同和対策事業
同和対策事業(どうわたいさくじぎょう)とは、被差別部落の環境改善と差別解消を目的として行われた一連の事業を指す。国策としての同和対策事業は、1969年に国会で成立した同和対策事業特別措置法(通称「同和立法」)により、当初は10年間の時限立法として始まったが、その後様々な法案が提出され、2002年に終結するまで33年間で約15兆円が費やされた。
晩年には、一部の同和関係者のみが事業の利益を独占する同和利権や、(本来事業の対象となる資格の有無によらず)同和・部落関係を名乗る個人あるいは団体が不当な要求をするえせ同和行為が横行し問題になった。
根拠法の期限切れの後も、何らかの措置を継続している自治体がある。
歴史
それまでは各地域により自治体独自の同和対策事業が行われていたが、国策として本格的に行われた同和対策事業は、1969年(昭和44年)に制定された同和対策事業特別措置法(同対法)の施行以降によるものである。10年間の時限立法として施行されたが、10年後、3年間の延長となった。
その後、1982年(昭和57年)地域改善対策特別措置法(地対法)が施行され、「同和対策」という名称から「地域改善対策」に変わった。
1987年(昭和62年)に、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(地対財特法)が施行され、その後数度にわたる改正を終えた後、2002年(平成14年)に国策としての同和対策事業は終焉した。国策としての同和対策事業は終焉したが、今もなお自治体によっては地域の実業に応じ、同和対策事業が行われている。
部落解放同盟は同和対策事業特別措置法の期限切れに伴い、代替法として人権擁護法案の成立を強く主張している。
同和対策事業の一般的な例
- 地区環境の整備
- 同和地区内の諸環境の整備。一般的な例としては道路の舗装などが挙げられる。また各地区に特有の『改善が必要とされる環境』の改善も事業の対象となりやすい。例えば川縁の地区の場合の堤防の整備、山中の地区の場合の交通手段の提供などである。
- 社会福祉施設の設置
- 同和地区内に同地区住民を対象とした社会福祉施設を設置する。例として隣保館および教育集会所(同和教育集会所)などが挙げられる。隣保館については、地域あるいは自治体などの別によって、解放センター、解放会館、コミュニティセンター、人権文化センター、人権のまちづくり館など、呼称を異にすることもある。また教育集会所の扱いについても自治体の別などによる違いが見られ、例えば福岡県内においては隣保館のうち常駐の自治体職員を置いていないものを集会所としているが、埼玉県内のある自治体においては指導員を設置して同和対策集会所としている。更に地域あるいは自治体によっては、老人憩いの家に代表される老人福祉施設、また児童館や公会堂[1] などが同和対策施設に含まれることがある。
- 公営住宅の設置
- 納骨堂の設置
- 同和地区内に同地区住民を対象とした納骨堂を設置する。同和対策納骨堂などとも呼ばれる。[3]
- 保育所の設置
- 同和地区内に同地区児童を対象とした公営による保育所を設置する。
- 墓苑の設置
- 同和地区内に同地区住民を対象とした公営墓地及び付随施設を設置する。
- 斎場の設置
- 同和地区内に同地区住民を対象とした公営の斎場として火葬場および葬祭施設などを設置する。
- 諸産業関連施設の設置
- 租税の減免措置
- 同和地区住民及びその出身者、ないしその関係企業などに対する、課税額の減免措置を行う。
- 固定資産税の減免措置
- 同和地区住民及びその出身者に対する固定資産税の減免措置を行う。同和関係者が同和地区内に持つ固定資産に対するものであるととられがちであるが、多くの場合においては同和関係者が同和地区外に持つそれに対しても適用されている。すなわち、固定資産そのものに適用されるものではなく、同和関係者に対して適用される属人的なものであるといえる。減免率については自治体の別により差異がある。例えば、千葉県の君津市では50%を減額[5]、鳥取県の若桜町や智頭町もまた50%を減免し[6][7]、長野県の小諸市では平成14年(2002年)度に40%であった減免率を年度ごとに10%ずつ下げた結果平成17年(2005年)度以降10%を減額[8]、埼玉県の美里町では課税額合計が30万円未満の者(同和関係者)についてのみ、40%を減額している。ただし同町(美里町)では公務員をこの対象から除外している。[9]
