東京都交通局E5000形電気機関車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:鉄道車両 東京都交通局E5000形電気機関車(とうきょうとこうつうきょくE5000がたでんききかんしゃ)は、2005年平成17年)に登場した東京都交通局都営地下鉄)の事業用電気機関車

日本の地下鉄史上初の機関車である[1][2]

製造の経緯

当初、東京都交通局では大江戸線の車両(12-000形12-600形)の重要部検査・全般検査の施行できる工場施設を木場車両検修場に建設することを計画していたが、建設費用が嵩むことや、浅草線の馬込車両検修場の改修が予定されていたことにより、同一の 1435 mm 軌間標準軌)を採用している大江戸線と浅草線との間に「汐留連絡線」と称する連絡線を建設することとした。

しかし、大江戸線と浅草線は軌間こそ同じだが、大江戸線がリニアモーター駆動の、浅草線が通常の回転式電気モーター駆動の車両のため走行方式が全く異なり、大江戸線の車両は浅草線内を自走できない。また、大江戸線はリニアモーター駆動の採用で小型化を図っており、車両規格(車両限界建築限界)が浅草線より小さく(いわゆるミニ地下鉄)、浅草線の一般車両が大江戸線へ乗り入れることも不可能である。そのため、大江戸線⇔浅草線の両線を直通できる牽引用の電気機関車としてE5000形を製造し、大江戸線の車両を連絡線経由で馬込車両検修場へ回送する列車を運行することとした。

汐留連絡線は大江戸線汐留駅を起点とし、環状2号線道路東海道新幹線東海道本線の直下を横断し、浅草線大門駅 - 新橋駅間を終点とする。2006年平成18年)4月1日に完成し、使用を開始した。単線箱型トンネル構造で延長は 483 m 。途中半径 80 m の曲線や約 48 の勾配がある。

概要

テンプレート:出典の明記 2005年(平成17年)3月に製造メーカーである川崎重工業(川重)で落成、搬入された。東京都地下鉄建設が購入し、落成後に東京都交通局に譲渡の形を採った。

2005年3月に2編成が川重よりJR線、トレーラーによる陸送などを経て馬込車両検修場・木場車両検修場(高松車庫)からそれぞれ搬入された。

車両搬入後と運用まで

その後は搬入された浅草線、大江戸線において深夜に性能試験を実施したり、5300形や12-000形との併結訓練を実施してきた。そして、E5003 - E5004 は2006年(平成18年)1月20日終電後に高松車庫(光が丘駅)から汐留連絡線を経由して馬込車両検修場まで自力回送された[3] 。その後は同年3月末まで12-000形との併結試験や各種訓練を行ってきた。そして、同2006年(平成18年)4月1日に入籍し、本形式の本格的な運用を開始した。

大江戸線12-000形もしくは12-600形の入出場回送の際に、同車の先頭部に連結される。

基本的にこの入出場回送は浅草線終電後に実施される。ただし、浅草線西馬込駅 - 大門駅間は南行線より北行線のほうが最終電車が早いため、南行線終電前に回送電車扱いで北行線を走行するE5000形を見ることができる場合がある。

入場する大江戸線車両は、木場車両検修場(木場車庫)から清澄白河駅を経由して汐留駅まで回送され、同駅の引き上げ線に入線する。ここでE5000形を連結し、汐留連絡線を経由して馬込車両検修場まで回送される。出場時はこれとほぼ逆のルートとなるが、一度新橋駅まで入線し、同駅の非常渡り線で折り返して汐留連絡線を経由して汐留駅構内の引き上げ線まで回送される。

なお、本形式は大江戸線を自力走行可能であるが、試運転以外で同線を走行したのは前述したE5003+E5004形が2006年1月に光が丘→西馬込間へ走行しただけである[4]

牽引方法

本形式は大江戸線車両・12-000形および12-600形8両編成(約 210 t)を牽引できる性能を持つ。

被牽引車両である12-000形と12-600形はパンタグラフを下げ、無動力状態で回送される。本形式からは元空気管、制御電源、ブレーキ、インターホン、合図ブザー回路が接続される。

これにより、本形式からの指令により12-000形・12-600形車両の空気ブレーキ(常用・非常保安)を総括制御させる。さらに両車両間の連絡用のインターホン、合図ブザーを相互に使用することも可能である。

編成形態

  テンプレート:TrainDirection
形式 E50-MC1 E50-MC2
車両番号 E5001
E5003
E5002
E5004
  • 制御装置、補助電源装置、空気圧縮機などは各車に搭載される。
  • パンタグラフはMc1車(奇数番号)に浅草線用を2台、Mc2車(偶数番号)に大江戸線用を1台搭載。
  • 1号線乗入協定により形式番号は5000番台である。
  • 全車両が浅草線に所属し、馬込車両検修場に配置されている。
  • 通常は馬込車庫の機関車専用の留置スペースに2本並んで留置されている。運用は1本であり、もう1本は予備である。
  • 2006年10月28日に馬込車両検修場で開催された「都営フェスタ'06 in 浅草線」にて、初めて一般公開が行われた。

車体

車体は普通鋼製であり、車体塗色は「ストロベリーレッド」である。これは浅草線と大江戸線のラインカラーの中間の色に合わせたものである。車体側面は搭載機器の点検用にステンレスの全面開き戸になっている。車体断面は浅草線より小さい大江戸線の車両限界に合わせて あり、車両限界を有効活用するために屋根肩部を直線状とし、また機能性を重視して直線的な車体形状としている。前照灯尾灯は窓下部に配置し、上部には事業用車ながら急行灯が設置されている。

