ソナタ形式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2013年12月10日 (火) 15:13時点における240f:1e:74a1:1:c555:cc4e:d20a:e20a (トーク)による版
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先: 案内検索

テンプレート:出典の明記 テンプレート:Sidebar ソナタ形式(ソナタけいしき)は、楽曲形式のひとつ。古典派の時代に大きく発展した楽曲形式。

古典派ソナタや、古典派ソナタに類似している交響曲、独奏協奏曲弦楽四重奏曲などの、第1楽章や終楽章に多く見られるところからソナタ形式と呼ばれている。ソナタ形式=ソナタの形式ではないシェーンベルク「作曲の基礎技法」においては「ソナタ形式、ソナタ・アレグロ形式、または第1楽章形式などと、さまざまに呼ばれる」と前置きした上で、基本的にソナタ・アレグロ形式という呼称を採用している。

ソナタ形式は、基本的に次のような形式をしている。

序奏 提示部 展開部 再現部 コーダ
第一主題 第二主題 第一主題 第二主題
主調 属調、平行調等 主調 主調、同主調

序奏

特に大規模なソナタ形式の作品ではしばしば序奏を伴う。この序奏は、主部の動機、主題等を用いたものや、あるいは主部とはまったく関係なく、気分的な準備を行うものまでさまざまである。主部の動機を十全に用いたものではたとえばブラームス交響曲第1番の第1楽章の序奏などがある。気分的な序奏の例としては、ベートーヴェン交響曲第7番の第1楽章のものがあげられる。また、序奏は主部と同じテンポか、それよりも遅いテンポをとる場合が多い。

提示部

提示部(ていじぶ)では、二つの主題が提示される。一つ目の主題を第一主題といい、これは主調で書かれる。二つ目の主題を第二主題といい、第一主題が長調の場合は属調、短調の時には平行調で書かれているのが一般的である。

特に規模の大きなソナタでは第一主題から第二主題に向かう間に、第二主題への転調等を行う移行部(推移部)が存在することも多い(特にモーツァルトはこの移行部にも新たな素材を導入し、一見主題が三つあるかのような提示部を書いていることも多い)。この移行部によって第二主題の準備がなされる。

第二主題は第一主題に対して調を変えるのみならず、その主題としての性格を対照させていることが多い。第一主題が激しいものであれば、第二主題は静かで落ち着いたものをおく。また、第一主題と第二主題の間に動機的関連を持たせるものも多い。

独奏協奏曲では、特に初期のもので、提示部の繰り返しが1回目と2回目で異なり(当然反復記号は使われない)、1回目はオーケストラだけで演奏され第二主題も主調で奏されるようになっているものがある(2回目は独奏楽器が入り、通常の提示部となる)。

→詳細は下の協奏ソナタ形式を参照。

近代では第二主題に加えて、第三主題が加わる場合もある(古典派にもその例は見られる)。そして調も平行調の属調や半音下の調のように自由な調で表現されている。

展開部

展開部(てんかいぶ)では、提示部で提示された主題(提示された複数の主題を扱う場合もあれば、もっぱらひとつの主題のみを展開させる場合もある)をさまざまに変形、変奏させる。激しい転調を伴う場合が多く、全曲中きわめて緊張感が高まる部分である。代表的な例では、まず主題をさまざまに転調し、次いでフーガ風・ポリフォニックに重ねた後、展開部の最後には属音を保続し(英: オルガンポイントorgan point, 独: オルゲルプンクトOrgelpunkt, 仏: ポワンドルグpoint d'orgue)音響的に頂点を築いた後、再現部の冒頭で和声的な解決へと導く、というのが展開部の構成として一般的である。

再現部

再現部では、二つの主題が再現される。通常、第一主題、第二主題ともに主調で再現され、これによって両主題の対照が解消される(第二主題は主調が短調の場合には同主調となることも多い。なお、第一主題は、主調でなくてもよい)。よって、再現部では、緊張はおおむね低い。そしてコーダに入るものもある。

この、第二主題が、提示部では主調以外で演奏されて緊張が高かったのが、再現部では主調または同主調で演奏されて緊張が低くなるが、調性は解決されるという対比こそが、ソナタ形式の一番大切な部分であるといえる。

結尾部

大規模なソナタにはしばしば結尾部 (Coda) がつく。これはこれまでの主題を中心に、楽章を終止に持ってゆくための部分で、ベートーヴェン以降はきわめて規模の大きい、第二の展開部とも呼べる結尾が作曲されることもある。

