BASIC

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テンプレート:プログラミング言語 BASIC(ベーシック)は手続き型プログラミング言語のひとつ。

名前は「beginner's all-purpose symbolic instruction code」(「初心者向け汎用記号命令コード」を意味する)の頭字語である。

概要

FORTRANの文法が基になっており、初心者向けのコンピュータ言語として、1970年代以降のコンピュータ(特にパソコン)で広く使われた。パソコンがCUI環境からGUI環境となった現在でも、Microsoft Windowsアプリケーションの主力開発言語であるVisual Basicの文法に影を残している。

プログラム例と出力例

画面に次のように入力したとする

10 REM 5つ数える
20 FOR I = 1 TO 5
30 PRINT I
40 NEXT
RUN

RUN命令を入力すると、それ以前に入力されたプログラムが実行される。この場合の出力は次のとおり。

1
2
3
4
5

また、プログラムに編集を加えたい場合、続いて例えば次のように入力する。

10 REM 5つ数える(“3”だけ飛ばす)
25 IF I = 3 THEN GOTO 40
RUN

このように入力すると、10で始まる行が書き換えられ、20行目と30行目の間に25行目が挿入される。この場合の出力は次のとおり。

1
2
4
5

主な特徴

歴史的な経緯からFORTRANC言語と比較されることが多い。

  • 高級言語である(ただし、低水準の操作を拡張されたものも多い)。
  • インタプリタとして実装された処理系が多く、編集環境を兼ねた一種のシェルのようなコマンドラインインタプリタを持つものも多い。
  • 古いBASICではすべての行頭に行番号を必要とし、処理分岐は行番号を指定したGOTOで実行される。行番号は、BASIC処理系が主にラインエディタ機能を有しており、編集するプログラムの行を指定するのにもちいられた。現在でも互換性のために両者を残している処理系もある。
  • プログラムは命令と関数からなる。命令と関数の語は予約語とされ、変数名に用いることはできない。
  • 予約語、関数名、変数名の大文字と小文字を区別しない。大文字を基本とする処理系が多く、強制的に大文字に変換される処理系もあった。
  • 算術演算子以外の記号は極力使わない。論理演算子はANDORXORNOTである。括弧演算の優先順位も、関数引数も、配列もすべて「()」のみを用いる。ブロックも「{}」のような括弧ではなく「FOR文からNEXT文までの間」といった構文により指定する。
  • 等価演算子に数学と同じ表記の「=」が使える。代入構文(LET文およびその省略形)で「=」が用いられた場合に代入演算子と解釈される。
  • 変数は基本的に実数型と文字列型である。中でも文字列操作は柔軟にできるようになっている。文字列型は変数名の末尾に「$」をつけて区別することが多い。
  • 明示的な変数宣言を必要とせず、変数を使用し始めたところで宣言したものと解釈される。
  • 変数は自動的に初期化される(実数型は0、文字列型は空文字列)。
  • 命令文は改行で区切る。
  • 実行は基本的に行頭から行われる(MAINを持つ処理系もある)。

歴史

1964年米国ダートマス大学にて、数学者ジョン・ケメニー1926-1992)とトーマス・カーツ(1928-)により、コンピュータ教育用の言語ダートマスBASICとして開発された。これは同時期にともに開発された、タイムシェアリングシステム DTSS 上のラインエディタテレタイプ端末環境)で利用されるよう設計されていた。

BASICは、GEとの提携を経て、学外にも普及した。ダートマス大学のオリジナルはコンパイラだったが[1]、パソコンなどの商用版では基本機能を最小限にしたうえでインタプリタとして実装されることが多く、独自の発展を遂げた。

8ビットパソコンの普及とBASIC

1970年代末から1980年代初頭にかけて、8ビットCPUを使った自作コンピュータTiny BASICを動かし、その上でゲームを実行させる(スタートレックゲーム等)のがホビーストの目標となった。

同時に、メーカー製のターンキーシステムにBASICインタプリタがROMの形で搭載されはじめ、一気に当時のマイコンにおける標準言語の立場を獲得した。この時に搭載されたBASICインタプリタはほとんどがマイクロソフト製で、同社躍進のきっかけとなった。また、マイクロソフト社製BASICは、中間コードを使用する構造になっており、また汎用機を再現した極めてエミュレータに近いランタイム形式の実行環境だったため、当時の互換性が皆無なコンピュータ事情の中でも、スクリプト自体の移植は容易だった。

