給与所得
テンプレート:Ambox 給与所得(きゅうよしょとく)とは、所得税における課税所得の区分の一つ。俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう(所得税法第28条第1項)。
退職所得と同様、恒常性所得のうち勤労性所得に該当する。
給与所得の範囲
課税方式
給与収入から給与所得控除(経費相当分)を差し引いて算定される。
給与所得控除
前記の算定上の、給与所得の控除額(給与所得控除)は、実際にかかった必要経費の額ではなく、給与等の収入金額に応じて算定される(所得税法28条2項)。いわゆる概算経費控除である。
例として、2013年現在、給与所得の収入金額200万円→基準額は約78万円、400万円→約143万円、700万円→約190万円ほどである。詳細は税務官署の広報等を参照。
この給与所得控除については、給与所得者を、実額経費控除が認められる事業所得者よりも不当に差別するものであって憲法14条違反である、との批判があった。実際にも、この主張に基づいてサラリーマン税金訴訟が提起された(最大判昭和60年3月27日民集9巻2号247頁など)が、合憲であるとされた。
給与所得者の特定支出控除
その後、給与所得においても一定の範囲で実額の経費控除を認めるべく、次に挙げるような費目に関し給与所得者の特定支出控除(単に特定支出控除)制度が1987年(昭和62年)に設けられた(所得税法57条の2)。[1]
- 通勤費
- 鉄道・バス運賃のほか、タクシー代、新幹線代まで認められる(グリーン車料金等は除く)。飛行機代は認められない。自動車・バイクの場合、燃料費や高速道路料金、自動車等の故障や事故(重過失による事故を除く)による修理代も認められる。なお、業務中または業務間の移動費用(いわゆる交通費や出張費)は対象外。
- 転居費
- 転任に伴う引越しに掛かる費用全般。家財一式の梱包、運送費用等のほか、旅行費用の範囲は、飛行機運賃(ファーストクラス費用を除く)が認められ、自動車等の事故修理代等が除かれるほかは通勤費と同様である。宿泊費用も認められる。
- 研修費、資格取得費
- 職務に関係するものの受講費用や受験・検定費用など。職務に必須となる資格を取得するためであって、その資格取得のために一般的には必須の手段と考えられるような学校等については、その入学費、授業料も含まれる。またこれらを受けるための交通費も含まれる。資格取得に失敗しても費用は認められる。
- 弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、医師、歯科医師の資格取得費等(法科大学院を含む)は、平成24年(2012年)分までは、認められない。
- 帰宅旅費
- いわゆる出稼ぎや単身赴任などの場合で、その者の出張地と自宅(配偶者や一定の被扶養者が居る場合に限る)の往復旅費(1ヶ月往復4回・片道8回まで)。旅行費用の範囲は転居費と同様である。
これらの支出は、当該給与所得と同年に支出した費用のみ認められる。前年以前に支出した費用を遡及加算することは認められない。またこれらの支出のうち、給与の支払者(会社)から補填[2]され、かつその補填金額分が非課税(即ち給与所得の収入金額に算入されない)の場合は、その補填金額分については特定支出とは認められない。実際に特定支出控除を受けるには、それぞれの費目に関する明細書の提出および給与の支払者(会社)の証明が必要である。詳細は税務官署の広報を確認のこと。
このような制度が設けられていたが、控除が実際に適用となる基準額は給与所得控除の額と同じであったため(控除基準額を超える部分の金額のみ、所得金額からの控除対象)、実際に控除を受ける対象者は非常に限られていた。(例として、給与所得収入金額200万円→基準額は約78万円、400万円→約143万円、700万円→約190万円)
そのため、平成25年(2013年)分所得より、控除基準額が「給与所得控除の1/2の額」(但し給与所得の収入金額が1500万円超の場合125万円)となり、また特定支出控除対象となる支出の対象範囲が次のように拡大された。[3]
- 弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、医師、歯科医師の資格取得費用
- 例として、これらの資格のうち、法科大学院については弁護士資格取得のため一般的には必須の手段となるので資格取得費として認められる。会計大学院を受けたり、税法・会計学関連の修士号を取得するのための支出は、公認会計士や税理士試験を受けるために必ずしも必須ではないため、これらの支出は認められない。
- 書籍費
- おおよそ職務に関係あると見なされる書籍の購入費用。新聞、雑誌等も可。電子書籍も書籍費用は対象になるが、パソコンやリーダー等の機器や通信の費用は認められない。
- 被服費
- 職務で通常使用するスーツ、ワイシャツ、ネクタイ、作業服、制服等の購入費。いわゆる私服の購入費は認められない。
- 交際接待費
- おおよそ職務上関係あると見なされる外部の者のために支出した交際費全般。贈答費用、接待費、飲食費、慶弔費など。職場内の宴会・親睦会や、同僚やその家族の慶弔費、労組ほか任意団体の組合費などは認められない。
なお、書籍費、被服費、交際接待費については、これらの合計額が65万円超の場合には65万円までしか認められない。その他、会社証明が必要などの事項は従前と同様である。詳細は税務官署の広報を確認のこと。
給与所得者
給与所得は源泉徴収の対象とされる。給与所得者のうち、給与等が一定の金額以下の者については、その年の最後の給与等の支払の際に年末調整が実施される。他の所得が一定金額以下である場合は確定申告をする必要がないため、大部分の給与所得者は源泉徴収ですべての課税関係が終了する。
給与の源泉徴収税額から従業員や個人事業者の家族に支払った給与支払金額(給与収入)を算出することは現在の税制では不可能である。給与収入に対して課税される訳ではなく、各種控除を差し引いた課税所得に対して段階的に累進課税で課税される。給与収入が同程度であっても、扶養状況や社会保険料控除等が大きく異なれば、源泉徴収税額は異なる場合がある。
給与の支払いをする法人または個人で、給与所得に係る源泉徴収をする義務がある法人または個人は、給与の支払いを受けている者のその年の1月1日現在の住所所在地の市町村に、その年の1月31日までに、給与支払報告書を提出する義務がある。
脚注
- ↑ http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1415.htm
- ↑ 給与の支払者(会社)からの補填ではないもの、即ち労働・雇用保険やそれらの関連事業等、その他の任意保険等から填補される金額を除く(即ち特定支出の対象となる)
- ↑ http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/120912/index.htm