流れ橋
流れ橋(ながればし)とは、日本やアイルランド、オーストラリアなどに見られる橋の形式の一つであり、固定されていない橋桁(はしげた)が洪水の際に流れてしまうことを想定した橋のこと。
橋脚は流失せず、残された橋脚の上に新たに桁を架けることで簡単に復旧できる。近年ではロープなどで橋桁をつなぎとめることによって回収しやすくしたものもあり、これであれば桁を新造する必要がないため、復旧コストを抑えることが可能となっている。水面からの高さが低く、歩行者用の比較的小型の橋で手すりのないものが多い。
呼称
橋桁が流れによって流出するのを覚悟した「流れ橋」であっても、大雨の時には橋全体が水面下に没する橋である「沈下橋」「潜水橋」「もぐり橋」(英語名:low water crossing、Irish bridge、causeway、low level crossing、low water bridge)、と呼ばれている橋が多く、これらの定義は曖昧なものとなっている[1]。
歴史的背景と構造
日本
昔の日本の土木技術では、河川で大雨のときの強い流れやそれが運ぶ流出物によっても破壊されない橋を作ることは現在より困難であり、たとえ橋を強固に作ってもそれが流木などを堰き止めると付近の土手の決壊を招くため、大雨時にはあえて流れに逆らわず、橋の上部構造体が分解される柔軟な構造(柔構造)が考え出された。水の勢いが治まるのを待って、後日、修理復元できるようにした形式の木橋である。
現在では鋼鉄製の丈夫な橋梁(鋼橋)が建設できるため、大雨のたびに交通路を失い、修理が必要となる流れ橋は、利便性や経済性の点では劣るようになってきたが、歴史的建築物としての価値や地元の愛着などによって残されているものが多く存在する。
木製の橋桁は橋脚に固定されていないか、容易に離脱する程度の強度で固定されるにとどまる。冠水して強い水流を受けた場合には橋桁は流されるが、橋脚だけは残されることになる。橋脚が残されていれば桁を架け直すことは比較的容易である[1]。近年では、橋桁も再利用するためにロープなどでつないでおいて、洪水が終わった後に回収することができるようになっているものが多い。
流れ橋の例
有名・無名の流れ橋は数多い。ここでは比較的よく知られたものを示す。
- 小目沼橋(おめぬまばし)
- 1956年架橋。茨城県つくばみらい市にある小貝川にかかる木造の歩道橋。近隣をテリトリーとするいばらきフィルムコミッション・つくばみらいフィルムコミッションの双方が時代劇などのロケ地として推奨している。
- 上津屋橋(こうづやばし)
- 橋長356m、幅6m、支間5m、橋脚74基。京都府の久御山町 - 八幡市間、木津川に架かる。1951年(昭和26年)完成。時代劇のロケ地とされることも多い。2009年(平成21年)10月の台風18号による川の増水で流されたが、2010年(平成22年)6月16日に復旧。 ところが2011年からは4年連続で流失しており、永久橋化も視野に入れた議論が起きている(上津屋橋#批判と検討)。
- 観月橋(かんげつきょう)
- 橋長約80m、幅1.2m。岡山県矢掛町、小田川に架かる。
- 浜高房橋(はまたかぼうばし)
- 橋長約210m、幅約1m。徳島市浜高房、鮎喰川に架かる。通称「こんにゃく橋」。2007年(平成19年)に撤去された[1]。
- 船小屋観光橋(ふなごやかんこうきょう)
- 通称・ガタガタ橋。橋長59.5m、幅1.2m、水面からの高さ1.4m。福岡県筑後市・みやま市、矢部川に架かる。床板はワイヤーロープで連結されており、増水時には左右に別れて橋桁から外れるようになっている。