高速増殖炉
高速増殖炉(こうそくぞうしょくろ、Fast Breeder Reactor、FBR)とは、高速中性子による核分裂連鎖反応を用いた増殖炉のことをいう。
高速中性子を利用しながら核燃料の増殖を行わない原子炉の形式は、単に高速炉 (Fast Reactor : FR) と呼ばれる。
目次
概要
現行の商用発電用原子炉として一般的な軽水炉と比較した場合の高速増殖炉の特徴を述べる[1]。
- 増殖比(核反応において消費される核分裂性核種の消滅数に対する生成数の割合)が1.0を超えること
- 核燃料の主体がウラン238/プルトニウム239となること(他に核反応起動用のウラン235が若干必要)
- 減速材を使用しないこと(熱中性子を利用せず、高速中性子をそのまま利用するため)
- 減速材が不要であり、従来と比べ核燃料(核反応断面積がウラン235と比べ格段に小さい)の高密度配置が必要となるため、炉心単位体積あたりのエネルギー量の大きさが飛躍的に向上する。また冷却材の高能率化が必須となる。
現在開発が進められている主な形式としては以下のようになる。
MOX燃料の元となるプルトニウム239とウラン238は通常の軽水炉で燃料として使うこともできるが、高速増殖炉の炉心で燃やすことで、さらに不要なウラン238から次の高速増殖炉用の核燃料であるプルトニウム239を作り出すことで核燃料を循環させる「核燃料サイクル」を実現するための要となる装置である。
こういった意欲的な構想の下に先進工業国で研究開発が進められて来たが、軽水炉にはない様々な問題を含んでいるため、実験炉から原型炉までは数か国でいくつか完成したが、2013年現在も実証炉の完成までには至っていない。
構成要素
高速増殖炉は流体を冷却材に使って炉心の熱を外部に導き、蒸気を発生させて発電等に利用する点では、一般的な軽水炉と似た仕組みを持っている。一方では、冷却材と燃料において大きな違いがある。
冷却材
軽水炉では、炉心の熱エネルギーを外部に取り出すための冷却材や中性子の減速材、反射体などを兼ねて軽水を利用するのに対し、高速増殖炉では高速中性子を減速させないように加熱溶融した金属ナトリウムのような液体金属を使用する。
高速増殖炉の冷却材は、平均速度が秒速1万km程の高速中性子に対して減速効果が小さくその運動を衰えさせないものでなければならず、また単位体積当たりの出力密度が軽水炉よりもかなり大きくなるため、熱伝導率の良いものでなければならない。高速中性子に対する減速効果は水素や重水素のように核の原子量ができるだけ少ない元素が大きくなる。
これらの条件を満たすものとして、金属ナトリウムが使われている計画が多いが、鉛・ビスマスやヘリウムガス冷却も一定の経済性を持つと言われる。ナトリウムは発火性が、鉛・ビスマスは腐食性が問題である。過去には水銀、ビスマス、鉛、カリウム、NaK(ナトリウムカリウム合金)などが考えられた。ナトリウムを採用するメリットとして、以下のような点も挙げられる。
- 水と違って、圧力をかけなくても800度以上にならないと沸騰しないので扱いやすい。
- 重さが水と同じくらいなので、水と同様ポンプで循環できる。
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- 鉛・ビスマス炉の耐腐食材料
金属ナトリウムとして存在している安定同位体の23Na は、炉内で中性子を吸収し放射化され22Na(半減期 2.6年)と24Na (半減期 15時間)に変化するが、半減期が短いため炉停止後の作業者の被爆量を増加させない[2]。
また熱伝導率の高さから「もんじゅ」においては3系統ある冷却系のうち、2系統が故障してしまった場合でも1系統のみで炉心の崩壊熱を除去し冷却する事ができる。また循環ポンプなどの電源を全て失う、全電源喪失が起きて循環ポンプが全て停止しても3系統の冷却系にてナトリウムの自然循環と空気冷却器により崩壊熱の除去が可能である。これらの安全性も評価されているため、ナトリウム冷却高速増殖炉は国際的な第四世代原子炉の一つとして位置づけられている。
燃料
