トル
トル(torr、記号: Torr)は、圧力の単位である。トールとも言う。メートル法に基づくが、SI単位ではない。
この名は、17世紀のイタリアの科学者、エヴァンジェリスタ・トリチェリに因む。
現在、アメリカの国立標準技術研究所(NIST)や日本の計量法は、101 325/760 Pa と定義する[1][2]。水銀柱ミリメートル(mmHg)も同一の定義である。したがって、1 Torr = 1 水銀柱ミリメートル(mmHg) = 約133.322 368 Pa である。
目次
トルと水銀柱ミリメートル
トルと水銀柱ミリメートル(mmHg)は、同じ単位の別名である。mmHgは、「ミリ水銀」「ミリエイチジー」「ミリメートルエイチジー」と読まれることがある。
圧力を求める方法の一つに、その圧力によって支えられる流体の柱の高さを使う方法がある。流体は密度が一定のものならなんでもいいが、水のような比重の軽い液体では、柱の高さは非常に高くなってしまう(一応、水柱を使用した水柱メートル(mH2O)などの単位はあるが、標準大気圧を水柱で表すと10メートル近い値になる)。よって通常は密度の高い液体である水銀(Hg) が使われる。標準大気圧は約 760 mm の水銀柱を支えることができる。すなわち、標準大気圧の760分の1は1 mmの水銀柱を支えることができ、その圧力を1水銀柱ミリメートル(mmHg)(または1ミリメートル水銀柱)と呼ぶ。
定義
慣習的に、標準大気圧が760Torrすなわち760mmHgとみなされてきた。一方、1954年、第10回国際度量衡総会 (GCPM) で標準大気圧が 101 325 Pa と定められた。
これらに基づくと、1 Torr = テンプレート:分数 Pa ≒ 133.322 368 Pa となる。アメリカの国立標準技術研究所(NIST)や日本の計量法が定めるトルの定義も、これに則っている。計量法では、mmHg も Torr と全く同じ定義を採用している[3]。
分量単位
以下の分量単位が使われる。
- ミリトル(mTorr) = テンプレート:1e- Torr
- マイクロトル(μTorr) = テンプレート:1e- Torr
他の水銀柱単位
mmHgと同様に、水銀柱の高さに基づく
- 水銀柱メートル(mHg) = 1000 mmHg
- 水銀柱インチ(inHg、″Hg) = 25.4 mmHg
- 水銀柱センチメートル(cmHg) = 10 mmHg
がある。
使用
SI
国際単位系(SI)では、圧力の単位はパスカルを用いることになっており、トルや水銀柱ミリメートルが併用単位にもなっていない非SI単位であることは共通しているが、水銀柱ミリメートルの方が、次の3点でトルよりも認められている単位である。
- 水銀柱ミリメートルは、SIについての国際度量衡局(BIPM)の正式文書[4]では、「SI と併用される非 SI 単位,及び基礎定数をよりどころとする単位」のひとつとされ、表8[5]に、海里やオングストロームと並んで記載されている。これに対して、トルは同文書に掲げられていない。
- 水銀柱ミリメートルは、「圧力」全般の計量に使用できる。
- 水銀柱ミリメートルの数値は、約133.322 Pa とされている。これに対して、トルの数値は掲げられていない。
トルは、SIでは、石油のバレルやインチ、ヤードと同様に「使うことが推奨されないその他の非 SI 単位」[6]とされて、同文書に全く扱われておらず、したがって定義も数値も定められていない。
なお、NISTのSIガイドでは、トル及び水銀柱ミリメートルの換算値として、133.3224 Paを掲げており、これ以上の桁数は水銀の圧縮率や密度の安定性の点で無意味としている[7]。
各国
いくつかの国では、水銀柱ミリメートル(またはミリメートル水銀柱)を血圧に使うことができる[8]。ヨーロッパでは、1979年欧州経済共同体 (EEC) の Council Directive 80/181/EEC により、mmHg は「血圧および他の体液の圧力」に使用が限定された[9]。
日本における使い分け
日本の計量法体系は、トルと水銀柱ミリメートルを次のように使い分けている。
- トル、ミリトル、マイクロトル、は「生体内の圧力」の計量に限って用いることができる[10]。
- 水銀柱ミリメートルは「血圧」の計量に限って用いることができる[11]。なお、血圧の計量には、その他の単位(水銀柱メートル水柱メートル、水銀柱センチメートル、水柱ミリメートル及び水柱センチメートル)を用いることはできない。
真空工学等の分野ではいまだにトルが使用されることがあるが、これはパスカルへ置き換えることが推奨されている。また、2013年9月30日までは「生体内の圧力」の計量に限って、水銀柱メートル及び水柱メートル並びにこれらに十の整数乗を乗じたものを表す計量単位である水銀柱ミリメートル、水銀柱センチメートル、水柱ミリメートル及び水柱センチメートル(まとめて「6単位」という。)の使用が認められている[12](当初は1999年9月30日までであったが、猶予期限が何度か延期されている)。