その後、(MS-DOS発表以前の)パソコンに、操作を提供するのにも使われ、しばしばROM-BASICとしてハードウェアに組み込まれた。 電源投入後にエディタ込みで利用できることから、現在における、シェル、インターフェイスとしての役割ももち、ローダなどの役割も担った。 入力の効率化のため、省略形式での入力や、80年代後半には、漢字の利用や、ラベル、インデントへの内部的な対応、Cへの橋渡しなど、様々な機種ごとの独自の発展を遂げた。

他の言語の進化に伴いBASICはあくまで初心者向けの言語でありプロにとっては論外のものということになった。しかし一方でプログラミングの専門家以外の人がプログラミングをするのにBASICが重宝されることも依然多い。例えばUBASIC十進BASICはいずれも数学者が開発したものである。 また、当時のPCの処理速度から、処理の高速化が必要な部分はデータ形式でアセンブリ言語による処理を呼び出すなどの手法もとられた。

互換性とBASIC

各メーカーのパソコンに標準搭載されたBASICは、機種ごとに画面操作やI/O直接操作などの独自拡張が行われた。マイクロソフト製(MS-BASICBASICAG-BASICGW-BASICの移植版)のものや、その命令体系を引継ぎ実装したものである、F-BASICHu-BASIC、カタカナで表現するG-BASIC(前述のMicrosoftの物とは異なる)、PETに由来するS-BASICSEGAのベーシックカートリッジ、Cを意識したX-BASICなど各社が独自にBASICを開発し、いわゆる「方言」が生まれた。この結果、たとえBASICのメーカーが同じでも「あるパソコンで作ったBASICプログラムは、他のパソコンではそのままでは動かすことができない」ことの方がずっと多かった。

もっとも当時は群雄割拠の時代でもあり、特に市販ソフトが満足に出なくなったパソコンにおいては、BASICは重要な役割を果たした。

方言の例

  • カーソル位置を指定するLOCATE文は、別の処理系ではCURSOR
  • 音楽を演奏するPLAY文、MUSIC文とそれらに記述されるMML
  • 画面モードを指定するCONSOLE
  • スプライト機能を使用する命令
  • VRAMと配列変数の内容をやりとりする命令
  • 条件付きループを実現するWHILEWEND
  • GOTO, GOSUB文の飛び先を指定するラベル
  • CALL, CMD, SETなどで始まる命令文

メイン・メモリの制限による処理系の実装例

初期のTiny BASICはともかくとしても、BASIC実装処理系のメイン・メモリの制限により言語仕様が極めて制限された実装が存在した。

  • 実数型の実装は整数型・演算のみ
  • 変数名は頭文字1文字または2文字程度しか認識しない
  • 文字列の長さが限られる(255文字など)
  • 配列の大きさ(添字の最大値)が限られる

中間コードサイズを小さくしたり処理を速くする主なテクニック

プログラミングに際しても、処理プログラムの大きさや速度の制限を回避するためにソースの読みやすさを犠牲にするようなテクニックが横行した。

  • 行頭ですべての実数型変数を整数型として宣言する(DEFINT A-Z
  • 命令を省略形で書く(PRINT?LET A=BA=BREM' など)
ただし、中間コードを採用している処理系では、?と入力してもPRINTに展開されるので、結果は変わらない。また、REM'と書くのはかえってサイズが増える。
  • 余白やコメントを入れない
  • NEXTの変数名を省略する(可能な処理系のみ)
  • 一行に複数の文を詰め込んで(マルチステートメント)を使用して行の制限一杯に命令文を詰め込む
  • よく使う変数は早めに確保する(実行時に毎回変数領域の先頭から検索されるため)
  • よく呼び出すサブルーチンは先頭に配置する(同じような理由。なお、一度通過したGOTO/GOSUB命令のオペランドを内部で行番号からメモリアドレスに書き換える処理系ではあまり効果がない)
  • キャラクタコードをバイナリと見立て、バイナリに相当するデータを直接プログラムに記述する

コンパイラ

次のようなコンパイラがある。

しかし、パソコンに内蔵または標準添付されていたインタプリタと違い、コンパイラは別売であったり、高価であったり、実行にはランタイムライブラリを必要であったりする場合があった。このことから、BASICインタプリタによる開発に習熟したユーザーは、より高速で柔軟なプログラムを求めて、機械語アセンブリ言語)や、C言語などに移行していった。