MOX燃料
炉心内中央部にはMOX燃料と呼ばれる核燃料集合体が置かれる。
使用前のMOX燃料は、燃料となるプルトニウム239とウラン235が微量と、あとは核分裂をほとんど起こさないウラン238で占められている。
MOX燃料は、(最初は)他の原子炉で使用済みとなった核燃料棒を再処理して取り出されるプルトニウムとウランを混合して酸化させペレット状に固めて燃料被覆管に詰められ核燃料棒とされる。酸化させることで熱に強くして溶けにくくしている。このプルトニウムは、軽水炉内から取り出された使用済み燃料を再処理して得られた物か、高速増殖炉のブランケットを処理して得られた物のいずれかであり、軽水炉由来の方がプルトニウムの同位体が多く含まれている。 ウランは、天然ウランからウラン235を相当分抽出した残り(劣化ウラン)か、または天然ウランそのものである場合と、軽水炉や高速増殖炉のMOX燃料・ブランケットを処理して得られた物などであり、いずれも核燃料として有益なウラン235はあまり含まれていない。
使用済み核燃料中には核分裂に伴う分裂片や多くの元から含まれる核燃料近縁の重核種の同位体が含まれ、再処理前にプール内で十分な冷却期間を置いても何年も熱を帯びながら崩壊による強い放射線を放ち続ける。プルトニウムを分離後も、プルトニウム239の他にプルトニウム238やプルトニウム240、プルトニウム241などが含まれ熱と強い放射線を受けながら核燃料の製造を行わねばならない。
なおプルトニウムの混合割合を富化度といい、高速増殖炉ではこの割合を20 - 30%とする。
ブランケット
炉心内の周辺部にはブランケットと呼ばれるウラン238を主成分とする燃料集合体が置かれる。ブランケットも炉内で「燃える」つまり核分裂反応して発電に寄与するがその割合は比較的少ない。
炉心中央部のプルトニウム239やウラン235といった核分裂性の核燃料が臨界による連鎖反応を起こすことで放たれた高速中性子が冷却材にさえぎられることなくそのかなりの割合が周囲まで飛び出して来る。周囲を取り囲むように配置されたブランケット内のウラン238は、この高速中性子を原子核に吸収することで2度のベータ崩壊を起こしネプツニウム239を経てプルトニウム239に変わる。プルトニウム239は(低速な)熱中性子を吸収するとプルトニウム240に変わるが減速材が存在しなければほとんどの中性子は高速のままで飛び込んで来るため、それがプルトニウム239の核に当たると分裂することになる。ただし、プルトニウムの核分裂断面積は小さく高速中性子が核に当たることはまれである。結局、ブランケットのウラン238は徐々にプルトニウム239へと変化してゆく。
ブランケットのウランは天然ウランか劣化ウラン、またはそれらの混合物であり、ウラン238が主体となる[出典 1]。
核燃料サイクル計画
アメリカ合衆国は2006年2月から核燃料サイクル計画 "GNEP:Global Nuclear Energy Partnership" によって[3]、核燃料サイクルとともに高速増殖炉の技術開発推進の立場に転じた。このプロジェクトには2008年1月1日時点で、日本を含む19か国が参加を決定している[4]。またこのプロジェクトによる高速増殖炉の実験炉と核燃料再処理施設建設の発注予定先として交渉相手に選ばれているのは三菱重工、日本原燃、アレバの3社である[5][6]。
特徴
- 核分裂を起こしやすいウラン235は天然に存在するウランの0.7%程度にしか過ぎず、約99.3%は核分裂をほとんど起こさないウラン238であるため、軽水炉のエネルギー源として利用できるウランは、ウラン資源の1%にも満たないことになる。しかし高速増殖炉によってウラン238をプルトニウムに転換することができれば、核燃料サイクルが実現し、理論上ウラン資源の約60%をエネルギーとして使用することが出来るため、ウランの利用効率を飛躍的に高くすることができると考えられる。
- MOX燃料を使う事ができる。
