ア・バオ・ア・クゥー
ア・バオ・ア・クゥー(A Bao A Qu)とは、チトールにある「勝利の塔」に棲むと伝えられる幻獣である。
ホルヘ・ルイス・ボルヘスが、彼が見聞した伝承をまとめた『幻獣辞典』にて言及している[1]。ボルヘスはこの伝承について、バートン卿が英語へ翻訳した『アラビアン・ナイト』(『千夜一夜物語』)に加えた注で触れている、としている。
概要
以下は、『幻獣辞典』から、うかがわれるア・バオ・ア・クゥーの伝承である。
「勝利の塔」には、屋上のテラスへ通じる螺旋階段がある。この塔の最下層には、ア・バオ・ア・クゥーが眠っており、螺旋階段を上り始める者が現れると目を覚ます。人間の影に敏感なア・バオ・ア・クゥーはその人間のかかとを捕らえて、螺旋階段の外側をその者に付き添って登っていく。透明であった、その姿は一段上るごとに色と輝きを増していき、最上段まで登ったとき、ア・バオ・ア・クゥーは完全な姿を現す。
しかし「勝利の塔」を登り切った人間は涅槃に達することができると言われており、そうなれば、その者はいかなる影も落とすことはない。つまり、ア・バオ・ア・クゥーはその人間を捉えて最上段へ上ることはできない。
完全な姿になれなかったア・バオ・ア・クゥーは苦痛にさいなまれ、色も輝きも身体も衰えていく。まして、上っていた人間が踵を返して下り始めれば、ア・バオ・ア・クゥーはたちまち最下層まで転がり落ちて倒れ伏してしまう。
かくしてア・バオ・ア・クゥーは、「勝利の塔」の最下層で訪問者を待ち続けているのである。これまでに、ア・バオ・ア・クゥーが最上段まで上りきったことは一度しかないと言われている。
『幻獣辞典』では、ア・バオ・ア・クゥーの特性として、身体全体でものを見ることができる、触れると桃の皮のような手触りをした皮膚を持つ、と伝えている。
伝承の舞台
「勝利の塔」があるとされるチトールの所在については、諸説ある。
- 柳瀬尚紀は、幻獣辞典の日本語訳に添えた訳注で、インドのラジャスターン州ウダイプル郡チトール(英:Chittor)にある、ジャイナ教の15世紀の建造物「勝利の塔(英:Tower of Victory)」を挙げている。この地は、古代ラジュプート族の要塞の地であった[2]という。
- バートン卿による『アラビアン・ナイト・エンターテインメント』の訳注では「中国のチトールにある」とされている[3]という。
- マレーの伝説に基づいているとの説もあるテンプレート:要出典。
参考文献
脚注
テンプレート:Reflist- ↑ ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ『幻獣辞典』柳瀬尚紀訳、晶文社〈晶文社クラシックス〉、1998年、17-18頁
- ↑ ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ『幻獣辞典』柳瀬尚紀訳、晶文社〈晶文社クラシックス〉、1998年の訳註による。
- ↑ リチャード・フランシス・バートン卿,『アラビアン・ナイト・エンターテインメント』の訳注より,ロンドン,1885-88年テンプレート:要検証
- ↑ 原書は1967年のスペイン語版である。