コードウェイナー・スミス
テンプレート:Infobox 作家 コードウェイナー・スミス(Cordwainer Smith, 1913年7月11日 - 1966年8月6日)は、アメリカ合衆国生まれの、SFを中心として活躍した小説家。正体を明かさないSF作家として有名だったが、本名をポール・マイロン・アンソニー・ラインバーガー (Paul M. A. Linebarger)といい、ジョンズ・ホプキンス大学の教授としてアジア政策の教鞭を執っており、また軍人としても陸軍情報部の大佐を務めていた。
目次
筆名と作品
本名でも著作活動を行っており、そのうち『心理戦争』(原題:Psychological Warfare)がみすず書房から翻訳刊行されている。
別名にKarloman Jungahrなど多数。中国名である「林白楽」は、それを元にしたフェリックス・C・フォレストという名前でSFとはまったく関係のない作品を発表している。アンソニー・ビアデンという名前も使い、またカーマイクル・スミスという筆名でスパイ小説を書いている。最も有名な筆名は、このカーマイクル・スミスを変形させたものらしい。
フェリックス・C・フォレスト名義で書かれたものは、女性の一人称視点で語る実験的な作品で、当初彼は女性名義で出版しようと試みたが、当時は受け容れられなかったために自身の中国名をベースとしたこの名での出版となったらしい。この作品で注目されたものの、そこで読者と直接に会い、それを意識したためか却って同種の作品を書けなくなった彼は、その後は正体を隠すことにした。それが仮面の作家コードウェイナー・スミスの始まりである。
中国名である林白楽は、かの孫文がつけたものである。このつながりは、彼の父が孫文の法律顧問を務めていたことに由来する。父に連れられて少年時代を東洋で過ごしたことの影響か、東洋思想にも造詣が深く、それは幾つもの作品に反映されてもいる。
スミスを語る際に、猫を抜きにして語ることはできない。数本の共作を成した妻ジュヌイーヴと共に暮らした家には常に何匹もの猫が飼われており、作中では何度も重要な役割を与えられている。
人類補完機構
人類補完機構シリーズは、彼の作家としての仕事の中で最も大きな部分を占める。彼がSF作家として旺盛に活動していた期間は短いが、その間にも文体は変化しつつ、後の世代に大きな影響を残した。また、時系列に沿って書かれたわけではない一連の作品群の中では、同じ用語がいささかならず違った意味で用いられていることもある。
同シリーズにおいては各種の動物を改造し人間形態にした「下級民」が登場する。「ド・ジョーン」「イ・テレケリ」のように名前の最初に付く一文字のアルファベットは彼女ないし彼が何の動物から作られたかを意味する。ド(d)はdogのd、イ(e)はeagleのeである。
「人類補完機構」という日本語における名称は伊藤典夫の訳語であり、新世紀エヴァンゲリオンの「人類補完計画」はこれに由来する。だが元の言葉「インストゥルメンタリティinstrumentality」の直訳は「道具」「手段」である。スミス自身は宗教的な意味づけをしていたらしく、実際これは神との仲立ちをする「仲介者」すなわち聖職者のことも指す。作者の急逝によって書かれることのなかった同シリーズの最後は、人類と下級民共通の宗教的クライマックス(詳細は不明)であったらしい。
スミスの作品でひどく印象的なのはその言葉の使い方であり、タイトルである。ただしそのタイトルのいくつかは編集者がつけたものである。これらは本文の特徴的なフレーズから採られたものであり、彼の作品であることを端的に示すものとして非常に有効なものであった。雑誌なりアンソロジーで、作者名を見ずとも題名だけでスミスの作品であることが判るためである。
作品リスト
以下は基本的に早川書房から刊行されている日本語訳に基づく。括弧内は原題と、作品によっては別の邦題。
「人類補完機構」シリーズ(長編)
「人類補完機構」シリーズ(短編)
- 『鼠と竜のゲーム』 (The Best of Cordwainer Smith):短編集
- 「スキャナーに生きがいはない」(報いなき栄光、Scanners Live in Vain)
- 「星の海に魂の帆をかけた少女」(星の海に魂の帆をかけた女、The Lady Who Sailed The Soul):ジュヌヴィーヴ・ラインバーガー (Genevieve Linebarger)と合作
- 「鼠と竜のゲーム」(The Game of Rat and Dragon)
- 「燃える脳」(The Burning of the Brain)
- 「スズダル中佐の犯罪と栄光」(スズダル艦長の罪と栄光、The Crime and the Glory of Commander Suzdal)
- 「黄金の船が…おお! おお! おお!」(Golden the Ship Was...Oh! Oh! Oh!):ジュヌヴィーヴ・ラインバーガー (Genevieve Linebarger)と合作
- 「ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち」(Mother Hitton's Littul Kittons)
- 「アルファ・ラルファ大通り」(Alpha Ralpha Boulevard)
- 『シェイヨルという名の星』 (The Best of Cordwainer Smith):短編集
- 「人類補完機構年表」(Timeline from The Instrumentality of Mankind)
- 「コードウェイナー・スミスのこと」:ロジャー・ゼラズニイ (Roger Zelazny)
- 「クラウン・タウンの死婦人」(The Dead Lady of Clown Town)
- 「老いた大地の底で」(Under Old Earth)
- 「帰らぬク・メルのバラッド」(ク・メルのバラード、The Ballad of Lost C'mell)
- 「シェイヨルという名の星」(シェイヨルという星、A Planet Named Shayol)
- 『第81Q戦争』 (The Instrumentality of Mankind):短編集
- 「人類補完機構年表」(Timeline from The Instrumentality of Mankind)
- 「序文」:フレデリック・ポール(Frederik Pohl)
- 「第81Q戦争」(War No.81-Q):Karloman Jungahr 名義
- 「マーク・エルフ」(Mark Elf)
- 「昼下がりの女王」(午後の女王、The Queen of the Afternoon)
- 「人びとが降った日」(When the People Fell)
- 「青をこころに、一、二と数えよ」(Think Blue, Count Two)
- 「大佐は無の極から帰った」(The Colonel Came Back from the Nothing-at-All)
- 「ガスタブルの惑星より」(From Gustible's Planet)
- 「酔いどれ船」(Drunkboat)
- 「夢幻世界へ」(No, No, Not Rogov!)
- 「西欧科学はすばらしい」(Western Science Is So Wonderful) :人類補完機構以外の短編
- 「ナンシー」(Nancy/The Nancy Routine) :人類補完機構以外の短編
- 「達磨大師の横笛」(The Fife of Bodidharma) :人類補完機構以外の短編
- 「アンガーヘルム」(Angerhelm) :人類補完機構以外の短編
- 「親友たち」(The Good Friends) :人類補完機構以外の短編
「人類補完機構」シリーズ(短編集未収録)
- 「宝石の惑星」(On the Gem Planet) (SFマガジン1993年8月号収録)
- 「嵐の惑星」(On the Storm Planet) (未邦訳)
- 「砂の惑星」(On the Sand Planet) (未邦訳)
- 「三人、約束の星へ」(Three to a Given Star)(SFマガジン1998年1月号収録)
- 「アナクロンに独り」(Himself in Anachron)(未邦訳)