生体内圧力における恒久使用
「生体内の圧力」に水銀柱ミリメートルが使用できるのは、2013年9月30日までの予定であったが、トル・パスカルへの移行が一向に進まず水銀柱メートル等が使用され続けていること、 各国の法定計量機関においても生体内の圧力に係る単位についてもはや SI 化を志向していないこと、などにかんがみ、水銀柱ミリメートルの使用を期限の定めなく認めることになった。このため、計量単位令の別表第6の項番11「生体内の圧力の計量」に用いることのできる単位として、これまでのトル、ミリトル、マイクロトルに加えて[13]、水銀柱ミリメートルなどの「6単位」を追加することになり、関係政令・省令が2013年9月26日に改正された[14][15][16][17]。これによって、血圧の計量には水銀柱ミリメートルのみが使用することができるのに対して、生体内圧力の計量には、従来のトル、ミリトル、マイクロトルに上記の6単位、合わせて9単位が使用できることになった。
なお、「生体内の圧力」は、例えば、頭蓋内圧力、眼圧、気道内圧、膀胱内圧力のことであり、「血圧」はここでいう「生体内の圧力」ではないことに注意[18]。
出典
関連項目
パスカル(SI単位) | バール | 工学気圧 | 気圧 | トル | psi | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 Pa | ≡ 1 N/m² | = 10-5 bar | ≈ 10.2×10-6 at | ≈ 9.87×10-6 atm | ≈ 7.5×10-3 Torr | ≈ 145×10-6 psi |
1 bar | = 100 000 Pa | ≡ 106 dyn/cm² | ≈ 1.02 at | ≈ 0.987 atm | ≈ 750 Torr | ≈ 14.504 psi |
1 at | = 98 066.5 Pa | = 0.980665 bar | ≡ 1 kgf/cm² | ≈ 0.968 atm | ≈ 736 Torr | ≈ 14.223 psi |
1 atm | = 101325 Pa | = 1.01325 bar | ≈ 1.033 at | ≡ p0 | = 760 Torr | ≈ 14.696 psi |
1 Torr | ≈ 133.322 Pa | ≈ 1.333×10-3 bar | ≈ 1.360×10-3 at | ≈ 1.316×10-3 atm | ≡ 1 mmHg | ≈ 19.337×10-3 psi |
1 psi | ≈ 6894.757 Pa | ≈ 68.948×10-3 bar | ≈ 70.307×10-3 at | ≈ 68.046×10-3 atm | ≈ 51.7149 Torr | ≡ 1 lbf/in² |
- ↑ 引用エラー: 無効な
<ref>
タグです。 「NIST
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ 計量単位令別表第六(第五条関係) 項番11
- ↑ 計量単位令別表第六 項番12
- ↑ テンプレート:PDFlinkテンプレート:En icon
- ↑ BIPM - Table 8 - 翻訳は、テンプレート:PDFlinkのp.40
- ↑ BIPM - other units (contd) - 翻訳は、「国際単位系(SI)」のp.41
- ↑ NIST Guide to the SI Units - Footnotesテンプレート:En icon
- ↑ Non-SI units accepted for use with the SI, and units based on fundamental constants
- ↑ conventional millimeters of mercuryテンプレート:En icon
- ↑ [1] 計量単位令 別表第六 (第五条関係) 項番11 生体内の圧力の計量
- ↑ [2] 計量単位令 別表第六(第五条関係) 項番12 血圧の計量
- ↑ 計量法附則第四条の計量単位等を定める政令
- ↑ 計量単位令、別表第6 項番11
- ↑ 計量単位令の一部改正に係る事前評価書 、 経済産業省 技術環境局 知的基盤課 計量行政室長 高野 芳久
- ↑ [3] 「計量単位令の一部を改正する政令が閣議決定されました」、経済産業省 産業技術環境局 計量行政室、2013年9月20日
- ↑ [4]
- ↑ [5]
- ↑ [6] 生体内圧力の計量単位について(周知) 2011年12月 経済産業省 計量行政室