球種 (野球)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2014年7月11日 (金) 17:26時点における75.157.142.34 (トーク)による版 (不正投球: バーリー・グライムス)
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先: 案内検索

球種(きゅうしゅ)とは、野球において投手打者に投じたボールを変化の方向・球速・回転などにより分類したものである。各球種の詳細な説明は、各リンク先を参照。

フィクションに登場する魔球についてはここでは扱わない。魔球を参照。

概要

球種の名称は握りや投げ方に準じて名付けられる場合と変化の特徴から名付けられる場合が多い。それに応じて#分類も行なわれる。ただし、これらは厳密に定義されているわけではなく、同じ球種であっても投手によって投法や変化に差異があったり、同一投手の同一球種であっても見るものによって解釈の違いから異なる球種として認識されることもある。特に、細かな分類となると境界線や区別が非常に曖昧である。また、時代の変化によって名称が変わったり、細分化され明確に区別されたり、或いは一纏めにされることも多々ある。さらに日米においても球種に対する認識が大きく異なる場合があり、名称や分類の仕方に大きな差異が見られる。

原理

空中に投げられたボール重力の影響で放物線を描く軌道となるが、ボールに回転をかける事でマグヌス効果など様々な力が影響してボールの軌道が変化する。他にボールの回転を少なくしたり、無くす事で通常とは違う変化を起こさせるものもある。ボールの回転と変化については流体力学による研究なども行なわれている。

マグヌス効果

ボールが進行方向に鉛直な回転軸を持って回転している場合は重力以外にマグヌス効果が発生する。マグヌス効果によればボールが前進する事によって受ける向かい風とボールが回転することによって生まれる循環流れが干渉することで、進行方向に対して鉛直方向の揚力が発生してボールの軌道が変化する。そのため、回転をかける方向によって変化する方向が決定される。バックスピンをかければ上向き方向の揚力が発生して自由落下の影響を抑え、直線に近い軌道を描く球筋となる。この効果が大きいと打者に球が浮き上がるような錯覚を与え、体感速度も上がり、いわゆる伸びのある球となる。横回転であれば横向き方向の揚力が発生して、上から見て時計回りであれば右方向(右投手であればシュート)、反時計回りであれば左方向(右投手であればスライダー)へ変化するボールとなる。トップスピンであれば下向き方向の揚力が発生して放物線よりさらに落下する軌道になる。回転がバックスピンと横回転の中間やトップスピンと横回転の中間などであれば揚力は上向きと横向き、下向きと横向きなどに割り振られる事になる。縦に変化するカーブなどはトップスピンと横回転の中間の回転を持つ球である。また、野球のボールにある縫い目(シーム)がマグヌス効果を増幅させている。回転方向に対して垂直に現れる縫い目はボールの向きによって変わり、1回転で長い縫い目が均等な間隔で4回現れるものがフォーシーム(four-seam)と呼ばれる。野球のボールの構造上、フォーシームが最も効果を増幅させるものである。回転数が多いほどマグヌス効果が強く発生して大きな変化が生じる。一般的な直球や変化球で毎秒30回転程度であるが、非常に回転の多いもので40回転以上の球を投げる投手もいる。逆に回転を少なくして(毎秒10~20回転程度)マグヌス効果の小さくすることにより直球に対して落下の軌道となるものがフォークボールやチェンジアップである。これらは直球と比較して落下の軌道である。ボールの変化量はボールの回転数などに依存するが、球速によっても変わる。球速が速ければ重力やマグヌス効果を受ける時間が短くなり変化は小さいものとなる。球速が遅ければそれだけ重力やマグヌス効果を長く受けて大きく変化する。

無回転

ボールがほとんど回転していない場合(毎秒1回転程度)はマグヌス効果は発生しないが、ボールの進行方向に対する縫い目の位置によるボールの後流の変化が大きな影響を及ぼし、揚力と抗力が発生して軌道を変化させる。ボールが僅かに回転することで縫い目の位置が変化して上下左右に後流が乱れてボールが不規則に変化する。また、縫い目の位置によって後流の大きさも変化する為に減速効果も変化してボールの速度も乱れることになる。ナックルボールや無回転のフォークボールなどの変化がこれにあたる。ボールの回転が多い場合は縫い目の入れ替わりが速過ぎて一様な状態に近くなり、この効果はほとんど現れない。

減速

空中に投げられたボールは空気抵抗を受けて徐々に減速する。空気抵抗の大きさはボールの後流の大きさに影響を受けるが、ボールの後流はボールが回転することで小さくなる。このため、回転しているボールは減速が小さく、回転していないボールは減速が大きい。

