通勤・近郊電車の標準仕様ガイドライン

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通勤・近郊電車の標準仕様ガイドライン(つうきん・きんこうでんしゃのひょうじゅんしようガイドライン)は、日本鉄道車輌工業会が定めた鉄道車両の規格の一つ。大都市周辺の通勤・通学用電車を対象としている。

制定の経緯

制定の経緯の背景には、東日本旅客鉄道(JR東日本)E231系相模鉄道10000系東京急行電鉄5000系(5050系・5080系)の登場がある。

相鉄10000系と東急5000系(5050系・5080系)はともにE231系を基にして製造された車両であり、これを見た工業会は「E231系だけがこれからの標準車両ではない」という方針から、このガイドラインを2003年平成15年)9月に制定した。

当ガイドラインの目的は「仕様の統一による保守面での自由化」と「大量生産によるコストダウン」である。

かつて昭和30 - 40年代後半にかけて中小私鉄向け車両として日本車輌製造による「日車標準車体」というメーカー提案による標準規格によるコスト低減車両が企画されたことがあった。

「標準車両」の登場

「標準車両」は、このガイドラインが制定される前の2002年から製造されていた。

東急5000系(5102F)が、「標準車両」誕生への第一段階であった。後に小田急電鉄3000形帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄08系などが登場した。いずれも客用扉の間隔は3,520mmで、電動機出力は東急5000系が190kW、小田急3000形が180kW(3次車から190kWへ変更)、営団08系が165kWである。東急5000系はE231系を基本とする車両であるが、5102F以降は後にこのガイドラインに基づいて扉間隔3,520mmに変更した。

標準車両ガイドラインとは少し異なる車両であるが、2003年に類似のものとして京成電鉄3000形も登場した。この形式は京成電鉄ではガイドラインとは別個に独自の「京成グループ標準車両」として京成グループ各社の標準車体仕様としており、新京成電鉄N800形北総鉄道7500形も登場している。 関西では阪急が9000系9300系で日立製作所の標準設計である「A-train」を採用した。

その他に、関東では京浜急行電鉄新1000形(6次車)が、関西でも南海電気鉄道8000系(2代)が登場した。ドア・窓などは東急車輛製造の標準的なものであるが(窓についても東急車両の製造した他社の車両とは大きさに微妙な違いがある)、車体中間部においては独自配置の下降窓としたり、窓は従来通りブラインドが設置されているなど違う部分もある他、側面スタイルは東急車輛製の他の一般車に類似したスタイルである(車体幅・車体長や足回りはどちらも在来車に合わせたものであり標準仕様ガイドラインと全く同じものではないものの、後者は客用扉の中心間隔は標準仕様ガイドラインに準拠した4,820mmとされた)。

ガイドライン制定後

上記の車両の登場によって、前述したが2003年にガイドラインが制定された。規格は、上記車両で採用された扉間隔3,520mm・電動機出力190kWとなった。2004年には東京地下鉄(東京メトロ)05系第40 - 43編成および同一設計の東葉高速鉄道2000系と、東武鉄道50000系2005年には東武50050系2006年には東京メトロ10000系2007年には東武50070系2008年には東武50090系が落成した。

また、異色の「標準車両」として、2005年に落成した東京都交通局都営地下鉄新宿線向けの10-300形・10-300R形がある。同形式は、工業会の分類では「E231系を基本とするもの」に分類されているが、実際は、電動機出力や制御システムなどはE231系と同等であるものの、車体はガイドラインで制定されている3,520mm寸法を採用している。また、東京都交通局はこの形式を今後の「標準車両」としている。

なお、交友社発行の雑誌『鉄道ファン』2005年5月号によると、西武鉄道20000系の2005年度製造分はこのガイドラインに準じたマイナーチェンジが行われる旨の記述があったが、実車(末尾08・58編成)は前照灯HID化された程度の小変更に留まり、他は前年度新製車に準じた仕様で落成している。しかし、この前照灯のHID化も西武鉄道の運転士からの不評が多かったため、後に従来車と同じハロゲン灯に改造された。

なお、ガイドライン制定前に登場した京王電鉄9000系で、2005年度 - 2006年度に新製した都営新宿線直通対応編成である車両番号末尾30番台の車両は、客用扉の変更や妻面の窓を廃止している。

また、西武鉄道では2008年から新系列の30000系を投入、順次増備予定。

「標準車両」の今後

近畿地方私鉄地下鉄向け(18.2m - 20.72m級)、新車導入のままならない地方私鉄路面電車タイプ向けに製造費を低減する目的での「標準車両のガイドライン」制定が考えられる。

一方で「標準車両」的な車体ではあるが、内装などは独自設計である車両としては神戸電鉄6000系、車体自体は在来工法を踏襲しているが内装に一部「標準車両」の思想を取り入れている車両としては京阪電気鉄道13000系が挙げられる。

「標準車両」一覧

制定前に運行開始した車両

制定後に運行開始した車両

参考文献

  • 電気車研究会鉄道ピクトリアル』2003年12月号 No.740 特集・都市鉄道の車両標準化
  • 社団法人日本鉄道車輌工業会「通勤・近郊電車の標準仕様ガイドラインの概要」
鉄道ジャーナル社『鉄道ジャーナル』2004年4月号 No.450 p94 - p97
  • 下村孝「通勤形電車のスタンダード 「通勤・近郊電車の標準仕様ガイドライン」制定とその活用状況の概要
交友社鉄道ファン』2005年6月号 No.530 p74 - p81
  • 社団法人日本鉄道車輌工業会「通勤電車における標準仕様の導入動向」
鉄道ジャーナル社『鉄道ジャーナル』2007年10月号 No.492 p52 - p53

関連項目