晩婚化
晩婚化(ばんこんか)とは、世間一般の平均初婚年齢が以前と比べて高くなる傾向を指す言葉である。「大人婚」とも言う。先進国では、ここ百年は結婚に対する考え方が「国民皆婚制」という歴史的にも、生物学的にもきわめて珍しい状態にあるが、さも、国民皆婚制が、太古の昔から続いていたかのような俗論が蔓延しており [1][2] 本件も、その文脈で語られることが多い問題の一つである。
高年齢で結婚をすること、俗に「婚期を過ぎてから結婚する」ことを指して晩婚と言うが、その「婚期」についての社会通念も変化してきた。 また、これによって少子化という問題も起きているといわれる。但し、出生数それ自体は、ここ20年ぐらいは微減で、ここ10年間は110万人程度で 横ばいとも見られる。但し10年積算すると子供の数が約10万人が減少することから、年間1%の減少ではある。一時のベビーブームとの比較という見方をすると 子どもの数は確かに大幅に減ったと見られるが、どちらが異常であるかは判断が難しい。
総じて、歴史人口学の教えるところによると、 晩婚化(非婚化)という概念じたいは、近代社会(明治以降)の社会と、江戸時代の村社会等といった特殊なサンプルとの比較という意味でしか 意味がなく、[1][2]、数字の裏付けのない俗説が蔓延していることもあり、晩婚化という概念は、ずいぶん疑わしい側面をも持つ。
さらに、経済への影響に関しても、しばし人口減と絡められ、経済の悪化の原因の一つ と槍玉にあげられることがよくあるが、 [3] そのような指摘自体が、俗説に過ぎないという指摘もある[3]。
目次
世界的な傾向
晩婚化は先進国だけでなく途上国でも確認されており、世界的な現象となっている。国連が世界192カ国を対象に、1970年代と1990年代で結婚等がどのように変化したかを調査した報告書テンプレート:Refによれば、
- 「1970年代と90年代を比べると、世界の平均初婚年齢は2年近く遅くなり」
- 「晩婚化は7割以上の国でみられ、平均初婚年齢は男性が25.4歳から27.2歳に、女性は21.5歳から23.2歳に上昇した。上昇幅は先進国の方が大きいが、途上国でもアルジェリア、スーダン、マレーシアのように3歳以上上昇した国があった」[4]
となっている。
テンプレート:独自研究範囲これは進学率が低かったこと、及び低年齢から社会に出て手に職を付けることが当たり前でありかつ効率的であったことが理由の一つとして挙げられる。特に女子は長い間、進学せずに家事に就くことが当然と見なす社会的圧力に晒されていたため、進学や就職をせず親の縁談で伴侶を見つけて嫁ぐことも多かったので、女子の平均初婚年齢は10代後半で長く推移した。
大戦後、特に先進国において義務教育以上の就学課程(特に大学)への進学率が高くなると、平均初婚年齢は次第に20代へとシフトし始めた。この傾向は、高学歴を必要とする専門知識が求められる職種の増加、学歴重視の雇用者意識、女性の社会参加、看護・福祉のような女性が中心的な労働力を占める職種の社会的地位の向上、女性の経済的な自立と就業意欲の高まりなどを背景として、年々加速した(ただし女性の経済的な自立については異論も多い。次項参照)。
アメリカ合衆国の状況
既婚男性の満足度は独身男性より高い一方で、女性の場合はその逆となり、さらに独身女性の方が既婚女性よりも長生きをするという調査結果がある[5]。『女は結婚すべきではない』の著者のシンシア・S・スミスは、「現代の男性が結婚すると、家を手に入れ、家の世話をしてくれる家政婦と料理人、陽気な家族を得て、それにもう一人分の収入がプラスされる。だが女性が結婚すると増えるのは下宿人」であると、同性愛者の立場からアメリカの結婚事情が女性に厳しいことを指摘している[6]。
日本国内での意識
結婚時期
日本では現在、民法上、結婚できる年齢は、男子18歳・女子16歳と定められている。しかし、日本国内では高校へ進学する人の割合が1学年あたり90%台に達してから既に長く、結婚して所帯を作ろうと考える年齢は、男女ともに18歳を下回ることはほとんど無い。