また、コンパイラと称していても、実際はインタプリタとソースコードを同梱した実行ファイルを作るだけ、というものもある。中間表現と、そのインタプリタ、という構成のものもある。

構造化とBASIC

急速に広まったBASICだが、構造化機能の無いBASICは教育に使うな、などとコンピュータサイエンティストの一部から酷評されたりもした。BASIC批判の急先鋒としてはダイクストラの1975年の発言[2]などが知られる(AppleIIなどのパソコンが普及する以前の発言であることに注意)。

局所変数が無いことなど問題は多いが、しばしばGOTOのような見た目にわかりやすい事柄ばかりが取り上げられがちである。

標準化

基本BASIC

BASICの標準が望まれたが、マイコンの急激な発展と、各メーカーの独自拡張が魅力であったという事情により、結局どの機種のBASICでも変わりが無いようなごく基本的な機能に絞った仕様が標準として制定された。ANSI X3.60-1978「American National Standard for the Programming Language Minimal BASIC」は、日本では JIS C 6207-1982「電子計算機プログラム言語 基本BASIC」として規格化された。制定直後にJISの分類の再編があり、電気電子のCから情報のXに移動してJIS X 3003となったが、次節のFull BASICのJIS化の際に改訂として同じ番号を使うという形で旧規格として消滅した。

日本では1990年代後半から、高等学校やセンター試験の数学に、標準化された基本BASICの範囲で書かれたプログラミングが扱われるようになった。

Full BASIC

ダートマス大学でのバージョンは、商用のBASICとは異なって既に1970年代後半から構造化などが進んでおり、ANSIでは新しい規格の策定も進んでいたが、これをパソコン向けにアレンジした実行時コンパイル型のTrue BASICが、1984年に開発された(日本ではクレオから発売)。構造化の他、行列演算の機能など、学術的(特に数学的)な方面の拡張も特徴である。そしてTrue BASICとほぼ同一の構造化BASICであるFull BASICがANSI、ISO、遅れてJIS(JIS X 3003:1993)で規格化された。

Full BASICの主な特徴
  • 構造化に対応する制御文を追加した(DOLOOPDO WHILELOOP WHILEなど)
    • 行番号やGOTOを使用しなくて済むようになった
    • IF文が多行に渡るブロックIFIFTHENELSEENDIF)も可能となった
  • LETを省略できないようにした(True BASICではOPTION NOLETまたはNOLETを実行すると省略可能)
  • スコープの概念を取り入れた
    • サブルーチンSUBEND SUB)や関数FUNCTIONEND FUNCTION)の中でローカル変数が使用できるようになった
    • サブルーチンと関数は戻り値を取るかどうかで区別される
    • 再帰処理の実装が容易になった
  • 計算精度や丸めの方法を規定した
  • 配列の添字を1から始めるようにした(OPTION BASE命令で0から始まるようにすることも可能)
  • 行列演算機能
  • 文法の矛盾などを極力排除した
  • 予約語を極力少なくした
  • I/Oを直接操作するなどシステムに干渉する命令は持たないようにした(True BASICでは拡張ライブラリとして提供)
  • グラフィック命令を規定し、座標系原点数学第一象限にならって左下にした(変更も可能)
  • Minimal BASICの上位互換である
    • 使用する必要はないが、行番号やGOTOなども規格としては残っている
    • 実数型変数の型付けがない
    • パソコン向けのそれまでのBASICとは命令の互換性が低い

その他の現代化BASIC

QuickBASIC

マイクロソフト社はFull BASIC規格の策定には参加しなかったが、1985年にFull BASICに類した構造化や特徴を追加した独自規格のQuickBASICを発売した。これは自社のMS-DOS用のGW-BASICの上位互換で、コンパイラ並に動作を高速にした上にコンパイルも出来るようにしたもので、Version4.5まで発売した後に1991年Visual Basicへと繋がっていった。

QuickBASIC との互換性を考慮したフリーなBASICとしてFreeBASICがある。

RATBAS

構造化ということを意識していなかったパソコン用のROM/Disk-Basic環境で、構造化プログラムを記述するために作られたプリプロセッサである。アスキーの書籍の形(アスキー書籍編集部編著「構造化BASIC RATBASのすすめ」 (ISBN 978-4-87148-152-6) )で、1985年に公開された。

