スラッシュメタル

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スラッシュメタル (テンプレート:En) は、音楽ジャンルの一つ。従来のヘヴィメタルハードコアの過激さを加えた音楽形態を指す。Thrash とは「鞭打つ」という意味である。スピードメタルとの定義の違いは曖昧である。

音楽性

NWOBHMハードコア・パンク私生児ともいえる音楽性で、ギターソロよりもギターリフに重きを置き、スピード感を重視した楽曲が多い。

特に1980年代初頭には、メタリカの「Fight Fire With Fire」(『Ride the Lightning』収録曲)や、スレイヤーの「Chemical Warfare」(EP「Haunting the Chapel」収録曲)が、世界最速の楽曲として話題に上ることもしばしばあった。

それまでのHR/HMといえばバンドの花形はリードギタリストであり、ギターソロの速弾きこそ最大の見せ場であった。対してスラッシュメタルは速弾きこそあれど、楽曲の中心はギターリフであり、高速なもの、複雑なもの等、様々なギターリフを開発していった。ただし、速さのみを追求していたわけではなく、スピード感を際立たせるため1曲の中、あるいはアルバムを通して緩急をつけるなどの工夫もされていた。

とりわけ凶暴で粗野な印象が強調されがちなスラッシュメタルだが、メタリカのようにアコースティック・ギターを入れたり、バラード調の楽曲を入れるバンドもある。

ヴォーカルに関しては、音程をあまり重視しない叫び声やハードコア風のがなり声のようなスタイルが多い。一方でハイトーンで伸びやかにメロディを歌うヴォーカリストもいる。曲と同様に歌詞の進行も早く、ネイティブスピーカーでも聴き取れないほど早いことさえある。特に、スレイヤーのヴォーカルの速さは、ラッパーたちにカルチャーショックを与えたといわれている。

ドラムも例に漏れず速く、手数も多い。BPM200以上でバスドラム16分で打ったり、バスドラムとスネアを8分で交互に叩くいわゆる「2ビート」が特徴。スレイヤーのデイブ・ロンバートやアンスラックス、SODのチャーリー・ベナンテ、ダーク・エンジェルテスタメントデスのジーン・ホグラン等の名手がいる。

概略

スラッシュメタルは、NWOBHMをより攻撃的に発展させたものだといわれている。また、ヘヴィ・メタルに止まらず、ディスチャージなどのハードコア・パンク・バンド、キリング・ジョークなどのポスト・パンク・バンドの影響も大きかったといわれている。

スラッシュメタルの誕生に関しては諸説あるが、メタリカが「Hit The Lights」をコンピレーションアルバム『Metal Massacre』(1981年)に提供したのを始まりとする意見が多い。しかし、この頃のメタリカは過激なNWOBHMの域を出ておらず、ヴォーカルスタイルもダイアモンド・ヘッドのシンガー、シーン・ハリスを多分に意識した歌唱法であった。

メタリカの誕生とほぼ同時期に、ニューヨークではアンスラックスロサンゼルスではスレイヤーが活動開始し、アンダーグラウンドシーンに於いて人気を獲得していった。 メタリカを解雇されたギタリストのデイヴ・ムステインは、ロサンゼルスでメガデスを結成した。

また、1980年代初頭のサンフランシスコ・ベイエリアには、メタリカのギタリストのカーク・ハメットがメタリカ加入前に結成したエクソダスや、レガシー(後のテスタメント)といった、スラッシュメタル黎明期を支えたバンドが多くいた。これらのバンドは『ベイエリア・クランチ』といわれる、ザクザクとしたギターサウンドを特徴としていた。

LAメタルが興隆を誇っていたロサンゼルスでは、ショーアップされたヘヴィ・メタルが盛んであったが、サンフランシスコ・ベイエリアでは、より無駄な装飾を廃した過激な音楽の人気が出始めていた。後にメタリカも拠点をサンフランシスコに移し、人気を確立していった。

アメリカに先んじてメタリカの人気に火がついた欧州では、よりヴェノムの影響を色濃く感じさせるソドム(Sodom)、クリーター(Kreator)、デストラクション(Destruction)といった3バンドを筆頭に、ジャーマンスラッシュという苛烈なスラッシュメタルが人気を博していった。

1985年に、アンスラックス等のメンバーらによって結成された、サイドプロジェクトS.O.D.によって、スラッシュメタルとハードコア・パンクのクロスオーヴァーが起こった。 以降、それまで互いに相容れなかった、メタルとハードコア、及び両ジャンルのファンの交流が盛んになる。

1980年代半ばになると、その過激な歌詞や、攻撃的な音楽性からスラッシュメタルを避けてきたメジャーレーベルもメタリカをはじめ、アンスラックス、スレイヤー、メガデス、エクソダスといったバンドと契約するようになった。これらのバンドのアルバムは、アンダーグラウンドに留まらず、オーバーグラウンドにおいても商業的に成功し、アメリカビルボードチャートの200位以内に登場するようになる。

