レンチ

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レンチwrench) とは、ボルトナットなどを回すことによって、締め付けて固定したり緩めて外す作業(締緩作業)を行うための工具の総称。ねじる、ひねるといった意味を持つ。イギリス英語ではスパナspanner) と呼ぶが、日本では、先端が開放されたものをスパナ、それ以外をレンチと呼んで区別されることが多い。モンキーレンチは開放型であるがスパナとは呼ばれない。

ボルトはサイズによって適正な締め付けトルクがあるので、レンチもサイズによって適正な長さになるよう調整されている。きつく締まっている・固着しているボルトを緩める際に、レンチにパイプを被せて長さを延長することがあるが、ボルトに過度な力が加わり破損の原因となる。特に、締付けの際には過度な締付けトルクとなる。

歴史

レンチ(スパナ)の歴史は長い。ローマ人は、多くの構築物をローマに建設するために、レンチを使用した。実際、現在も残っている構造物の多くに、それらの原型の締め具(ボルト・ナット)が使用されている。その頃は、各々のボルトとナットはねじ合わせの為、一対の組み合わされた状態で製造された。そして、ボルトナットは、使用されるレンチの口幅に合うように製造されていた。

産業革命まで、鍛冶屋は個々に自分の造ったレンチに合う締め具を製造していたので、人々は、他の店には行かないで、いつも同じ店でレンチと組み合わされた締め具を買っていた。または、鍛冶屋からレンチを借りるか、鍛冶屋に必要とするどんな締め具でも製造させた。レンチの最も初期の形状は錬鉄で造られ、ハンドルは、まっすぐかある角度付きかS型だった。

1770年ごろに、大量のねじを製造できる最初の旋盤が発明された。この機械による生産の結果、締め具の寸法が標準化されることになった。締め具が同じ寸法になったので、その後レンチの口幅寸法も標準化された。そして、標準化によりレンチは鋳鉄製になり、1800年代ごろにはレンチは一般に使用されるようになった。

最近ではレンチのほとんどは、鋳造品より強度があるハンマー鍛造製となっている[1]

