ゾウ目
ゾウ目(ゾウもく、テンプレート:Sname)は、現生最大の陸棲動物を含む植物食哺乳類の分類群(タクソン)である。
長鼻目〈ちょうび もく〉・長鼻類〈ちょうび るい〉とも。分類体系によっては長鼻亜目・長鼻小目とも(下目とされることはまれ)。
アフリカ大陸に起源を持つグループであるアフリカ獣類に属し、テティス海の岸辺(アジア大陸南端地域およびアフリカ大陸北端地域)で進化的飛躍を遂げたテティス獣類に含まれる1目。ゾウ(象)およびその近縁群を含む。
呼称
目名の由来になった προβοσκίς (proboskis) は「象の鼻」を意味する古いギリシア語。 日本語や中国語ではこれを訳して「長鼻目」(ちょうびもく、chángbìmù; チャンピームー)と呼ぶ。
現生種
現生種は3種(2種)で、全てゾウ科(ゾウ)に含まれる。
マルミミゾウは、かつてはアフリカゾウの亜種とされており、そのころから種として独立させるべきとの意見が根強かったが、DNA解析による知見から、サバナのアフリカゾウとは別系統にあることが確認され、あらためて独立種となったものである[1]。
いずれの種も、乱獲や棲息地の減少と分断によって減少しており、近い将来、絶滅する危険性が高い。
進化史
長鼻類は、すでに絶滅した原始的な哺乳類のグループである顆節目(かせつもく) テンプレート:Sname から分岐したと考えられる[2]。化石は古第三紀初期(5000万年以上前)まで遡ることができ、現在知られる最古のものとして、モロッコの暁新世層から出土したフォスファテリウムがある。とはいえ、最近の遺伝子などを基にした研究では長鼻類はじめアフリカ獣類に含まれる哺乳類は白亜紀には顆節目を含む北方真獣類とは既に分岐していた独自グループであるとの説も有力になりつつある。これによれば長鼻類含むアフリカに起源をもった有蹄草食哺乳類達(現生のものは長鼻目、海牛目、岩狸目)は祖先を共有する一群とされ、これは近蹄類と呼ばれる。更にこの中でも長鼻目と海牛目の両者は、より近縁同士であるとみられ、これらをまとめてテティス獣類と呼ぶ。化石から知られる初期の長鼻類が、初期の海牛類同様に水陸両棲傾向が強い(現在で言えばカバのような)植物食動物であったとみられることも、この見方を補強している。
当時、アフリカ大陸はテチス海によって他の陸地(ユーラシア)から隔てられており、長鼻類を含むアフリカ獣類は、この隔絶された大陸で、独自の進化を遂げた[3]。始新世には、アフリカのヌミドテリウム、バリテリウム、モエリテリウム(メリテリウム)、インド亜大陸(当時、インドはテチス海を挟みアフリカに近い位置にあった島大陸だった)のアントラコブネ類など、非常に原始的な長鼻類が何種か知られている。これらは遠浅で温暖な海であったテチス海の海岸沿いを中心に棲息していたと思われる。始新世末期から漸新世にかけて、長鼻目はデイノテリウム亜目(ダイノテリウム亜目)と、現生のゾウ類に連なるゾウ亜目とに分岐した[2]。
中新世になると、新しい造山運動によってテチス海が分断され、アフリカとヨーロッパが地続きとなった。長鼻類はこのときにできた陸橋を通って、分布域を広げた。世界各地に数十種に及ぶ長鼻類が分布し、中新世は長鼻類の最盛期となった[3]。2つの亜目のうち、デイノテリウム類は、アジア・ヨーロッパに分布域を広げ、中新世から更新世にかけて繁栄したが、更新世に姿を消した。その特徴は、下あごから湾曲しながら腹側後方へ伸びる、独特の牙(門歯の発達したもの)にあった[2]。デイノテリウム類には肩高 4m に及ぶものもあり、インドリコテリウムに次いで、史上2番目にサイズの大きな陸生哺乳類とされることもある[3]。
一方、ゾウ亜目は中新世以降、著しく発展した。プラティベロドンやアメベロドンなどの“シャベルキバゾウ”がこれに含まれる。系統関係はまだ議論の途上にあるが、漸新世にマムート科(マストドン類)が分岐し、中新世に基幹的なグループとして、やはり下あごのシャベル状の牙を特徴とするゴンフォテリウム科が派生した。ゴンフォテリウム類は非常に繁栄し、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、北アメリカに広く分布していた。日本からもアネクテンスゾウ、ミヨコゾウ、センダイゾウなどが発掘されている。また、ステゴドン科とゾウ科は、このゴンフォテリウム科からさらに分化したものと考えられる。鮮新世以降まで存続したゾウ亜目のグループでは、一般的にサイズの著しい大型化が見られる[2]。
2003年12月の発見により、現生のゾウに似た種は、2600万年ほど前に現れたと考えられるようになった。これらの種の進化は、主に頭骨とあごの比率および牙と大臼歯の形状に関わるものであった。初期のゾウ類の多くは、上下のあごに1対ずつ、計4本の短い牙をもっていた。