個人主義の浸透
一方、個人主義の観点から、当人にとっても周囲についても、独身でいつづけることに対する社会的な抵抗(俗には「世間体」と呼ばれる)が昔に比べて格段に低くなっている。このため、以前は長く独身時代に留まろうとする者を「独身貴族」と揶揄することがあったが、就労して獲得した時間的・金銭的な余裕をもっと自分個人のために使い充足感を得ようと、より長く独身時代に留まろうとする者も多い。
高学歴化に伴う就労年齢の高年齢化・職場での競争の激化により、晩婚化の傾向には拍車がかかっている。昨今では、男女とも30代になっても独身を続けようと考えることに対する抵抗感は、彼らが前線に出て働いているオフィス街(特に大都市圏)などでは特に、ほとんど見られなくなっている[7]。
需給のミスマッチ
また、男女とも、お互いを結婚相手としてみなせない、という意識もある。現在の日本では女性が経済力を付ける一方、子育てのサポートが十分ではないために、女性の多くには子どもを産むと仕事を辞めざるを得ず、男性の収入を当てにする上方婚志向(収入・年齢・階層の高い者との結婚を希望する)が根強い。実際に、男性の所得が高くなるほど結婚した男性の割合が高くなり、20、30代の正規雇用で働く男性が結婚した割合は非正規社員の男性の約2倍だったとの調査結果もある[8]。
特に30歳代は男性の正規就業者の未婚割合が30.7%であるのに対して、非正規就業者は75.6%となっている。[9]
女性は男性ほど正規と非正規で顕著な差は認められなかったので、女性は男性に経済的に依存する傾向があることがうかがえる。男性からすれば「給料は頭打ちなのに、女性は金がかかる。子ができればなおさら。」女性からは「今の日本の社会で女性が自立して生きるのは不安。(子どもを産むために)早く結婚したいが、(経済的に依存できる)いい男性がいない。」という、意識のミスマッチも、原因だと考えられている。しかし、就職や収入面においては、男女間の格差は是正されつつあるにもかかわらず、未だに女性は結婚後の生活を男性に頼ろうとする歪んだ状況を指摘する意見もある[10][11]。
また、女性が男性に収入などにかなりの高条件を求め高望みをし、自分が高望みをしていることには気がつかずに「条件を満たす良い男性が居ない」などと言って結婚できない状況を男性のせいにする場合も見受けられる[12][11]。一方、男性は自身の年齢が高くても、女性に若さを求める傾向が強い。しかし、若い世代の日本人では男性の人口の方が多く、若い女性の人口自体が減っているにもかかわらず結婚相手に「若さ」を求め続ければ男性の未婚者は増大する。
さらに、社会人となった男女がグローバルな競争に晒され、不安定な身分や収入のもとにあるため、相手には以前にも増して「男らしさ(経済力や包容力)」「女らしさ(やさしさや癒し)」といった言葉に象徴される「安心」「安定」を求めるという矛盾が需給のミスマッチをさらに促進しているといえる。
平均初婚年齢
21世紀初頭においては、日本国民の女性の平均初婚年齢は20歳代後半に達しており、男性についてはさらに1歳以上高い。2008年(平成20年)での夫の平均初婚年齢が30.2歳であり、妻の平均初婚年齢が28.5歳である[13]。1970年(昭和45年)では夫の平均初婚年齢が26.9歳、妻の平均初婚年齢は24.2歳であり、相対的には女性の初婚年齢の上昇の方が大きい。
第一子出生時の母親の平均年齢については、平均初婚年齢の約1年後という計算になる統計が出ており、2008年(平成20年)での第1子出生時の母の平均年齢は29.5歳である[13]。