- 冷却材として使用される金属ナトリウムは沸点が高いため、軽水のように高圧を掛ける必要が無く、常圧で運転することが可能である。このことは、冷却材の減圧による沸騰を原因とする冷却材喪失事故 (LOCA : Loss Of Coolant Accident) がほぼ起きないことを意味しており、同時にその事故に関しては非常用炉心冷却装置 (ECCS : Emergency Core Cooling System) も必要のないことを意味している。(福島第一原子力発電所事故では、全電源喪失事故で、残留熱除去系が働かず、2号機、3号機はECCSによって数日持ちこたえた。だから、ECCSは「LOCA専用」というわけではない)。
- 炉心が小型にでき、出力密度が高い。
増殖
通常、軽水炉では燃料棒中のウラン235を熱中性子により核分裂させ、エネルギーを生成する。このとき消費したウラン235以上にプルトニウムが生成されることはなく、燃料棒中の核燃料は減少する。これは、熱中性子は高速中性子よりもウラン235やプルトニウムの核分裂を誘起しやすいが、燃料棒中のウラン238に捕獲されてプルトニウム239を生成する確率が低いためである。逆に高速中性子はウラン235やプルトニウムの核分裂を誘起しにくいが、ウラン238に捕獲されてプルトニウム239を生成する確率が高い。この性質を利用して、消費した燃料以上のプルトニウムを生成するように設計されたものが高速増殖炉である。
高速増殖炉の「高速」は、利用する中性子が高速中性子であることに由来する。高速増殖炉では、ウラン238をプルトニウムに転換させるため、ウラン資源を事実上数十倍にできる。このため「夢の原子炉」と言われ、日本、フランス、中国など国内でのエネルギー使用量に比べ資源が少なく、エネルギー使用量の多い国で開発が推進されている。
高速増殖炉の燃料転換率は、理論的には1.24から1.29程度と考えられており、もんじゅの場合は約1.2である[出典 2]。
プルサーマル方式に対する優位性
プルサーマル方式においてもほぼ同じMOX燃料を使用するが、MOX燃料にはプルトニウムより原子番号の大きい原子が含まれ、これらの元素の同位体による割合が増えていくことを「高次化」と呼ぶ。MOX燃料は再処理を繰り返すごとにアメリシウム241などのマイナーアクチノイドの割合が増えていくのだが、これらの原子核は中性子吸収断面積が非常に大きく、熱中性子を吸収しても核分裂せず、中性子を放出しないため、核分裂連鎖を媒介する中性子が減って原子核分裂反応が成立しなくなってしまう。この核種は化学/物理処理で分離が不可能な大変厄介な物質であり、アメリシウム241等のMAを分裂させられる高速増殖炉、または加速器駆動未臨界炉は長期的に見ると核燃料サイクル計画には必須の要素である[出典 3]。
FBRの形式
高速増殖炉には以下の三種類の形式がある。
- ループ型
- 原子炉、一次主冷却系循環ポンプ、中間熱交換器をそれぞれ別の容器に納め、それらを配管でつないだもの。
- 例 : 常陽、もんじゅ
- タンク型(プール型)
- 原子炉、一次主冷却系循環ポンプ、中間熱交換器を一つのタンクの内に納めたもの。
- 例 : フェニックス、スーパーフェニックス
- ハイブリッド型
- タンク内で1つに収容されている設備を2つに分けたもの。ループ型とタンク型を併せたようなもの。
問題点
技術的課題
- ボイド係数
- 炉心を冷却する液体に含まれる気体の割合の変化により、炉心の反応度は影響を受ける。この現象を係数化したものをボイド係数と呼ぶ。ボイド係数が正の場合、冷媒に占める気体の割合が増えると冷媒としての性能が低下すると共に反応度が増大し、炉心の異常な発熱につながる。
- 軽水炉において、減速材と冷却材を兼ねる軽水は炉心付近で常に沸騰が発生しており、理論的には気泡混じりで本来の水よりも密度が低下した流体として扱われる。ボイドの割合が増えると減速材としての性能が低下するため、反応度は低下する。(ボイド係数は負)
- 一方、ナトリウム高速増殖炉で用いられる液体金属は通常の運用では沸騰しないが、万一発生した場合はボイド係数は正となる。このため、ボイド係数が負となるような炉心設計が強く求められる[7]。高速増殖炉もんじゅの場合、炉心の一部の領域についてボイド係数が正になっていると分析されている[8]。
