劣化ウラン

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劣化ウラン(れっかウラン英語:Depleted Uranium、略称:DU)は、ウラン235の含有率が天然ウランの0.720%[1][2]より低くなったものと定義されている[1]ウラン濃縮の際に副産物として生成されるものは、天然ウランのウラン235の同位体存在比が0.720%であるのに対し、劣化ウランのそれは0.2から0.3%[3]と半分未満である。またウラン235の濃度が低下した使用済み核燃料をさすこともある[3]減損ウラン(げんそんウラン)とも呼ばれる。英語ではともにdepleted uraniumであるが、劣化ウランということもあれば減損ウランと訳すこともある[1]

とくに天然ウランからウラン235を分離した残りカスを劣化ウラン、使用済み核燃料起源のものを減損ウランという事もある[3]

概要

天然ウランには、熱中性子による核分裂反応を起こしやすいウラン235と起こしにくいウラン238が含まれ、このうちウラン235の含有率は0.7%程度である。この天然ウランからウラン濃縮によって濃縮ウランを得た後に残された部分は、通常、ウラン235の含有率が0.2%程度であり、天然ウランに及ばないため、これを劣化ウランと呼ぶ。さらに濃縮を行なって劣化ウランに残存するウラン235の割合を下げ、より多くの濃縮ウランを得る事もできるが、新たにウラン鉱石を採鉱・精製・濃縮することと比較してコストがかかるために行われない。上記の濃縮後に得られる劣化ウランは六フッ化ウラン。用途に応じて酸化物または金属として利用する。

用途

原子力産業以外での用途

ファイル:30mm DU slug.jpg
劣化ウランを使用した徹甲弾
  • 高密度性を利用した用途

ウランは密度が高い金属であるため、従来使用されていたタングステンに代わり、ロケット航空機の動翼カウンターウェイト、列車車両等の重心微調整用の重り(マスバランス)として使用されている。

  • 放射線遮蔽能力を利用した用途

原子番号が大きいことからX線γ線の遮蔽効果が大きく、医療用放射線機器等から発生する放射線の遮蔽に用いられている。

  • 高密度性・高強度性を利用した用途(劣化ウラン弾も参照のこと)

アメリカなど一部の国では戦車砲の徹甲弾や装甲材として用いられている。通常用いられるタングステン等よりも特性的に優れているためである。さらに、廃棄物と見なせば原材料のコスト的にも有利である。ただし、加工費はタングステンのそれを大きく上回っておりトータルでのコスト的なメリットは高くない。

原子力産業における用途

酸化物を濃縮ウランと混合させることにより、濃縮ウランの濃縮度調整に使われる。テンプレート:要出典

ウラン235の濃度が低いため、劣化ウランは軽水炉核燃料としては利用できない。しかし、ウラン238に中性子を吸収させ、核分裂を起こしやすいプルトニウム239へと転換させることができるため、高速増殖炉に用いる燃料として期待されている[1]

医学的危険性の主張と反論

危険性の主張

劣化ウランは重金属である。したがって、他の重金属と同様に重金属中毒の原因となる。主に腎臓の障害を引き起こす。なお、劣化ウランの毒性は水銀よりも低く、砒素と同程度である。

また残留放射能による被曝も取りざたされており、イラク等実戦で劣化ウラン弾を使用した地域で白血病の罹患率や奇形児の出生が増加した、あるいは米軍帰還兵の湾岸戦争症候群などの健康被害の原因が劣化ウラン弾だと主張する意見がある。

反論

こうした環境問題について、アメリカやWHOは証拠が不十分と否定的な立場をとっている(ただし、WHOは子供が口にすることのないように警告を発している)[4]

また、日本では文部科学省防災環境対策室が「劣化ウランの毒性は、身の回りの海水や土砂中に存在するウランと同じ又は小さいです。平成14年11月」と発表している。

反論への反論

上記の通り、アメリカ政府は対外的には証拠が不十分と否定的な立場をとっている。

しかし米国内では動物実験により劣化ウランが発がん性を持つ(但しこれが放射能によるものか重金属毒性によるものかについては議論がある)と発表されており、有毒物質として法的に規制され厳密な監視下に置かれている。

劣化ウランの微粉末による内部被曝も問題視されており、人体への影響において未だ充分な医学的研究がなされていない段階である。

「劣化ウランによる被害」とされる健康被害の原因については、統計的にも医学的にも充分なサンプル数が足りないと指摘されており、被害の原因究明のためにも早急な情報収集・調査が求められている。

2007年12月5日国連総会で来年度の国連総会で劣化ウランを使用した兵器の影響について議論することが可決された(日本政府も賛成した)。今後、科学的・政治的議論が国際舞台で展開されることになると思われる。

放射能

劣化ウランでは、濃縮過程においてウラン235及びウラン234の割合が少なくなる。これらのウラン同位体はウラン238に比べて半減期が短い(放射能が高い)ため、劣化ウランの放射能は天然ウランの放射能に対して相対的に低いと言える。なお、ここでいう天然ウランは、ウラン鉱石を精製して得られた濃縮処理を行なっていないウランで、比較対象の劣化ウランと同一の化学形態であるとする。また、劣化ウランについても天然ウランに由来するものであるとする。これは、再処理核燃料由来の劣化ウランの場合、原子炉での核反応条件にもよるが、半減期の短いウラン236を一定量含んでいるためである。