ただし日本人においては、生涯に渡って独身を続けることを希望する割合は、欧米に比べて低いことにも留意する必要がある。よって、日本の場合、若者が早い時期に結婚できる社会的環境を整えることで、晩婚化は防ぐことが可能と考えられている。ただし、日本では、男性が独身を希望している場合には「実は結婚を希望しているが出来ない」とカテゴライズされることが多い(こうした見方は男性差別であるとの指摘もある)ため、独身を希望する者の割合が欧米より低く算出されやすいことにも留意すべきである(もっとも、女性が結婚を希望しながら独身でいる場合には「結婚を希望しない自立した女性」とカテゴライズされやすいため、性別を区別しなければ両者の割合は相殺しあっているとの見方もある)。また、2005年の調査で2000年に「結婚しない」と回答した30歳世代が、5年後にそれほど減っていなかったという結果があり、未婚化・非婚化は確実に進行していることが伺える。
晩婚化の影響
一般に、男女の共同生活は婚姻制度を利用せずとも可能である。このような、法の保護に寄らない自由結合関係は、独立自由な個人の結合としては、婚姻よりも望ましい。なぜなら、このような関係においては、法による拘束力と保護のある婚姻-その安定性確保の見地から破棄に制約を加えるもの-と比較し、相互の自由意志を前提として互いに不断の努力により関係を維持することが必須であるため、共同生活を行わんとする当事者双方の意思の合致が常に必要となり、自立的個人の自由意志を尊重するものだからである。
そこで、このような共同生活を超え、あえて婚姻制度が設けられている今日的意義としては、自立的でない存在、すなわち未成熟子の保護をあげることが出来る。
しかし、子を産み育てるための結婚という見地からは、高い年齢での結婚は、金銭的余裕などのメリットがある一方で、不妊・あるいは各種の病気リスクがあるため、望ましいとはいえない。
女性については、一般に、三十代中盤以降の出産については、母体および子の双方に顕著なリスクが生じ、不妊になるケースも多い。
子に生じるリスクとして典型的な例としてはダウン症があるが、その発症率は、20歳で1667分の1、30歳で952分の1、35歳で378分の1、40歳で106分の1、45歳で30分の1であり、母体の加齢による発症率上昇が顕著である。
また、自閉症発症確率については、40歳以上の女性が自閉症の子どもを出産する確率は、30歳未満の女性の約2倍とする研究結果がある(米カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)ただし、同研究では男性の加齢の影響は限定的とする)。
これらリスクの主要原因は卵子の老化、減少である。思春期以降新規に生産され続ける精子と異なり、卵子は生まれた時から体内にあり、新たにつくられることはないため、母体の加齢とともに卵子も年をとり、数も減少するからである。さらに、メディアで高齢出産の成功としてしばしば取り上げられる体外受精についても、その成功率は概ね35歳以上で16%程度にすぎず加齢によるリスクを十分に軽減するものではなく、現に、不妊原因の9割は卵子の老化が原因とされている。 なお、従来あまり議論されなかった男性についても、加齢に伴う不妊リスクの増加が研究されている。
育児に関して子どもの年齢に比べ親である夫婦の退職年齢が早く来てしまうことなどの構造的な困難などのデメリットが考えられる。
以上のように、高齢結婚においては、未成熟子の保護という婚姻制度の今日的意義を十分に発揮できない危険性が高く、制度の存在意義そのものが問われることとなる。
また、長く独身でいる人に多く見られるように、結婚してからも自分個人または伴侶との共同生活を重視して子供を作らない夫婦も多く存在し、1980年代頃から社会的な潮流として注目を集め DINKS (Double Income No Kids) という呼び方が使われた時期があった。これについても、法があえて結婚制度をつくり保護を与えている趣旨に適うのか、制度の存在意義そのものが問われることとなる。
対策
晩婚化の原因にも諸要因が複雑に関連しているため、その検討は、相当な困難を伴う。ここでは、一個人でも実行可能な処方という見地から述べる。
比較的高収入あるいは資産形成済みの個人の晩婚化の原因には、離婚時における①財産分与、年金分割等のリスク②子の養育費のリスクなどの存在が考えられる。元来、これら制度は、法定夫婦財産制のもと、離婚後においても夫婦のうち資力に乏しい者および子を保護することを目的としている(我妻 親族法)。