その後、多くのバンドがメジャーレーベルと契約するようになり、L.A.メタルの衰退と入れ替わるようにスラッシュメタルムーブメントが興った。しかし、ムーブメントの副産物として似たようなバンドが数多く出現し、スラッシュメタルの粗製濫造ともいえる状態に陥った。また、メジャーレーベルと契約したスラッシュメタルバンドの多くは、聴く人を選ぶ、過激であったはずの音楽性を、より多くの人にアピールすべく(本人達の意志かは別として)変えていった。

1980年末から1990年初頭頃、攻撃性のみを信条としてきたスラッシュメタルは、シーンこそ盛んであったが音楽的には行き詰まり始め、前述のハードコア以外にも様々なを音楽との融合を試みるバンドが現れ始める。その代表には、ラップを取り入れたアンスラックスが挙げられる。こういったアプローチは、クロスオーヴァーと共に、後に興るニューメタル・ムーブメントに多大な影響を及ぼした。

1990年代に入った頃にはグランジムーブメントが興り、またパンテラヘルメットのようなスラッシュメタル、ハードコア等から発展したポスト・スラッシュグルーヴ・メタル/パワーグルーヴなども登場したことで、スラッシュメタルの人気は徐々に衰退していった。

特に決定的な出来事として、常にスラッシュメタルシーンを牽引してきたメタリカが1991年に発表した『Metallica』(通称ブラック・アルバム)が商業的に大成功した事が挙げられる。これを受け、多くのスラッシュメタルバンドがスピードや攻撃性よりも、重さやグルーブを重視するようになり、従来のファンを失うことになる。ただし、ムーブメントが衰退した後も更に人気を獲得したスレイヤーや、音楽性がスラッシュメタルから大きく離れた後も人気を保ち続ける、メタリカやメガデスのような希な例もある。

その後、スラッシュメタルの攻撃的な側面は、より過激なデスメタルや、グラインド・コアといった音楽に引き継がれていった。また、フォビドゥンヴァイオレンスのギタリストだったロブ・フリンはマシーン・ヘッドを結成し、ポスト・スラッシュ・バンドとして人気を獲得した。

2000年代に入ってからは、スレイヤー (Slayer)、クリーター(Kreator)、ソドム (Sodom)、デストラクション (Destruction)、エクソダス (Exodus)、テスタメント (Testament)、デス・エンジェル (Death Angel)、オーヴァーキル(Overkill) などの大御所が活動を続け、精力的なリリースを行っている。また、ForbiddenやToxikなどのように解散した往年のスラッシュメタルバンドが再結成を発表したり、Municipal WasteやGama Bomb、Violatorなど新たに現れた若手のスラッシュメタルバンドが80年代スラッシュメタルのサウンドを再現してリバイバル・スラッシュと呼ばれて人気を博するなど、ジャンルの勢いは現在でも止まる所を知らない。

時代背景

スラッシュメタルが台頭してきた1980年代中頃は、LAメタルのような奇抜なメイクやヘアースタイル、露出度の高い服装で卑猥さを強調するバンドが流行していた。こういった流れに対する反動か、スラッシュメタルバンドの多くは、Tシャツにパンツだけの悪く言えば薄汚い、よく言えば硬派かつ質素な服装だった。

特筆すべきは、スラッシュメタルファンのLAメタルに対する敵対視で、見た目、格好だけの「ポーザー」と罵っていた。スレイヤーも活動し始めた頃は、今で言うブラックメタルのようなメイクをし、サタニズムを強調していたが、これもエクソダスのゲイリーホルトの「サンフランシスコでそんな格好で演奏したら客の怒りを買う」という助言を受け、メイクするのをやめた(スレイヤーのメイキャップを見たベイエリアの観客は、失笑したという)。

日本においては、Xのようなスラッシュメタル的な音楽性とヘアメタル的なルックスを併せ持ったバンドが存在していた。これは、ヘアメタルに対する反発として生まれた欧米のシーンとは違い、日本のスラッシュメタルバンドの多くがKISS、モトリークルー等のヘアメタルの影響でメタルバンドを始めた者が多かったからである。こういった事から、バンドは世間一般ではスラッシュメタルとは認知されず、ステレオタイプ的な「ヘビメタ」として世間に捉えられていたふしがあったり、見た目などから硬派なメタルファンからもイロモノ扱いされていた。Xも、初期の頃はヘヴィメタルに対する偏見を植え付けると非難された事もあった[1]

バンド一覧

ビッグ・4(スラッシュメタル四天王)

ベイエリアスラッシュ

ジャーマンスラッシュ

クロスオーバー

その他のバンド

脚注

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関連項目

テンプレート:ヘヴィメタル
  1. 日本テレビ『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』に出演し、奇抜な言動で人気を博した。飲食店内で呆気にとられる客をよそに、テーブルに乗って歌ったり火を噴くパフォーマンスを披露した。こういった行為がXというバンドとヘヴィメタルの知名度を上げる事にもなったが、お茶の間には「ヘビメタ」というお笑いを提供していた。