性犯罪
性犯罪(せいはんざい)とは犯罪のうち、強姦など性に関わるもの。
目次
概説
他人の自由を奪う性犯罪としては、暴行又は脅迫により行われる性犯罪である強姦が代表的なものである。また社会の風俗を乱す性犯罪として、公然わいせつ、わいせつ物陳列などがある。性犯罪の被害にあっても、世間体をはばかり恥と考えたり、報復をおそれたりして、訴え出ない場合(暗数)が多いと言われる。日本でも[1]、海外でも[2]、軽い性犯罪を届け出ない場合(暗数)は多い。
参考として警察庁の資料をみると、下記のように暴力的性犯罪という分類がみられる[3]。ただし、他の報告では強姦、強制わいせつを性犯罪と呼んでいる箇所もあり、統一した定義というより、統計上の便宜的な定義のようである。
分類
- 暴力的性犯罪
- 強姦、強制わいせつ、強盗強姦、わいせつ目的略取・誘拐
- それ以外の性犯罪
- 色情狙いの窃盗(下着泥棒など) 、公然わいせつ、児童への性的行為(児童福祉法、児童ポルノ禁止法)、淫行(青少年保護育成条例、いわゆる淫行条例)、のぞき・つきまとい(軽犯罪法・ストーカー規制法)、盗撮(迷惑防止条例)、卑猥な行為(迷惑防止条例)
痴漢は刑法の強制わいせつ、または迷惑防止条例などで摘発される。
性犯罪をめぐる現代的な問題点
被害者の合意をめぐる問題点
被疑者・被告人となった者が合意を主張する場合、被害者および検察側が強いられる立証の困難の問題がある。
- 性犯罪の多くは、知り合いの間で発生していることから、性行為に至る経緯を詳細に調査しないと、合意の有無を判断することは難しい。また、単純に、性行為が行われる状況では、通常、目撃者が少ないといった問題もある。
- 強姦被害者が法廷や取り調べの場で、加害者につけいる隙をつくったか否かを詮索されたり、被害者が異性との交友関係、性体験の有無について詮索されることがあるという指摘があり、実際、裁判実務上でも、このような例は後を絶たないと指摘される。
- 性的同意年齢に満たない13歳未満の子供が被害者である場合は合意の有無に関係なく犯罪であるとされる。しかし被害児童の性に対する知識不足や証言の信憑性に対する疑いから、明確な物的証拠(例えば被疑者の体液が残留していたり犯罪行為をビデオなどに記録した物が押収されるなど)がないと、犯罪行為の有無自体の立証が難しいケースが多い。そもそも被害児童に自分が犯罪の被害者になったという認識自体がない場合が多く、犯罪行為自体がなかなか発覚しにくいという問題がある。これについては早期の性教育を行うことで、子供に自身が性的搾取から保護されるべき権利主体であることを認識させようとする動きがある一方、子供が性知識を持つことに難色を示す意見もある。
「第二の被害」
法廷や取り調べで被害者がフラッシュバックを起こしたり、証言・陳述の内容がレイプや性的被害の再現であったりする場合の被害者の精神的苦痛は、第二の性的被害(セカンドレイプ、セカンドハラスメント)と呼ばれて問題視されている。
法廷において加害者側の弁護士が、あたかも「被害者側に原因があった(性的に挑発的な服装や行動をしていた)」かのように弁明したり、被害者側の性的交渉の経歴等を執拗に追求や公表をしたりと、その法廷戦術が問題になることがしばしば見られる。
また、警察制度において被害者への対応は女性(性犯罪捜査指導官や性犯罪捜査指定官)が行ったり、科学警察研究所などが被害者から聞き取り調査を行ったり、司法制度において「性犯罪の告訴義務期間[4]撤廃」「遮へい措置」「「ビデオリンク方式」「心理カウンセラーの証人付き添い」「被害者特定事項の秘匿」など、被害者へ配慮する制度が整備されるなどの改善への兆しはみられるようになってきている。
セカンドレイプなどと批判される法廷での証言や取調べも、多くは正確な事実認定や反対尋問権の要請に基づくものである。
また、裁判員制度導入以降、検察側は裁判員選出過程において被害者に配慮し、下記に該当する裁判員(補充裁判員も含む)を忌避(不選任請求)している。
- 被害者が候補者名簿を見て知人の可能性を指摘した人
- 被害者と居住地域が同じ人
- 被害者と学校や職場が同じ人
しかし、除外対象者が、裁判員法で忌避(不選任請求)可能な人数を超過したためとして、そのまま裁判員候補に選任されてしまった事例がある[5]。引用の事例では、被害者と面識のある者はいなかったとされるが、被害者の知人を裁判員対象から忌避できない可能性が指摘されており、「第二の被害」の新たな可能性が懸念されている。