習慣的な反復記号

ソナタ形式における主題は生演奏において曲調を印象づけることが展開部や再現部をより強く聴衆に印象づけることになるため、ソナタ形式による作曲法が全盛であった18 - 19世紀においては、提示部は反復記号により繰り返し演奏が行われてきた。そのため、提示部には習慣的な反復記号が付けられているものが多い。また短いソナタ形式の楽曲では、特に古いものに、展開部・再現部をまとめて習慣的な反復記号を付けているものもある。これらは二部形式の名残である。このような反復記号は、ブラームスの時代には廃止される方向にあった。

(序奏) 反復開始 提示部 反復終了 展開部 再現部 (コーダ)
(序奏) 反復開始 提示部 反復終了と反復開始が背中合わせの記号 展開部 再現部 反復終了 (コーダ)

しかしながら、レコードなどの録音媒体が普及し始めたころになると、録音時間の制限もあり、反復が行われない録音が普通となった。またその録音媒体の普及のため反復が行われない演奏が普及すると、繰り返し演奏がかえって冗長に感じられる場合が多くなり反復が行われないことが多かった。しかし近年になって作曲者の意思を重視するという風潮から、再び反復が行われることが増えている。とりわけオリジナル楽器を用いた演奏の場合、往時の演奏の忠実な再生を意図する立場から反復が行われることが通常である。

旧来より反復されてきた作品はベートーヴェン交響曲第5番の第1楽章, 交響曲第8番の第1楽章などがあげられる。

協奏ソナタ形式

古典派の時代になると、協奏曲に合わせたソナタ形式が開発された。これを協奏ソナタ形式といい、特に第1楽章において用いられる。

まず、上記のように管弦楽により2つの主題が同じ調で提示された後、アインガングと呼ばれる導入により独奏楽器が演奏し始める。

2つの主題がソナタ楽章本来の調性で改めて提示された後、展開部、再現部を経て、カデンツァと呼ばれる独奏楽器のみの演奏部分に入る。この部分は本来、演奏家が即興演奏するものであるが、ベートーヴェンピアノ協奏曲第5番では作り付けのカデンツァが書き込まれ、それ以降の協奏曲の規範になった。

カデンツァは通常、属調で半休止してから(トリルを伴うことが多い)、管弦楽に引き継がれて主調で曲は終結する。

なお、モーツァルトピアノ協奏曲第9番においては、冒頭の主題提示部で短くはあるが独奏ピアノが登場する。その後、ベートーヴェンがピアノ協奏曲第4番、第5番において冒頭で独奏ピアノを活躍させた。

その後、ロマン派になると協奏曲の形式は自由になり、協奏ソナタ形式は次第に使われなくなった。だが、ブラームスは2曲のピアノ協奏曲第1番第2番)、ヴァイオリン協奏曲ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲において自由な協奏ソナタ形式を用いた。

ソナチネ形式

展開部、または再現部の第一主題のいずれかが省略されることがあり、ソナチネ形式と呼ぶことがある(あまり一般的な呼称ではない)。そのうち特に展開部を省略したソナタ形式は、オペラなどの序曲に多く見られるので、序曲形式(じょきょくけいしき)と呼ぶことがある(「序曲形式」が、他の形式を指すこともある)。

提示部 展開部 再現部
第一主題 第二主題 第二主題
主調 属調、平行調等 主調、同主調
(序曲形式)
提示部 再現部
第一主題 第二主題 第一主題 第二主題
主調 属調、平行調等 主調 主調、同主調

ソナタ形式の注目すべき楽曲

偽第二主題

ベートーヴェンの作品2の3などの初期の楽曲では第二主題と見せかけて調性や展開の上で第二主題となっていない物が多い。反対にエロイカ交響曲の第一楽章では経過部に見せかけて第二主題を出す、「偽経過部」も見られる。またコーダの前に第二展開部を要する「偽終結部」楽曲もある。これらはすべて決まりきった形式に対する「はぐらかし作法」といえる。いつもの退屈さを緩和する為に用いた物とされ、後のケージなどの「ハプニング」作曲法などを想起させる。

再現部第一主題を欠くソナタ形式

この場合は展開部で第一主題を主に徹底的に再現部の分まで展開しているか、ブラームス第1交響曲の終楽章のように展開部を省いた形で「展開同時に再現部」とする形が多い。

序曲形式