スペイン語の日本語表記
スペイン語の日本語表記(スペインごのにほんごひょうき)
本項目では、スペイン語を日本語の仮名に転写する際の一般的な方法を述べ、また、表記の揺れについて解説する。本項の目的は正確なスペイン語の解説ではない。また、日本語表記に関する啓蒙・規範作りを目的とするものでもない。現在スペイン語と日本語の両方を話す人たちの間で通用している日本語表記を整理して示すことにある。本記事によってウィキペディアにおけるスペイン語起源単語の表記方法を規定するものではない。
目次
一般的な表記
スペイン語のアルファベット表記は、ほぼ発音に従って書かれているため、いわゆるローマ字読みのように読み下すことによりほぼ正しい発音で読むことができる。
また、母音が日本語と同じ'a', 'e', 'i', 'o', 'u'の5つであるため、カタカナに置き換えてもだいたい正しい発音を示すことができる。
以下の規則に従ってアルファベットをカタカナ化すると、原語とだいたい同じ発音を持つ日本語表記に変えることができる。
単独の a, i, u, e, o | ア、イ、ウ、エ、オ |
ba, bi, bu, be, bo, 単独のb | バ、ビ、ブ、ベ、ボ、ブ |
ca, ci, cu, ce, co, 単独のc | カ、シ、ク、セ、コ、ク |
cha, chi, chu, che, cho, 単独のch | チャ、チ、チュ、チェ、チョ、チ |
da, di, du, de, do, 単独のd | ダ、ディ、ドゥ、デ、ド、ド |
fa, fi, fu, fe, fo, f | ファ、フィ、フ、フェ、フォ、フ |
ga, gi, gu, ge, go, 単独のg | ガ、ヒ、グ、ヘ、ゴ、グ |
gui, gue | ギ、ゲ |
ha, hi, hu, he, ho | ア、イ、ウ、エ、オ(hは発音しない) |
ja, ji, ju, je, jo | ハ、ヒ、フ、ヘ、ホ |
ka, ki, ku, ke, ko | カ、キ、ク、ケ、コ(スペイン語以外からの借入語でのみ使われる) |
la, li, lu, le, lo, 単独のl | ラ、リ、ル、レ、ロ、ル |
lla, lli, llu, lle, llo | リャ、リ、リュ、リェ、リョ または ジャ、ジ、ジュ、ジェ、ジョ または ヤ、イ、ユ、イエ、ヨ |
ma, mi, mu, me, mo, 単独のm | マ、ミ、ム、メ、モ、ム(ン) |
na, ni, nu, ne, no, 単独のn | ナ、ニ、ヌ、ネ、ノ、ン |
ña, ñi, ñu, ñe, ño | ニャ、ニ、ニュ、ニェ、ニョ |
pa, pi, pu, pe, po, 単独のp | パ、ピ、プ、ペ、ポ、プ |
qua, qui, que, quo | クァ、キ、ケ、クォ(qa, qi, qu, qe, qo は使われない) |
ra, ri, ru, re, ro, 単独のr | ラ、リ、ル、レ、ロ、ル |
rra, rri, rru, rre, rro, 語頭のr | ラ、リ、ル、レ、ロ(巻き舌を強調して表現したいときには、ルラ、ルリ、ルル、ルレ、ルロ) |
sa, si, su, se, so, 単独のs | サ、シ(スィ)、ス、セ、ソ、ス |
ta, ti, tu, te, to, 単独のt | タ、ティ(チ)、トゥ(ツ)、テ、ト、ト |
va, vi, vu, ve, vo, 単独のv | バ、ビ、ブ、ベ、ボ、ブ |
wa, wi, wu, we, wo | ワ、ウィ、ウ、ウェ、ウォ(スペイン語以外からの借入語でのみ使われる) |
xa, xi, xu, xe, xo | クサ、クシ、クス、クセ、クソ または サ、シ(スィ)、ス、セ、ソ、ス、語によってはハ、ヒ、フ、ヘ、ホ |