投げ方

ボールの握り方は球種によってそれぞれ異なるが、同じ球種でも投手によって握りが違う。これは投法や手の形などの個人差から適した握りも変わってくるためである。球種によって体の使い方も異なり、シュートなどは体を開くほうが回転をかけやすいが、逆にスライダーなどは体を開くと難しくなり、同じフォームから共に大きく変化するスライダーとシュートの両方を投げる事は難しい。また新たな球種を習得したために、それに適したフォームに変わって元々投げられた他の球種を投げられなくなる場合もある。腕の角度などの要因からオーバースロースリークォーターサイドスローアンダースローといった投球フォームによってそれぞれ投げやすい球種や変化させやすい球種が存在する。また、1人の投手が同じ球種を変化の程度・角度・球速などを変えて投げ分けることも多い。

分類

球種は変化の方向・球速・回転などにより、以下のように大きく分類される。

  • 速球:球速が速い球種全般を示す。直進するものや変化するものがある。英語ではファストボールと訳される。
    • 直球:真っ直ぐストレートとも言う。直線的な軌道の速球。フォーシームファストボールを示すが、速球と同義で使われる事も多い。英語ではストレートは棒球を意味する。故に速球をストレートを呼ぶことはない。
    • くせ球:癖球あるいは曲球と書く。直進せずに小さく変化する速球を示す。一般的には変化球と呼べるほどの変化ではないと認識されているが、球種によっては変化球として認識されることもある。
  • 変化球:曲がったり、落ちたり、直球とは異なる軌道を描くもの。
    • ブレーキングボール:変化球のうち軌道が急に変化するもの。この場合のブレーキの綴りは止まるという意味の「brake」ではなくて、割れる・壊れるという意味の「break」であり、軌道が急激に変化することを表している。
    • チェンジアップ:球速が遅く、速球と球速差があるもの。

球種一覧

以上は速球のバリエーション。

  • カット・ファストボール:カットボール或いはカッターと略される。ボールを切る(カットする)様に投げ、速い球速で小さく変化する球種。
  • スプリットフィンガード・ファストボール:スプリット、スプリッター或いはSFFと略される。フォークよりも浅く挟んで投げ、速い球速で縦に落ちる球種。高速フォークとも呼ばれる。
  • シュート:投手の利き腕方向に曲がる球種。特に速度の速いものは高速シュートとも呼ばれる。
  • シンカー:投手の利き腕方向に曲がりながら落ちる球種。アジア圏以外ではシンキング・ファストボールの略称。速度によって高速シンカーやシンカーチェンジなどの派生がある。スクリューボールとの違いについては当該記事を参照。
  • スライダー:投手の利き腕と反対の方向に滑る(スライドする)ように曲がる球種。また、ジャイロ回転などで縦に落ちる物は縦スライダーと呼ばれ、スライダーの一種とされている。派生として高速スライダーやマッスラなどがある。
  • カーブ:遅い球速で投手の利き腕と反対の方向に曲がりながら落ちる球種。握りや速度、変化の方向などによってスローカーブ、パワーカーブ、ドロップ、ナックル・カーブなどの派生がある。
  • スラーブ:スライダーとカーブの中間的な球種。投手の利き腕と反対の方向に大きく変化する。
  • スクリューボール:投手の利き腕方向に曲がりながら落ちる球種。シンカーとの違いについては当該記事を参照。
  • フォークボール:人差し指と中指の間にボールを挟んで投げ、縦に落ちる球種。
  • チェンジアップ:速球と同じ腕の振りで投げる遅い球。握りによってサークルチェンジ、バルカンチェンジなどの派生がある。
  • パームボール:手の平(パーム)で押し出すように投げ、縦に落ちる球種。
  • スローボール:非常に遅い速度で、山なりの軌道を描く球。
  • ナックルボール:ボールに指を突き立てて投げ、ほぼ無回転で不規則に揺れながら落ちる球種。
  • ジャイロボール:ボールの進行方向に回転軸が向いているのが特徴。マグヌス効果による揚力が発生しないためにフォークボールによく似た放物線の軌道を描く。

関連用語

  • 決め球(ウイニングショット):3つ目のストライクを奪う時に投げる球のこと。投手が得意とする球を投げる事が多い。そのことから投手が最も得意とする球を示すこともある。
  • 見せ球:速い球を投げる前の布石として投げる遅い球や内角に投げる前の布石として外角に投げる球などのこと。打者の感覚や意識を狂わせる目的の球であり、ストライクゾーンには入れず、敢えてボール球を投げる事も多い。
  • 釣り球:打者のスイングを誘うボール球。意図的にストライクゾーンから外して投げた球でスイングを誘い、空振りや凡打を狙う。
  • 持ち球:その投手が投球可能な球種。
  • 荒れ球:制球が定まらないこと。それ自体は良いことではないが、主に速球派投手の球が荒れて、ストライクゾーンの上下左右に適度に散らばることで、投手の狙いとも打者の予想と全く異なるところへボールが来ると、逆に打ち辛くなることもある。これを意図的に利用して活かすピッチャーも居る。
  • 逆球:狙ったコースと逆のコースにいった球。キャッチャーの構えたコースと違うので捕球が難しい。