もっとも、このような制度が一方で近時の離婚率の高まりから、結婚時におけるリスク要因として機能しており、高収入の個人が結婚を回避する重要な要素となっている(浜田敬子 男女共同参画室HPコラム [14])。
まず、①についての対策としては、結婚前に夫婦財産契約を締結し、これら権利の一切を夫婦相互に有しない旨合意し、登記することが有効である。このような夫婦財産契約を締結した場合には、離婚の際のリスクをかなりの程度軽減することが可能である。
次に、②についての対策としても夫婦財産契約を活用することが考えられる。もっとも、養育費請求権については、夫婦財産契約で直接に放棄できない。なぜなら、これは、あくまで子どもの権利だからである。
そこで、夫婦財産契約の中に、将来の離婚時の養育費負担についての分担割合を手元に扶養する期間により分担するなど、公平な定めをすることが考えられる。この場合、あくまで子どもから一方の親に対する請求は妨げ得ないものの、離婚後の夫婦間相互において、求償権を事前に確定しておくことが可能となる。このように手立てしておけば、たとえば一方に親権者が定まり、特に他方とは同居したりすることがない場合には、親権者の負担割合を100パーセントとするなど婚姻解消時の不利益を事前に制御することが出来る。
これらの処方により、結婚生活における予見可能性が高まり、制度利用への不安感を軽減することにより婚姻制度利用者の増大を見込むことが出来る。
次に、結婚しない人、できない人が増加しているなか、さまざまな対策を考える政府や自治体もある。
日本の場合、一部の自治体(奈良県など)では、自治体自身が音頭を取って(正確には結婚相談所を生業とする企業に委託してだが)男女の出会いの場を設けるといったことを行っている。また、地方の商工会議所でも、会員に呼びかけて出会いのイベントを行っているところがある。このようなイベントは参加できる人がある程度限られるものの、営利を目的とせず、参加しやすいように工夫されて いる。
海外でも同様の対策が取られているところもある。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 国民生活白書 少子社会の到来,その影響と対応 平成4年11月13日] 経済企画庁[1]
- ↑ 2.0 2.1 縄田康光 歴史的に見た日本の人口と家族 [2]
- ↑ 3.0 3.1
例えば、浜田宏一・米エール大学名誉教授の以下の発言を参照のこと。
「たしかに人口増は経済成長のために必要だが、 『人口減がデフレの原因だ』と言った人は、まともな経済学者では一人もいない。 日本ではそれが盛んになって、日本銀行の白川総裁までそれに乗ってしゃべっていた 状態だった。[3]
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- ↑ 2005年1月26日付配信 日経新聞
- ↑ 『論争・少子化日本』(中公新書)P38
- ↑ 『論争・少子化日本』(中公新書)P39
- ↑ 30代前半の男性、半数が親と同居…不況背景?晩婚化も朝日新聞 2010年12月10日
- ↑ 「[男性の結婚率「非正規は半分」 雇用形態が影響 厚労省調査]」産経ニュース、2009年3月12日
- ↑ 平成22年 社会保障を支える世代に関する意識等調査報告書 厚生労働省
- ↑ 「特集ワイド:「草食男子と肉食女子」男の言い分」毎日新聞、2009年2月19日
- ↑ 11.0 11.1 テンプレート:Cite web
- ↑ 「未婚女性が「理由」告白 「草食系男が増えてるのが悪い!」」テレビウォッチ、2009年1月30日
- ↑ 13.0 13.1 厚生労働省 平成20年 人口動態統計月報年計(概数)の概況
- ↑ http://www.gender.go.jp/policy/men_danjo/column/hikonka.html]
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