- 一方で沸騰によるボイド係数は正となった場合でも、炉心の外へ漏れだす中性子の増加(中性子が逃げるため核分裂連鎖反応が起こしづらくなる)や、核燃料の熱膨張による密度の低下など、ボイド係数以外の反応度効果があるため、原子炉全体としての反応度は負となるように設計されている。これは原子炉設計における重要な基本であり、これにより異常な反応度が原子炉に加わらないようになっている。
- 鉛ビスマス高速増殖炉の場合、鉛は原子番号が大きく断面積が大きい上、中性子を吸収せず反射するために、気泡が発生すると中性子が炉内から洩れる確率があがるため、ボイド効果は負に設計しやすい。
- 金属ナトリウム
- 技術的な最大の問題は、冷却材である金属ナトリウムの管理が難しいことである。金属ナトリウムは水や酸素に触れると高温を放って激しく酸化される。従って、その取り扱いには極めて難度の高い技術と、その技術を維持管理する持続可能な運用システムが必要不可欠となる。軽水は透明だが金属ナトリウムは不透明であり、これを用いると内部状態の計測が難しくなる。「もんじゅ」の停止は、配管からの金属ナトリウム漏出事故による。また、特に蒸気タービンに繋がる二次冷却系との間は、熱を伝えるための多数の薄い金属管を隔てて軽水と対向しているため、わずかな漏れでも大事故につながると考えられている。このような冷却系の取り扱いの難しさから、同型炉での事故例が多い[9]。ナトリウムの代わりに鉛・ビスマスを使用した方式では発火性はない。
- 燃料
- 日本での高速増殖炉用のMOX燃料は、六ヶ所再処理工場での製造が予定されているが、アクティブ試験が3年間継続したままであり本格稼働の開始予定は遅れている。ここでMOX燃料が生産できなければ、他国から輸入するか原子炉の稼動を見合わせることになる。
- プルトニウムの挙動
- プルトニウムの炉内での挙動に未解明な点がある。フランスのフェニックス (Phénix) では、原因不明の出力低下があり、その原因は未だに解明されていない。これがフランスがスーパーフェニックスから撤退する理由の一つであった[10]。
- 緊急炉心冷却装置の欠如
- ナトリウムと水の反応性のために、ナトリウム高速増殖炉には、緊急炉心冷却装置(ECCS)を付けられない。「軽水炉の様に一次系が高圧でないから、「スリーマイル原子力発電所事故のような減圧によるLOCAが起きない事」から、ECCSは不要と説明されてきたが、「高速増殖炉で冷却材喪失事故は起きないと言えるのか?」と、批判者は指摘する。内圧が低くとも、腐食性の強いナトリウムの作用や、500℃を超える高温での連続運転、更には、構造材への放射線損傷が、配管破断を招く事は無いのか?と言う懸念が指摘されている。(高木仁三郎『プルトニウムの恐怖』(岩波新書・1981年)159~160頁参照)。尚、鉛ビスマス炉であれば、水と接触しても水素を出して燃えないので、LOCAに備えてECCSを取り付けることは可能である。
- 原子炉容器や一次冷却系の破損にそなえた対策として、ガードベッセルと呼ばれる設備が設けられている。これは原子炉容器や一次冷却系の機器を覆うようにカバーが取り付けられ、ナトリウムが漏れた場合でもここで止まるようになっている。そのため万が一原子炉容器や一次冷却系の破損が生じてもナトリウムの流失を防ぎ、ナトリウムの液面から炉心が露出することによるメルトダウン事故を防ぐよう工夫されている。
- その他の技術問題
- 1970年代に旧ソ連がアルファ型原子力潜水艦等に鉛ビスマス原子炉を搭載した。原子炉自体は小型軽量大出力で優れた性能を示したものの、多くの問題を経験した。①【腐食問題】鉛ビスマスは鉄よりイオン化傾向が小さいために腐食性が強く、蒸気発生器や配管の腐食による冷却材漏れに悩まされた。②【スラグによる流路閉塞】空気と長期接触したため、酸化鉛スラグが発生。圧力容器・配管・被覆管の腐食と相俟って、酸化鉛・マグネシウム酸化物・鉄などのスラグが冷却材流路を閉塞する事故を起こした。③【ポロ二ウム210】鉛やビスマスが中性子捕獲で半減期138日のポロ二ウム210に変化して炉内部に付着してアルファ線でメンテナンスに支障をもたらしたほか、そのまま運転したので蓄積し、冷却材漏洩時に高線量を招いた。尚、スラグ発生はナトリウムにも共通する問題である。