種類

スパナ(あるいはオープンエンドレンチ)
レンチの先端が開放されており、横方向からレンチを挿入できるのが特徴。ボルトヘッド(あるいはナット、以下ボルトと略す)側面の二ヶ所にのみ力が集中するので、強い力で締めるとボルトヘッドを傷めることがある。主として仮締めに利用する。
ボルトを痛めやすいため、自動車整備においては後述する「めがねレンチ」のほうが適している場合が多い。
各種設備工事にスパナは現在でも必要不可欠な工具である。例として、ビルや工場など、ある程度規模以上の建設現場における設備工事や二重天井工事などでは、天井から吊られた「全ネジ」と呼ばれるヘッド(頭部)がないボルトにナットを2つ利用して上下から挟み込むようにして対象物を固定するという施工方法が多用されるが、この時、上部のナット締めにめがねレンチやラチェットレンチを利用するとその工具が抜けなくなってしまうので、スパナで上部のナットが回らないように保持しながら下部のナットをラチェットレンチなどを利用して締めなければならない。
自動車や一般機械の整備というと一般の人が真っ先に思いつくのが両口スパナであるため、これらの整備に関わる様々な挿し絵やサイン (標識) には最もよく登場する工具である。
JIS B4630規格では、スパナ(Open ended spanners)は頭部形状により「やり形」と「丸形」があり、その頭部は握り部に対して15度の角度が付いている。また「片口」と「両口」がある。呼びは、二面幅寸法で表し握り部の頭部付近に表示されている。
但し、古い規格では、スパナはねじの呼びで表示されていた。またインチねじ(ウイットねじ)の規格もあり、M17のスパナは呼び17ミリメートルのボルト(ナット)の二面幅に合う寸法であり、W3/8のスパナは呼び3/8インチのウイットねじのボルト(ナット)の二面幅に合う寸法に合うものであった。現在も新旧両方の表示方法のスパナが混在しており、現場で混乱する場合がある。そのうえ、六角ボルトナットには小形ボルト、ナットの規格もある。現場では、まだ旧JIS規格のものも使用されており、特にメンテナンスにおいては旧規格品が必要になる場合がある。なお、新JISでは二面幅の寸法と、それに適応するボルト・ナットの呼びを表示してもよい事になっている。例えば、表に19(二面幅)裏にM12(ねじの呼び)の表示である。
やり形メッキ仕上げ品は、自動車と供に海外より国内に入ってきており、狭いエンジンルーム等で使いやすい様に頭部を小さくした物であり、綺麗な自動車を扱うのには油等を常にふき取って使用するようにメッキ仕上げとなっていた。同じメッキ仕上げでも、アメリカでは鏡面仕上げが好まれ、ヨーロッパでは滑りにくい梨地仕上げのスパナが多い。それに対して丸形黒染め(四三酸化鉄被膜)品は、輸入した工場機械の付属工具として国内に知られる様になり、スペースが比較的広く使える事より丸形となっており、当時油にまみれた工場での使用という事で黒染め仕上げとなった。丸形はJIS普通級と強力級が規定されているが、市場では強力級(表示はH)が販売されている。形状で解る様に丸形スパナのJIS強度試験荷重の方がやり形スパナ(表示はS)よりも大きい。その他に、特殊なスパナとして「タペットスパナ」「イグニッションスパナ」、ハンマーで柄の部分を打つ「打撃スパナ」、ラチェット送りの出来る「クイックスパナ」等がある[2]
めがねレンチ(あるいはオフセットレンチ、ボックスエンドレンチ、ボックススパナ)
ハンドル両端に円形の口部(ボルトヘッドにはめる輪型の部分)のあるものをめがねレンチと呼ぶ。ハンドルの一方だけに口部のあるものも多い。ボルトの上方向からしかレンチを挿入できない。多くは使いやすいようにハンドルに対し口部に角度(オフセット)がつけられている。ボルト側面の6ヶ所に力が加わるので、ボルトヘッドの痛みが少なく強い力で締めることができる。レンチの振り幅が限られた場所に適する12ポイントと、大きなトルクをかけるのに適する6ポイントがある。
フレアナットレンチ
6面を持つメガネレンチから、1面だけを取り去って5面でボルト・ナットを保持するC形の先端を持つレンチ。メガネレンチの特殊型とも考えられる。主に自動車のブレーキパイプ固定用のフレアナットを回すときに使用する。環状のメガネレンチはパイプが邪魔になって通せないが、フレアナットレンチは環の欠落している部分でパイプを通過することができ、2面のみのスパナよりも確実に保持できるため、ボルト・ナットをなめにくい。
ラチェットレンチ
右または左の一定方向もしくは両方向締め付けられるラチェット機構を取り入れたレンチ。小さい回転角度で取り付け、取り外しができる。高級品では、ハンドルをほとんど振れないような狭い場所でも作業が出来るよう、この回転角度をいかに小さく出来るかがメーカー相互の競争になっている。
コンビネーションレンチ
レンチの両端に同一サイズのめがねレンチとスパナが付いているもの。仮締めと本締めが一本のレンチで使い分けできる。15度のアングル角度を付けた現在のコンビネーションレンチを最初に開発したのは、1933年にプロムツールPLOMB Tools(現在のプロトPROTO)である。但し、スパナとめがねの組合せレンチは1800年代からある[3][4]。以前はその形状から片目片口レンチと呼ばれていたが、障害者への配慮から現在この呼称は使われていない。
モンキーレンチ(あるいはアジャスタブルレンチ)
レンチの二面幅(ボルトヘッドをつかむ部分の幅)をスクリューギアによって自由に変えられるレンチ。便利ではあるが、ギア機構を用いている為に、どうしても口部が完全に固定されずガタつきが発生し、そのためボルトを傷めやすいので簡易的な利用に限られる。また掴む部分に比して頭部のサイズが大きくなるので狭いところでは使いにくい。口部にロック機構が存在するものもある。
ソケットレンチ
ソケットとハンドルが分離しており色々な使用状態に合わせて、適合サイズのソケットを現場に合った各種ハンドルに取り付けて作業することが出来る。スナップオン創業者のジョセフ・ジョンソン(Joseph Johnson)が1920年に開発した[5]
