接線
接線(せっせん、tangential line)とは、曲線に対して次の定義を満たす直線のことである。古くは切線とも書かれた。
目次
定義
曲線上の点 P における接線とは、P と異なる曲線上の点 Q を取り、Q を P に近付けたときに直線 QP が近付く直線のことである。このとき点 P を接点と呼ぶ。接線は存在するとは限らない。
微分法による接線の方程式
曲線の方程式が微分可能ならば、接線が存在する。
座標平面上の関数
座標平面上の微分可能な関数 C : y = f(x) 上の x = a における微分係数 f' (a) は
- <math>f'(a)=\lim_{h\to 0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h}</math>
で与えられる。これが点 P(a, f(a)) における接線(L とする)の傾きである。
したがって、接線 L の方程式は、
- <math>y-f(a)=f'(a)(x-a)</math>
で与えられる。
(例)
放物線 y = f(x) = x2 上の点 (−1, 1) における接線の方程式は、f' (−1) = −2 であるから、
- y − 1 = −2(x + 1)
すなわち y = −2x − 1 である。
媒介変数表示曲線
平面曲線 C : x = f(t), y = g(t) が t = a で微分可能ならば、導関数は
- <math>\frac{dy}{dx} =\frac{dy}{dt} /\frac{dx}{dt}</math>
で与えられる。これから同様に接線 L の方程式が求まる。
一般の n 次元空間内の曲線 C : x =(x1(t), …, xn(t)) においては、
- v =(x1'(a), …, xn '(a))
を接ベクトルと呼び、これを方向ベクトルとする直線の方程式を求めることになる。
微分可能でない場合
微分可能でなくても接線が存在する場合がある。それは微分係数値が ±∞ である場合である。
例えば、y = x1/2 の x = 0 における微分係数は ∞ である。したがって、原点 (0, 0) における接線は x = 0 である。
微分係数が ±∞ でもない場合、すなわち右微分係数と左微分係数が異なったり、振動する場合は接線は存在しない。
いわば三角屋根状に尖った点(尖点)では、右微分係数と左微分係数が異なる。
例えば、y = |x| の x = 0 における右微分係数は 1、左微分係数は −1 である。
振動する例として、
- <math>y=\left\{ \begin{array}{ll}
x\sin \frac{1}{x} &(x\neq 0)\\ 0 &(x=0) \end{array} \right.</math> (これは x = 0 で連続である)は x = 0 で微分係数が振動する。
至る所連続かつ微分不可能な例として知られる、ワイエルシュトラス関数があるが、これも振動する例である。
近似としての観点
接線 L は接点 P の近傍における、曲線 C の1次近似と見なすことができる。接点 P を中心に十分に拡大すると、曲線 C は限りなく直線 L に近い。
ランダウの記号だと
- <math>f(a+\Delta x)=f(a)+f'(a)\Delta x+O(\Delta x)</math>
と表される。
円の接線
円の接線は、極限という観点を用いずに、初等幾何学の観点で比較的簡単に論じることができる。中学、高校といった初等数学においては、「円の接線とは、円と1点で交わる直線のことである」と定義されるのが通常であるが、この定義を一般の曲線に当てはめることはできない。
中心 C の円 C において、円周上の点 P における接線は、直線 CP と点 P で直交する直線に等しい。
- (証明)
- 点 P と異なる円周上の点 Q を取る。
- △CQP は CQ = CP の二等辺三角形である。ゆえに、
- ∠QPC = (1/2)(180° − ∠QCP)
- Q → P のとき ∠QCP → 0° だから、∠QPC → 90°
- これは、直線 QP が直線CP と直交する直線に近付いていくことを示している。(証明終)
このとき線分 CP を接点半径と呼ぶ。
円 C の外の点 A を通る接線は2本ある。
- (証明)
- 点 A を通る接線の接点を P とする。
- ∠APC = 90° であるので、点 P は線分 AC を直径とする円周上にある。
- 直径 AC の円と円 C は2点で交わる。
- したがって、円 C の外の点 A を通る接線 AP は2本ある。(証明終)
線分 AP の長さ(2つある)を接線の長さという。円の接線の長さは等しい。
また、接弦定理(接線と弦が作る角の定理)も初等幾何学においてよく知られるところである。 テンプレート:Main
放物線の接線
放物線の接線はいくつか幾何学的な性質を持つ。
y = ax2 + bx + c (a ≠ 0) の x = α, β における接線の交点の x座標は <math>\frac{\alpha +\beta}{2}</math> である。
双曲線の接線
双曲線の接線もいくつか幾何学的な性質を持つ。
漸近線の交点を O、接点を T、接線と漸近線の交点を P, Q とすると、
- T は線分 PQ の中点である
- △OPQ の面積は T の位置に依らず一定である
2次曲線(円錐曲線)の接線
2次曲線(円錐曲線)は、グラフが点や直線であるものを除くと、楕円、放物線、双曲線に限られる。C はこれらのいずれかであるとし、点 P における接線を L とする。2つの焦点を F, F' とする(放物線の場合は1つを無限遠点と考えることにする)と、次の性質が成り立つ。
- C が楕円ならば、L は ∠FPF' の外角を2等分する。
- C が放物線ならば、L は ∠FPF' の内角・外角を2等分する。
- C は双曲線ならば、L は ∠FPF' を2等分する。
この性質はパラボラアンテナに利用されている。
正弦曲線の接線
正弦の定義により
- x ≒ 0 ならば sin x ≒ x
が導かれる。これにより、y = sin x の原点 (0, 0) における接線の式は、y = x と分かる。
なお、平均値の定理を用いることで誤差を評価することもできる。
指数関数の接線
a は 1 でない正の数とする。指数関数 y = ax の接線においては、
- <math>\lim_{h\to 0} \frac{a^h -1}{h} =\log a</math>
が基本的である。これは x = 0 における微分係数に等しい。
これから、導関数の定義より
- <math>y'=a^x \log a</math>
である。
ここで log はネイピア数 <math>e=\lim_{t\to 0} (1+t)^{\frac{1}{t}}</math> を底とする対数(自然対数) である。 テンプレート:Main
対数関数の接線
逆関数の微分法と指数関数の微分法より、<math>y=\log_a x</math> の導関数
- <math>y'=\frac{1}{x\log a}</math>
が導かれる。指数関数の微分法を仮定しないでこれを導くことも可能である。その場合、指数関数の微分法を逆関数の微分法から導くことになる。
アステロイドの接線
アステロイド <math>x^{\frac{2}{3}} +y^{\frac{2}{3}} =a^{\frac{2}{3}}</math> (a > 0) の接線が x軸、y軸によって切り取られる線分の長さは一定(長さ a)である。 テンプレート:Main