- 東工大の研究結果報告では、①【腐食問題】ではクロム系耐熱鋼を使い、鉄よりイオン化傾向が高く腐食しやすいアルミ系合金を表面に蒸着して、亜鉛めっき鋼板などと同じ「犠牲防食」で腐食問題解決の目処が立った。②【スラグによる流路閉鎖】は不活性ガスの封入で空気との接触を遮断して、コールドトラップで液体金属を一度冷却して不純物を析出除去するほか、タンク型設計にして(トラップ系以外)流路ボトルネックをなくし、万一原子炉/配管破損でスラグが発生しても冷却系閉塞しないようにする。③【ポロ二ウム210】メンテナンスに先立ち、原子炉容器を4Pa500℃に減圧加熱してベーキングを行うことで付着したポロ二ウム化鉛を気化除去すれば良いこと、(トラップ系で)石英ガラス/ステンレスなどで吸着も可能なこと。等、(特に鉛ビスマスで)今まで問題とされてきた事が近年大きく改善が進んでいる。
なお、もんじゅ事故後、フィジビリティスタディからやり直して、冷却材として鉛ビスマス、ヘリウム、軽水、ナトリウム等の検討が進められた事実があり、その上で実績や国際協力の可能性(鉛ビスマスは実績が少ないのが否めない)が評価されてもんじゅの再起動、そして次期ナトリウム冷却高速増殖炉の開発へ進んでいるのが実情である。 FaCTおよびFSの経緯および概要
社会的課題
- 核兵器の材料
- 核兵器の材料となるプルトニウムを大量に加工・保有することに対して、国際的な懸念や批判がある。
- 標準的な核兵器を作るには純度の高いウラン235か、プルトニウム239が必要とされ、21世紀現在ではウラン濃縮を行うよりも、黒鉛炉、重水炉、高速増殖炉のいずれかでプルトニウム239を生産する方法が最も現実的な手段となっている。ウラン238に対する中性子照射期間が長いほど「ウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239になる反応」だけでなく「プルトニウム239が再度中性子を吸収してプルトニウム240に変化してしまう反応」が進んでしまう。商業用原子炉で一般的な軽水炉は、運転しながら燃料交換できないため、照射時間が長くなり、プルトニウム239の純度の高い「兵器級プルトニウム」を生産できず、兵器性能を著しく低下させるプルトニウム240の割合が高い「原子炉級プルトニウム」しか生産できない。(つまり日本の保有する大量の原子炉級プルトニウムは核兵器を作るのに適さない)
- 一方高速増殖炉は、原子炉が中性子を発生して、それを原子炉を覆うブランケットで受けて、ブランケットの中に入っている元素に中性子を浴びせて、別な元素に変化させる「核種変換炉」であり、ブランケットに核分裂性でないウラン238をいれて、核分裂性のプルトニウム239にすることができる。また、「ブランケットの内容物は、次々と早期交換したほうが、核燃料が沢山得られて得」である。そのためIAEAは、炉からの燃料棒の早期抜出しを「核武装準備行為」として厳しく監視している。発電目的ならば、燃料は長く発熱させたほうが得であり、「燃焼途中での燃料取り出し」は核兵器生産以外に理由が説明できないが、そのようなことはしていないためIAEAは「フランスや日本の増殖実験」に関しては認めてきた。
- 例えば、日本の「もんじゅ」は停止するまでの1年半の間に濃縮度96%以上のプルトニウム239がおよそ60kg程度生じていたと考えられ、プルトニウム240などの不純物を混ぜることで軍事転用への懸念を回避したかどうか、明らかにはなっていない[出典 1][11]。
- 輸送時の警備
- プルトニウムを含むMOX燃料の輸送問題がある。プルトニウムは核兵器の原料であるため、輸送時にはテロリストやその支援国家などに核ジャックされる可能性があり[12]、常にこれに備える必要がある。海上輸送が必要となる日本では、その脅威に備えるため新たに世界最大の巡視船であるしきしまを建造しなければならなかった。
