血液サラサラ
血液サラサラ(けつえきサラサラ)、あるいはサラサラ血液とは、
- 血液の流動性が高いような状態を指すための表現のこと。(高脂血症ではないような状態、という概念を一般の人にわかりやすく伝えるための表現)
- 同じく血液の流動性が高いような状態を指すための表現で、その中でも特に、人工の毛細血管モデルを通過しやすい血液の状態という概念をわかりやすく伝えるための表現のこと。
- (上記の概念や表現を悪徳業者が悪用したもので)物品やサービスを高く売りつけるために、インチキな検査法と組み合わせて用いられた、不適切な概念やキャッチコピーの類のこと。
「血液サラサラ」や「サラサラ血液」という表現は、2000年ごろからメディアに頻繁に登場するようになった。 流行の火付け役は、1999年に放映されたNHKの「ためしてガッテン」とされる[1]。以降、ためしてガッテンで継続的に取り上げられるようになり、血液サラサラに関連した料理本が頻繁に出版されている。
なお、ワーファリンなどの抗凝固薬を「血液をサラサラにする薬」と表現する医師や薬剤師は少なくないが、この項で解説する「血液サラサラ」とは意味合いがかなり異っている。血栓を予防するために使用される抗凝固薬は、血液の非細胞成分である凝固因子に作用するが[2]、この項で解説する「血液サラサラ」は赤血球、白血球、および血小板の物性について、すなわち血液の細胞成分の物性についての議論だからである。
目次
語源
1984年に『働き盛りの血液がサラサラになる』[3]という本が出版されている。
1990年にも『血液サラサラ-突然死・過労死これで防げるあなたを心臓病から守る本』[4]というそのままのタイトルの本が出版されている。
ここでは血中の中性脂肪などの多い高脂血症のような状態になっていない血液の状態を想像できるとして用いられている。
1994年ごろ、実際に血液の流れを見た上で血液の流動性の様子を、「血液サラサラ」「ドロドロ」と呼んだのは、菊池佑二と栗原毅で、ある著書で述べている[5]。
毛細血管モデルの観測
人工の毛細血管に流れる血液を観察する「MC-FAN(エムシー・ファン)[注 1][注 2]」という観測機器を使って、毛細血管モデルに流れる血液をマイクロメートル単位で見ることができる。
菊池は、赤血球の変形能を研究しており、また「MC-FAN」の開発者で[6]、栗原毅は「MC-FAN」を臨床に応用している医師である[注 3]。
毛細血管モデルを円滑に流れる血液を「サラサラ血液」、円滑に流れない血液を「ドロドロ血液」と呼んだ[6][7]。
毛細血管モデルを通過しにくくなる原因
「ドロドロ血液」では血液の成分に、以下の3つの変化が起こっているという。
- 赤血球の変形能の低下 赤血球は、毛細血管モデルを変形して通っていくため。
- 血小板の凝集能の高まり 血小板が集まってかたまりになると毛細血管モデルをふさいでしまう。
- 白血球の粘着能の高まり 白血球がくっつきやすくなっていると毛細血管モデルを通過しにくい。
これら3つの変化が必ずしも同時に起こるわけではなく、別々に起きることが多いという。
この観測では、実際には毛細血管モデルを流れていく血液の成分の「赤血球が形を変える能力(変形能)」[8]、「白血球の粘着能」、「血小板の凝集能」を観察する。
血液を検査するためには採血して体外に血液を出す必要がある。体外に出た血液は赤血球が凝集し固まるが、菊池はこの凝集はドロドロ血液には関係がないと述べている[9][10]。
「ドロドロ血液」の状態は、肉を多く食べる人や[6]、糖尿病や高脂血症など生活習慣病の場合に特徴的である[7]という。 栗原は成人医学センターでの観測をもとに、血液検査で中性脂肪の数値が悪い人や、肥満や糖尿病の人がドロドロ血液になっていると述べている[11]。また、脂肪肝では全員がドロドロであると述べている[12]。菊池は検査した10%ぐらいの人がドロドロであったと述べている[13]。
ドロドロ血液になる原因
- 赤血球 赤血球の膜が堅くなる食事が原因の一つ。動物性脂肪に多い飽和脂肪酸は膜を堅くし[14]、逆に魚に多いω-3脂肪酸は膜を柔らかくする[15]。この場合、膜が堅いために赤血球の形が丸ではなく変形していることもある[11][14]。栗原は、糖尿病で血糖値が高い場合、赤血球がくっついているが、血糖値が下がればくっつかずに流れるようになると述べている[16]。
- 血小板 血圧が高くなると、血小板の凝集性が高まる。また血中の中性脂肪が多いためレムナントが増え、赤血球の膜が破れアデノシン二リン酸が放出されることでも凝集性が高まる[17]。
