アルカリイオン水
テンプレート:内容過剰 アルカリイオン水(アルカリイオンすい)は、飲用アルカリ性電解水の通称で、アルカリイオン水整水器等の陰極側で生成されるpH9~10の電解水である[1]。 製造時に添加される電解質によって異なるが、基本的には低濃度の水酸化カルシウム水溶液(石灰水、アルカリ性)である。 あるいは、直接水源より採取されるミネラル水の一部もアルカリイオンを含有する水と広告される。すなわち、これらは機能特性を持った水であると称される機能水のひとつとされる。 なお、「アルカリイオン」は学術用語ではなく、学術的定義はない。アルカリイオン水のうち、マイナスの還元電位が-200mV以上のものは活性水素水と分類する者もいる[2]。
目次
経緯
1931年頃には、すでにアルカリ性電解水の研究は開始されており、胃腸症改善を効能に持つ家庭用医療用具として初めて承認されたのは1965年である。日本では1990年代に安全性と有効性について再検討された結果、有効と評され今日に至る[1]。
市場
日本の市場規模は2004年度の調査で、アルカリイオン水が100億円以上、アルカリイオン整水器の市場規模は2003年度で400億円であるといわれる[3]。自然状態でアルカリ性を示す飲用水の販売も行われている。
市場規模は不明だがアルカイオン整水器は、台湾・中国・韓国[4]、 アメリカやヨーロッパ(ハンガリー)[5]でも販売されている。また、台湾ではコンビニエンスストアのセブンイレブンでボトル入りアルカリイオン水が発売されている[4]。
飲用のほかの用途として、洗浄・清掃の用途で水溶液や、アルカイオン水を生成しながら洗浄を行う機器[6]などが流通している。
機能
アルカリイオン水でなく、食品添加物である重曹でアルカリ性にするだけで現れる各食品の特性を述べている場合も多いが、日本では以下のような機能が存在すると主張する者がいる。
料理面で特性が強調されることがある。弱酸性物質はアルカリ性にするとイオン化するので水溶性が増大する。例えば、昆布の旨味成分である弱酸性物質のグルタミン酸が通常の水の2倍抽出でき、パンではふっくら焼きあがるなどと新聞に掲載されたことがある[7][8]。緑茶では、単なる浄水より弱酸性物質であるカテキンの抽出量が多く[9]、水道水より色やアミノ酸が抽出が多い[10]。アルカリ性にすると濃い色に呈色する紅茶色素については[11]水道水より紅茶の色の抽出が多い[10]。 ただし日本人の食事摂取基準で分かるように、多くの物質を抽出する事は過剰摂取を招く恐れがある。また、もともと少ない栄養素の場合は、たとえ数倍抽出出来たとしても「焼け石に水」となる。
洗浄
アルカリイオン水の洗浄性能に関するさまざまな効果が主張されている。水溶液を弱アルカリ性にする重曹には、脂質を落とす効果があり洗剤用途に広く利用されているが、これと似たような特徴も見られる。油脂の汚れを落とす効果が高く、再汚染を予防し、原料が水と塩であるため低コストで生産でき、界面活性剤を使用しないためヒトや環境により安全であると建築物管理の業界誌に掲載されたことがある[12]。脂質に対して条件によっては洗剤よりも洗浄力があったという報告もされた[13]。洗剤が使えない場所、洗剤で染みになるものに使用できるとの意見も建築物管理の業界誌に掲載された[12]。有機物を洗浄する能力があるが、人体への毒性が低いという主張がある[14]、歯科用器具などに付着した血液を洗浄する効果も他のpHの水よりも高い[15]との報告がある。
厨房や食品工場といった食品を取り扱う場所で油汚れを落とす、床やカーペット、ガラスやテーブル、手垢落としと適応場面は多いと建築物管理の業界誌に掲載された[12]。ステンレス、メラミン樹脂、アクリルなどの食器洗いに十分利用できるという報告がある[16]。洗濯では、酸性水や超純水より粒子汚れの除去効果、再汚染防止、脱臭効果が高い[17]、酸性水やイオン交換水より個体粒子汚れを除去し洗浄能力が高い[18]、強アルカリイオン水はアルカリ性の電解還元水や超純水や水道水より洗浄能力が高い[19]という研究報告がある。強アルカリイオン水は、家庭用漂白剤の成分である過炭酸ナトリウムか過酸化水素を加えることで漂白性能を発揮する[20]。
強酸性水の殺菌洗浄力を有効にするには、有機物を除去する必要があるが、そのためにアルカリイオン水を使ったほうがそれ自体が有機物である洗剤を使うよりもいいという説もある[13][16]。この場合の排水は酸性とアルカリ性で中和されるのでより環境負荷が低いと主張する者もいる[13][20]。
歯科医療
アルカリイオン水は虫歯の原因である歯垢[21]やバイオフィルム[22]、歯周病の原因菌[23]といった口腔の疾患の原因に対して、洗口が有効であるの主張がある。 ただし現在の歯科医療において口腔内洗浄はもっぱら強酸性水(次亜塩素酸の水溶液)が使用されている。
健康と関連した基礎研究
山梨大学教育人間科学部とパナソニック電工株式会社の共同研究で、二重盲検法によるランダム化比較試験で、アルカリイオン水は単に浄水を飲んだ場合と比較して、運動によって発生した活性酸素による生体内酸化ストレス値に低下傾向があることを報告した[24][25]。活性酸素による生体の酸化は生活習慣病との関連があると考えられている。 カルシウムの量が不十分の飼料で飼育したラットで、アルカリイオン水は水道水に比較して骨の形成を高めたことが観察された[26]。
