーにする目標をかかげている。

一方で、この数字は過大であるという指摘もある。一例として、「調査は本人の自覚によらず定義に当てはまるかで判断しているため、例えば週に8時間以上自宅へ持ち帰り残業を行えばテレワーカーとなる」(佐藤、2008)を挙げる[2]

特徴

テレワークの特徴は、職場など一定の場所に縛られずにどこでも仕事ができることである。そして職場以外で仕事ができると言うことは、労働時間の管理・把握が困難となり、必然的に労働時間の不可視化が起こる。そのため、管理困難に対応すべく労働者に一定の裁量権を与えて決められたノルマをこなす、というようにテレワーカーに一定の裁量権が与えられることになる[2]

利点

テレワークにはいくつかのメリットがあるとされ、世界各国にテレワークの研究や普及促進する団体が存在する。

政府は、テレワークには渋滞大気汚染(在宅勤務者が増えることによる交通機関利用者の減少)などの都市問題地域活性化サテライト・オフィスの活用、通勤が無くなればどこでも住めるので地方へ人が来る)、少子化高齢化など(在宅時間が増えることによる子育て、介護時間の増加)の社会問題解決の手段として有効であると期待されている。またパンデミック対策の一つでもある。留意点としては、これらの利点は従前通勤勤務であった労働者が在宅勤務へと変わることにより期待されることという点である[2]。また、経営者には経費削減(通勤労働者の減少によるオフィスの縮小)、労働者には労働の裁量権が得られる、非雇用型の場合は自分の都合にあわせて働けるなどの利点があるとされる[2]

問題点

一方で、テレワークには問題点も指摘されている。

すべてのテレワークに共通することとして、労働時間が長期化しやすい傾向がある。「どこでも仕事ができる」は、「どこでも仕事をしなければならない」に容易に置き換わる。また、テレワーカーに裁量権があるといってもそれは限定的なもので、テレワーカーにはノルマ(仕事量)を決める権限は無く、ノルマは勤め先など外部が決定している。特徴の節で述べたとおり、労働時間が見えないため外部が決定する仕事量と労働時間とのバランスが難しく、「このくらいできるよね」と外部がノルマを課せばテレワーカーはこなさなければならない[2]。そして裁量労働制という名前の元に、テレワーカーは「自分が仕事をコントロールしており、ノルマをこなせないのは自分のせいだ」として、ノルマをこなすためについつい労働時間を延ばしていく。しかもこの延びた時間をテレワーカーは「労働時間として認識しない」傾向にあるという[2]。この労働時間の長期化は、特に仕事の単価が安い請負が多い在宅ワーク型において時給の低額化を招きやすい[2]

収入面では、雇用型については一定の収入が保証され、額も多い。しかし、在宅ワーク型はCG・ホームページの作成などの技能を必要とする仕事であればまだ収入が多いが、データ入力、アドレス収集といった技能を必要とされない(とみられる)仕事の場合、請負制で最低賃金が適用されず単価は恐ろしく安くなり、一方で作業時間が長くなった結果、「結果として時給100円だった」といった事態が容易に起こりうる。ごく一部を除けば、「収入額も時給もパートの方がよほどマシ」といった状況にある[2]

次に、特に政府が期待する通勤労働者から在宅勤型務への振り替えの増加は、現状では厳しいという[2]。企業にとって、通勤労働者の在宅勤務型への変更は労務管理が難しくなるという問題点を抱える。まず労働時間の管理が難しくなるため、在宅勤務を導入している企業においては、「○時から○時までは仕事をしろ」といったように、時間拘束が厳しい事例がある[2]。また企業の大多数は労働者をみることにより評価する方法を導入しており(特に事務職においてノルマ設定による評価方法は導入しづらい)、テレワークは仕事ぶりがみえづらく評価が難しくなる[2]

一方、モバイルワーク型の導入は企業にとってオフィス縮小によるコスト削減、営業職が顧客に関わる時間が多くなることによる顧客満足度の上昇などの利点があるが、労働者はバックヤード縮小による事務作業など労働量の増加、他者との関わりが希薄化することによるロールモデルの消失、勤め先への忠誠心の低下などが起こりうる[2]

関連文献・記事

脚注

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関連項目

pt:Telecomutação

ru:Телеработа
  1. 社団法人 日本テレワーク協会ホームページ内、「テレワークの歴史」では、「テレワークは、アメリカで1970年代にエネルギー危機とマイカー通勤による大気汚染の緩和を目的として、ロサンゼルス周辺で始められたといわれている。1980年代前半にはパソコンの普及と女性の社会への進出に伴い、テレワークが注目されるようになった。」と紹介されている。
  2. 2.00 2.01 2.02 2.03 2.04 2.05 2.06 2.07 2.08 2.09 2.10 2.11 2.12 2.13 2.14 佐藤彰男『テレワーク―「未来型労働」の現実』岩波書店、2008年5月、ISBN 9784004311331
  3. 『THE Telework GUIDEBOOK 企業のためのテレワーク導入・運用ガイドブック』国土交通省他 2008年版
  4. 『平成20年度 テレワーク人口実態調査』国土交通省 2009年4月