ザトウクジラ
テンプレート:生物分類表 ザトウクジラ(座頭鯨・学名Megaptera novaeangliae )はクジラ目ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ科に属するヒゲクジラの一種。
形態
標準的な個体では体長11 - 16m、体重30tほどの中型だが、とくに南半球の大きなものは19m、胸ビレの長さ6m、40tと、大型種に匹敵する体躯に達する事がある。全長の3分の1に達する長く大きな胸ビレと上下の顎にあるフジツボに覆われた瘤状の隆起が特徴の一つで、他のナガスクジラ科のクジラとは外見がずいぶん異なる。吻端から噴気孔にかけては僅かな隆起線が存在する。背びれは低い三角形、また尾びれにかけて低い隆起が存在する。喉の畝は12 - 36本で、幅広い[1]。背面は黒 - 青黒で、腹部に白い斑。胸びれの先端も白くなる。鯨髭は黒であるが、時折白い個体も存在する[2][3][4]。25km/hで泳ぐ。身長が小さい時期は5分、身長が大きくなれば45分息を止めて泳ぐ事ができる。
和名の由来はその姿(背ビレと背中の瘤等)が琵琶を担いだ座頭に似ているためと言われる。英語では背中の瘤からhumpback whale(せむしの鯨)と呼ばれる。学名のMegapteraは『大きな(=Mega)翼(=Ptera)』という意味で、これは巨大な胸ビレから命名されている。
生態
ザトウクジラは地域毎に集団を形成している。集団でまとまって移動し、集団間では交流がほとんどない。 北半球にも南半球にも存在する。夏は極の近くで主に捕食をし、冬は赤道迄は行かないが(北半球ならハワイや沖縄・小笠原あたりの)温かい海域迄移動し出産・繁殖・子育てをし、また春になるに連れ極の方に移動するという回遊生活を送っている。
ザトウクジラはブリーチングとよばれる大きなジャンプをする。何故ブリーチングをするか判っていない。寄生虫を落とす為、子供をシャチから守る威嚇の為、コミュニケーションの手段、単に楽しんでいるなど様々な説がある。
繁殖の時期は、オスによるメスの獲得権争い・テリトリー争いの為行動が激しくなる。メイティングと呼ばれている。上述のブリーチングもオスが自分をアピールする為多く見られる。オス同士を煽ってメスが行う事もある。(子供も生きていく上で必要な技術なので母親が見せ子供も練習する。その他、ペックスラップ(胸鰭で水面を打つ)、テールスラップ(尾鰭で水面を打つ)、ヘッドスラップ(頭で水面を打つ)、ペダングルスラップ(尾鰭の横飛び上げ)、スパイホップ(水中から頭を出し水上の状況を観る)など様々な行動をする。
餌はオキアミ、ニシン、サバ、カラフトシシャモ (capelin) などだが、餌を取る時に「バブルネットフィーディング」という行動をとる。数頭のザトウクジラが餌である魚の群れの周りを円を描くようにまわりながら泡を吐き出す。魚達は泡に取り囲まれ逃げることが出来ず中心に集まってしまう。ザトウクジラたちは小魚の群れの真下に集まり口を大きく開け猛烈な勢いで突進浮上し、獲物を一気に呑みこんでしまう。この気泡の網は、海面上では円形や弓形を描く[2]。このバブルネットフィーディングでは、数頭のザトウクジラがタイミングを合わせて協調的に行動しなければ効果がない。ここでも鳴音が号令の如く巧みに利用されるが、鳴音の特徴や構造などは求愛の歌とは全く異なり、非常にシンプルなものである。攻撃的な個体は、長い胸びれで獲物を叩き殺す事もあるという[4]。
なお、オキアミが対象であるときは刺激を与えると密集する習性を利用し、尾びれでオキアミの水面上に水をかけ、集まったところを捕食する。
また人間の指紋のように個体を識別できる部分が数箇所あるが、一番解りやすいのが尾鰭の内側の模様。ハワイでの研究がかなり進んでいるらしいが、どうやらハワイに回遊して来ているクジラはアラスカの方のクジラで、その同じ個体が沖縄で発見された事例はまだ無いようだ。
ザトウクジラは歌を歌うクジラとしても知られている。他のクジラも求愛などの際に声を出すことはあるがザトウクジラの歌は他のクジラと全く異なる。歌は1曲数分から30分以上続くが、何曲も繰り返して歌う。最長で20時間程の繰り返しが観測されている。歌の構造はよく研究されており、「歌」はいくつかの「旋律」の組み合わせから成り、ひとつの旋律は「句」の繰り返しであり、ひとつの句はいくつかの単位を並べたものからなる。このため、ザトウクジラの歌は、人類以外の動物による階層構造の利用の例として議論になっている。歌は地域毎にみると、同時期のものはクジラ毎の差異はわずかでしかないが、時とともにどんどんと変化してゆく。また、繁殖する地域によって歌い方にも特徴があり、他の地域のザトウクジラには歌が通じない。なお、この歌はボイジャー1号、2号に積み込まれた地球外知的生命体宛てのレコードにも録音されている。
分布
南極周辺のザトウクジラに関しては、IWCによる調査に加え、日本による調査捕鯨が行われている南氷洋の東経35度-西経145度の区域で調査捕鯨に付随して目視調査が行われている。この区域には東経70-130度の区域(IV区)を中心とするD系群と東経130度-西経170度の区域(V区)を中心とするE系群の2つの系群が確認されている。
尚、前述の回遊する習性から、南極周辺のザトウクジラは繁殖時期には赤道近くのオーストラリアなどへ移動している。
南極周辺のザトウクジラはかつては10万頭生息していたが、保護された時期には3000頭に減少したとされる[5]。
