プロトサイエンス
プロトサイエンス(protoscience)とは、「科学」以前の、科学的プロセスにより研究しつつある新しい分野を呼ぶときに使われる言葉である。日本語の日用語として未定着だが、意味は端的に言えば「未実証な仮説」である。
この用語は科学哲学の分野で使われることもあるが、実際になんらかの研究をしている人が自らの研究を指していう場合もある。
「プロトサイエンス」という用語は、日本ではほとんど使われないため和訳は未確定である。未科学、異端科学、前科学などと訳される場合があるが、本記事では「プロトサイエンス」に統一する。[1]
意味は「未実証な仮説」であるから、プロトサイエンスの主張を「正しいもの」「確定したもの」とすることはプロトサイエンスの自己定義に反する。逆に、「未実証な仮説」と言わずにわざわざ「プロトサイエンス」という新造語を使う必要もないという意見も強い。
目次
プロトサイエンスの意味主張
テンプレート:独自研究 テンプレート:出典の明記 「未実証な仮説」と言わずに「プロトサイエンス」を使う立場によると、「科学」や「疑似科学」も意味は使う人により違うと主張し、「プロトサイエンス」は「確立した科学」と「疑似科学」の中間にあり、科学的方法を用いた探求である、とする。
またプロトサイエンスの立場においては、「未科学」は「科学的に解明されていない未知の現象すべて」と解釈され、「異端科学」は社会的な評価を重視する印象を与える(オカルトや疑似科学を連想させる)ものだが、プロトサイエンスはより形式的に、かつ疑似科学とは異なる、とする。
このように、プロトサイエンスの概念を支持する者は、自身の営為を「疑似科学」と異なることを強調する。
プロトサイエンスと疑似科学との比較
疑似科学は、未実証な自説を「正しいもの」「確定したもの」として主張する。言い換えれば、科学的方法を用いず、査読や科学雑誌への論文投稿などによらず主張を行う。また疑似科学が主張する説は反証不能性を特徴とする(反証する手段が無い)。既存の科学知識を平然と無視否定することもしばしばある。
プロトサイエンスの立場によれば、プロトサイエンスは、科学的手法を積極的に用い、科学者が確立した慣習にならい、既存の科学を最大限尊重し、実験を奨励し、他からの反証や、よりよい説明を積極的に受け入れる姿勢があるものの、しかし未だ実証に至らないものと定義してみる。
このようにプロトサイエンスの定義を整理すれば、科学的手法を十分に用いずに外観だけ科学に似せて構築した知識体系が「疑似科学」、科学的手法を用いるが未だ実証的な証拠が得られていないもの(もしくは現段階の技術では実証を行うことが不可能なもの)がプロトサイエンス、科学的手法を用いて構築された実証的な知識体系が「自然科学」となる。
未解明現象を即プロトサイエンスとは呼ばない。プロトサイエンスは、既存の科学理論を土台とした仮説で、既存の科学理論に矛盾しない応用や発展であり、新しい現象の存在を示し、理論付け、予想し、妥当性のある実験をするといった通常の科学のプロセスを満たして、「結果は未実証であっても、科学的方法を使っている」と同時代の当該分野の研究者を納得させる必要がある、とする。
プロトサイエンスの定義を図で表すと以下のようになる。
科学的知識として体系化されている | ||||
科学的方法で取り扱われている | ||||
科学であろうとするか、科学であるように見える | ||||
迷信等 | 疑似科学 | フリンジサイエンス | プロトサイエンス | (真の)科学 |
さらに科学的方法に従う限り、プロトサイエンスに携わる研究者は自身の仮説が未実証であることを自覚しているため、「未実証の事項が実証されているかの如き発言をすること」は慎む。それに対して、疑似科学に携わる研究者の場合は、自身の仮説を十分な検証がないにもかかわらずそのままそれが科学的真理であるかのように発言することがある。
曖昧さの問題
しかし、ある分野が疑似科学かプロトサイエンスかの区分けは、時々、一般に限らず、専門家にすら曖昧であることがあり、疑似科学やプロトサイエンスと(真の)科学とを明確に区別することは難しい場合もある。特に、新理論が非常に目新しく、現在の実験結果や事実がその新理論に矛盾もしていないが、主に技術的理由でさらなる評価が困難である、といった場合には、疑似科学とプロトサイエンスとの区別はさらに困難になる。あらゆる学問分野の中でも、物理学や医学の先端分野ではこのような傾向が顕著に見られる。同時代の人々をどの程度納得させられるか、という信仰の問題であると考える人もいる。
なお、「科学」(Science)とは、 科学的方法に基づく学術的な知識、学問[2]。 であるが、科学的手法を用いた「営み」という意味を指す場合もある。両者を混同しないよう注意を要する。[3]
プロトサイエンスは、将来のある時点で真の科学的知識として認められる可能性もある一方で、有効な証明が得られないままに主張を繰り返す中で、結局は疑似科学としての性格を強く帯びていくものも多い。
科学史上のプロトサイエンスの例
前時代の例として錬金術がオカルトや疑似科学ではなくプロトサイエンスとされる場合がある。ただし錬金術の時代には科学的な方法が確立されていないため、先のプロトサイエンスの定義自体と矛盾してしまう。
また近代の例として大陸移動説(アルフレート・ヴェーゲナー)がプロトサイエンスとされる場合がある。
現代でプロトサイエンスと主張される例として超弦理論やプラズマ宇宙論、地震予知における宏観異常現象観測などがある。しかしそれぞれプロトサイエンスと呼ぶべきかどうか議論の余地がある。
しかしこれらは一般には、単に「未実証な仮説」と呼ばれており、「プロトサイエンス」の新語で呼ばれることはあまりない。
最後に繰り返しとなるが、「プロトサイエンス」という言葉自体が日本語で定着していないし、「未科学」「異端の科学」等も同様である。使われる場合も意味は浮動しており、使う場面ごとに意味は変わるような状況である。このようにこの用語を使う場合は注意が必要である。
脚注
参考文献
- 大辞林 第2版, 松村明・三省堂編修所
関連項目
英語版関連項目
外部リンク
- 理系白書’07:第1部 科学と非科学/6止 道半ばの地震予知、未科学から脱却へ - 毎日jp(毎日新聞)(毎日新聞連載特集「理系白書'07 第1部」より)