量子力学の数学的基礎

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量子力学の数学的基礎(りょうしりきがくのすうがくてききそ、テンプレート:Lang-de-short)とは、1932年発刊のジョン・フォン・ノイマンによる量子力学の教科書を言う。

同書において、ハイゼンベルグ-ボルン-ジョルダンによる行列力学とシュレディンガーによる波動力学を抽象ヒルベルト空間のクラスに帰属する理論として統一が行なわれた[1]

概要

20世紀に発展した物理学の分野である量子力学は、数学的にはヒルベルト空間とその上の線型有界作用素非有界自己共役作用素などを用いて基礎づけられる。この定式化は 1930 年代の初めにポール・ディラックジョン・フォン・ノイマンらによって達成された。

第一量子化

ヒルベルト空間のベクトルやそれらの内積を表すのに簡便な記法としてブラ-ケット記法がしばしば用いられる。

状態

量子力学系の状態は、(可分な)複素ヒルベルト空間の単位ベクトル(状態ベクトル)または、有界線形作用素のなす B(H) 上の単位的正値線型形式

<math>T \to \langle \xi | T | \xi \rangle</math>

によって表される。

物理量

観測可能な物理量(オブザーバブル)はそのヒルベルト空間の線形エルミート演算子によって表される。離散的な測定値を与える物理量 a は、a = ak となっている状態が単位ベクトル ek で表される (kN) として、自己共役作用素

<math>A = \sum_k a_k |e_k \rangle \langle e_k |</math>

によって表すことができる。したがって、観測される物理量はエルミート作用素の固有値として表されることになる。連続的な値をとる物理量に対しては上の分解の拡張であるスペクトル分解

<math>A = \int_{\R} x dE(x)</math>

が対応する。

測定値

系が状態 |ψ〉であるとき、上の記号の下で、オブザーバブル A を測定すると測定値 ak が観測される確率は |〈ek | ψ〉|2 となる。これをボルンの規則という。ek たちがヒルベルト空間の正規直交基底であることから、各々の場合の確率の和は

<math>\sum_k | \langle e_k | \psi \rangle |^2 = \| \psi \| = 1</math>

となることが保証される。

測定後の状態

測定によって実際に観測値 ai が測定されたとすると、系の状態は |ei〉に変化する。これを射影仮説波束の収縮などという。

正準交換関係

テンプレート:Main この定式化の下では、ハイゼンベルク不確定性原理は位置を表す作用素 q と運動量を表す作用素 p という 2 つの非可換な演算子の交換子非自明性

<math>[\hat{q}, \hat{p}] = i\hbar</math>

についての物理的な解釈となる。この関係式を正準交換関係という。

時間発展

物理的に特に重要なオブザーバブルとして、ハミルトニアンとよばれる系の全力学的エネルギーに対応する演算子 H がある。状態ベクトルの時間発展は次のシュレーディンガー方程式によって与えられる。

<math>i \hbar \frac{d}{dt} | \psi(t) \rangle = H | \psi(t) \rangle </math>

第二量子化

第二量子化と呼ばれる一粒子系から多粒子系への移行はより関手的に定式化される。ヒルベルト空間 H に対し、その自由フォック空間 <math>F(H) = \oplus_n H^{\otimes n}</math> や対称フォック空間 <math>F_S(H) = \oplus_n S^n(H)</math> を考えることができるが、このとき H 上の作用素 X に対してフォック空間上の作用素 F(X), FS(X)が対応する。さらに H の各ベクトル a は、テンソルa をかける作用素 a生成作用素)と、a との内積をとることによってテンソルを縮約する作用素 a消滅作用素)という 2 つのフォック空間上の作用素を定める。

脚注

  1. ただし、その統一にあたってはディラックによる擬関数(現:超関数)であるδ関数を数学的フィクションとして認容した上で行なわれた。

参考文献

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