黒歴史
黒歴史(くろれきし)とは、アニメ作品『∀ガンダム』に登場した用語。物語中では、過去に起きた宇宙戦争の歴史のことを指す。
転じて、無かったことにしたい、あるいは無かったことにされている過去の事象を指すインターネット用語として用いられることもある。テンプレート:Main
概要
「黒歴史」とは、太古の宇宙文明時代に永きに渡って繰り返されていた数々の宇宙戦争の歴史の総称であり、『∀ガンダム』は黒歴史最後の大災害から復興し、数千年余りの時間をかけ、ある程度の生活・文明レベルを取り戻した「正暦」の時代の物語である。『∀ガンダム』では、黒歴史時代最後のガンダムである∀ガンダムによって地球圏全土にばら撒かれた「月光蝶」なるナノマシンの効果により、人類の文明は甚大な打撃を受け、産業革命以前のレベルまで衰退した文明の様子が描かれている。
黒歴史にはガンダムシリーズで描かれた物語全てが含まれる。『機動戦士ガンダム』の時代である「宇宙世紀」だけでなく、それまでは別系統の異なる世界観の作品という扱いだった『機動武闘伝Gガンダム』の「未来世紀」、『新機動戦記ガンダムW』の「アフターコロニー」、『機動新世紀ガンダムX』の「アフターウォー」なども含まれる。原作者富野由悠季は『∀ガンダム』において、「宇宙世紀」もそれ以外の作品群の世界観の歴史も全て包含し、「黒歴史」として一つの中に置くという新たな視点を示した。
なお、『∀ガンダム』の後年に制作された『機動戦士ガンダムSEED』の「コズミック・イラ」(『∀ガンダム』の前日談を描いた漫画『∀ガンダム 月の風』では、既に黒歴史に含まれていた)『機動戦士ガンダム00』の「西暦」、『機動戦士ガンダムAGE』の「アドバンスド・ジェネレーション」などの『ガンダムシリーズ』も黒歴史に含まれるかについて、富野は「(「∀」という記号は)以後ということも含めてあるので、『∀ガンダム』以降の作品についても認められるようになったわけです。『∀ガンダム』の時代に辿り着くまでには、あと100本の『ガンダム』を作っても余裕がある時間を作ってある[1]」と語っており、ガンダムプラモデル(ガンプラ)をテーマにした作品(『模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG』や『ガンダムビルドファイターズ』など)以外のガンダム作品は、これから将来制作されるであろう新たな『ガンダムシリーズ』も含めて、全て黒歴史の一部として包含されることとなった[2]。
黒には「不吉なもの、よくないもの」という意味の他に、全てを混ぜ合わせた色という観点から「全てを包含する」という意味もある。また「∀」とは「全ての」という意味の数学記号であり、この解釈では過去の作品群の総括をテーマの一つとした『∀ガンダム』の方向性と一致している。
作中でこれらを描写する時、決まって流された菅野よう子作の曲も「Black History」と名づけられている。この曲は、本作を象徴する音楽として関連作品でも多く用いられている。
劇中での描写
『∀ガンダム』の舞台となる正暦世界において、黒歴史は月の民たちの間でも限られた者しか、触れることは許されなかった。アグリッパ・メンテナーらメンテナー一族が管理を行っており、「冬の宮殿」において封じられていた。ムーンレィスと地球の人々との紛争の渦中、月の女王ディアナ・ソレルたちの前で黒歴史の記録映像として過去のガンダムシリーズの宇宙戦争が映された。
作中では、過去のガンダムシリーズと繋がっているかのような文物がいくつも登場する。また、「宇宙世紀」は『∀ガンダム』の時代・正暦2343年から約1万年前[3]の話であったらしい、ということが語られている。
記録映像中では、かつてニュータイプと呼ばれた人々を中心とする宇宙移民者たちは、歴史の半ばで地球圏と袂を分かち、スペースコロニーごと外宇宙へと新天地を求め去っていたことも語られている。さらに『月の風』によれば、彼らは空間跳躍技術を確立し、宇宙全土を舞台に文明の域を広げ、独自の進化を続けたという。その彼方の異文明から当時の地球へと偶然漂着したのがターンXであり、また、自らの意思で外宇宙から地球圏へと帰還を試みた一団が、後のムーンレィスの祖先達だったと語られている。
黒歴史の遺物には多数の技術の情報も残されており、地球の産業革命を志すグエン・サード・ラインフォードはギンガナム側に寝返ってまで、この技術を手に入れようと画策した。そして黒歴史は紛争終結後にディアナの意向により開放され、民衆の目に触れることとなった。
