チップセット
チップセット(Chipset)とは、原義では、ある機能を実現するのに、複数の集積回路(IC)を組み合わせて機能を実現する構成の場合、それら一連の関連のある複数の集積回路のことをチップセットと呼ぶ。
現在では、コンピュータにおいて、CPUの外部バスと、メモリや周辺機器を接続する標準バスとのバスブリッジ[1]などの、旧来は単機能のICを複数組み合わせて(こちらが原義のチップセット)実現されていた機能を、1個ないし少数の大規模集積回路(LSI)に集積したものを指して、チップセットと呼ぶことが多い[2]。本項はこのパーソナルコンピュータにおけるチップセットについて説明する。
目次
概要
初期のPC/AT互換機では、CPUメーカーが供給する標準的なCPU周辺ICと複数の汎用ICの組み合わせによって、制御回路を構成していた。チップセットは、PCの低価格化などをはかるためにこれら周辺IC[3]を幾つかの、より高密度なLSIに統合したもので、チップス・アンド・テクノロジーズ(後の1997年にインテルに買収された)などが初期の代表的なメーカーである。
PC/AT互換機メーカーやマザーボードメーカーは、多数の周辺ICをIBMと同様に購入していては、仕入れ価格すなわち原価の点でIBMより不利であったが、チップセットの導入により逆転した。このことは、PC/AT互換機の普及の加速に貢献した。なおチップセットは、複数の汎用LSIの組み合わせをPC専用の少数のチップのセットに統合したものであって、必ずしも2チップのセットとは限らない。また、チップセットが登場した初期には、単に統合ASICと呼ばれることが多く、PCやマザーボードのカタログでも、使用チップセットについて取り立てて強調するようなことはなかった。
現在のチップセットには高度なメモリインタフェース機能やAGPなどの制御回路が搭載されているため、コンピュータの性能に重大な影響を与える。すなわちマザーボード[4]は特殊な場合を除き、CPUをターゲットに設計されるのではなく、直接の設計ターゲットはチップセットとなる。CPUの交換が想定されているシステムは珍しくないが、チップセットのみの交換を想定しているシステムは存在しない。
チップセットという言葉が広く認知され始めたのは、これがPCの機能や性能に重大な影響を与えるようになってからであり、具体的には、PCIバス規格に準じたインテルのi420TX(Saturn)やi430NX(Neptune)あたりからである。i430LX(Mercury)やi430FX(Triton)の時代になると、チップセットは現在よく見られる以下に述べるような2チップ構成となった。
ノースブリッジとサウスブリッジ
現在、多くのチップセットは、開発サイクルや発熱・歩留まりを考慮して、2チップ構成になっており、CPUやメモリバスに接続される方をノースブリッジ[5]、I/Oに接続される方をサウスブリッジ[6]と呼ばれる。これら2つのチップ間は数ギガbpsの高速かつ排他的なリンク[7]で接続される。このリンクの方式と速度が整合していれば、1世代のノースブリッジで、何世代かのサウスブリッジに対応可能である。これにはマーケティング的にシステムの最新スペックを更新しやすいという利点があり、格付けが異なる複数の製品併売も容易となる。
ノースブリッジには、CPUインターフェース、メモリインターフェース、グラフィックインターフェース(90年代〜00年代前半はAGP、現在はPCI Expressが主流)が含まれ、GPUの機能を統合しているものもある(後述の統合チップセットを参照)。 サウスブリッジには、PCI、IDE、USB、EthernetなどのI/Oが搭載されることが多い。
開発サイクルを犠牲にしても実装面積の削減を目的に、ノースブリッジとサウスブリッジを一つにまとめる場合もあり、こういった製品はワンチップチップセットと呼称される。物理的な統合・分離とは異なり、インテルのCentrinoのようにCPUや無線LANといったチップセット以外のデバイスとの組合せをプラットフォームとしてブランディングする動きもある。
カスタマイズされたベンチマークなどの特定アプリケーションを除き、2チップ間のリンクの方式と速度が全体のシステム能力の上限を決定することになるので、リンクのシリアル化とともに、その高速化に余念がない。20世紀最終のUSBに始まった高速シリアル化の流れは、RDRAMがPCにおいては失敗に終わったため一時停滞したものの、その後Serial ATAの普及、PCI Expressへの移行を済ませて、2009年現在メモリインターフェースを残すのみとなった。
