行動分析

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行動分析学(こうどうぶんせきがく;Behavior Analysis)とは、バラス・スキナー(Burrhus Frederick Skinner)が新行動主義心理学をさらに改革し、新たに起こした徹底的行動主義(radical behaviorism)に基づく心理学の一体系である。歴史的には、フロイトユングらの精神分析学に対抗する形で発展してきた。

行動分析学とは字義通り人間または動物などの行動を分析する学問である。行動は、生物ができるすべての行動を対象とする。具体的には、独立変数(環境)を操作することで従属変数(行動)がどの程度変化したかを記述することによって、行動の「原理」や「法則」を導き出す。これを実験的行動分析(じっけんてきこうどうぶんせき;Experimental Analysis of Behavior)という。これにより、行動の「予測」と「制御」が可能になる。その成果は、人間や動物のさまざまな問題行動の解決に応用されている。これを応用行動分析(おうようこうどうぶんせき;Applied Behavior Analysis)と呼ぶ。

行動分析学の基本的な「原理」は、レスポンデント条件づけ(別名古典的条件づけまたはパブロフ型条件づけ)とオペラント条件づけ(別名道具的条件づけ)の二つにある。

特徴

行動分析学は、他の心理学に対して次のような特徴を持つ。

  • 行動についての哲学的な立場として、徹底的行動主義を採用する。
  • ヒトだけでなく動物を含むオペラント行動を研究対象とする。
  • ある行動の予測と制御ができることをもって、その行動を理解できたとする。
  • 行動の原因として、環境要因を重視する。
  • 研究法としての実験計画法統計的検定に基づく群間比較を用いず、行動の直接制御による単一被験体法を採用する。


実験的行動分析

行動分析学のうち、実験室等の厳密に制御された環境で、ヒトを含む動物を対象に、環境要因を直接操作し、環境への機能によって定義された行動を変容させることで、両者の因果関係を明らかにしようとする、行動分析における研究の一領域を実験的行動分析という。

環境と行動間のこのような分析は機能分析(functional analysis)とよばれる。最近ではマッチングの法則行動経済学行動調整理論など、環境と行動の数量的関係を取り扱う数量的行動分析がこの領域の一分野として確立しつつある。

応用行動分析

実験的行動分析で見出された変数を用いて、人間の行動問題の分析と修正を目的として応用行動分析が誕生し、特に1970年代以降大きく発展してきた。

この応用行動分析という言葉は行動修正学と同義でも使われており、しばしば行動療法におけるオペラント条件づけ療法の適用に関して用いられることがある。

応用行動分析の活用で最も良く知られているのは、発達障害や、特に自閉症スペクトラム障害を持つ人に用いられるものである[1]

しかし応用行動分析はこの他に、エイズ予防[2]、自然資源保全[3]、教育[4]、老年医学[5]、健康とエクセサイズ[6]、産業安全[7]、言語習得[8]、ゴミのポイ捨て[9]、医療措置[10] 、育児[11]、シートベルト着用[12]、重篤な精神障害[13]、スポーツ[14]、動物園マネジメントやアニマルケア[15]などでも効果を上げている。 アップル社Macintoshユーザーインターフェイス開発[16]にも応用行動分析が活用された。

関連項目

関連書籍

実験的行動分析

  • 『オペランド心理学入門―行動分析への道』 浅野 俊夫
  • 『オペラント条件づけ―実験的行動分析』 能見 義博
  • 『現代基礎心理学 学習I』(1983)佐々木正伸(編) 東京大学出版会
  • 『現代基礎心理学 学習II』(1983)佐藤方哉(編) 東京大学出版会
  • 『行動心理ハンドブック』杉本 助男 佐藤 方哉 河嶋 孝
  • 『オペラント心理学―その基礎と応用』岩本 隆茂 高橋 雅治
  • 『メイザーの学習と行動』ジェームズ・E.メイザー 磯 博行 坂上 貴之
  • 『学習の心理―行動のメカニズムを探る』実森 正子 中島 定彦
  • 『学習心理学における古典的条件づけの理論―パヴロフから連合学習研究の最先端まで』中島 定彦 今田 寛
  • 『アレックス・スタディ―オウムは人間の言葉を理解するか』Irene Maxine Pepperberg 渡辺 茂 遠藤 清香
  • 『行動の基礎―豊かな人間理解のために』小野 浩一
  • 『行動と学習の心理学―日常生活を理解する』伊藤 正人