ya, yi, yu, ye, yo, 単独のy | ヤ、イ、ユ、イエ、ヨ 、イ または ジャ、ジ、ジュ、ジェ、ジョ、イ |
za, zi, zu, ze, zo, 単独のz | サ、シ、ス、セ、ソ、ス |
アクセントとアクセント記号
スペイン語のアクセントは、母音とn、sで終わる語は後ろから2番目の音節に、n、s以外の子音で終わる語は最終音節にアクセントが落ちるというのが原則である。
アクセント記号「´」
上記以外の場合にはアクセント記号´がアクセントの置かれる音節母音の上に付加される。そのアクセントがおかれる音節を強く発音すればスペイン語らしく聞こえる。だが、「´」は長音を表すわけではない(スペイン語には長母音、短母音の区別はない)ので日本語表記にした場合、「ー」を入れればいいといいというものではないが、「ー」を入れないで日本語話者が発音した場合、アクセント位置がずれる場合があるので、その場合は「ー」を入れたほうが通じやすくなる。
アクセント記号「¨」
アクセント記号「¨」はアクセント記号というよりつづり上の決まりで、güe、güiの場合のみ使われる。発音はグエ、グイのようになり、「¨」がつかないgueゲguiギとは異なるので、注意が必要である。例:ダニエル・ゴンサレス・グイサ(Daniel González Güiza)
日本語表記の揺れ
アクセントの「ー」
スペイン語には長母音はないが、強勢を置くことで他の音よりわずかに長く発音される場合がある。それと別に、短母音のままでカタカナ表記したものを日本語話者が発音すると、アクセント位置がずれることが多い。長母音にするとおのずとその音が強調され、スペイン語話者に通じやすくなる。ただ、スペイン語では語の区別に意味を持たない伸ばした音を文字にすることになり、日本語話者が聞き取った音とも少々離れる。伸ばす方が新しい表記法で、2004年現在いずれが優勢とも決めがたい。
- 例: Bolívar → ボリバル、ボリーバル
小さなャ
リャ・チャは、それぞれリア・チアと書かれることもある。
- 例: Castilla → カスティーリャ、カスティーリア
ll リャ行とジャ行とヤ行
llの発音には昔からリャとジャの地域差があり、リャ行音が標準とされていた。しかし近年スペイン標準語ではリャと発音されることは殆どなくジャ行が標準である。 。しかし、中南米ではジャ行とリャ行との中間的な発音をする国もあり、またアルゼンチンやウルグアイなどではシャ行の発音をする方言的な地域もある。
- 例: Castilla → カスティージャ
- 例: Sevilla → セビージャ
- 日本での Paella → パエリアや Sevilla → セビリアなどの発音表記は不適切なものの例。
rr
いわゆる巻き舌のrで、「べらんめえ」の「ら」の音である。一般的にはラ行で表記されるが「ルラ」「ルラ」と表記する事もある。rrの前の母音にアクセントがくる場合が多いため、音を伸ばす表記をすることもある。なお、辞書では「ラ・リ・ル・レ・ロ」と表記されている。
- 例: Navarra →ナバラ、ナバーラ、ナバルラ(表記混在。前二者の頻度が非常に近い)
- 例: La Mojarra →ラ=モハーラ、ラ=モハラ(この語の場合、ラ=モハーラでほぼ表記が定着している)
- 例: Torres(人名)→「トーレス」「トレス」「トルレス」(トーレスが一般的であるが、戦国時代に来日したイエズス会宣教師Cosme de Torresの場合は「トーレス」と「トルレス」が混在している。キリシタン、対外交渉史関連の文献では慣用的に後者が優勢。)
y ヤ行とジャ行
llと同様に、yの発音にはヤ行とジャ行の地域差、個人差がある。また語によっては同じ人で使い分ける場合もある。これにより、カタカナで表記するときもヤ行とジャ行の揺らぎがある。現在多くの地域でジャ行音が優勢。
- 例: yo → ヨ、ジョ
二重母音の短縮と展開