中新世後期(約700万年前)にゴンフォテリウム類から生じたと考えられるプリムエレファスは、マンモス類と現代のゾウ類の直接の祖先に当たるとされる。約500万年前に世界的な寒冷化が始まると、ほとんどの長鼻類はこれに適応できず、多くの種は絶滅した[2]。氷河期にも、現生ゾウ類によく似たマンモスやマストドンのような寒冷化に適応した種が少なからず存在したが、人類による狩猟が盛んになった更新世を迎え、その多くが絶滅している。特に更新世の末期、地球の急速な温暖化が進行したこともあってか、寒冷化に適応していた種は完全に姿を消した。
古生物学者たちは、およそ170種の化石種を長鼻目に分類している。
分類
† は「絶滅」の意。
上位分類
- 真獣下綱(正獣下綱、ユーテリア) テンプレート:Sname
- アフリカ獣上目 テンプレート:Sname
- アフリカ食虫類 テンプレート:Sname
- ハネジネズミ目(長脚目) Macroscelidea
- アフリカトガリネズミ目(アフリカジネズミ目、テンレック形目) テンプレート:Sname, テンプレート:Sname
- ツチブタ目(管歯目) Tubulidentata
- 近蹄類 テンプレート:Sname
- イワダヌキ目(岩狸目) Hyracoidea
- †重脚目 テンプレート:Sname
- テティス獣類 Tethytheria
- ゾウ目(長鼻目) テンプレート:Sname
- ジュゴン目(海牛目) テンプレート:Sname
- †束柱目(デスモスティルス目) テンプレート:Sname
- アフリカ食虫類 テンプレート:Sname
- 異節上目 テンプレート:Sname : 現生1目。
- 真主齧上目 テンプレート:Sname : 現生5目。
- ローラシア獣上目 テンプレート:Sname : 現生7目。
- アフリカ獣上目 テンプレート:Sname
下位分類
- ゾウ目(長鼻目) テンプレート:Sname
- †アントラコブネ科 テンプレート:Sname
- †ナクシア属 テンプレート:Snamei
- †ピルグリメラ属 テンプレート:Snamei
- †ラミダニア属 テンプレート:Snamei
- †アントラコブネ属 テンプレート:Snamei
- †ヨザリア(ジョザリア)属 テンプレート:Snamei
- †モエリテリウム科(メリテリウム科) Moeritheriidae
- †モエリテリウム(メリテリウム)属 テンプレート:Snamei : 始~漸新世、アフリカ北部。全長3m、肩高60cmという細長い胴が特徴。半水棲適応によるものか。
- 真長鼻類 テンプレート:Sname
- †ヌミドテリウム科 テンプレート:Sname : 最古の長鼻類。
- †フォスファテリウム テンプレート:Snamei : 暁新世、モロッコ。
- †ヌミドテリウム テンプレート:Snamei : 暁~始新世、アフリカ北部。
- †デイノテリウム上科(恐獣上科) Deinotherioidea
- †バリテリウム科 Barytheriidae
- †バリテリウム属 テンプレート:Snamei : 始~漸新世、エジプトとリビア。
- †フィオミア科 テンプレート:Sname
- †フィオミア属 テンプレート:Sname : 始~漸新世、アフリカ北部。肩高1- 1.5m、シャベル状の下顎をもつ。鼻はバクのように短かったと思われる。
- †デイノテリウム科 テンプレート:Sname
- †キルガテリウム亜科 Chilgatheriinae
- †キルガテリウム属 テンプレート:Snamei
- †C. harrisi
- †キルガテリウム属 テンプレート:Snamei
- †デイノテリウム亜科 Deinotheriinae
- †プロデイノテリウム属 テンプレート:Snamei : 漸新世後期、エチオピア。
- †P. orlovii
- †P. pentapotamiae
- †P. bavaricum
- †P. hobleyi
- †デイノテリウム属 テンプレート:Snamei : 漸新世後期~更新世のヨーロッパ、アジア、アフリカ。肩高4m、下向きに湾曲した牙をもつ。
- †プロデイノテリウム属 テンプレート:Snamei : 漸新世後期、エチオピア。
- †キルガテリウム亜科 Chilgatheriinae
- †バリテリウム科 Barytheriidae
- ゾウ亜目(象亜目、真象亜目) テンプレート:Sname
- †パレオマストドン科 Palaeomastodontidae
- †パレオマストドン属 Palaeomastodon : 漸新世のエジプト、エチオピア。
- †マムート科 テンプレート:Sname
- †?ヘミマストドン属 Hemimastodontidon : 中新世後期、パキスタン。