不正投球

日本の野球界では2000年6月のブライアン・ウォーレン投手を巡る騒動のように激しく糾弾される不正投球だが、メジャーリーグベースボール (MLB) ではルール上の厳しい罰則は規定されているものの、実際の適用に関しては甘い。

古くから下記のような不正投球は禁忌とされるほどの行為でなく「見破れなかった相手が悪い」「やるならバレないように使うのが礼儀」程度に認識されており、不審を感じた相手チームから激しい抗議があろうとも、審判が現行犯で証拠を押さえない限り、退場処分が下ることは滅多に無い。 同じ不正行為でもドーピング問題のそれとはファンや関係者たちからの扱いにも大きな温度差がある。

最も顕著な例として、ゲイロード・ペリーは以下で述べるスピットボール、エメリーボールの常習者として現役時代から非常に有名な選手だったが、両リーグでサイ・ヤング賞を受賞した史上初の投手となり、野球殿堂にも表彰され、2005年にはサンフランシスコ・ジャイアンツ時代の背番号36が球団の永久欠番となった。他にも、2008年に引退を表明したトッド・ジョーンズも現役時代から「自分は松ヤニを使っている」と公言するなど、メジャーリーグにおいて不正投球はしばしば行われている。[1]

エメリーボール(emery ball)
砂・やすり等の道具や爪等でボールに傷を付けて投げる。滑らなくなることで激しい回転がかかり、空気抵抗にも影響し大きく曲がるようになる。
スピットボール(spit ball)
指やボールにを付けるなどして投げる。唾の代用として、帽子の庇に塗るなどで隠し持った松脂や髭剃りクリーム、自らの後ろ髪等に多めに付けた整髪用ジェル、耳たぶの中や裏に隠し塗ったワセリン、口内に仕込んだ歯磨きペーストなどの粘液などを付ける。滑ることでナックルボールのような無回転状態に近くなって不規則な変化が起きたり、直球と逆の回転をさせて下方向の揚力を生み、大きく落ちる変化をつけられる。
MLBでは当初不正ではなかったが、スピットボールによる死亡事故が発生したことにより、1920年から禁止とされた。ただしその時点で持ち球としていた選手(バーリー・グライムスなど)には例外的に認められた。
日本でも慶應義塾大学などで活躍した新田恭一が1930年頃、このスピットボールを投げていたと古い文献に記述されている[2]。竹中半平著『背番号への愛着』には、新田を「日本では最後であり唯一であったかも知れぬスピット=ボール投手」と書かれている[3]
マッドボール(mud ball)
グラウンドの土を付け、これを滑り止めとして投げる。マッドボールを投手に与えないよう捕手にワンバウンドキャッチされたボールは速やかに交換されるが、わずかに付いただけの場合は捕手が主審に判断を求め、問題なしと判断されれば土を拭って使用続行となる。
シャインボール(shine ball)
使いすぎて磨り減りピカピカになったボールの事で、試合中にたびたび新しいボールへ交換するようになった現在のプロの試合では見られない(ファウルボールはスタンドに飛び込んだもの以外、全てボールパーソンが回収する)。ボールが磨り減ると空気抵抗が変わるため奇妙な変化をすることがある。

慣用句

比喩表現として、ビジネス会議における交渉術・発言の仕方や人間性格を指す場合に使用されることもある(例:「発言の場で、変化球を投げつける」「あの人は直球勝負の人だ」など)。

この場合の「変化球」とは「どういう過程でも捕手のミットに納まる」ということから、結論は同じなのに回りくどいことを言うこと、あるいは相手の意表を突く論理を用いることを指すものであり、的外れなことを言っている場合には普通使われない。一方、「直球勝負」とは策を弄したり根回しを行なったりせず正論だけで何かを成し遂げようとすることを示し、前述の変化球と反対語ではない。後者はしばしば使われる言葉である。

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:野球
  1. MLB Column from East-ケニー・ロジャース「不正」投球疑惑
  2. 腰本寿、私の野球、三省堂、1931年/ 覆刻版:恒文社、1978年、106頁
  3. 竹中半平『背番号への愛着』あすなろ社、1978年、31頁