デスヴォイス
デスヴォイスもしくはデスボイスとは、意識的、積極的に出す「ダミ声」「悪声」「がなり声」であり、主にデスメタル、ブラックメタル、グラインドコア、ゴシックメタル、メタルコア、スクリーモなどのジャンルで多用される発声技法[1]。強い怒りや悲しみなどの感情や、不気味さ、汚さ、痛みや苦しみなどを表現するために使われる。
概要
デスヴォイスのことをデス声とも呼ぶが、通常の歌唱法はクリーンボイスと呼ばれ、しばしば対置される。日本ではデスメタルの歌唱法という意味でデスヴォイス(デス声)と言われるが、英語圏で"death-voice" という呼び方はしない。代わりにグロウル, グラント、高音の叫び声はスクリーチなどと呼ばれている[2]。「グロウル」、「グラント」は日本でも使われる事がある。
発声の際に口蓋帆や舌(の後ろ側)、仮声帯などで声道を狭めそれらを振動させることで「デスヴォイス」が形成されることが多い。(声帯自体の働きで)嗄声を故意に出して(本来はシャウト)デスヴォイスとする場合もある。ピッチシフターやエフェクターを用い、雰囲気を増強する場合もある。
ゴアグラインドシーンでは初期カーカスのようなピッチシフターを使った低音デスヴォイスが定着しており、俗に下水道ボイスと呼ばれている。
ナタリー・パーセルは「デスメタルバンドのヴォーカリストの大半は低くて、獣のようで、もはや歌詞が聞き取れないようなグロウルを使っていますが、中には高い叫び声やオペラのようなヴォーカル、力強い歌い方も出来る人が大勢います。」と述べている[3]。社会学者のデーナ・ヴァインシュタインはデスメタルについてこのように語っている。「グロウルを使うヴォーカリストはある特徴を持っています。歌詞を歌うと言うよりもがなったり、うなったりしているのです。つまり、声の歪みを広い意味で使っているといえるでしょう。[4]。」
グロウルはその響きの"汚さ"故に批判にさらされることもある[5]。しかし、グロウルはデスメタルという音楽ジャンル自体のおぞましさや扱っている不穏なテーマに対応したものにすぎない[5]。
歴史
正確な時期を指摘するのは難しいが、デスヴォイスが定着したのは1980年代中頃に発生した初期のデスメタル、グラインドコアのシーンにおいてであるといわれている。デスのチャック・シュルディナーやカム・リーがそのパイオニアであると考えられている。ポゼスト、ネクロファジア、マスターなどもデスヴォイスをはじめて取り入れたバンドとして考えられている。同時期に、ヘルハマーやマサカーなどもグロウルに似た歌唱法を取り入れていた。ヴォーカリストのニック・バレン、リー・ドリアン、マーク・バーニー・グリーンウェイを擁したイギリスのグラインドコアバンドナパーム・デスはより攻撃性などを取り入れたり、歌詞を早口で歌ったりすることで、1980年代後半にテクニックの進歩に寄与した。その他の代表的な人物としてはオビチュアリーのジョン・タ-ディ、カーカスのビル・スティアーなどが挙げられる。カンニバル・コープスのクリス・バーンズ、サフォケイションのフランク・ミューレン、元クリプトプシーのロード・ワームは低音のうなり声を得意とし、これは現在のガテラルボイスと呼ばれる歌い方につながっている。 また限定的ではあるがスレイヤーのHell Awaits (1985年)の一部ではピッチシフトを使ったデスヴォイスを聴くことが出来る。 現在は一曲通してデスヴォイスを使うこともあるテスタメントのチャック・ビリーはThe Legacy (1987年)において部分的に通常よりさらにドスの効いた、現在のデスヴォイスに近い声を使っていた。
技法
グロウルを正しく出すには横隔膜や喉を正しく使うことが必要である。喉を絞めようとすると、グロウルの勢いは弱くなってしまう。ヴォーカリストの中にはアスキング・アレクサンドリアのダニー・ワースノップやブリング・ミー・ザ・ホライズンのオリヴァー・サイクスなどのように、喉に力を入れすぎて痛めてしまうものもいる。オランダのRadboud University Nijmegen Medical Centreのレポートによれば、グロウルを行う人が増えたせいで、間違った方法により声帯に浮腫やポリープを作ってしまう患者が増えたという[6]。アメリカ合衆国ではアーチ・エネミーやスリップノットのヴォーカルトレーナーであるメリッサ・クロスなどが正しい発声法の指導にあたっている[7]。