- ウラン燃料は、ウラン235の半減期が約7億年と長いことから通常状態において殆ど放射線を出さないのに対し、プルトニウムを含む燃料は、プルトニウム239の半減期が約2万4千年とウラン235と比較して短いため強い放射能を持ち、プルトニウムの使用やその輸送に対する反発の声が高まっている。
- 核抑止
- テンプレート:要出典範囲
経済的課題
- 費用
- 高速増殖炉建設は通常の軽水炉型の原子炉よりも多額の費用が掛かる。
- 1970年代初め、ローマクラブレポートが出た頃までは、石油は1バーレル2ドルのまま急速に掘りつくされると考えられていたし、風力や太陽は当時非効率で到底20-30年で大電力を供給できるようには思われておらず、核融合は50年先と思われていて、海水からのウラン吸着の研究など存在しなかった。当時はすべて右肩上がりの時代で、中国・インドの経済成長も直ぐに始まり、化石エネルギー枯渇で急速に危機に直面すると思われていた。
- 現実には、予想に反して産油国は米英から資源を取り戻して値上げするのに成功したために、値上がりによる甚大な経済打撃(オイルショック)と引き換えに、石油の採掘寿命は延びた(但し、2008年頃とうとう地質的埋蔵量の半分を使い切り、産出衰退期に入ったと見られている。詳細石油ピーク参照)。また、中国・インドの経済成長による化石燃料の減耗加速は2000年代までずれ込んだ。そうしているうちにテンプレート:要出典範囲、核融合も実証炉ITERの建設まで具体的道程が描ける所まで進化した。そして核融合炉さえできれば、高速増殖炉より効率よくウラン238をプルトニウム239に変える事ができる。
- 加えて、陸上ウランの1000倍、シェールガスの600倍の熱量資源がある、海水ウラン吸着の研究が進み、2007年のウラン価格ピーク135ドル/ポンドならコストが回収できる取れる所までコストダウン研究が進捗している。
- 原子力はかつて「唯一の火力に代わり得るエネルギー」であったが、今は「電力用としては」「再生可能エネルギー時代」までの数十年間の「過渡期エネルギー」と看做されている。(但し、化石燃料が尽きれば、製鉄・セメント・ガラス製造熱源や航空・船舶燃料や、使用済み太陽電池や風力タービンの溶解リサイクル熱源で問題が起きるので、「一般工業/輸送燃料生産工業の熱源としては」超高温原子炉は地熱では不可能な高温部分を受け持つと見られている。)大量に資源消費する「電力用としては」過渡期エネルギーになったため、陸上ウランは70年持てばよく、枯渇してきても170ドル/ポンドまで値上がりをすれば海水ウランが採算に合いだすので、増殖に対する社会的、経済的ニーズは1970年代初頭当時より優先度が低下した。
- 一方で、ブランケットに入れるものは、劣化ウラン(ほぼウラン238)と決まっているわけではなく、ありふれた物質をブランケットに入れて高速中性子を浴びせて、社会的ニーズの高い、高値で取引される元素に「核種変換」することも原理上は可能である。(詳細 中性子捕獲 参照。一般的に原子量が1ないし2重い元素に変化する。) 高速増殖炉研究の経済的な価値は「劣化ウランからプルトニウム核燃料への「中性子捕獲核種変換」にとどまらず、元素により技術的難易度の問題はあれ「低価値物質に中性子を照射して高価値物質に、中性子捕獲核種変換する」用途で、核融合実用化までの過渡期の手段になりうる事にあろう。そういう意味では、レアメタル、レアアース需要の高い、自動車・家電・燃料電池・重工などの業界の研究者が、高速増殖炉の商業的利用価値を「再発見」して、「核抑止用のプルトニウムを取得した後で」「色々な物質に中性子を浴びせて核種変換を試す」事も今後必要と思われる。
世界の高速増殖炉