アルカリイオン整水器
起源
1950年代、日本にて、諏訪方季がつくった電気分解水機器にてアルカリ性の水を生成すると、その水は奇跡のような治癒効果をもたらす云々ということが小さなブームとなった。当時は「シンノオル液」と呼ばれた[27]。
この水が本当に医療的臨床効果があったのかどうかは定かでない。ところが、一定のブームが起こり、「シンノオル農法」という造語が作られたり「シンノオル液医学薬学研究会」が設立されたりした。
医療機器として
乱立する電気分解水機器メーカーや業界団体がさまざまな活動をした結果、1965年(昭和40年)当時の厚生省が電気分解水機器を医療用具「医療用物質生成器」として一度は承認した(薬発第763号)。
アルカリイオン整水器にはかつて以下の効果効能がうたわれていた。このとき、乳酸カルシウムを添加した水の分解という制限がなされ、標榜が認められた効果は「慢性下痢・胃酸過多・制酸・消化不良・胃腸内異常醗酵」であった[28]。しかし、この生成水がそういった効果効能を持つことが臨床的に証明されているわけではなかった。
効果の検証
1992年(平成4年)には、国民生活センターによって、「胃腸薬の効果を期待するには10リットル以上の飲用が必要」といった効果を期待するには現実的ではないと思われる報告が行われた。
これに対して、1993年には業界団体が京都大学の医学部に調査を依頼した。163人に対して二重盲検法などによる臨床研究を行った。その結果、総合的な症状には明瞭な改善は見られなかったが、アルカリイオン水の使用者で消化器症状の改善の割合がやや多いとの発表が行われている[29]。
薬発第763号は、1998年3月30日、医薬発第318号によって廃止された[30]。同時に生成される酸性水のアストリンゼントによる美容効果を表示することができたが、改正薬事法では表示不可となった。
現在では、アルカリイオン生成機は医療機器に該当するため製造販売するためには厚生労働大臣の承認が必要となる。また、承認された効果・効能はアルカリ水に対して「胃腸症状改善」である。
生成水の効果効能は、登場当初はさまざまなものが謳われたようである。薬事法違反となる医療効果を明示的・暗示的に標榜する製品や浄水器がたびたび現われ、マルチ商法や催眠商法が行われたために、厚生省(後の厚生労働省)はしばしば通達を出して規制をしなければならなかった。
厚生省は業界団体の形成を促して自主規制を作るよう仕向けた。これらの指導により、次第に、あたかも奇跡の水であるかのごとく効果を謳う商品は淘汰されていった。
その後
このような薬事法による厳しい規制がかせられた後も、業者は増加している傾向にある。
アルカリイオン生成機(「家庭用電解水生成器」)の性能検査方法は規格番号「JIS T 2004」でJIS規格化された[31]。
医療分野で利用されてきたアルカリイオン整水器は、家庭市場へと浸透してきたという市場分析があり、JIS規格化により2005年以降市場が拡大するのではないかと考える者もいる[32]。2005年の整水器の市場規模は60万台である[33]。
製法
アルカリイオン水の製法は企業秘密とされる場合もあるが、基本はイオン交換膜を塩橋として電極間を隔てた電気分解によるものである。水溶液に電極を用いて電圧をかけると、陽極では陰イオンが酸化され、陰極では陽イオンが還元される。水道水中には様々なイオンが溶解しているが、どのイオンが酸化および還元されるかは溶存するイオンの酸化還元電位(還元電位)とイオンの濃度とによる。
したがって、最終生成物がどのような組成であるかはもともとの水道水の成分に依存する。一般には、陰極では水素が発生し溶液はアルカリ性となるので、これを取り出して飲用に供している。一方、陽極で水酸化物イオンが酸化され酸素を発生し酸性の溶液が生成される。
いずれにせよ、もともとの水道水に含まれる以上にアルカリ金属、アルカリ土類金属(またはミネラル成分)が増加するわけではない。こういった成分を増加させるために元の水道水に何らかの電解質を加える場合があり、この電解質に陽イオンとしてアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンが使われる場合がある。
補足
アルカリ金属(水素を除く第1族元素)およびアルカリ土類金属(ベリリウム及びマグネシウムを除く第2族元素)と、アルカリ性(塩基性。pH が7より大きい溶液を指す)とはまったく異なる言葉である。すなわち、アルカリ金属イオンの存在と溶液のアルカリ性とは関係はない。
アルカリ金属元素のうちのナトリウムとカリウム、第2族元素のうちマグネシウムとカルシウムはミネラルとして人体にとって必須元素であるとされる。このうちマグネシウムとカルシウムの濃度が高い水を硬水、濃度が低い水を軟水と呼ぶ。日本の河川の多くは軟水であるため、特に摂取が必要と言われているが、添加物として加えない限りこれらミネラル成分が生成されることはない。
強電解アルカリイオン水
pH11以上を強電解アルカリ水と呼び、pH13.8が現在一番強い。
脚注
参考文献
- 『アルカリイオン整水器とアルカリイオン水』、財団法人機能水研究振興財団。
関連項目
外部リンク
- アルカリイオン整水器協議会 - 業界団体
- パナソニック - 主要メーカー
- 日本トリム - 主要メーカー