ボックスレンチ
ボルトヘッドを完全に包み込んで保持する円筒状のボックス(ソケット)に柄がついたタイプのレンチ、柄の形状によってL型ボックスレンチ、T型ボックスレンチと区別される。ボックスの口形状はめがねレンチ同様、6角口(12角口)がある。T型ボックスレンチはボルト軸と完全に一致した方向にトルクをかける事ができる為、高いトルクをかけるのに最も適するレンチとされる。また、軸に片手を沿え、ハンドル部を回すことで早回しすることができる。
トルクレンチ
ボルトの締付けが弱いと機器の利用中にボルトが緩んで外れる危険がある。逆に強すぎると機器やボルトが破損する場合がある。このため、機器の組み立てにはボルトの適正締付けトルクが指定されている場合が多い。トルクレンチは、締付けトルクを指定してボルトを締め付ける為の工具である。
六角棒スパナ
六角棒がL型になったレンチで、アーレンキー、ヘキサゴンレンチ、ヘックスレンチ、六角レンチともいう。六角穴付ボルト(キャップボルト)や六角穴付止めネジ(イモネジ)などの六角形の穴に差し込み、締めたり緩めたりするのに使用する。
パイプレンチ
パイプを挟んだり、回したりするための専用レンチ。
水栓レンチ
水栓の取り付け・取り外しに使用される特殊なレンチ。主に水道の蛇口(横水栓)を交換する際に使用される。
形状はU字型のフックの片方が延長されており、栓に引っかけてから回す。
チェーンレンチ
チェーンを対象物に巻き付けて使用するレンチ。太物パイプや変形物を確実につかみ、狭い場所での使用に適する。
ストラップレンチ(ベルトレンチ)
ストラップレンチ(Strap Wrench)はチェーンレンチと類似しているが、チェーンの代わりに丈夫な繊維織物のバンドを使用している。このレンチは、表面を傷つけたくないパイプ内燃機関シリンダーを回すために使われる。レンチの使い方は、繊維織物のバントをシリンダーのまわりに巻きレンチの金属製本体のスロットに通す。そしてバンドをきつく引き上げ、レンチを回すとバンドはシリンダーのまわりでさらに張る事になる。この締め付ける操作が、シリンダーを掴んで回す事になる。力を抜くとバンドが自然に緩むので、位置を変えて一連の操作を繰り返して行う[6]
フックレンチ
ファイル:Spanner wrenches various kinds from Colvin and Stanley 1910 p64.png
各種フックレンチ(上からフックスパナ・ピンスパナ・フェイスピンスパナ)
フックレンチまたはフックスパナ、引掛スパナとも呼ばれる。英語名は、SPANNER WRENCHESと表記する。用途に合わせて色々な種類がある。工作機械オートバイ自転車などに使われる多くの特殊なナットは、ノッチを外周に切って作られる。これらナットのためにフックレンチ(HOOK SPANNER)は、必要とされる。このレンチは、先端に突起のフックと曲がったアームを備えている。この突起はナットのノッチの1つに適合する、そして指定された一方向にハンドルを回してナットをゆるめるか締める。レンチは刻み溝をつけられたナットの特定のサイズ用に製造されるタイプか、またはアームを一定のサイズの範囲に合わせることが出来る調節腕を持ったタイプがある。これらは、アジャスタブルフックレンチ(ADJUSTABLE HOOK SPANNER)、または自在フックレンチと呼ばれる。もう一種類のレンチは、ピンタイプ(PIN SPANNER)である。ピンタイプは、フックの代わりにピンを備えている。このピンは、ナットの外周部分の穴に嵌まる。そしてピンがナットに直面して穴に嵌まるように設計されているレンチをフェイスピンタイプ(FACE PIN SPANNER)という。レンチが外れるとナットを損傷したり事故になるので、フックレンチを使うときは回転力がレンチからナットへ伝わる間、突起のフックまたはピンが安定してナットと接触していることを常に確認する必要がある[7]
ペダルレンチ
自転車専用のレンチ。ペダルの取り付け・取り外しに使用される。ペダルとクランクの間は狭いため、レンチ全体が薄い板状になっている。
ロケットレンチ
機械的な力ではなく火薬の燃焼による推進力を使って緩める装置。小型ロケットが互い違いにセットされた台座を緩める対象に取り付けて点火することで、ごく短時間で緩めることが出来る。
主に不発弾の錆びた信管を外すのに使われており(信管が衝撃を受けると爆発につながる)、陸上自衛隊の不発弾処理隊でも採用されている。

脚注

  1. THOMAS DUTTON 『THE HAND TOOLS MANUAL』p83、2007年発行、TSTC Publishing ISBN 978-1-934302-36-1
  2. 技能士の友編集部『作業工具のツカイカタ』2002年8月25日13版発行。株式会社大河出版。『工具の達人』2007年1月27日 株式会社 講談社 三推社 発行。
  3. 『工具の本2010』(株)学研パブリッシング発行、40頁、ISBN978-4-05-605821-5
  4. Alloy Artifacts Exploring Ingenuity in Iron Combination Wrenches 2012-10-31
  5. 宮崎 務『工具&ガレージライフ』62.63頁、2011年7月5日発行、笠倉出版社。
  6. TOOLS AND THEIR USES, NEW YORK : DOVER PUBLICATIONS, INC., p.12. ISBN-13: 978-0-486-22022-2
  7. TOOLS AND THEIR USES, NEW YORK : DOVER PUBLICATIONS, INC., p.13. ISBN-13: 978-0-486-22022-2

参考文献

  • 『作業工具のツカイカタ』2002年8月25日13版発行。株式会社大河出版。
  • 『工具の達人』2007年1月27日発行。株式会社講談社三推社

関連項目

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