2005年に日本で行われた調査捕鯨検証会議ではザトウクジラの生息数はIII-E区では2002-2003年の時点で7889頭(CV=0.10)、IV区では2003-2004年の時点で31750頭(CV=0.11)、V区では2002-2003年の時点で2735頭(CV=0.16)で、VI-W区では1551頭(CV=0.24)で、1989-1990年からのIV区、V区の年間増加率はそれぞれ16.2% (CV=0.20)、6.4% (CV=0.71)、特にIV区では優先種の交代(バイオマスの上でミンククジラを上回る)および繁殖域の南東への拡大が見られたと報告された[6]。
同会議の別の報告によれば、調査捕鯨の際に行われた目視調査の結果やIWCによる調査結果、商業捕鯨時代のデータなどを総合したところ、D系群は早ければ10年後に、E系群は早ければ15-20年後に初期資源量まで回復すると予測された[7]。
調査捕鯨
日本鯨類研究所は第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPA-II)計画において第三期(2007-2008年)以降、年間50頭のザトウクジラを捕獲する計画を立てていた[8]。しかしこの計画は国際的な非難を招き、特にオーストラリア政府は国益保護の為に国を挙げて反捕鯨のPR活動を行い、捕鯨船監視の為に、軍隊の出動を検討した為。日本政府は2007年12月21日にザトウクジラの捕獲を取りやめると発表した。
政府レベルでの反捕鯨活動を行ったオーストラリアは南極海から回遊してくる本種のホエール・ウォッチングで年間で約150万人の観光客を集め、2億2500万ドル(約265億円)の経済効果を上げており[9]、また、絶滅の恐れのあるクジラとして、他4種とともに、個体数回復計画が実行されている[10]。
分類
レトロポゾンを用いた分子系統解析の結果、ナガスクジラはナガスクジラ属の他の種よりもザトウクジラと近縁である事が判明した。しかし、他のナガスクジラ属やコククジラとの分岐順序は未確定である[11]。
ザトウクジラに関連する作品
- 銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ(著者:大原まり子)
ザトウクジラの歌に着想を得て書かれたSFファンタジー。 - さよならジュピター(小説、映画)
木星大気圏を漂う謎の宇宙船「ジュピターゴースト」の音声通信電波としてザトウクジラの「歌」が使われている。これは、太古に太陽系を訪れた宇宙人が当時の地球でもっとも知性があるとみなし、メッセージを託したのがクジラであり、それゆえザトウクジラの歌は「ジュピターゴースト」の音声メッセージと一致するという裏設定があったからである。 - スタートレックIV 故郷への長い道(映画)
スタートレックシリーズの作品のひとつで、劇場用映画版の第4作目に当たる。地球に謎の宇宙船が接近し、強大な電磁波で甚大な被害を与えていた。スタートレックのいつものクルーが解析した結果、その宇宙船は古くよりザトウクジラと交信をしていた宇宙人の探査船であることが判明する。ザトウクジラからの通信が途絶したことから、心配してやってきたのだ。そのザトウクジラは、21世紀半ばに絶滅していた・・・・。スタートレックのクルーは、宇宙船バウンティ号で20世紀の地球にタイムトラベルを敢行し、ザトウクジラを連れ帰ることで、地球の危機を救おうとする。 - お母さん鯨がアザラシの赤ちゃんに捧げる子守唄 Lullaby from the Great Mother Whale for the Baby Seal Pups
アメリカのソプラノサックスプレイヤー、ポール・ウィンター Paul Winter が発表したザトウクジラの歌をモチーフとした作品。録音されたザトウクジラの歌がミキシングされている。この作品は、日本でもポール・ウィンター自身が出演した「クジラとセッションをする男」という第一製薬のCMで使われてもいる。
脚注
参考文献
関連項目
- オーストラリア-主に本種の調査捕鯨に反対している国-テンプレート:Cite web
テンプレート:Link GA テンプレート:Link GA テンプレート:Link GA テンプレート:Link GA
テンプレート:Link GA- ↑ 『クジラとイルカの図鑑』 76頁
- ↑ 2.0 2.1 『クジラとイルカの図鑑』 79頁
- ↑ 『鯨類学』 図鑑/世界の鯨類12
- ↑ 4.0 4.1 『世界哺乳類図鑑』 214頁
- ↑ 村山司、笠松不二男『ここまでわかったクジラとイルカ』(講談社、1996)ISBN 4062571080 158頁
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 日本鯨類研究所、第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)の第一次調査の出港について, および 日本鯨類研究所、第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)の第三次調査の出港について を参照。
- ↑ オーストラリア政府、YouTubeで日本の子どもに反捕鯨キャンペーン
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite journal