海部宣男
海部 宣男(かいふ のりお、1943年9月21日 - )は、日本の天文学者。国立天文台名誉教授(東京大学博士(理学博士1973年))。専門は電波天文学、赤外線天文学。特に星間物質、星と惑星の形成に関する研究。
経歴
- 1961年 - 麻布学園高等学校卒業
- 1965年 - 東京大学教養学部基礎科学科卒業
- 1969年 - 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程中退
- 1969年 - 東京大学理学部助手(天文学教室)
- 1979年 - 東京大学東京天文台助教授(野辺山宇宙電波観測所)
- 1988年 - 国立天文台発足に伴い国立天文台教授(電波天文学研究系)
- 1991年 - 国立天文台すばる望遠鏡計画の開始に伴い光赤外線天文学研究系教授
- 1994年 - すばる望遠鏡プロジェクト推進部主管
- 1997年 - 米国ハワイ州ヒロに赴任、国立天文台ハワイ観測所初代所長
- 2000年 - 国立天文台台長
- 2005年 - 日本学術会議会員(2011年まで)
- 2006年 - 国立天文台を任期満了退職
- 2007年 - 放送大学教授(自然と環境・自然環境システム)
- 2012年 - 放送大学を任期満了退職
- 2012年 - 国際天文学連合(IAU)会長
科学上の業績
1966年、大学院生として赤羽賢治、森本雅樹らによる宇宙電波グループに参加。わが国初の先端大型望遠鏡である長野県野辺山の口径45m大型電波望遠鏡の設計から建設まで、中心的な役割を果たした[1]。この際、波長が最も短い電波であるミリ波におよる星間分子スペクトルの天文学的重要性に着目し、45m電波望遠鏡の高精度化を進めるいっぽう、超大型音響光学型電波分光計を世界に先駆けて開発した。完成後はこれらを用いて星間分子雲からの星の形成の観測、また分子科学の研究者と協力して多くの新分子を宇宙で発見するなど、新しい分野であるミリ波の観測・研究で第一線に立った[1]。この業績により、1987年に森本雅樹とともに仁科記念賞(ミリ波天文学の開拓)[2]、1998年に日本学士院賞(星間物質の研究)[1]を受賞した。査読付きジャーナルへの欧文論文約120編のほか、国際研究会発表論文50編、赤羽・海部・田原著『宇宙電波天文学』などのテキストがある。
1991年、建設を開始するすばる望遠鏡プロジェクトのため野辺山宇宙電波観測所から国立天文台本部(三鷹市)に移り、公募により「すばる望遠鏡」のニックネームを選んだ。1994年からすばるプロジェクト推進部主幹、また1997年からは初代ハワイ観測所長として日本で初めての海外観測所を立ち上げ、またマウナ・ケア山頂での建設をリードして、すばる望遠鏡を完成に導いた。
2000年にすばる望遠鏡の建設を終えて帰国し、国立天文台長となる。ミリ波・サブミリ波の国際計画アルマ望遠鏡を米・欧とともに建設する計画をスタートさせた。また法人化の波の中で大学共同利用機関法人への転換に尽力し、国立天文台の新たな体制を整備した。
任期満了で天文台を退職後は放送大学教授となり、日本学術会議での活動と並行して科学の社会教育に尽力した。研究面では長年のテーマだった「宇宙の生命」に関する研究とその推進に取り組み、地球科学・生命科学の研究者らと共同作業を進めている。