二重母音に関連して、スペイン語の5つの母音は強母音 (a, e, o) と弱母音 (i, u) に分かれる。連続した二つの母音が弱母音同士、または強母音と弱母音の組み合わせである場合、一音節の二重母音として短めに発音される。こうした二重母音の一部を、短縮的な形で表記することがある。
- ia 「イア」「ャ」
- 例: Santiago → サンティアゴ、サンチャゴ
- ua 「ウア」「ワ」「ウァ」「ア」
- 例: Guatemala → グアテマラ、グワテマラ、グァテマラ、ガテマラ
- 例: Uaxactun → ワシャクトゥン
- 例: Huari → ワリ
語尾の子音
- d
- 語尾にある子音は、話者の意識では発音されているが、実際にはほとんど消失している。ここを単に省略する書き方がある。また、前の母音にアクセントが置かれ、消失部に間がとられることをもって「ー」で表すこともある。ただし、マドリード首都圏の発音では、語末の「d」を無声の [θ] で発音するので、弱い「ス」に聞こえる。英語の影響を受けると「ド」または「ッド」と記すこともある。慣用的に Madrid は「マドリード」でほぼ定着しているが、「マドリッド」と書かれることもある(→マドリード#名称参照)。
- 例: ciudad → シウダード、シウダー、シウダ、シウダース
- r
- スペイン語で d, j, s 以外の子音語尾ははっきり発音されるので、r は伝統的には「ル」と表記される。ただし、英語化した発音に近い表記として、語尾に r がくる音を「ー」と表記することがある。いずれも正確とはいえず、存在しない母音を補って一音節とみなすか、子音の発音の間を長母音とみなすかという違いである。
- 例: Bolívar → ボリバル、ボリバー
v バ行とヴァ行
スペイン語では、v と b を区別せず、ともに日本語のバ行に近い。これを英語の影響によりヴァ行で表記することがあるが、基本的には誤りである。例えば、テレビ番組におけるサッカー中継などで、Sevillaを「セヴィージャ」と英語発音とスペイン語発音が混ざって表記されることがある。
- 例: Veracruz → ベラクルス、ヴェラクルス(この語の場合、「ベラクルス」で表記がほぼ定着しているが、まれに意識して「ヴェラクルス」と表記する人もいる。表記が定着していない語については、まちまちである。)
tiとtu
ti、tuは現在では「ティ」「トゥ」と表記されることが多いが、古くから日本語に入っている語では「チ」「ツ」と表記されることもある。
- 例: Titicaca → ティティカカ、チチカカ(この語はチチカカの方が優勢。)
単語区切りのスペースとハイフン
スペイン語の姓には、複数の単語を一まとめにしたものや、二つの単語をハイフン「-」で連結したものがある。これを「・」「=」「-」などで区切る表記法と、区切らず続け書きする表記法がある。特に"de la","del"は「~出身の」という意味を持つので名字によく使われるが、単音節でアクセントが置かれることが無いので区切らずに続け書きする方が優勢である。 地名も同様である。
英語的慣用表記
英語の発音から来て慣用として定着している地名も多い。そうした慣用語を、スペイン語的に表記する試みもある。以下の列挙で、かっこ()内で表すものが、スペイン語的表記の例である。
- 言い換えの試みがあるもの
- メキシコ(メヒコ)、メキシコシティ(シウダ・デ・メヒコ)、キューバ(クーバ)
- 言い換えの試みがないもの
- スペイン(エスパーニャ)、ベネズエラ(ベネスエラ)、アルゼンチン(アルヘンティーナ)、チリ(チレ)
- 使い分けが見られるもの
- サン・ホセとサンノゼ
参考文献
- 宮城昇、山田善郎監修 『現代スペイン語辞典』改訂版 白水社、1999年1月 ISBN 978-4-560-00046-5