他のデバイス同様、チップセットの機能・役割も時代によって変わりつつある。例えばチップセットの代表的な機能であったメモリコントローラについては、CPUとメモリの間の転送帯域を向上させるため、ノースブリッジのチップに担わせていた同機能をCPUに内蔵させるという流れが、AMDプラットフォームでは2003年に、インテルプラットフォームでも2008年には一般的な傾向となり、従来の「ノースブリッジ=メモリコントローラを内蔵したチップ」という概念は必ずしも通用しなくなっている。
また、高速な動作が必要でない、あるいは不可能であるようなレガシーデバイス(キーボード、マウス、フロッピーディスクドライブ、シリアル、パラレル、ISAバス[8])をサポートする回路を組み込むことは、チップセット自体の高速化の足かせとなるため、サウスブリッジのチップから分離させ、スーパーI/Oチップと呼ばれる別のLSIに担当させることが増えている。スーパーI/Oチップは、CPUから見ればサウスチップのさらに向こうにつながっていることになる。スーパーI/Oチップもチップセットの重要な一部であるが、その役割がPCの性能向上に寄与しないレガシーデバイスの管理であるため、マザーボードのスペックなどではあまり注目されない。
- Schema chipsatz.png
2チップ構成のチップセット模式図
- Intel G45 Chipset(ASUS P5Q-EM).jpg
ノースブリッ ジの一例。インテル製G45チップ
- Schipset Sul South Bridge.jpg
サウスブリッジの一例。インテル製ICH5R
統合チップセット
ノースブリッジにグラフィックス機能を統合したチップセットを、特に統合チップセットと呼ぶ("グラフィックス"または"ビデオ"を冠することもある)。一般的にグラフィックスボードを 搭載するよりも低コストであり、また省スペース性・省電力性にも優れているため、低価格機および発熱・消費電力が問題になりやすいノートパソコンや 小型デスクトップパソコンで はグラフィックス機能の主流となっている。
ビデオメモリはメインメモリの一部領域を共有するUnified Memory Architecture(UMA)が主流であるが、専用の外部メモリをサポートする製品もある。
描画性能は同世代の単体GPUに比べ大幅に劣ることが多い。ただし、近年ではグラフィックス機能の強化が積極的に行われており、高い3D処理能力が求められるFPSなどを実行する場合を除けば基本的に十分な性能を有している。また、マルチディスプレイ機能やDVI出力、Shader Model 4.0対応などの単体GPUに迫る多彩な機能を実装した製品も多い。
統合チップセットのグラフィックス機能は、チップセットの機能としてマザーボードに最初から搭載されているので、一般的に「オンボードグラフィックス」などと呼称される。また、グラフィックス用の基板(カード)が別に存在するわけではないから、「オンボードグラフィックスカード」などの呼称は誤りである。
代表的なメーカーとチップセット
インテルやAMDなどのCPUメーカーは、自社製の純正チップセットを開発、供給している。これにより信頼性やブランドイメージを上げる事に貢献している。
サードパーティーのメーカーは、統合型のチップセットによる実装工数の削減や、価格的なアドバンテージをマザーボード製造メーカーにアピールする傾向にあり、低価格PC向けに採用されることが多い。一方で、ベンチマーク性能重視の製品を積極的に投入しているメーカーもある。
サードパーティ製チップセットは、不具合や相性問題を抱える製品が少なからず存在する(ただし、各CPUメーカーの純正品が必ずしも安定しているという訳でもない)。チップセットドライバ、BIOSの更新や調整、各拡張カードのデバイスドライバやファームウェアの更新で安定することもあるため、特に自作パソコンのユーザーはネット掲示板などを通じ、これら不具合や相性の解消法の意見交換を盛んに行っている。
- サードパーティーメーカーの競争