高速増殖炉は約20年前まで、ウラン燃料の有効利用促進のため米国、フランス、ロシア、イギリス、ドイツ、日本などで積極的な開発が進められてきた。 しかし1990年代前半に米国の実験炉FFTFとEBR-Ⅱの運転停止、1991年ドイツの原型炉SNR-300の建設中止、1994年英国の原型炉PFR運転中止、1998年にはフランス実証炉スーパーフェニックスの運転中止などが相次ぎ、日本でも「もんじゅ」のナトリウムもれ火災で運転が中止される。1990年代には高速増殖炉の開発は停止状態となり、フランスを除く欧州各国は高速増殖炉の開発を中止した。今なお、日本、ロシア、中国、インドが開発を行っているが、いずれの国でも実用化は大幅に先送りされ、商業炉の運転は2030−40年頃になるとされている[13][14]。
日本
- 常陽 - 実験炉、1970年着工、77年臨界。2007年6月に炉内で機器を損傷、現在停止中。熱出力140MW
- もんじゅ - 原型炉、1980年着工、94年臨界。1995年にナトリウム漏出火災事故、停止中であったが2010年5月6日運転再開。その後、炉内中継装置落下事故で再度停止中。電気出力280MW
- (DFBR-1 - 実証炉、計画中止、計画電気出力670MW)
- (JSFR開発試験炉 - 実証炉、計画中、電気出力500 - 600MW級 2025年頃導入の計画)
- (JSFR商用導入炉 - 実用炉プロトタイプ、計画中、電気出力750 - 1000MW級 2035年頃導入の計画)
- (JSFR実用炉 - 商用炉、計画中、計画電気出力1500MW×2のツインプラント 2050年頃に初号機導入の計画)
アメリカ合衆国
- Clementine - 実験炉、1946年臨界、52年閉鎖、熱出力25KW
- EBR-I - 実験炉、1946年着工、51年臨界、63年閉鎖、電気出力0.2KW:世界初の原子力発電が行われた炉である
- LAMPRE - 実験炉、1959年着工、61年臨界、65年閉鎖、熱出力1MW
- EBR-Ⅱ - 実験炉、1957年着工、63年臨界、94年9月閉鎖、電気出力20MW
- エンリコ・フェルミ炉 - 実験炉、1956年着工、63年臨界、72年閉鎖、電気出力61MW:1966年10月5日に炉心溶融事故を起こしたため閉鎖された。
- SEFOR - 実験炉、1965年着工、69年臨界、72年?閉鎖、熱出力20MW
- FFTF - 高速増殖炉用燃料照射炉、1970年着工、80年臨界、93年廃止、電気出力400MW
- CRBR - 原型炉、1982年着工、プルトニウム拡散防止政策のため、83年計画中止
- (SAFR - 原型炉、計画中止)
- (PRISM - 原型炉、1988年概念選定、94年9月計画中止)
2006年、高速炉の実証炉開発を盛り込んだグローバル原子力パートナーシップ(GNEP計画)が提唱されたが、2009年に計画凍結となった。
フランス
- ラプソディ (Rapsodie) - 実験炉、1962年着工、67年臨界、83年閉鎖、熱出力40MW
- フェニックス (Phénix) - 原型炉、1968年着工、73年臨界、2010年2月1日停止[出典 4]、電気出力250MW
- スーパーフェニックス (Superphénix) - 実験炉、1977年着工、85年臨界、98年閉鎖、電気出力1240MW
- (スーパーフェニックス2 (Superphénix II) - 計画中止。
- アストリッド(ASTRID) - 実験炉、2012年技術仕様決定、2020年運転開始予定。
イギリス
- DFR - 実験炉、1955年着工、59年臨界、77年閉鎖、熱出力15KW
- PFR - 原型炉、1966年着工、74年臨界、94年閉鎖、電気出力250MW
- CDFR - 商業実証炉、計画中止。現在高速増殖炉の開発計画は存在しない。
ロシア(旧ソ連)
- BR-1 - 実験炉、運転終了
- BR-2 - 実験炉、運転終了・閉鎖
- BR-3 - 実験炉、運転終了
- BR-5 - 実験炉、のちにBR-10に改造。運転終了
- BOR-60 - 実験炉、1965年着工、69年臨界、熱出力12MW
- BN-600 - 原型炉、1970年着工、80年臨界、電気出力600MW
- (BN-600M - 原型炉、計画中)