地球でも黒歴史の一部はマニューピチにてガンダムシリーズの始まりから世界の終わりまでを抽象的に物語ったもとして伝わっていたり、地域によっては『機動武闘伝Gガンダム』の劇中の顛末が神話として知られ、一方で第一級のテクノハザードである「DG細胞災害」としても記録が残っている[4])という。
福井晴敏著『月に繭 地には果実』では、「冬の城」のビジュアル・データ室でディアナが明かす黒歴史の範囲は『Vガンダム』までに言及しているものの、それ以降のアナザーガンダム作品については描写がない。また、映像と共にギレンやハマーン、シャアたちの演説が次々と流されていき、最終的にはファーストガンダムの映画版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』でのララァ・スンの言葉へと結実するという小説版独自の描写が為されている。
また、∀ガンダム本編では確かな描写こそないものの、SDガンダムシリーズの世界も包括しているという設定も存在し、企画段階ではSD体型のモビルスーツが発掘されるという案もあったと言われている[5]。
黒歴史の遺産
『∀ガンダム』の世界には、いわゆる超古代文明のロストテクノロジー(オーバーテクノロジー)として「黒歴史の遺産」と呼ばれる種々の機器が登場する。最も代表的なものは「機械人形」と呼ばれる巨人のような兵器で、これは黒歴史とされる過去の時代においてモビルスーツ(MS)と呼ばれていた人型有人機動兵器である。これは遠い過去に月光蝶によって埋葬され、『∀ガンダム』の時代において「マウンテンサイクル」と呼ばれる場所からほぼそのままの状態で発掘された。機械人形以外にも、移動要塞や宇宙戦艦などといった大型の乗り物も発掘されている。これらは科学力がムーンレィスに比べて大きく遅れている地球の人々の貴重な戦力として活躍している。
黒歴史の遺産としては、「ボルジャーノン」と呼ばれる「ザク」や、「カプール」にそっくりな姿をした「カプル」など「宇宙世紀」と呼ばれた時代の兵器が数多く発掘されている。他にも「ズサ」に似ている「ズサン」も登場している。また宇宙世紀以外の時代についても、型式番号がネオジャパン製MAの命名規則に従っているウォドムや型式番号の命名規則やコクピット構造が新連邦製のゴッゾーなどそれぞれの時代に使われた何らかのものに近いものが何らかの形で登場している。
そして月光蝶により過去の歴史を「黒歴史」として埋葬したとされている∀ガンダムとターンXの2機のMS、「黒歴史」時代から数千年以上に渡って地球軌道上に浮かび続ける軌道エレベータ「ザックトレーガー」など過去のガンダムシリーズにおいて描かれていない機器も「黒歴史の遺産」として登場している。
インターネット用語としての「黒歴史」
主に漫画やアニメに属する分野などを中心に、「無かったことにしたい事、またはされている事」などの意味で黒歴史という言葉が使われている。具体的には現在は他人に触れられたくない、あるいは自分でも恥ずかしく思う自分の過去などである。[6]
当初はアニメを中心とするサブカルチャーやそれに類する分野を中心に、それらのファンたちにより劇中用語を引用し隠語的に使用されていたものであったが、今では電子掲示板などで広く普及し、一種のインターネット用語として定着しつつある。[7]
もともと当事者あるいは第三者が何らかの事情で意図的に覆い隠したい過去という意味合いが強かった言葉であるが、俗語として広まる過程において、「誰の意図によるでもなく、いつの間にか忘れられたり風化したりしてしまったもの」を指す意味合いも加わっている。
その他の用法
英語での "Black history" は『∀ガンダム』とは無関係に同じ意味で使われているほか、「黒人の歴史」を意味することがある。なお、海外版∀ガンダムでは黒歴史の訳語として「Black history」ではなく「Dark history」が使われている。
北海道の沿岸バスでは開拓時代の囚人使役・タコ部屋労働や黒いダイヤと呼ばれる石炭を黒歴史となぞらえて、バスツアーを企画している。
関連項目
脚注
外部リンク
テンプレート:∀ガンダム- ↑ 『電撃PlayStation』2007年9月14日号付録収録「Re:Play」Vol.9 富野由悠季インタビューより
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ 劇場版では5000年前
- ↑ 『∀ガンダム記録全集』より
- ↑ ガンダムエース2007年6月号 安田朗『∀の思い出3』より。
- ↑ 黒歴史に関する意識調査
- ↑ 2013年9月8日の朝日新聞の天声人語では「黒歴史」を「人に言えない、知られたくない過去、なかったことにしたい失敗など」と定義し、由来は「人気アニメで使われていた用語が、意味を転じつつ俗語として広がった」としている。