応用行動分析学

  • 『社会行動―その基本形態』ジョージ・ホーマンズ 橋本 茂
  • 『入門ことばのない子のことばの指導』東 正
  • 『教職のためのオペラント入門―教室での行動変容』 (1979年)河合 伊六
  • 『新しい治療法としての行動医学―各科における臨床的応用』 (1981年)日野原 重明 篠田 知璋
  • 『ナースのための行動療法―問題行動への援助』 (1982年)大橋 正洋
  • 『講座 なぜ行動変容の心理学なのか―ヒューマニズムとしてのオペラント』東 正
  • 『ことばの獲得―言語行動の基礎と臨床』 (1983年)山口 薫 佐藤 方哉
  • 『オペラント行動の基礎と臨床―その進歩と展開』異常行動研究会 岩本 隆茂
  • 『子どもは変わる―その原理と方法』東 正
  • 『子どもの保育と行動分析―困った行動の治し方と望ましい行動の形成』河合 伊六
  • 『子どもを伸ばす行動マネジメント―新しい子育ての提言』河合 伊六
  • 『消費者行動と経済心理学―強化‐葛藤モデルによる新アプローチ』D.A. アルハデフ 志津野 知文 長田 佳久
  • 『行動療法事典』A.S.ベラック M.ハーセン
  • 『言語障害の実験研究法―心理・言語臨床家のために』L.V. マクレイノルズ K.P. キーンス 西村 弁作
  • 『音楽学習の設計―授業の成立のために』R.ダグラス グリーア 石井 信生 吉富 功修
  • 『行動教育への招待―子どもの可能性を切り開く心理学的アプローチ』東 正
  • 『登校拒否―再登校の指導』河合 伊六
  • 『高齢者の在宅ケア―家族に対する新しいアプローチ』E.M. ピンクストン N.L. リンスク E.M. Pinkston
  • 『はじめての応用行動分析』P.A.アルバート A.C.トルートマン 佐久間 徹
  • 『わが子よ、声を聞かせて―自閉症と闘った母と子』キャサリン モーリス Catherine Maurice 山村 宜子
  • 『コーチング―人を育てる心理学』武田 建
  • 『保育の方法―行動理論に基づく教育方法』中野 良顕 榎本 和生
  • 『ベストを引き出せ―部下の業績を最大化するリーダーシップ』オーブリー・C. ダニエルズ Aubrey C. Daniels 梅津 祐良
  • 『子どもの発達の行動分析』シドニー W. ビジュー Sidney W. Bijou 園山 繁樹
  • 『アトムの子ども達 発達教育研究所アトムの試み』谷晋二
  • 『応用行動分析学入門―障害児者のコミュニケーション行動の実現を目指す』山本 淳一 加藤 哲文 小林 重雄
  • 『自閉症、発達障害者の社会参加をめざして―応用行動分析学からのアプローチ』小林 重雄 加藤 哲文 R.ホーナー
  • 『行動分析学から見た子どもの発達』Jr.、ヘンリー・D. シュリンガー Henry D.、Jr. Schlinger 園山 繁樹
  • 『行動分析学入門』杉山 尚子 佐藤 方哉 マリア・E. マロット
  • 『うまくやるための強化の原理―飼いネコから配偶者まで』カレン プライア Karen Pryor 河嶋 孝
  • 『重度知的障害への挑戦』小林 重雄 ボブ・レミントン 藤原 義博
  • 『音楽教師のための行動分析―教師が変われば子どもが変わる』吉富 功修 野波 健彦 竹井 成美
  • 『パフォーマンス・マネジメント―問題解決のための行動分析学』島宗 理
  • 『挑戦的行動の先行子操作―問題行動への新しい援助アプローチ』ジェームズ・K.ルイセリー マイケル・J.キャメロン 園山 繁樹
  • 『個性を生かす支援ツール―知的障害のバリアフリーへの挑戦』富山大学教育学部附属養護学校 藤原 義博
  • 『ことばと行動―言語の基礎から臨床まで』浅野 俊夫 山本 淳一 日本行動分析学会
  • 『アニマルラーニング―動物のしつけと訓練の科学』中島 定彦
  • 『自閉症へのABA入門―親と教師のためのガイド』シーラ リッチマン Shira Richman 井上 雅彦

理論的行動分析

  • 『行動理論への招待』佐藤 方哉
  • 『スキナーの言語行動理論入門』 (1984年) 佐久間 徹 久野 能弘
  • 『ウォ−ルデン・ツ−』 (1983)スキナ− B. F. 宇津木保(訳) 誠信書房
  • 『臨床心理学の源流―フロイト・スキナー・ロージャズ』ロバーツ D.ナイ 河合 伊六
  • 『人間と社会の省察―行動分析学の視点から』B.F. スキナー Burrhus Frederic Skinner 岩本 隆茂
  • 『科学と人間行動』B.F. スキナー Burrhus F. Skinner 河合 伊六


脚注

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