レッド・ツェッペリン IV
レッド・ツェッペリン IV (LED ZEPPELIN IV)は、イギリスのロックグループレッド・ツェッペリンの第4作アルバム。1971年11月8日発売。プロデューサーはジミー・ペイジ。レコーディング・エンジニアはアンディ・ジョーンズ。米国だけでもセールスは2,300万枚を超えており、レッド・ツェッペリンの全作品中、最も売れたアルバムである。
このアルバムには正式な題名が無い。そのためさまざまな仮称で呼ばれるが、本項では便宜的に『レッド・ツェッペリン IV』で統一する。
経緯
多忙なツアー・スケジュールをこなしつつ、次回作の構想を練っていたレッド・ツェッペリンは、1970年12月、まずロンドンのアイランド・スタジオでセッションを開始するが、まもなくローリング・ストーンズの車載スタジオとともにヘッドリィ・グランジに移動し、大部分の作業をここで行なう。前作『レッド・ツェッペリン III』の不評(とりわけマスコミからの)を受けて、今回のセッションでは、アコースティック・サウンドと、いわゆる「ツェッペリンらしい」ハードなサウンドとの融合が試みられることとなった。
録音
レコーディングの大部分はヘッドリィ・グランジで行なわれた。ペイジは、通常のスタジオではなく古邸宅で録音する利点として、
- 普通のスタジオとは違ってリラックスした雰囲気の中で演奏できる。
- いつでも思いついたことを直ちに録音できる。
- 普通のスタジオでは試せないような奇抜なアイデアを試すことができる。
といったことを挙げている。"ロックン・ロール"はジャムセッションをしながら自然発生的に出来上がった曲、"限りなき戦い"は暖炉のそばでお茶を飲んでいるとき突然、湧き出すように生まれた曲だと伝えられる。また"レヴィー・ブレイク"のドラム・サウンド(音楽関係者の多くから「究極のドラム・サウンド」と賞賛されている)は、高い吹き抜けのある玄関ホールにドラムスを置き、少し離れた階段にマイクをセットして録音されたものである。
このセッションで得られた素材に、アイランド・スタジオでオーバーダビングが施され、ロサンゼルスのサンセット・サウンド・スタジオでミキシングが行なわれた。しかしこのミキシングは大失敗で、もう一度アイランド・スタジオでやり直すこととなり、次に述べるジャケット・デザインの問題とともに、このアルバムの発売を遅らせる原因となった。
ジャケット
見開きジャケットの外側全面が一枚絵となっており、表ジャケットには薪を背負った老人の絵が壁に掛けられ(この絵は、プラントがレディングのジャンク屋から手に入れてきたもの)、裏ジャケットには街が開発される姿が写っている。内側には全面を使ってタロットカードの隠者が描かれている。このジャケット全体を通じて、グループ名、アルバム名、レコード会社名などの文字が一つも印刷されていない。インナーの紙にもアルバムの題名は無く、四つの奇妙な図形が印刷され、その下に曲名などの必要最小限の情報が記されている。裏面には"天国への階段"の歌詞が独特の書体で印刷されている。
4つの図形は4人のメンバーそれぞれのシンボルである(左から順にペイジ、ジョーンズ、ボーナム、プラント)。
このアルバムには題名が書かれておらず、レッド・ツェッペリン関係者のだれも題名について言及しなかったため、さまざまな仮称で呼ばれることとなった。
- 4つのシンボルが並んでいるから「フォー・シンボルズ」(Four Symbols)、あるいは単に「シンボルズ」(Symbols)
- そのシンボルがルーン文字に由来するとうわさされたので「ルーン・アルバム」(The Runes)
- ジミー・ペイジのシンボルがZOSOというアルファベットの組み合わせのように見えるので「ZOSO」
- "天国への階段"を収録しているので「Stairway Album」
- それまでのアルバムタイトルの流れから、4作目と言うことで「レッド・ツェッペリン IV」(Led Zeppelin IV)
- タイトルが無いことからシンプルに「無題」(Untitled)
など。日本では、帯に前出の四つのシンボルマークと「レッド・ツェッペリン IV」の文字が並んで印刷されていた。現在では日本に限らず、全世界的に4枚めのアルバムという意味で、「レッド・ツェッペリン IV」と呼ばれることが多い。2007年の再結成ライヴを収めた『祭典の日』のビデオでは「The group's untitled fourth album(アルバムタイトル名のない4作目のアルバム)」と記載された。
アトランティック・レコードは文字の無いジャケットは商業的自殺であると主張し、何とかデザインを変更させようとしたが、契約上デザインの権利はバンドの側にあり、結局このまま発売された。今になってみると、一切の文字が無いことがこのアルバムに一種の神秘性を付与したと評価でき、「レッド・ツェッペリンの名前の無いアルバム」に関する情報は口コミで消費者に伝わったので、むしろ「名前が無い」ことが一種の宣伝効果になったとも思われる。
収録曲
(LPレコードの表記をもととする)
Side A
- ブラック・ドッグ (Black Dog / Jones, Page & Plant)
- ロックン・ロール (Rock and Roll / Bonham, Jones, Page & Plant)
- 限りなき戦い (The Battle of Evermore / Page & Plant)
- 天国への階段 (Stairway to Heaven / Page & Plant)
Side B
- ミスティ・マウンテン・ホップ (Misty Mountain Hop / Jones, Page & Plant)
- フォア・スティックス (Four Sticks / Page & Plant)
- カリフォルニア (Going to California / Page & Plant)
- レヴィー・ブレイク (When the Levee Breaks / Bonham, Jones, Page, Plant & Memphis Minnie)
また、アウトテイクとして"ダウン・バイ・ザ・シーサイド"、"夜間飛行"があり、後に『フィジカル・グラフィティ』に収録された。
チャート・アクション
『レッド・ツェッペリン IV』は1971年11月8日、全世界で同時に発売された。アメリカではキャロル・キングの『つづれおり』を抜くことが出来ず2位だったが、約5年にわたってトップ200にとどまる大ロングセラーとなった。1990年末にはアメリカ国内での売り上げが1,000万枚の大台に達し、2006年現在、累計2,300万枚。イギリスでは首位を獲得、62週チャートにとどまった。
影響と評価
『レッド・ツェッペリン IV』は史上、世界的に売れたロック・アルバムの一つであり、バンドの代表作とする声が多い。そのA面は、
- 起…変態的なハード・ロック
- 承…豪快なロックンロール
- 転…女性フォークシンガーサンディ・デニーをゲストに迎えた美しいアコースティック・ナンバー
- 結…静かなアコースティック・ギターで始まり、ハード・ロックへと盛り上がってゆく大作
という流れで構成されている。特にアコースティック・サウンドとハード・ロックを融合したA-4は、レッド・ツェッペリンの代表曲のひとつとなった。ジョン・ポール・ジョーンズは「このアルバムの後は誰も僕らをブラック・サバスと比較しなくなった」と述べているが、このアルバムからレッド・ツェッペリンに対し批判的だった評論家などの見方も変わり、「ハード・ロックバンド」から「"天国への階段"を作ったグループ」へとステージを高めた。これ以降レッド・ツェッペリンは「ツェッペリンらしさ」というレッテルから脱し、音楽の多様性を更に見せるようになる。1970年代を代表するロック・グループとしてのレッド・ツェッペリンの地位を定めた作品とも言える。