これは、独自の構造化文法で記述されたソースプログラムを処理し、行番号やGOTO文を使うROM/Disk-Basicに変換するプログラムで、すべてBasicで記述されていた。RATBASという名前は構造化FortranのRatforなどに倣ったものである。

RATBASは、スタンドアローンのBasicプログラムと、μ-UXの外部コマンドとして作成されたサブセット版がある。μ-UXとは、年刊AhSKI!1984年号に掲載された、Disk-Basicで記述されたUnix風のオペレーティング環境であるUni+を拡張したものである。

その他

海外ではボーランドが独自にALGOL風の拡張を施した Turbo Basic を発売した。

GUI時代とBASIC

近年ではマイクロソフトの独自拡張によるRAD環境Visual Basic (VB) や、MS Officeなどで動作するそのサブセットVisual Basic for Applications (VBA)がWindowsにおける代表的なプログラミング言語のひとつとして広く利用されている。もっともVisual Basicは、GUIに特化したRAD環境として大幅に拡張が施され、元のBASIC言語とは、かけ離れてしまっている。

BASICは依然として初心者向けの言語ではあるが、パソコンに添付されることはなくなった。プログラムの入門でもBASICを使わず、最初からC言語などで教える教育機関も多い。無料で使えるJavaなどの、洗練された後発言語の普及により、開発環境としては選択肢の一つでしかなくなった。

また、コンパイラで開発した場合、実行ファイルとは別に、巨大なランタイムライブラリが必要となる処理系が多い。このため配布に必要なファイルのサイズが大きくなり、敬遠されることがある。それでもBASICは、依然として使われているのも事実である。

オブジェクト指向とBASIC

現在、BASICもオブジェクト指向化が見受けられる。その代表例がVisual Basic.NETREALbasicActiveBasic等で、三者とも既に完全なオブジェクト指向言語になっていると言える。

主なBASIC

現在のパソコンのBASIC

マイクロソフト・マイクロソフト文法互換系

独自系

  • FutureBASICMacOS 構文はQuickBASIC互換)
  • BCX (GPLv2 + BCX例外ランセンスのオープンソースソフトウェア BASIC → C言語トランスレータでインラインC/C++およびアセンブリを扱えるなどの特徴を持つ)
  • UBASIC (DOS用フリーウェア 多倍長演算に特化)
  • DarkBASIC (ゲーム製作に特化したBASIC言語、Windows専用、特に3Dゲーム)

Full BASIC系(規格準拠)

旧式構文系

  • Chipmunk Basic(Windows・MacOS・UNIX用フリーウェア、インタプリタのみ)

ゲーム機などのBASIC

過去のパソコンなどのBASIC

独自系

  • Apple 6K BASICアップルコンピュータ Apple II 別名 Integer BASIC)
  • G-BASIC (トミーぴゅう太用BASIC、命令後を日本語に置き換えてある。同機には別売のBASIC 1もあり) ※同機とは関係ない、マイクロソフト製の同名のBASICがある
  • MW-BASIC (BASIC-09 OS-9用)
  • BASIC-GソードM5のBASIC、整数型しか使えないが高速だった。同機には実数用のBASIC-Fもあり)
  • Tiny BASIC (黎明期のマイコン用など)
  • WICS (MZ-80K及びMZ-80Bシリーズ用のBASICに極力似せた表記方法を採用した、インタープリタ兼コンパイラ 整数型プログラミング言語)
  • C-BASIC (CASIO FPシリーズ用のBASICで10進演算による精度の高い計算を得意とした。8ビット用のC82-BASICと16ビット用C86-BASICがある)

マイクロソフト・マイクロソフト文法互換系(Microsoft BASIC

シャープ・ハドソン系

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ

  1. ただし、オンメモリ動作・1パスという、きわめて軽く動作するもの。
  2. http://en.wikiquote.org/wiki/Edsger_W._Dijkstra#How_do_we_tell_truths_that_might_hurt.3F_.281975.29

関連書籍

テンプレート:Sister

  • マイコンBASIC互換表 CQ出版社
  • Kemeny, John G. & Kurtz, Thomas E. (1985). Back to BASIC: The History, Corruption and Future of the Language. Addison-Wesley Publishing Company, Inc. ISBN 0-201-13433-0.
    • 松田健生訳、市川新解説(1990)『バック・トゥ・BASIC 開発者が語る言語の歴史と設計思想』啓学出版、ISBN 4-7665-1074-7

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