サイフォン
サイフォン(siphon、ギリシア語で「チューブ、管」の意味)とは、隙間のない管を利用して、液体をある地点から目的地まで、途中出発地点より高い地点を通って導く装置であり、このメカニズムをサイフォンの原理と呼ぶ。テンプレート:要出典範囲
仕組み
何らかの液体を、高い位置にある出発地点と低い位置にある目的地点を管でつないで流す際、管内が液体で満たされていれば、管の途中に出発地点より高い地点があってもポンプでくみ上げることなく流れ続ける。この仕組みは液体を鎖に模して、鎖が出発地点より高い位置にある滑車を経由してもう一方へと移動するモデル[1]によっても説明される。
管内が液体で満たされているときには管内の静圧についてパスカルの原理を用いて考えると、出発地点(タンクの水面)における静圧は目的地点における静圧よりも液柱の高さの差分にかかる重力分だけ高くなり、この圧力差を駆動力として液体は目的地点へと流れる。[2]
途中、どれくらい高い地点を通ることができるかは大気圧、蒸気圧および液体の比重による。最高地点において液体の圧力が蒸気圧より低くなった場合は液体は気化し(キャビテーション)、比重がほぼ0になり重力による圧力差が急減することから、液体が気化した時点でサイフォンは停止する。したがって、サイフォンが成立できる最大の高さは、液体の密度と出発地点の圧力によって決定される。1気圧下において、水ならば出発地点から最高約10 mの高さを通るサイフォンを作ることができ、水銀の場合は約76 cmのサイフォンが作成可能である。
利用例
サイフォンを構成する管に特別な細工は必要ないが、管を液体で満たすまでにポンプが必要になる。管の大半に最初から液体が充填されていれば、管の出口を塞ぎ、気密を保ったまま元の液面より低くすれば、始動にポンプは必要ない。
身近な利用例として灯油ポンプが挙げられる。例えばポリタンクから暖房器具のタンクへ灯油を移すとき、ポリタンクの液面が暖房器具のタンクの液面より高い位置に置いて、始めにポンプを数回操作して管を灯油で満たせばサイフォンの原理によって灯油は流れ続ける。
大規模なサイフォンは、局地的な水道設備や工業においても用いられる。このような規模のものでは、取水口と排水口、最高地点とにおいてバルブによる制御が必要になる。この場合、取水口と排水口のバルブを閉め、最高地点から液体を流し込むことでサイフォンを始動させる。取水口と排水口とが水面下にある場合には、最高地点でポンプを動かして始動させることもある。また、取水口と排水口との両方でポンプを動かして始動させる場合もある。大規模なサイフォンにおいては液体中に気体が混入していると、液体は最高地点に進むに連れて圧力が低下し、混入した気体が気化して流れを分断する場合がある。あるいは、温度が高い場合も液体が蒸発しやすくなり、蒸気が最高地点に溜まると流れが止まる。大規模なサイフォンでは、最高地点では気体を集めて排出する空気室が設けられる。
誤った説明
2010年、オーストラリア・クイーンズランド大学の物理学者、スティーブン・ヒューズが辞書など社会で一般に説明されているサイフォンの原理は誤りであると指摘した[3]。サイフォンの原理の説明の多くは大気圧の力によるとされているが、ヒューズは、正しくは重力によると指摘している。ヒューズがこの事に気付くきっかけとなったオックスフォード英語辞典は1911年から大気圧によるものであるとしており、次の版でヒューズの指摘を反映するという[3]。
注釈
関連項目
理論
- ベルヌーイの定理 - サイフォンの挙動を定義する定理。
- 水理学
- オイラー方程式 (流体力学)
- トリチェリの定理
現象
- クロスコネクション - 間接クロスコネクションに記述あり
- ベンチュリ効果
- en:Choked flow
- 草間の間歇冷泉 - 自然界でみられるサイフォン。
装置
- ヘロンの噴水
- コーヒーサイフォン - コーヒーを淹れる器具。
- 水洗式便所 - サイフォンを用いて汚物を排出する便器についての記述あり。
- 通潤橋(熊本県山都町) - 1854年に完成した日本一の水道橋。逆サイフォン橋。
- 御坂サイフォン橋 - 逆サイフォン式(U字形)送水路
- 馬頭サイフォン
- オリフィス板
- ブンゼンバーナー
- ピトー管
- インジェクタ
- アスピレーター
- 流体素子
- 便器
- 辰巳用水 - 逆サイフォン(伏越の理)