雹
雹(ひょう)とは、積乱雲から降る直径5mm以上の氷の粒のこと。直径5mm未満のものは霰(あられ)と呼ばれ区別される。雹が降ることを降雹(こうひょう)という。
概要
雹は激しい上昇気流を持つ積乱雲内で生成する。そのため雷とともに起こることが多い。
雹は空中で、落下して表面が融解し、再び上昇気流で雲の上部に吹き上げられて融解した表面が凍結することを繰り返す。その過程で、外側に他の氷晶が付着したり、過冷却の水滴が付着し凍結したりして、だんだんと氷粒が成長していく。そのため、大きな雹を割って内部を見ると、融解後に凍結した透明な層と、付着した氷晶の不透明な層が交互にある同心円状の層状構造をしていることが多い。成因は氷あられと全く同じであり、氷あられが成長して雹になる。
雹は成長するにつれてその重さを増していく。その重さを気流が支えきれなくなったり、上昇気流が弱まったり、強い下降気流が発生したりした時に、地上に落下する。
雹は積乱雲の発生が多い夏季に多いが、地表付近の気温が高いと完全に融解して大粒の雨になってしまうので、盛夏にあたる8月前後よりも初夏の5月~6月に起こりやすい。また日本海側では冬季にも季節風の吹き出しに伴って積乱雲が発生するので降雹がある。
雹が落下するときには、小さいものでもパタパタ、パラパラという音を立てる。大量に降った場合、雨の音と混じるなどして非常に大きな音を出し、周囲の音が聞こえないくらいの騒音となることもある。
雹の大きさは数mmのものが多いが、時に数cmにも成長し、ゴルフボール大となることもある。記録が残っている中で世界最大の雹は、1917年(大正6年)6月29日に埼玉県大里郡熊谷町(現熊谷市)に降ったカボチャ大の雹で、直径七寸八分(29.6cm)、重さ九百匁(3.4kg)とされる[1] 。なお、アメリカ海洋大気庁によれば、2003年6月22日にアメリカのネブラスカ州に降った直径7.0インチ(17.8cm)、周囲18.75インチ(47.6cm)の雹を世界最大としている[2][3]。
名称
また、「雹」の字音はハク(漢音)・ホク(呉音)で、「ヒョウ」の字音はない。これは「包」の呉音「ヒョウ」につられたものとする説や、古字書の「観智院本名義抄」に「ハウ」と記されたものが変化したものとする説、「氷雨」(ひょうう)が変化したものとする説、「氷」の字音「ヒョウ」からとする説などがある。
雹による被害
降雹による被害を雹害(ひょうがい)という。小さな雹が大量に降った場合、積雪のように堆積してビニールハウスなどを破損させたり、植物の葉を落としたりする。
直径が5cm以上もあるような巨大な雹は落下速度が100km/hを超え、単独でも甚大な被害を出す。自動車のボンネットや窓ガラス、家屋を破損させたり、農作物に大きな被害を与えたりする。大きな雹が人間や動物に当たると怪我をして、頭部に直撃した場合には脳震盪を起こしたり、死の危険性さえある。
英語圏などでは激しい降雹を"hail storm(雹嵐)"と呼ぶ。
日本の主な雹害
- 1911年6月7日、青森県津軽地方で落花生からミカン大の雹が降り、5寸から3尺ほども地面に積もったため、中津軽郡堀越村(当時)を中心に農作物や家屋に大きな被害が出た[4]。
- 1917年6月29日、埼玉県大里郡熊谷町(現熊谷市)郊外で直径29.6cm(七寸八分、約37.9cmが基準の鯨尺で計測したとされる)、重さ3.4kg(九百匁)の雹が降り、負傷者や家屋倒壊などの被害が出た[5]。午後4時頃から5時半頃にかけて、群馬県新田郡、山田郡、邑楽郡にも、雷雨とともに、降雹があった。大きなものは 鶏卵大の雹であり、邑楽郡における被害は小麦130町歩7分、桑130町歩8分、陸稲100町歩7分、大豆90町歩 、小豆30町歩全滅であった[6]。
- 1933年6月14日、兵庫県中央部で暴風をともなった直径4~5cmの雹が降った。死者10人、負傷者164人、住家の全半壊198棟、非住家の全半壊309棟に達し、日本最大の雹害とされる[7]。
- 2000年5月24日、千葉県北部・茨城県南部の広い地域で暴風を伴った直径5~6cmの雹が降り、負傷者は162人、家屋の被害は約48000軒にものぼった[8]。
- 2014年6月24日、東京都三鷹市や調布市の住宅街にて豪雨とともに、雹が降り、道路が一面流氷のような状態になった。
世界の主な雹害
- 1888年4月30日、インドのムラーダーバードでオレンジ大の雹が降り、230人が死亡した[2][9]。
- 1959年、アメリカカンザス州北西部で1時間半にわたって雹が降り続き、18インチ(約45cm)も積もった[2]。
- 1986年4月14日、バングラデシュのゴパルガンジで、2.25ポンド(約1kg)の雹が降り、92人が死亡した[2]。
天気記号
テンプレート:国際式天気記号 国際式天気図の天気記号では、
- 27.前1時間内にひょう、雪あられ、氷あられ(雨を伴ってもよい)
- 89.雨かみぞれを伴う弱いひょう(雷鳴なし)
- 90.雨かみぞれを伴う強いひょう(雷鳴なし)
- 93.観測時に弱い雪、みぞれ、雪あられ、氷あられ、ひょう(前1時間に雷電があったが観測時にない)
- 94.観測時に並または強い雪、みぞれ、雪あられ、氷あられ、ひょう(前1時間に雷電があったが観測時にない)
- 96.弱または並の雷電で、観測時にひょう、氷あられ、雪あられを伴う
- 99.強い雷電で、観測時にひょう、氷あられ、雪あられを伴う
の7種類がひょうを表す。
日本式天気図の天気記号では、ひょうを表す記号がある。ただし、雷を伴う場合は優先順位によりこれと異なる表示になることがある。
定時飛行場実況気象通報式(METER)の「降水現象」の欄では、GRがひょうを表す。
脚注
- ↑ テンプレート:Cite book
テンプレート:Cite bookほか。 - ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 NOAAによるPDF文書 Hailの項を参照テンプレート:リンク切れ
- ↑ 英語版「気象記録一覧」の雹の項を参照
- ↑ 気象庁技術報告第73号『青森県60年間の異常気象』24頁
- ↑ 熊谷地方気象台『埼玉県の気象百年』196頁ほか
- ↑ 「群馬県の大雷雨と暴風、落雷電死、家屋倒壊負傷多く、降雹のためおびただしい麦・桑の被害」『東京朝日新聞市内版』1917年7月1日第5面
- ↑ イカロス出版『近・現代 日本気象災害史』93-94頁
- ↑ 平成12年5月24日関東北部で発生した降雹被害 - 損害保険料率算出機構 ディスクロージャー RISK(2004年7月17日時点のアーカイブ)
- ↑ Orange-sized hail reported in India(英語)
関連項目
外部リンク
- 気象災害(雷・ひょう) - 熊谷地方気象台(2010年12月10日時点のアーカイブ)