再犯について
性犯罪者の再犯率は一般刑法犯に比べ高いとの誤解があるが、性犯罪者が再び性犯罪を犯す確率は他の刑法犯と比べて低いとの調査結果が出始めている[6]。日本に限らず欧米でも広く誤解されていたが、近年見直されつつある。また、それに対する反論意見も存在する[7]。このような一部グループによる誤解を招く情報を、米の社会学者は「性犯罪者の悪魔化」と呼ぶ[8]。
警察庁では(全一般刑法犯に対する、年次変化を含むような)「再犯率」のデータは公表していないが最近では、犯罪白書などに一部、再犯率の調査結果が公表され始めている。
平成19年の犯罪白書によると、再犯率が高い犯罪の代表として、薬物犯罪、窃盗、暴行罪・傷害罪が挙げられており[9]、初犯が性犯罪であった者のうち30.0%が再犯に及んだ。そのうち再犯の中に性犯罪を含む者は5.1%であった。性犯罪を3回以上繰り返した者は、1犯目の裁判時の年齢が20歳代であった者が大半である。性犯罪に及ぶ傾向の強い者は若年時に最初の性犯罪に及んでいる。1犯目が性犯罪の者がその後再犯に及んだ者の比率(30.0%)は、全体の比率(28.9%)を上回っている。しかし、同種再犯を犯した者の比率(性犯罪5.1%)は、窃盗(28.9%)覚せい剤取締法違反(29.1%)傷害・暴行(21.1%)詐欺(11.0%)に比べて相当低い。また、2犯目以降の罪名の傾向は、再犯者全体とほぼ同様である。性犯罪者の多くは他の犯罪者と異なる特異な資質を有しているわけではない。しかしその一方で、一部に性犯罪を多数回繰り返す者が存在することも判明している。これらの者は、特に性犯罪を繰り返す傾向が強いものと認められる。[10]。
平成11年から12年の出所者・保護観察者等に対する平成15年までの追跡調査では、性犯罪者は「集団強姦」「単独強姦」「わいせつ」「小児強姦」「小児わいせつ」の5類型に分類され各々、同一罪状と他の罪状についての再犯率が調べられた。その結果、同一罪状の再犯では、強姦・わいせつ共に、成人対象の性犯罪より小児対象の性犯罪の再犯率が高く、「集団強姦」は再犯率が低かった。他の罪状の再犯率については、「わいせつ」の再犯率が高くその他類型の再犯率はほぼ同程度であった。
一方、82~97年に摘発した子供への性犯罪の前歴者527人のうち警察庁が追跡調査できた506人の再犯状況を調べたところ、再犯者は約半数の240人だった。子供を狙った性犯罪も47人に上った。こちらの調査では、子供への性犯罪の再犯率の高さを傍証している。
ただ、性犯罪者の再犯性についてまだまだ十分なデータの分析及び蓄積がなされているとは言えない状況であるので、今後のデータの蓄積が望まれる。 性犯罪の再犯への対策のため、法務省は性犯罪処遇プログラムを策定した。[11][12]
2005年の警察庁の調査によると、2004年度に13歳未満の子供を対象にした強姦など暴力的な性犯罪の逮捕者の4人に1人が性犯罪の前歴があることが判っている。[13] 強姦、強制わいせつ、わいせつ目的略取・誘拐、強盗強姦の4罪種の逮捕者のうち前歴があったのは4割を超える193人。そのうち子供を狙った同様の事件を起こしていたのは74人で、再犯者率は15.9%。大人への暴力的性犯罪や下着泥棒などを含めた再犯者は120人で25.8%だった。性犯罪者の再犯率が決して高くないとされていたのは、それまでは同じ罪種での再犯しか集計しておらず、たとえば強姦の前歴者が強制わいせつ事件にかかわっても統計上は「再犯」とみなされなかったためと警察庁は分析をしている。しかし、上記記述でも分かるとおり、この統計は「再犯者率(再犯者数/逮捕者)」であり「再犯率(出所後再犯した者/刑期を終えた者)」ではない。
再犯率と再犯者率は統計上密接な関係にあるとする意見もある。有歴者(前歴N)が再犯(前歴N+1)する率を再犯率とした場合(時系列平均で)再犯率と再犯者率は一致する。また、有歴者(前歴1)の者が再犯者(前歴2)になる率のみを再犯率をとした場合は、再々犯者等を除き"狭義の再犯者"(2回目)のみについて再犯者とすれば(時系列平均で)再犯者率と再犯率は一致する(狭義の再犯者/初犯者)。