この間、1980年代後半からイギリス赤外線望遠鏡(UKIRT)と野辺山とのミリ波・赤外線日英協力計画を主導して大きな成果を収め、英国王立天文学会から外国人会友(Associate)に推挙された[1]。また1990年以来、東アジアの天文学交流を進める「東アジア天文学者会議(EAMA)」を組織史、2005年に日本・中国・韓国・台湾の国立天文機関の協議体であるEACOA(東アジア中核天文台連合)を設立した。国際天文学連合(IAU)でも1997年から2000年まで会長予定者(President Elect of Executive Committee)[3]、2000年から2003年まで副会長[3]を務めるなど、国際的にも広く活動してきた。2009年からIAU会長予定者を勤め[3]、2012年8月にIAU会長に就任(任期は2015年まで)。IAU会長を勤めるのはアジアで3人目、日本では古在由秀に次いで2人目である。
社会的活動
2005年に日本学術会議会員に推され、第三部(理学・工学)部長となる。2011年までの任期6年の間、改組直後の日本学術会議の組織整備、学術全分野からの発信としての「日本の展望」を推進した。また、日本として初めての全科学分野を網羅する「学術の大型計画マスタープラン」を実現し、日本の科学政策に貢献した。
科学の普及には野辺山での活動など早くから取り組み、子供向け・一般向けの著書が多数ある。1977年に絵本『時間のけんきゅう』でサンケイ児童出版文化賞(科学賞)を受けたほか、科学の本の書評を10年以上続け、2012年に『世界を知る101冊』で毎日書評賞を受賞した[4]。詩歌・文学と宇宙・科学をつなぐ著作も多い。2009年のユネスコ・IAU共同「世界天文年2009」では日本委員長および国際組織委員、その後は研究者・教育者・アマチュア団体を網羅した「日本天文協議会」会長など、科学と天文学の普及に取り組む。
放送大学では、科学の社会教育・科学コミュニケーションをテーマに天文宇宙教育カリキュラムの刷新、修士課程学生の教育、新しいイメージによる講義の作成などに取り組んだ。現在も放送大学客員教授として、教育・指導にあたっている。
主な一般向け著書
- 『銀河から宇宙へ』(新日本新書 1972)
- 『宇宙の果てへの旅』(大和出版 1978)(新潮文庫 1987)
- 『時間のけんきゅう』(岩波書店 算数と理科の本 1981)(サンケイ児童出版文化賞(科学賞))
- 『あっ! 星が生まれる』(新日本出版 1985、改定版 1992)
- 『まて! 宇宙ぼうちょう』(新日本出版 1986、改定版 1992)
- 『まわれ! 太陽系』(新日本出版 1987、改定版 1992)
- 『星と宇宙の科学』(共著:新潮文庫 1985年)
- 『ひろがる宇宙』(共著:岩波書店 岩波ジュニア科学講座 1985, 改定版1994)
- 『電波望遠鏡をつくる』(大月書店 1986)
- 『宇宙のキーワード』(岩波ジュニア新書 1991)
- 『宇宙史の中の人間』(人間の歴史を考える)(岩波書店 1993)(講談社+α文庫 2003)*『宇宙の謎はどこまで解けたか』(新日本出版社自然と人間シリーズ 1995)
- 『宇宙をうたう 天文学者が訪ねる歌びとの世界』(中公新書 1999)
- 『すばる望遠鏡の宇宙 ハワイからの挑戦』(岩波新書カラー版 2007)
- 『天文歳時記』(角川選書 2008)
- 『星めぐり歳時記 宇宙吟遊・光とことば』(じゃこめてい出版 2009)
- 『世界を知る101冊 -- 科学から何が見えるか --』(岩波書店 2011 毎日書評賞)
主なテキスト
- 『宇宙の観測I』(共著:恒星社厚生閣 現代天文学講座11 1981)
- 『宇宙電波天文学』(共著:共立出版 1986/2011再版)
- 『望遠鏡 宇宙の観測』(岩波講座物理の世界 2005)
- 『物質環境科学2 宇宙・自然システムと人類』(共編著 放送大学教育振興会 2008)
- 『宇宙を読み解く』(京編著 放送大学教育振興会 2009)
- 『太陽系の科学』(共編著 放送大学教育振興会 2010)
- 『進化する宇宙〈改定版)』(共編著 放送大学教育振興会 2011)