- †エオジゴドン属 Eozygodon : 中新世、アフリカ。
- †ジゴロフォドン(ジィゴロフォドン)属 Zygolophodon : 中~鮮新世、ヨーロッパ。
- †マムート(マストドン)属 Mammut (テンプレート:Sname) : 中~更新世のヨーロッパ、アジア、アフリカ、北アメリカ。
- †アメリカマストドン属 M. americanus : 更~完新世、北アメリカ。体長4.6m、肩高3.4m。約6000年前、人類の狩猟により絶滅。
- テンプレート:Sname
- †コエロロフォドン科 テンプレート:Sname
- †コエロロフォドン属 テンプレート:Snamei
- †アメベロドン科 テンプレート:Sname
- †アルカエオベロドン属 テンプレート:Snamei
- †セルベロドン属 テンプレート:Snamei
- †プロトアナンクス属 テンプレート:Snamei
- †アメベロドン属 テンプレート:Snamei
- †プラティペロドン(プラチペドロン)属 Platybelodon : 中~鮮新世、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、北アメリカ。肩高2~3m、さまざまな形状のシャベル状の下顎牙をもつ。
- †グナタベロドン科 テンプレート:Sname
- †グナタベロドン属 テンプレート:Snamei
- †ゴンフォテリウム科(ゴムフォテリウム科) Gomphotheriidae
- †ゴンフォテリウム(ゴムフォテリウム)属 Gomphotherium : 中~鮮新世、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、北アメリカ。肩高2.5~3m、上顎・下顎それぞれからの、2対4本の牙をもつ。トリロフォドン Trilophodon、テトラベロドン Tetrabelodon、ゲノマストドン Genomastodon は、いずれもシノニム。
- †シノマストドン属 テンプレート:Snamei
- †センダイゾウ S. sendaicus : 日本。近年、別属を立て Trilophodon sendaicus とする説が出ている。
- †エウベロドン属 テンプレート:Sname
- †リンコテリウム属 テンプレート:Snamei : 中~鮮新世の北アメリカ、アジア、アフリカ。
- †セリデンティヌス属 テンプレート:Snamei : 中~鮮新世のアジア、ヨーロッパ、北アメリカ。全長1.5m。
- †ステゴマストドン属 テンプレート:Snamei : 漸~更新世の北アメリカ、南アメリカ。体長4.5m、肩高2.7m。現生のアフリカゾウに似る。
- †ハプロマストドン属 テンプレート:Snamei
- †ノティオマストドン属 テンプレート:Snamei : パナマ地峡を渡って南アメリカに分布。
- †キュウィエロニウス(クヴィエロニウス)属 Cuvieronius : 鮮~更新世。パナマ地峡を渡って南アメリカに分布。
- †? ブノロフォドン属 テンプレート:Snamei
- †? テトラロフォドン属 テンプレート:Snamei
- †? パラテトラロフォドン属 テンプレート:Snamei
- †? アナンクス属 テンプレート:Snamei : 中~更新世のヨーロッパとアジア。体高2.5m。3mに達するまっすぐな牙を持つ。
- ゾウ上科(象上科) テンプレート:Sname
- †ステゴドン科 テンプレート:Sname : かつてはゾウ科に含められていたが、最近はマムート科と同様、収斂進化によってゾウ科とよく似た姿を獲得した別科、ステゴドン科として扱われる。
- †ステゴロフォドン(ステゴロホドン)属 Stegolophodon : 中~更新世のアジア、ヨーロッパ。エオステゴドンも参照。
- †ステゴテトラベロドン属 Stegotetrabelodon : 中新世、アフリカ。
- †ステゴディベロドン属 Stegodibelodon
- †エオステゴドン属 Eostegodon : かつてはステゴロフォドンに含められていたが、系統関係の研究により別属とされる。ステゴドン属の祖先群と考えられる。
- †ステゴドン属 テンプレート:Snamei : 鮮~更新世、日本、アジア(フローレス島で矮小化)。
- †ミエゾウ S. miensis : 鮮新世初期~中期、日本。かつては「シンシュウゾウ」とされたが、2000年の国際生物科学連合で採択された国際動物命名規約第4版において「ミエゾウ」の先取権が認められ、改められた。中国東部のツダンスキーゾウあるいはコウガゾウの近縁種または同一種と考えられる。大型で、コウガゾウよりやや小さい程度。日本の化石ゾウでは最大種。
- †トウヨウゾウ S. orientalis : 更新世中期の中国と日本。