一方、犯罪者のうち一部の者だけが犯罪を繰り返せば、再犯者率と(後者の)再犯率が乖離するとの意見もある。事実、警察庁の統計値等を見ればどのような犯罪も前歴1より前歴2、前歴3の者の方が再犯(者)率は高い傾向がある。
主な性犯罪事件
日本
- RKB毎日放送記者集団暴行事件
- 赤坂日枝神社内巫女強姦事件
- 旭川女子中学生集団暴行事件
- 尼崎児童暴行事件
- 大米龍雲連続殺人事件
- 大阪姉妹殺害事件
- 沖縄女子中学生強姦殺人事件
- おせんころがし殺人事件
- 恩寵園事件
- 貝塚ビニールハウス殺人事件
- 川口強盗強姦殺人事件
- 関東連続少女殺人事件
- 北関東連続幼女誘拐殺人事件
- 京都大学アメフト部レイプ事件
- 金武老女暴行殺害事件
- クラブきっず事件
- 江東マンション神隠し殺人事件
- 小平事件
- 小松川事件
- 埼玉児童性的虐待事件
- 沙織事件
- 堺市雑居ビル女児絞殺事件
- 狭山事件
- JT女性社員逆恨み殺人事件
- 滋賀電車内駅構内連続強姦事件
- 静岡県窃盗強姦事件
- 首都圏女性連続殺人事件
- 首里幼女誘拐殺人事件
- 女子高生コンクリート詰め殺人事件
- スーパーフリー事件
- 聖神中央教会事件
- 西武新宿線冤罪事件
- 仙台女児連続暴行事件
- 尊属殺法定刑違憲事件
- 第一ホテル殺人事件
- 高崎小1女児殺害事件
- 千葉市中央区強姦事件
- チャタレー事件
- 東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件
- 富山連続婦女暴行冤罪事件
- 豊橋事件
- 十和田市2女性強盗強姦事件
- 長崎男児誘拐殺人事件
- 名古屋アベック殺人事件
- 奈良小1女児殺害事件
- 沼津OL強姦殺人事件
- 八丈島事件
- バッキー事件
- 光市母子殺害事件
- 広島小1女児殺害事件
- 福岡・佐賀連続児童猥褻事件
- プチエンジェル事件
- 米人英会話教師性的暴行事件
- 北海道・東京連続少女監禁事件
- 松山刑務所事件
- 三菱銀行人質事件
- 山口女子高専生殺害事件
- 四畳半襖の下張事件
- 米谷事件
- ルーシー・ブラックマンさん事件
- 連続少年切り付け魔事件
- 和歌山少年暴行事件
日本以外
- オーストラリア連続少年暴行事件
- カティフの強姦事件
- カトリック教会の性的虐待事件
- クイーンズランド性的暴行事件
- ゴードン・ノースコット事件
- ジェイシー・リー・デュガード誘拐事件
- ジョンベネ殺害事件
- デブラ・ラフェイブ事件
- ピトケアン諸島少女性的暴行事件
- フリッツル事件
- ペルージャ英国人留学生殺害事件
- リバーランド性的暴行事件
- 2012年インド集団強姦事件
性犯罪を主題とした作品
- 映画
- 『それでもボクはやってない』 - 痴漢冤罪を扱っている。
- 『ザ・レイプ』(東陽一監督、田中裕子主演。原作は落合恵子)
脚注
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 子ども対象・暴力的性犯罪の再犯防止対策について
- ↑ 親告罪は犯人を知ったときから原則として6ヶ月以内に告訴をしなければならない。
- ↑ 「同じ居住地域」忌避できず 裁判員の選任で 読売新聞 2010年3月10日
- ↑ Jurist No1361 守山正[連載 これからの犯罪者処遇]〔第5回〕性犯罪対策 2008年8月
- ↑ Jurist No1361 前田雅英「ユビキタス社会における犯罪の現状と青少年の保護」 2008年8月
- ↑ Amanda Matravers, “Setting Some Boundaries: Rethinking Responses to Sex Offenders”, Sex Offenders in the Community, Amanda Matravers (ed.), 2003
- ↑ 平成19年版 犯罪白書 第7編/第3章/第4節/1 法務省 2007/011/06
- ↑ 平成19年版 犯罪白書 第7編/第3章/第4節/5 法務省 2007/11/06
- ↑ 平成17年12月14日法務省矯正局・保護局性犯罪者処遇プログラムの実施について (PDF)
- ↑ 「矯正施設における性犯罪者処遇プログラムの具体的内容」(法務省矯正局) (PDF)
- ↑ 性犯罪、4人に1人前歴 警察庁が昨年分466人調査 朝日新聞 2005年3月4日