- BN-800 - 実証炉、1986年着工、1990年から2001年まで工事中断後に建設再開、2014年運転開始予定。電気出力予定800MW
- (BN-1200 計画中)
- (BN-1600 計画中)
- (BNM-170 計画中)
- (BREST-300 計画中) 鉛冷却高速炉
- (BREST-1200 計画中)鉛冷却高速炉 商用炉レベルの実証炉として2020年頃の運転開始を目標としている。
カザフスタン(旧ソ連)
- BN-350 - 原型炉、1965年着工、72年臨界、電気出力150MW
ドイツ
- KNK-Ⅱ - 1975年熱中性子炉のKNK-Ⅰより改造した実験炉、77年臨界、91年8月閉鎖、電気出力20MW
- SNR-300 - 原型炉、1973年着工、91年3月計画中止、電気出力予定327MW
- SNR-2 - 実証炉、計画中止。現在高速増殖炉の開発計画は存在しない。
イタリア
- PEC - 実験炉、1976年着工、87年計画中止、電気出力予定120MW。現在高速増殖炉の開発計画は存在しない。
欧州
フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、ベルギーの国際プロジェクトで、商業実証炉 EFR により2010年代の運転を目指していたが、設計研究終了後の1993年に計画中止となった。現在高速増殖炉の開発計画は存在しない。
インド
国内に豊富に存在するトリウムの有効利用を考慮した独自の核燃料サイクルを目指している。フランスの技術を導入した[出典 5]。
- FBTR - 実験炉、1976年着工、1985年臨界、電気出力13MW
- Kalpakkam PFBR - 原型炉、2012年商業運転開始予定、電気出力予定47MW
- (2023年までに4基の高速増殖炉を建設予定)
中国
ロシアの技術を導入して開発を行っている。
原型炉、実証炉は計画中であり、商用炉は2030年頃の運転開始を目標としている。
韓国
- KALIMER-600 - (原型炉、概念設計終了)商用炉は2040年頃の運転開始を目標としている。
注記
出典
関連項目
テンプレート:原子炉- ↑ 高速増殖炉 (03-01-01-01) - ATOMICA
- ↑ 「常陽」の実績から考察した高速炉の放射線管理 保健物理 Vol.30 (1995) No.1 P19-26
- ↑ GNEP
- ↑ GNEPプロジェクトに参加する19か国の内訳は、米国、台湾、フランス、日本、ロシア、オーストラリア、ブルガリア、ガーナ、ハンガリー、ヨルダン、カザフスタン、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロヴェニア、ウクライナ、イタリア、カナダ、韓国である。
- ↑ 三菱重工業は米国エネルギー省 (DOE) と原子力GNEP計画の契約を締結
- ↑ 三菱重工と日本原燃 高速炉、米で合併 仏アレバと国際標準狙いテンプレート:リンク切れ
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 金属ナトリウムが漏出したときのために、循環系の設置される区域は窒素ガスが充填される。そのため、人間が容易にその区域に入ることが出来ず、緊急時のメンテナンス性が損なわれている。
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ プルトニウムが核兵器の原料となる危険があり、米国のカーター政権が高速増殖炉から撤退することを決めたのは、プルトニウムの拡散防止が理由の一つであった
- ↑ 兵器級プルトニウムによって高性能な核兵器を作る目的だけに限らず、核廃棄物をばら撒く「ダーティボム」(汚い爆弾)としてなら、使用前・使用後にかかわらずあらゆる核物質が利用される恐れがある。
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ テンプレート:PDFlink
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