- †アケボノゾウ(アカツキゾウ) S. aurorae : 鮮新世後期∼ 更新世前期、日本。カントウゾウ S. kwantoensis、スギヤマゾウ S. sugiyamai、タキカワゾウ S. infrequens、ミツゴゾウは、いずれもアケボノゾウのシノニム。かつてアカシゾウ(Parastegodon akashiensis または Stegodon akashiensis)とされていたものも、現在はアケボノゾウと同種とされる。ミエゾウから進化した日本の固有種と考えられる。
- †コウガゾウ(黄河象) S. hunghoensis : 中国。非常に大型で、体長7.6m、肩高3.8m、牙長約3m、体重7~8t。
- †ガネーシャゾウ(ガネッサゾウ) S. ganesa : インド。
- ゾウ科 テンプレート:Sname
- ゾウ亜科 Elephantinae (狭義のゾウ類)
- †プリムエレファス(プリメレファス)属 テンプレート:Snamei : 鮮新世、アフリカ。ゴンフォテリウム類から派生。ゾウ亜科全体の祖先型と考えられる。
- アジアゾウ族 Elephantini
- アジアゾウ属 テンプレート:Snamei
- †エレファス・レッキー テンプレート:Snamei
- アジアゾウ テンプレート:Snamei : インド・東南アジア。
- インドゾウ E. m. bengalensis
- セイロンゾウ E. m. maximus
- スマトラゾウ E. m. sumatrana
- マレーゾウ E. m. hirsutus
- †ナウマンゾウ亜属 テンプレート:Snamei
- †ナウマンゾウ テンプレート:Snamei : 更新世中期~後期の、日本、朝鮮、中国。
- †マンモス属 テンプレート:Snamei (Mammoth) : 更新世(約5000年前までウランゲリ島に棲息?)のヨーロッパ、アジア、北アメリカ、アフリカ。肩高3~4m。
- †コロンビアマンモス M. columbi (Columbian Mammoth) : 北アメリカ。
- †インペリアルマンモス(帝王マンモス、エンペラーマンモス) M. imperator (Mammuthus imperator) : 北アメリカ。
- †ステップマンモス M. trogontherii (Steppe mammoth) : ヨーロッパ(イギリス・ドイツ)。肩高4.5m、牙長5.2m、史上最大のゾウ。
- †ケナガマンモス(ウーリーマンモス) M. primigenius (Woolly mammoth) : シベリア、ヨーロッパ、北アメリカ、日本など。
- †コビトマンモス M. exilis (Pygmy Mammoth): ウランゲリ島など。
- †松花江マンモス M. sungari (Songhua River Mammoth) : 中国(内モンゴル)。
- †ムカシマンモス M. protomammonteus : 日本。
- †シガゾウ M. protomammonteus shigensis または Mammuthus paramammontheus shigensis : 更新世前期~中期、日本。
- †M. subplanifrons (en) : アフリカ。
- †M. meridionalis (en) : ヨーロッパ、アジア、北アメリカ。
- †M. lamarmorae (en) (Sardinian dwarf mammoth)
- アジアゾウ属 テンプレート:Snamei
- アフリカゾウ族 Loxodontini
- アフリカゾウ属 テンプレート:Snamei : アフリカ(かつてはアジアとヨーロッパにも棲息)。
- アフリカゾウ L. africana (テンプレート:Sname)
- サバンナゾウ L. a. africana
- †L. (africana) pharaoensis
- マルミミゾウ(シンリンゾウ) L. cyclotis (テンプレート:Sname)
- アフリカゾウ L. africana (テンプレート:Sname)
- アフリカゾウ属 テンプレート:Snamei : アフリカ(かつてはアジアとヨーロッパにも棲息)。
- ゾウ亜科 Elephantinae (狭義のゾウ類)
- †ステゴドン科 テンプレート:Sname : かつてはゾウ科に含められていたが、最近はマムート科と同様、収斂進化によってゾウ科とよく似た姿を獲得した別科、ステゴドン科として扱われる。
- †コエロロフォドン科 テンプレート:Sname
- †パレオマストドン科 Palaeomastodontidae
- †ヌミドテリウム科 テンプレート:Sname : 最古の長鼻類。
- †アントラコブネ科 テンプレート:Sname