- サードパーティーのチップセットメーカーは常に熾烈な競争を繰り広げている。かつては台湾系チップセットメーカー(ALi(ULi)、SiS、VIA)が主なサードパーティーメーカーとして競争を繰り広げていた。2000年代前半より、ATIやNVIDIAといった大手グラフィックス専業メーカーがチップセット製造販売に参入し、マザーボードへの採用数も急増した。こうして、古くからあるチップセット専業メーカーは新参のメーカーにシェアを奪われた。そして2005年、この業界で古参にあたるULiがNVIDIAに買収され、NVIDIAのアジア地区営業担当とチップセット開発に携わるようになった。2006年にはAMDがATIを買収し、ATIチップセットがAMD純正として扱われるようになる。そのため、ATIのインテル向け新製品供給は無くなった。VIAはインテル、AMD向けの開発から撤退し、自社CPU向けのみの開発となる。NVIDIAとSiSも事実上、チップセットの開発から撤退し、サードパーティのチップセットは消滅した。
PC/AT互換機用
- インテル(詳細についてはインテル チップセットの項目を参照)
- AMD(詳細についてはAMD チップセットの項目を参照)
- AMD690G,690V
- AMD740G,750,760G,770,780G,780V,785G,790GX,790X,790FX
- AMD870,AMD880G,AMD890GX,AMD890FX
- AMD970,AMD990X,AMD990FX
- 撤退、又は買収されたメーカー
- ATI Technologies - AMDに買収され、事実上AMD製品専門となる
- RADEON IGP/XPRESS シリーズ
- ALi/ULi - ULiはALiのチップセット部門がスピンオフした子会社。2005年にNVIDIAに買収された
- ALADDiN5,ALADDiN-Pro5,ALiMAGiK1(ALi)
- M1683,M1689,M1695,M1697(ULi)
- NVIDIA
- nForce シリーズ
- GeForce GT 9400M, 320M
- SiS
- SiS530,630,650,660,735,745,746,751,755,761
- VIA
- Apollo MVP3,Pro133A,KT266A,KT400,KT600
- K8T/K8M シリーズ
- P4X/P4M シリーズ
サーバ、ワークステーション向け
- ブロードコム(Broadcom)
- HT-2000,HT-2100
- ServerWorks
- ServerSet
x86以外
x86以外のプラットフォームのチップセットについて。
- アップルコンピュータ - x86化以前、PowerPCを搭載したMacintosh向けにチップセットを独自開発していた。IBMと共同開発したシステムコントローラは、アップルコンピュータがMacintoshに搭載するCPUをIntel製品に移行した後も、IBMの一部製品に使われている。
- NEC
- 東芝
- IBM - 自社開発のPOWER・PowerPC搭載システム向けのチップセットを開発・製造している。
- シリコングラフィックス - chapter11適用前はMIPS系RISC CPU最強を誇るチップセットメーカーでもあった。
- ディジタル・イクイップメント・コーポレーション - 買収前はAlpha向け、現在はヒューレット・パッカードとなりItanium系チップセットメーカーである。
脚注
- ↑ CPU-PCIバスブリッジなどのチップはコンパニオンチップとも呼ばれる。
- ↑ 1個にまで集積されてしまうと、果たして「セット」(集合)という呼称が正しいものか悩ましいが、数学的には含まれる要素が1個という「一者集合」も集合ではある。
- ↑ 当時はDRAMコントローラ、i8257DMAコントローラ、INS8250シリアルI/O、パラレルI/O、μPD765AFDDコントローラなどが、統合の対象となった。
- ↑ メインボード、ロジックボード、システムボードとも呼ばれる。
- ↑ 組み込みシステムやMacintoshではシステムコントローラと呼ばれる。なお、システムコントローラにはI/Oコントローラなどの周辺チップやCPUを統合している場合もある。
- ↑ MacintoshではI/Oコントローラと呼ばれる。
- ↑ HyperTransportなど。
- ↑ ごく一部の組み込み用マザーボードにはまだ採用されている。