- 保育料の減額措置
- 同和地区住民及びその出身者に対する保育料の減額措置を行う。減額率については自治体により差異がある。中には保育料の一部を補助することにより、実質的に減額している自治体もある。
- 各種補助金・助成金の給付
- 同和教育推進の2事業
同和対策事業の特異な例
- 公営浴場の設置
- 農村同和対策事業
- 福岡県内の自治体に固有の同和対策事業。この地域は、農耕者が不在となった耕地に対し、その維持を目的として被差別民を投入するという、穢多新百姓取立などと呼ばれる農業政策が藩政期から特に見られ、その結果膨大な数の農村型被差別部落を抱えることとなった。この事業では同和地区に指定されたこれらの地域に対する諸産業関連施設の設置や営農に係る補助金の交付などが行われている。農村型同和地区に対する事業という点では一般的な同和対策事業の範疇であると見ることもできるが、地域に固有の呼称を持つものとして特異なものであるとすることもできる。前原市(現糸島市)[13]、志摩町(同左)[14]、福岡市[15]、直方市[16]、宗像市[17]、古賀市[18]、みやこ町、太宰府市[19]、小郡市[20]、筑前町[21]、筑後市[22]、黒木町(現八女市)[23] などが行っている。
同和対策事業に関連した事件
2006年7月27日、京都市の桝本頼兼市長が、市の臨時区局長会において、4月からの市の職員の逮捕者が既に8人にのぼっている問題について、そのうち6人が環境局職員であることを指摘し、同和行政による優先雇用が大きな要因の1つと指摘した(関連項目;京都市環境局不祥事)。
脚注
- ↑ 参考文献;『部落問題用語解説●同和対策事業』 - (社)部落解放・人権研究所ホームページ
- ↑ 参考資料;『古賀市「同和」向市営住宅に関する規程』 - 古賀市例規集
『臼杵市同和向市営住宅の入居取扱要綱』 - 臼杵市例規集
『小郡市同和向市営住宅内整備資金貸付規程』 - 小郡市例規集 - ↑ 参考文献;『大阪府人権ホームページ/学習したい人(同和対策関係資料)』 一条八項および二条一項 - 大阪府人権ホームページ
- ↑ 参考資料;例:『前原市農村同和対策施設管理規則』 - 前原市例規集データベース
- ↑ 文献資料;『君津市同和対策固定資産税軽減措置要綱』 - 君津市例規集
- ↑ 文献資料;『若桜町同和対策に係る固定資産税の減免措置要綱』 - 若桜町例規集
- ↑ 文献資料;『智頭町同和対策に係る固定資産税の減免措置要綱』 - 智頭町例規集
- ↑ 文献資料;『小諸市同和対策に関する特別措置要綱』 - 小諸市例規集
- ↑ 文献資料;『同和対策に関する町税特別措置要綱』 - 美里町例規集
- ↑ 参考資料;例『美濃市同和向個人住宅建設資金貸付規則』 - 美濃市例規集
- ↑ 参考文献;『同和利権の真相4』 P.124 - 一ノ宮美成+グループK21 〔ISBN 4796649883〕
- ↑ 文献資料;『京都市立浴場条例』 - 京都市例規集
- ↑ 文献資料;『前原市農村同和対策施設管理規則』 - 前原市例規集データベース
- ↑ 文献資料;『志摩町農村同和対策事業補助金交付規程』『志摩町農山漁村(農村)同和対策事業農機具利用規程』 - 志摩町例規集
- ↑ 文献資料;『■平成18年度 補助金一覧(事業費・運営費補助)』『■平成17年度 補助金一覧(事業費・運営費補助)』 - FUKUOKA city online
- ↑ 文献資料;『直方市市長事務部局分掌事務 部 課 係 分掌事務 企画財政 部 企画調整 課 企画調整 担当』 P.9 - 直方市 |ホーム
- ↑ 文献資料;『農村同和対策事業費』 -宗像市公式ホームページ
- ↑ 文献資料;『古賀市農村同和対策事業費補助金交付規程』 - 古賀市例規集
- ↑ 文献資料;『太宰府市農村同和事業共同組合農機具運用管理規程』 - 太宰府市例規集
- ↑ 文献資料;『小郡市農村同和対策事業費補助金交付規程』 - 小郡市例規集
- ↑ 文献資料;『筑前町農村同和対策施設管理規則』 - 筑前町例規集
- ↑ 文献資料;『筑後市農村同和対策事業費補助金交付規程』 - 筑後市例規類集
- ↑ 文献資料:『黒木町農村同和対策事業農機具保管施設の設置及び管理に関する条例』 - 黒木町例規集