気象庁精密地震観測室
気象庁精密地震観測室(きしょうちょう せいみつじしんかんそくしつ)は、長野県長野市松代地区の舞鶴山の南山麓の松代大本営跡にある地震観測所で、日本最大級の地震観測施設である。2014年4月1日松代地震観測所に改称された。
正式名称は気象庁地震火山部地震津波監視課松代地震観測所(きしょうちょう じしんかざんぶ じしんつなみかんしか まつしろじしんかんそくしょ)である。
概要
海岸からの距離が遠く波浪の影響を受けない、大都市から距離があり生活振動の影響を受けにくい、安定した岩盤(閃緑ひん岩と黒色頁岩)があるなど高感度地震計の設置に適する立地を生かし、1947年に中央気象台松代分室が設置され地震観測が始まった。1965年8月3日から始まった松代群発地震で貴重なデータを採取するなど、日本における地震観測研究の中心的組織である。
包括的核実験禁止条約(CTBT)に基づく地下核実験の探知も行っており、ここの地震計で観測されているデータはオンラインでウィーンにあるデータセンターに伝送されている(核爆発による人工地震は自然現象と波形が異なる)。なお、松代に核実験の震動波が到達するのは日本時間の夜間に多かったため、より高精度な観測が行えた[1]。
米国地質調査所 USGS が運営する LISS(Live Internet Seismic Server)と、 IRIS が運営する BUD (Buffer of Uniform Data) のデータをインターネット経由でリアルタイムで取得し、全世界の地震の震源や規模(別名:松代マグニチュード[2])を高精度で決定し気象庁本庁に通知する。
なお、気象庁精密地震観測室と同じ松代大本営跡に松代地震センターがあるため、気象庁精密地震観測室と松代地震センターが混同されることがある。任務も関連しているものの両者は全く別組織であるが、松代地震センター長は気象庁精密地震観測室長が兼務する。
沿革
- 1944年11月11日 大本営の移転工事開始(1945年8月15日、日本の降伏により工事中止)。
- 1947年5月1日 予定地の洞窟に「中央気象台松代分室」を設置。
- 1948年2月13日 「中央気象台松代地震観測所」に改称。
- 1949年5月7日 ウィーヘルト地震計による観測開始。以後各種地震計、傾斜計を設置して観測。
- 1949年6月1日 「地震観測所」に改称。
- 1950年8月1日 1トン長周期地震計による観測開始(すす書き記録)(1966年4月11日 観測終了)
- 1951年4月1日 百葉箱設置。気象観測開始。
- 1953年9月3日 石英ガラス管伸縮計による観測開始。
- 1965年
- 1967年2月8日 「松代地震センター」(関係省庁、地震観測所と長野県による協議体)設立。
- 1983年4月1日 群列地震観測システム運用開始。
- 1988年9月1日 STS-1型超広帯域地震計による観測開始。
- 1992年4月1日 震度計による計測震度観測開始。
- 1995年4月1日 「気象庁地震火山部地震津波監視課精密地震観測室」に改称。
- 1996年3月21日 計測震度計の機能強化。
- 6月25日 STS-2型地震計による観測開始。
- 1997年11月28日 群列地震観測システムに中尾根観測点を増設し運用開始。
- 2001年10月3日 多点大口径アレイシステム(SATELAA)を用いた遠地地震震源計算の試行開始。
- 2003年7月29日 LISS(Live Internet Seismic Server)を用いた遠地地震震源通報の試行開始。
- 2005年3月28日 北西太平洋津波情報センター業務の支援開始。
- 2007年10月30日 群列地震観測システム伝送装置・処理装置更新
- 2008年3月28日 ボアホール型広帯域地震計整備
- 2014年4月1日 松代地震観測所に改称
組織
室長の下、主任研究官と研究官、および観測係、調査係、総務係が置かれている(2006年7月現在)。
任務
- 中規模以上の地震の精密観測および通報。
- 地殻変動の観測。
- 地震観測機器の保守と試験および改良。
- 各種調査研究業務。
- 地震観測報告の刊行および配布。
- 国際協力
- 包括的核実験禁止条約に基づく共同観測
- IRIS(Incorporated Research Institution for Seismology) の日本観測点。
- 気象庁地震火山部、アメリカ地質調査所等に対する地震観測の報告。
主要観測機器
- 短周期地震計
- 短周期上下動地震計
- 長周期地震計
- 90型計測震度計
- 群列地震観測システム(MSAS) - 直径 10kmの円周上に7地点、ほぼ中央に2地点の合計9地点に高精度の地震計を配置し、データはコンピュータ処理され、「1観測点で捉えられない微弱な地震波を検出」、地震波の到達時間の差から「震源の距離と方向、規模を求める」などを行う[3]。
- 石英管式水平歪み計 2基(東西、南北) 各100mの長さ。(4m の石英管を25本連結)
- 水管傾斜計
- 電磁式強震計、(機械式強震計は運用終了)
- STS-2型地震計
- ボアホール式広帯域地震計 CMG-3TB[4]。設置深さは、705m。
- 加速度計 CMG-5TB
資料館のおもな展示物
- ウィーヘルト(Wiechert)式地震計
- ガッチリン地震計
- 大森式地震計
- ミルン式地震計
- 世界標準地震計(USCGS:米国沿岸測地局)により1965年に設置、1980年代後半の STS 地震計設置まで運用。
- ベニオフ式短周期地震計 - 固有周期1秒
- プレス・ユーイング式長周期地震計 - 固有周期15秒
- 石本式高倍率地震計(56型高倍率地震計)
- ウッド-アンダーソン式地震計
- 簡単地震計(1940年以前の主力機)
- 普通地震計(1950年台の主力機)
- 59型光学式電磁地震計
- 59型直視式電磁地震計、59B型(派生形)
- 61型直視式電磁地震計
- 67型電磁地震計
関連項目
脚注
- ↑ 松代地震観測所での地下核実験の観測能力について気象庁地震観測所技術報告 第9号
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ 群列地震観測システム
- ↑ ボアホール地震計の設置について 気象庁精密地震観測室技術報告 第26号