- 白血球 タバコや過労やストレスによって粘着性が高まる[7]。白血球の粘着性が高まるのは活性酵素が発生し、白血球がダメージを受けるためである[18]。
有用性
毛細血管モデルの機器による観測は、糖尿病や高脂血症など生活習慣病の患者において、自分の血液を目に見える形で示せるので患者教育の際に説得力がある。
菊池は、MC-FANを用いた研究を行っている日本ヘモレオロジー学会でも臨床に役立つかは意見の一致が得られてはいないと説明している[9]。
これは、以下の2つの理由から当然ともいえる。
- この検査が始まった時期が2001年と最近であるためにデータ数が少ない。
- この分野に手をつけている研究者が少ない。
この赤血球の変形能の観測と体内にある血液中成分の流動性の程度の関係や、血栓症などの疾患の関係も医学的には証明されてはいない。
血液流動性の研究家
菊池佑二は、理学博士で、毛細血管モデルによる血液の流れを観測する機器「MC-FAN[注 1] 」の開発者である。1997年には、「マイクロチャネルアレイの開発と応用に関する研究」で科学技術庁長官賞を受賞している。2004年9月、「血液サラサラ博士」との肩書きにてメディアに頻繁に登場し、TV番組等のために血液検査などを行っていた。しかし、その際の経費上の不正行為により懲戒処分を受け、さらに依願退職の結果となった[19]。菊池は、自ら開発した毛細血管モデル装置を活用して、血液の流れと健康・疾患との関係に関する基礎研究を続けていた。
菊池は、一般的な印象である、血液に油が溶けて血液がベタベタになっているイメージは間違いだという[6]。
概念や表現が悪用された事例
この表現の普及度やインパクトの強さに目を付けた偽医療業者・悪徳商法業者によって、違法(薬事法抵触)の商品やサービスを販売するために悪用されることになった。
- 2006年、NHKの放送番組「ためしてガッテン」で詐欺に使われている手法が紹介された[1]。
- 顕微鏡で血液を見る際に、そのまま見ると血球が重なっているため、また時間が経過すると赤血球が凝集するため、血液が「ドロドロ」であるかのようにみえる。スライドガラスにカバーガラスを強く押し付けると血液が薄く広がり、「サラサラ」になったかのようにみえる。このように同じ血液でも細工によって、「見え方」を変えることができる。
- 2007年11月に逮捕された事件ではこのような手口が詐欺に利用されていた。菊池は、このように赤血球の凝集を見せて高額商品を売りつけることに注意を促していた[10]。
- 2007年3月、国民生活センターより、上記のようにやり方によって見え方が異なることを悪用し、物品やサービス(磁気ブレスレットや化粧品やエステティックサービスなど)に、絶大な効果があるかのように見せて、それを販売することが横行しているとして警告が発せられた[20]。
- 2007年11月、血液サラサラになる云々のうたい文句で高額ブレスレットを売りさばいていた健康器具販売会社の社長と幹部が詐欺容疑で逮捕された。被害者は全国で約8000名、被害総額は20億円以上にのぼる[23][24]。
なお、この販売やサービスにおいて採血用穿刺器具による微量の採血を行うことがあるが、その採血器具の針が使いまわされている疑いがある。 またこの器具については、たとえ適切に針の交換が行われていたとしても針を収納するキャップによるB型肝炎感染が報告されており、厚生労働省からも注意喚起がなされている[25]。 しかし、この注意喚起にもかかわらず、全国1万3千ヶ所の医療機関において器具の適切な使用が徹底されていなかったことが2008年に明らかにされており、定期的に簡易採血を受ける糖尿病患者たちに衝撃を与えた[26]。医療機関においてさえ行き渡らなかった通知を健康器具の販売業者が自主的に受けて、器具の適正利用を行ったかについては疑わしい。 さらに、肝炎のウイルスはアルコール消毒でも死滅せず、資格のない者による器具の適正な利用は難しい。 この、いわゆる“血液サラサラ商法”の業者による“検査”を受けた人間は、以上のニュースからのみ見積もっても10万人単位で存在する。この商法のメインターゲットにされたのは50~80代の中高年層で、2008年のニュース後も、自分が高い感染症のリスクを抱えていることに気づいていない者が多数存在すると思われる。
「概念や表現が悪用された事例」の関連項目: 偽医療、悪徳商法、詐欺、疑似科学
脚注
注釈
出典
外部リンク
- 日本ヘモレオロジー学会 MC-FANを用いた研究が発表されている
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