先頭部の連結器は廻り子式密着連結器を採用しており、連結器高さを可変させることができる。通常は高さ 550 mm の大江戸線に合わせているが、高さ 880 mm として連結アダプタを使用することで浅草線用の車両と連結することもできる。

この連結器は自動開放シリンダー付密着連結器であり、電気連結器も設けられている。さらに作業用監視カメラ(フロントガラス中央上部の箱内にあり、直下にある連結器を監視できる)と作業灯を設け、連結作業の効率化を図っている[5] 。また、新製時にはなかったKE66A形ジャンパ連結が、牽引車両とのアース線の接続のために連結器横に追加されている[4]

運転台は片側にしかなく2両を背中合わせに永久連結して運用することから、すなわち2両1組(EHタイプの箱形)である。車体内部は運転室と機器室に分かれている。後述する搭載機器はこの機器室内と床下に分散して配置してある。機器室内は中央に点検通路を有しており、各車両ごとに搭載機器は同一場所に設置されている。このため、上部から見た場合に2両の機器は点対称に配置されている。2両間の連結部には扉があり、通行できるようになっている。この貫通路部はヒサシとサン板、ほかに転落防止用の保護棒と保護鎖を設置している。

運転室は運転士の操作性・機能性・視認性を重視して設計されている。運転室内は白色系の配色であり、運転台計器盤はダークグレイの配色である。運転台は車体中心線中央部に配置されており、計器盤には車内信号対応の速度計(80 km/h 表示まで)・圧力計・表示灯がなどがある。主幹制御器は連結・開放作業時や急勾配登坂時の起動・制御を考慮して横軸式ツーハンドル式であり、左にマスコンハンドル(1 - 4ノッチ)、右にブレーキハンドル(常用7段・非常1段)を配置するものである。

乗務員室には小形のユニットクーラー(3,000 kcal/h・3.49 kW)を設置している。

保安装置には京成電鉄新京成電鉄北総鉄道京浜急行電鉄芝山鉄道・都営地下鉄浅草線で使用されている更新型のC-ATSと大江戸線で使用されている ATC を搭載している。列車無線は浅草線用の誘導無線 (IR) と大江戸線用の空間波無線 (SR) を搭載する。

走行機器など

制御装置はシーメンス社製の2レベルのIGBT-VVVFインバータ制御(形式:T-INV5形)である。制御方式は1台のインバータで190kWの主電動機(端子電圧 1,050 V・電流 133 A・周波数 61 Hz・回転数 1,800 rpm)を4台制御する1C4M×1群制御である。なお、大江戸線内でも、リニアモーターリアクションプレートは使用せずに、通常の誘導電動機から得た動力を動輪に伝えながら走行する。

補助電源装置はIGBT素子を使用したSIV(出力 70 kVA)を搭載しており、回送時の12-000形に電源を供給できる最低限の容量を確保している。空気圧縮機 (CP) は起動装置、除湿装置などの周辺機器を一体箱に収納したユニット形のスクリュー式コンプレッサ(吐出量 800 L/min)である。SIV装置、蓄電池、空気圧縮機、空気タンク、ブレーキ作用装置、保安装置などは機器室内に配置しており、これらは保守性や機能性と重量バランスを考慮して設置している。

集電装置はシングルアーム式パンタグラフを搭載している。浅草線と大江戸線の車両限界の違いによる、架線の高さの違いから集電舟支え装置の異なる2種類がある。Mc1 に浅草線用(形式:PT-7202-A形)を2台、Mc2には大江戸線用(形式:PT-7202-B形)を1台搭載する。

台車川崎重工業製の軸梁式ボルスタレス方式で、浅草線車両では初めてのボルスタレス方式台車である。形式は運転室側がT-1Da形、連結面側はT-1Db形と称する。基礎ブレーキ装置には片押し式のユニットブレーキが採用され、車輪径は 860 mm 、駐車ブレーキを装備している。各車輪には空転を防ぐため、増粘着装置アルミナの粉末を使用)が備わる。

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

参考文献

  • 交友社鉄道ファン
    • 2005年8月号 CAR INFO「東京都交通局E5000形」(取材協力:東京都交通局)
    • 2009年3月号 連載「全国の現役機関車をめぐって -その20-」(郷田恒雄)
    • 2009年7月号 公営地下鉄在籍両数ビッグ3「東京都交通局」(梶原栄)
  • 日本鉄道車両機械技術協会「R&m」
    • 2005年10月号研究と開発「都営大江戸線車両 けん引電気機関車 E5000形」(東京都交通局 車両電気部車両課 森澤一義)

関連項目

テンプレート:Sister

テンプレート:東京都交通局の鉄道車両

  1. 日本国外では、イギリスロンドン地下鉄1863年に最初の路線が開業して1905年に電化されるまで蒸気機関車を使用していたことがある。またアメリカニューヨーク市地下鉄では事業用としてディーゼル機関車を、香港香港鉄路では事業用として電気機関車を保有している。
  2. 日本国内では、名古屋市営地下鉄福岡市地下鉄で車両基地への入出場時や入換用の機関車が使用された実績があるが、いずれも法規上は機械としての扱いである。
  3. 交友社「鉄道ファン」2009年7月号記事を参照。
  4. 4.0 4.1 交友社「鉄道ファン」2009年3月号記事を参照。
  5. 鉄道ピクトリアル鉄道車両年鑑2006年版を参照。