標準的な値

IAEAによると[5]、純粋な天然ウラン1mg当りの放射能が25.4Bqであるのに対して、劣化ウラン中のウラン1mg当りの放射能は14.8Bqである。核種別の内訳を見ると、標準的な劣化ウランには、ウラン238・ウラン235・ウラン234がそれぞれ、99.8%・0.2%・0.001%の割合で含まれており、それぞれが持つ放射能の割合は、83.7%・1.1%・15.2%である。

ウラン同位体同士の放射能比

ウラン238の半減期は約45億年、ウラン235の半減期は7億年であり、純粋なウラン235の比放射能は純粋なウラン238に比べて約6倍高い。しかし、天然ウランの同位体比はウラン238が約99.3%であり、ウラン235が約0.7%である事から、天然ウラン中での存在比はウラン238がウラン235の約140倍である。これらより、天然ウランがウラン238とウラン235だけから成っていると仮定すると、ウラン235はその放射能のうち約4.8%を占めることになる。しかしながら、天然ウランにはさらにウラン234が含まれていることを考慮する必要がある。ウラン234はウラン238のひ孫核種であり、ウラン238とウラン234は放射平衡を形成している。このため天然ウラン中に存在するウラン234はウラン238と同じだけの放射能をもっている。これらより、天然ウラン中でのウラン235に由来する放射能は、約2.4%と算出できる。

ウラン系列の崩壊生成物

ウラン238は、鉛206に到るまでおおむね14回ウラン系列に沿って壊変を繰り返す。そして、ウラン238の半減期はどの子孫核種と比べても半減期が飛びぬけて長い。したがって、壊変系列全体が放射平衡となる。すなわち、ウラン238のもつ放射能は系列全体の約1/14である。ただし、途中のラドンは気体なので大気中に放出する分がある。実際の天然ウランではこれより高い割合となる。ウラン235についてはアクチニウム系列で壊変を繰り返す。 ウラン廃棄物からウランを回収する方法として、ウラン高選択性吸着剤PVPP(ポリビニルポリピロリドン)の活用の研究が、東京工業大学池田研究室で行われている。

精製後の放射能の増加

精製ウランの放射能は、時間とともに一定の強さにまで増加していく。これは、ウラン鉱石の精製の過程で除去された、ウラン系列アクチニウム系列に属するウラン以外の核種が、順次壊変によって生成されるためである。ウラン238の場合、娘核種のトリウム234との半減期に、1010オーダの差があるため、永続平衡が成立する。トリウム234と、ウラン238の孫核種、プロトアクチニウムとの間にも同様に永続平衡が成立する。よって、孫核種までの永続平衡によって放射能は単体の3倍となる。永続平衡成立には二番目に半減期が長い核種の10倍程度の時間がかかるため、200日程度で平衡に達する。 ウラン238とウラン234の間にも104オーダでの半減期の差があり、永続平衡は成立するが、成立には106年オーダの時間が必要である。よってこれ以降の壊変は、工学上考慮する意味がない。天然ウランのように、ウラン238の寄与分が1/14となるまでには、非常に長い時間が必要である。

劣化ウランの放射線による人体の影響

ここでは放射線による影響だけを述べる。 劣化ウランには臨界のおそれがないため、人体への影響は外部被曝と内部被曝だけを考えればよい。影響を考える場合には、ウランが容器・建屋等に密封されている場合と、そうでない場合(非密封)に大別される。 また、ウランは上述のようにウラン系列、アクチニウム系列を形成するため、系列中の核種についても影響を考慮する必要がある。特に、ラドンは気体であるために注意が必要である。 密封されている場合には、ウランの出すアルファ線は遮蔽されているため、人体に対する影響は鉛214やビスマス214等のウラン系列でガンマ線強度が高いものだけを考えればよい。非密封の場合には内部被曝(呼吸や口、及び傷口からウランが体内に入り、影響を与える)を考慮する必要がある。内部被曝の場合、アルファ線、ベータ線放出核種が重要で、ガンマ線放出核種の寄与は少ない。 呼吸による内部被曝は、ウラン粉末が空気中に漂う量と人間の呼吸量を積算して体内に入る量を決める。このとき、影響を受ける部位を特定するにはウランの化学形態をも考慮する必要がある。吸入後、水溶性の化合物は速やかに体内に取り込まれた後に排泄されるが、安定な化合物は体液への移行に時間がかかり肺の内部に長く留まって影響を与える。

関連項目

参考文献

脚注

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外部リンク

  • 1.0 1.1 1.2 1.3 物理学辞典編集委員会編、『物理学辞典三訂版』、培風館、2005年、項目「劣化ウラン」より。ISBN 4-563-02094-X。
  • 長倉三郎ほか編、『理化学辞典第5版』、岩波書店、1998年、項目「ウラン」より。ISBN 4-00-080090-6。
  • 3.0 3.1 3.2 長倉三郎ほか編、『理化学辞典第5版』、岩波書店、1998年、項目「劣化ウラン」より。ISBN 4-00-080090-6。
  • exposure to DU of young children be monitored and preventive measures are taken, as children might be at particular risk of exposure because of the way they play
  • 国際原子力機関 劣化ウラン Q&A[1]